浪人編7
僕は22時ごろ家に着いた。次の日は福島に一泊二日の旅行だったので、準備をした。浪人生もいるので、全員ではないが久しぶりにサッカー部のみんなに会えるのを楽しみにしていた。
でも一方で、光莉からの連絡がない……僕は少し心配になった。旅行の準備も終え、風呂にも入り終わり、あとは寝るだけとなった。時刻は0時を回った。おかしいよな……いつもなら、おやすみのメールが来たりするのに。と思っていたら、僕の携帯に着信が入った。光莉からだ。僕はすぐにでた。
「もしもし」
「おい、お前誰だよ」
男の声だった。僕はすぐに察した。
(これが元カレか)
「誰って、お前こそ誰だよ?」
「オレは光莉の彼氏だよ。なんかオレの女にちょっかいかけてるらしいな。どこのどいつだ?」
電話の向こうでは、光莉が、
「やめて!」
と、言っているのが聞こえる。そしてその男が、
「うるせぇ!」
と、言っている。
「キャー」
と、声が聞こえたので、おそらく突飛ばしたり殴ったりしているのだと思った。僕は、
「光莉に手出したら殺すからな」
と、言った。
「あ? お前は光莉の何なんだよ。調子乗んなよ」
何なんだと言われると困る。確かに、僕は好きだが、別に付き合っているわけでも、光莉の気持ちを聞いたわけでもない。
「バイトの知り合いだよ」
と、とりあえずこれしか言えなかった。
「バイトか。あの店しょぼそうなやつしかいなかったわ」
こいつ店にも来たことあるのか……光莉の悲鳴とも取れるような声は電話の向こうでずっと続いている。
「今どこいんだよ?」
「光莉の家の近くの公園だよ。てめぇ、今すぐ来いや」
「言われなくても行くわ。ちょっと待ってろ」
そう言って電話を切った。即行で着替え、自転車を爆走し、光莉の家まで行った。
確かに近くに公園があった。公園の中を見ると地面に座って泣いている光莉と、横で立っている男がいる。立ち姿がなんかむかついた。
「お前、離れろよ」
僕が近づき声をかける。
「本当に来やがった。人の女にちょっかいかけてんな。殺すぞ」
と、言われたので。
「お前こそ、女のこと殴ったり、金たかったりすんのかよ。終わってんな。いいから、彼女にもう近づくな」
図星をつかれて返す言葉もなくなったのか、
「うるせぇ!」
と、言って殴りかかってきた。普通に顔面を一発殴られた。光莉は、
「もう辞めて……!」
と、泣きながら彼氏を止めようとしている。
久しぶりに殴られた。こんなケンカ中学の時以来だ。ケンカはしないって約束も誰かさんとしたけど、しょうがないよな。これは正当防衛だ。ちなみに剛とのケンカは僕の中では別カウントとしている。
なにより、こんな感じで光莉のことを殴っていたとしたら許せない。
僕の中で『カーン』とコングが鳴った。
とりあえず、僕も殴り返す。相手がぶち切れる。
「てめぇ、調子に乗んなよ!」
そう叫びながら向かってきた。
たぶん、こいつは僕のことをケンカなんてしたことのない雑魚だと思っている。確かにこの時の僕は、バイトのせいで髪を短くしなきゃいけなかったし、格好はジャージだ。自分で言うものでもないが、爽やかな好青年である。相手はなんかイケイケの格好だったし、髪も染めて、眉毛も結構剃っていたっぽい。
たぶん、威嚇して一発殴ればビビると思ったのだろう。
実際に、こいつはケンカが弱い……僕が蹴ったりするとすぐ痛がるし、全然近寄ってこない……そのくせずっと大声で威嚇してくる。
「お前いい加減にしろよ。彼女に近づかないって言え。じゃないと本気で殺す」
僕がキレて言う。それでも大声で威勢を張り続ける。
もう許さないと思い、近づき、胸ぐらを掴んで、相手の体を上にあげた。公園の遊具に背中を叩きつける。相手は胸ぐらを掴んでいる僕の手を両手で掴んで来た。体を押さえつけながら顔面を殴ってやろうとしたら、急にパトカーが来て、警察が走って近づいてきた。
(やっば……)
きっと男も叫びまくっていたし、光莉も悲鳴をあげていたから、近隣の誰かが通報したんだろう。
「ちょっと待って……」
と、話をする暇もなく取り押さえられ、パトカーで近くの警察署まで連れていかれた。さすがに警察相手に暴れるわけにはいかない……まさかの初パトカーがこんな形なんて……。
警察署に着き、僕は事情を全部話した。話しながら、光莉はこんなことされて迷惑じゃなかったかな……と不安になった。個別に事情聴取されるので、光莉や、あの男が何を言っているかは分からない。警察には、
「お前が一方的にやったんじゃないのか!」
と、決めつけられそうになった。
僕は、
「だからさっきから言ってるでしょ! オレも殴られたの! ほら、口の中ちょっと切れてるでしょ? しかも、あいつが最初に殴ってきたし、あいつがあの女の子のこと殴ったりしてたの!」
警察め……と思っていると、なんか違う人が入ってきて、
「君はもう帰っていいぞ。知ってることは全部話したんだろ?」
「話しました」
ちょっと不機嫌そうに答えた。
「光莉とあの男はどうなるんですか? 一緒に帰したりしちゃダメですよ?」
「それは答えられないけど、佐藤さんも君のこと心配してたよ。彼女が言ってたけど、君は巻き込まれてしまっただけらしいね。今日は彼女に会うことはできないから帰りなさい」
と、言われた。少し会って話せないか粘ったが、頑なにダメと言われたので、最後は引き下がった。
「パトカーで送ってくれるんですか?」
「そんなことしないよ」
「いやいや、この警察署遠すぎなんですけど。自転車も公園に放置したままだし、何で帰ればいいんです!?」
「そこまでの責任は負わないので、迎えを呼ぶなり、何とかして下さい」
冷たく言われた……警察め……と再び思った。
もう時間は夜中の3時過ぎだ。親になんて電話できるわけがない。歩いて帰ったら何時間かかるんだ……しょうがない、困った時の剛君だ。
僕は電話をかけた。出ない……再びかけた。出ない……三回目でやっと繋がったと思ったら切られた……この野郎……と思って、祐佳にかけた。一回目。出ない……二回目。出た!
「何さ?」
「ごめん、剛起こしてもらっていい?」
僕は明るく言った。
「あんたね、何時だと思ってんの?」
「3時だね」
電話の向こうで声が聞こえる。
「剛、涼真。出て」
「うるせーなー。何?」
「今多賀城の警察署にいるんだけど、迎えに来て」
「は? 何してんのお前?」
目が覚めたようだ。
「気になるよね? 気になるなら早く迎えに来た方がいいよ」
「なんかうざいんだけど。待ってろ」
30分ほどで剛が来た。
「ありがとー」
剛は不機嫌そうだ。
「で?」
「で? ってなに?」
「降ろすぞ……」
「分かった分かった」
そう言って、僕は全ての事情を話した。
「なるほどね。あんま無理すんなよ。でも、その女のこと本気で好きなの?」
「本気だね。じゃなきゃこんなことしないよ」
「だろうな。それはちょっと嬉しいかも」
「祐佳にもうまく言っておいてくれ。とりあえずオレは明日旅行だから帰って少し仮眠するから早く家まで送ってって」
「勝手なやつ。お土産買って来いよ」
そして、僕は明け方こっそり家に入り、仮眠をとった。翌日は8時出発だった……。
僕はサッカー部の同級生たちと一泊二日の温泉旅行に行った。行きの車はさすがにずっと寝ていた。温泉に入り、夜は飲み会をし、それなりに楽しめたけど、光莉からの連絡がないことに不安だった。僕はふとした瞬間に光莉のことが頭に浮かぶ。旅行中に将大に訳を話し、旅行が終わり仙台駅で解散した後、僕のバイト先に客として一緒に飲みに行こう。と誘った。予定通りなら、光莉がバイトしているはずだ。




