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プロ編6

 そして、リーグ戦も半分が過ぎた頃、シンガポールにU23のブラジル代表が遠征に来るという話になった。オリンピックが迫っていたため、その強化試合だそうだ。何でそうなったのかのいきさつは知らないが、そのブラジル代表との試合がシンガポール代表ではなく、シンガポールリーグ選抜となった。おそらく、シンガポール代表では相手にならないので、外人も含めたリーグ選抜で試合をすることになったのだろう。


 僕はここまで2桁得点という結果も出しており絶好調だった。それが評価され、アルビレオンから僕と岡田さんが選抜に選ばれた。僕は今まで選抜というものに縁がなかったので、声がかかった時は驚いたし、嬉しかった。しかもブラジル代表と試合できるなんて、自分の力を試す良いチャンスである。

 良太には、


「涼真ええなー」


 と言われた。良太はこのシーズン怪我が多く、休みがちだった。


 良い事は続くものなのか、このタイミングで、剛から急にメールが来た、


「今電話いいか?」


 僕は電話を持ってないので、剛からはかけられない。僕が国際電話もできる公衆電話でカードを買って、かけるしかないのである。国際電話なので、そのカードが良い値段になる。


「メールじゃダメなの?」

「大事な話だから。すぐ終わる」

「分かったよ」


 そうしてかけてみると、


「産まれた! 男の子だった。名前はセナって言うんだ」

「無事産まれたか! よかった。祐佳は」

「元気だよ。今はまだ入院中でいないけど、涼真によろしくだってさ」

「これで、剛と祐佳もパパとママか。なんか感慨深いな。日本帰ったらお土産いっぱい持って会いに行くよ。祐佳にもよろしく。よく頑張ったなって言っておいて」


 そうして、僕はとてつもなく嬉しくなった。やる気も溢れてきた。大好きな親友2人の息子。早く会いたいな。



 そして、シンガポールのナショナルスタジアムで、シンガポールリーグ選抜対U23ブラジル代表の試合が始まった。僕はスタメンではなかった。チームメイトはいつもリーグで試合をしているチームの主力の選手が揃っていた。でも、それ以上に何と言ってもブラジル代表だ。ヨーロッパのビッグクラブで活躍している選手が多数いる。

 僕は後半途中から試合に出場できた。マッチアップするのはセリエAで活躍している選手……正直手も足も出なかった。けど、楽しかった。すごい選手達に直に触れ、サッカーの天井の一つを見た気がした。


(J1に復帰して、活躍して、代表に選ばれればこんなレベルの高い選手と試合がやれる。しかも自分もこうなれたら最高じゃん)


 と思い、僕の中でまた意識が変わった。サッカーをもっともっと上手くなりたい。ヨーロッパで活躍する選手のように上手くなれば、絶対もっとサッカーが楽しくなる。そんな風に思える経験だった。

 試合は0―3で完敗したのだが、悔しさよりも、喜びやドキドキの方が強く、その日は興奮してほとんど寝られなかった。

 次の日も興奮が収まらず、国際電話で剛に電話してスーパーハイテンションで昨日の試合のことを伝え、もっと上に行く! と伝えたのだった。



 そして、その試合をきっかけに、もう一つ変化があったのだ。

 ある日の練習後、フロントに呼ばれ、スタッフルームに行くと、


「U23日本代表から追加招集の話が合った」


 と言われた。

 僕は驚いた。普通はJリーグやヨーロッパのリーグで活躍している選手以外に代表に呼ばれることは少ない。フル代表でないにしろ非常に珍しいケースだったからだ。話を聞くと、今回は東南アジアでの合宿のため、移動の少ないシンガポールから僕が選ばれたらしい。怪我人の代わりの追加招集のため、日本やヨーロッパからわざわざ呼ぶよりは楽だったのだろう。他に選ばれた理由としては、この間のブラジル代表戦をたまたま代表スタッフが観たらしい。理由はどうあれチャンスであることには変わりがない。

 数日チームを離れ、僕はマレーシアで代表に合流した。同世代の選手も多い。ほとんどが昔から有名な選手だった。

 僕はチームに帯同して、試合にも数試合出場したが、まだまだ代表に定着するようなレベルではない。正直なんで呼ばれたか分からないようなレベルだった。

 代表クラスになるとプレーの精度がまるで違う。それを知っただけでも得るものは大きかった。たぶん次は呼ばれないだろうというのは分かった。でも、このレベルを常にイメージして、日々サッカーをしていかなければならないと感じた。そうゆう意味ではやはり呼ばれて良かった。

 チームに戻って、良太に、


「代表どうやった?」


 と聞かれた。僕は、


「たぶんもう呼ばれないな」


 と答えた。監督やコーチにも同じことを聞かれ答えたが、


「まだ伸びしろがあるってことだ。もっと成長しろ」


 と励まされた。


 そのままリーグは終盤に向かい、僕は最後まで調子を崩すことなく、戦い続けた。僕は自分の強みと役割を理解し、チームの為に考え、戦った。

 きっと僕はスーパースターにはなれない。でも、自分のやるべきことを全力でやれば必要とされるし、そうゆう選手がいないとサッカーは成り立たないことを学んだ。

 海外生活でストイックに過ごすことで、メンタル的にもそんな簡単に崩れなくなった。間違いなく、挑戦の成果は出たと感じた。


 そして迎えた最終節。岡田さんの現役最後の試合だ。僕は試合が始まると、いつも通り、スペースへの飛び出しをしたり、ボールを持ったらスピードを活かしドリブルを仕掛けたりしていた。

 でも、いつもと何か違う……岡田さんからほとんどパスが出てこない。いつもなら僕のことを見ていてくれて、動き出したらパスが出てくる。今日はほとんど見られてない。僕が動き出しても、強引にシュートまで行ってしまうのだ。僕は理解した。きっと最後にゴールが欲しいのだ。と。

 ハーフタイムに僕は岡田さんに言った。


「いつも通り裏のスペースに下さい。最後のクロスは岡さんのこと見るんで」

「言うようになったじゃないか。分かった、いつも通りやろう」


 そして、後半立ち上がりにすぐその場面は来た。岡田さんが中央で持ち、前を向く、僕は右サイドから斜めに走り出す。ドンピシャのタイミングでパスが来た。あまりにパスが良すぎて、キーパーと1対1になった。さすがにこれは打つしかないと思い、キーパーとかけ引きしたが、


「涼真! 横!」


 と声が聞こえた。

 岡田さんが猛スピードでサポートに来た。僕は左にチョンとボールを流した。それをダイレクトで岡田さんが無人のゴールに決めた。

 僕は嬉しくて、岡田さんに抱き着きに行った。そしたら、岡田さんは僕のことを抱きかかえ、


「サンキューな! 最高のパスだったよ!」


 と言った。

 その後、またまた僕のクロスから良太がヘディングで決め、最終節を2―0の勝利で飾った。

 試合後、良太と、


「終わったな」

「せやな」

「オレら成長できたかな」

「それは今後分かるんちゃう?」


 と言って笑い合った。

 岡田さんにも、


「お前らはもっとやれるからな。オレが教えたこと忘れるなよ」


 と言われた。

 僕等は岡田さんに深くお辞儀をし、


「長い間お疲れ様でした」


 と言った。



 その後、帰国の前にスポンサーパーティーとシンガポールリーグアウォーズの予定が組まれた。


 スポンサーパーティーでは1年間お世話になったスポンサーに感謝を伝えるための会である。各企業の偉い人がいっぱい来ていて緊張した。


 シンガポールリーグアウォーズも行われた。僕はリーグのベストヤングプレーヤーの候補にあがっていた。1年目でシーズン12ゴールはまあまあの結果である。アシストも10記録した。

 表彰式で、ベストヤングプレーヤーの発表になる。発表は早口の英語なので、正直何を言っているのかは分からない。

 ただ、


「Ryoma Kazami!」


 と呼ばれ、


(あ、呼ばれた)


 と思った。

 全く実感がなかったのである。ステージ上に行き、トロフィーをもらった。日本語で挨拶した。横にはチームの通訳がいた。


「僕を支えてくれた全ての人のおかげです。チームスタッフ、チームメイトに感謝します。サンキュー」


 と言った。

 僕はサッカー人生で初めてこんな表彰をされた。嬉しくて、監督や良太、岡田さんと一緒に写真を撮った。



 こうして、本当にシンガポールリーグでのシーズンが終わった。この年の僕は1シーズンほぼレギュラーとして戦い抜き、シンガポールリーグ選抜としてU23ブラジル代表との試合に出場し、そこからU23日本代表の合宿に呼ばれ、シンガポールリーグのベストヤングプレーヤー賞をもらうという飛躍のシーズンとなった。


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