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浪人編4

「いたよ。こないだ別れちゃったけどね」

「へー、どんな人?」

「高校の先輩なんだけど、私のことをずっと好きでいてくれてね。涼真のせいで3回付き合ったけど、3回別れた」

「なんでオレのせいなんだよ?」

「最初に付き合ったのは高2になったばっかりの時かな。その先輩もピアノやってて、私が高1の時からずっと好きって言ってくれてたの。でも、ぶっちゃけ私は涼真のこと忘れられてなかったからさ。ずっと断ってたの」

「自分で振ったくせに勝手だな」

「話の腰折らないの! 涼真のこと大切に思ってたからに決まってるでしょ」

「それは分かってる……それで?」

「ずっと、『好きな人がいてもいいから付き合ってくれ』って言われてて、このまま涼真のこと考えててもしょうがないと思ってさ。忘れるために最初付き合ったんだよね。でも、高2の夏にあんたが弱って電話してきたわけ。それで、やっぱり自分の気持ちに嘘付けなくなって、別れたんだ。その後は何もなかったんだけど、高3になって、進路決める時に、その先輩が私の行きたい音大に入ってて、何回か大学案内してもらったの。それで、またアプローチうけて付き合っちゃった(笑)これは完全に勢いと、時間がたって涼真のこと少しずつ良い思い出になりつつあったからかな。でも、だめだったのが、あの選手権だよね。祐佳から連絡うけて観に行くか迷ったんだけど、涼真がどれだけ選手権に賭けてたかは、中学の頃から知ってたからさ。もう一歩で届くって聞いて、どうしても観に行きたくなっちゃって。彼氏には内緒で観に行っちゃったんだ。観に行けばどうなるかなんて何となく想像できたのにね。それで観せられたのがあの2試合でしょ? あれはまた好きになるなって言う方が無理。昔からサッカーやってる涼真見てきたけど、だからこそ気持ち蘇ってきちゃってさ。負けた日に涼真の家行ったでしょ? 本当はもう少し時間あったんだけど、あれ以上は気持ち溢れすぎてしまいそうで。まだ先輩の彼氏と付き合ってもいたしね。それで、戻ってすぐ別れました。やっぱり付き合えないって。でも、今年大学入って、また先輩と近づいて、付き合っちゃったの。今度こそ涼真のこと忘れようとして。でも、今回2人のパーティーの件でいろいろ電話とかしたでしょ? それが彼氏にバレて、剛と祐佳のパーティー行くな! って言い出したのさ。そんなのあり得ないから、無理だって言ったんだけど、じゃあせめて涼真には会うなって言うのさ。そりゃあそうだよね。向こうからしたら涼真は憎い敵みたいな感じだもんね(笑)でも、そんな約束もできないじゃん? 今度こそ信じて。って言ったんだけど、信じられなかったらしく、ついこないだケンカ別れして、ここに来ました。これが私の今まで。最低でしょ?(笑)」


 僕は時折相づちを打ちながら、最後まで話を聞いた。

 彼氏がいたショックより、そこまで僕のことを考えてくれていたことに驚いた。


「私もいろいろあったけど、結局涼真のことをずっと考えてたかな。涼真に負けないようにピアノも頑張ってこれたしね」


 僕は隣に座っていた遥香を抱きしめた。


「オレもいろんな人と付き合ったけど、やっぱりお前がいい。もう高校も卒業したし、中学生みたいに会うのが難しくなるわけじゃない。今なら離れる必要ない。つーか、離れたくない」

「いいの? 涼真新潟でサッカー頑張るんでしょ? 私、東京の大学だよ……?」

「それでもいい。ずっとこうしたかった」

「私も」


 こうして、僕等は数年振りにキスをした。付き合って始めのキスも夏だったのを思い出した。もう5年も前のことだ。



 早速、剛と祐佳にも報告した。2人共ものすごいテンションの上がり方だった。その日は僕等のお祝いを2人がしてくれた。

 次の日、剛は仕事だったので、僕と祐佳で、遥香を見送った。遥香は、


「ちゃんとサッカー頑張りなさいよ! プロになるって決めたんでしょ! また応援してるからね!」


 と言って東京に戻っていった。

 帰ってからも、僕等は電話やメールをした。帰ってちょっとしてから、遥香が体調が悪いと言い出した。僕は無理するなよ。と言ったが心配だった。


 そこから数日、遥香と連絡が取れなくなった。僕は何かあったのではないかと心配して、何回もメールと電話をした。なかなか返事がなく一週間が過ぎたあたりで、遥香から電話があった。僕は家にいて時間はもう夜だった。


「どうした? 心配してたんだぞ?」

「うん、ごめん……」


 明らかに元気がない。


「体調良くないのか?」

「それもあるんだけど、話さなきゃならないことがあって……」


 僕はその雰囲気で悪い予感しかしなかった。


「なんだよ……?」

「実は、別れてほしいんだ」


 やっぱり……そんな気がしていた。当然納得できない。


「なんでだよ? 急にどうしたんだよ?」

「実は……私妊娠してるの……」


 僕は頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。


「妊娠? 誰の?」

「元カレ……この前体調悪いって言ったよね? それで、生理も来てなくて、まさかなって思って検査したんだ。そしたら妊娠してて。涼真に言う訳にもいかなくて、どうしようもなくて、一人で病院行ったの。そしたらやっぱり間違いなくて……元カレにすぐ事情を話したけど、『本当にオレの子か分からない。帰った時に元カレと作った子じゃないか』って言われて。でも、涼真とはしてないし、絶対に元カレとの子なの。親に相談して、いろいろあっちとも揉めたんだけど、全然認めてくれなくて。で、親には中絶しようかって言われた。だけど、私それはできないの。もうこの子は産むって決めたの。誰の子でも関係ない。今こうして私のお腹の中にいるんだから。それで親にも言ったんだけど、最初は反対されて。でも今日やっと認めてもらった。だから涼真にずっと連絡できなかった。ごめん……」

「一人で育てる気か? 大学は? ピアノはどうするんだよ?」

「辞めることになるかもね」

「それでいいのか? ずっとやってきたんだろ? うちらもやっと元に戻れたじゃん!」

「でも、もう決めたから。ごめん」


 だめだ、遥香はこうなったらテコでも動かない。


「じゃあ、オレが育てる。遥香の子ならオレ大丈夫だから。結婚して、一緒に暮らそう。オレ今すぐそっち行くからさ」

「ダメに決まってるでしょ。涼真はサッカーをするの。私のせいで涼真の人生壊すなんて耐えられない。そんなことしたら私は一生後悔して生きていくことになる」

「いや、もうお前のために生きるから。だからそんなこと言うな」

「そこまで言ってくれて嬉しいよ。でも、今の感情に流されないでよ。お願い」


 遥香な少し泣いている。


「遥香の人生はどうなるんだよ? 1人で抱え込まないで、オレが一緒に抱えていくから」

「本当にもう決めたの。1人でなんとかするって。ごめんね涼真、私はずっと涼真が大好き。だからこれで本当にさよなら。絶対夢叶えるんだよ。離れててもずっと応援してるからね」


 そう言って電話が切れた……僕は泣いた。本気で遥香のために生きようと思った。でも、遥香はそれを許してくれなかった……。


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