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高校編29

 審判の笛が鳴る。会場は盛り上がり、ベンチでは、


「PK! PK!」


 と、叫んでいる。

 審判の判定はフリーキックだった。ファールをした選手にイエローカードが出され、相手は壁を作り始める。僕はボールを拾い、キックのポイントに行く。ポイントにはすでに将大と浩太がいた。三人で小さく集まり、話し合う。


「お前足引きずってるぞ」


 将大が僕に言う。


「たぶんテーピング切れた。でも大丈夫」


 僕は答え、浩太が、


「どうする? たぶんラストプレーだろ。絶対に決めないと」

「オレが蹴っていいか?」


 僕が言う。


「分かった。オレまたぐか?」

「いや、小細工なしでいい。壁の上を巻いて、ニアの上を狙うから、こぼれだけ頼む」


 浩太が、


「分かった、任せる。自信持って蹴り込んでいいぞ。楽しもうぜ」


 将大が、


「みんながお前を信じてる」


 と言い、3人でグータッチをした。

 2人はポイントから離れて、こぼれ球を狙いにいった。僕はボールをセットした。ゴールまで20mくらいか……。

 本当に、ペナルティエリアギリギリだ。

 落ち着くために、少し周りを見渡した。


 ベンチではみんな祈るような恰好をしている。

 監督は立ちっぱなしだ。

 観客席では応援団が身を乗り出している。

 どこにいるかは分からないけど、剛も祐佳も、僕の両親も、そして遥香も見ているんだろうな。

 ゴール前にはうちのキーパー以外の選手がペナルティエリア内に入ってポジション争いをしている。

 篤と目が合った。篤が自分の左胸を叩いている。きっと僕へのメッセージだろう。


「フーッ……」


 空を見上げ、深呼吸をし、一瞬だけ目を閉じる。

 目を開け、狙うべきゴールの左上隅を見る。

 相手キーパーに読まれてもいい。小細工なしで、取れないコースとスピードで巻いて落とす!

 助走を始め、ボールを見る。

 いつも通り、インフロントに当て、ボールをこするように蹴った。


(入れ!)


 ボールは壁を越していく。

 時間が遅く感じる。


(落ちろ!)


 ボールは綺麗な弧を描いて、ゴール左隅のサイドネットに突き刺さった!


(入った!)


 僕はその瞬間、両手の拳を突き上げた。大歓声が聞こえる。

 終了間際、2―2の同点に追いついた! チームメイトが僕に抱き着きにくる。全員が僕を中心に集まってくる。


「良く決めた!」

「どんなメンタルしてんだよ!」

「お前凄いよ!」

「よし! よし! よし! まだ終われない!」


 そして、その瞬間、


「ピッ、ピッ、ピッー!」


 と、審判の笛が3回鳴る。

 後半終了だ。僕等はベンチ前に戻る。ベンチに戻ると、みんなが大きな声をかけてきた、


「ナイス!」

「まだいけるぞ」

「全国行こうぜ!」


 そう言いながら、試合に出ている選手の足をベンチメンバーが伸ばしてあげていた。少しの休憩をはさんで、10分ハーフの延長が始まる。

 僕はトレーナーの尾形先生の所に行き、


「先生、たぶんテーピング切れた。巻き直して」


 と、お願いした。


「涼真、お前足引きずってるぞ。もう限界じゃないか……?」

「先生、オレまだ走れるよ……折れても戦うって言ったじゃん。あと1点決めてこなきゃ……」

「分かった。ちょっと待て」


 先生は、ドクターバックからテーピングを出し、僕の膝に巻いてくれた。下を向いていたが、時折手で涙を拭うようにしていた。きっと泣いていたのだろう。巻き終えた先生は、


「気持ち込めて巻いたからな。頼むぞ!」


 と、言って僕を励ましてくれた。


「ありがとうございます」


 そう言った。僕がテーピングを巻いている間、監督から指示があった。指示と言っても、ここまで来たら気持ちの問題だ! 仲間を信じて走り抜け! といったものだった。僕は立ち上がり、自然とできた円に入って円陣を組んだ。みんなが黙る。キャプテンの僕の言葉を待っている。僕は少し顔を上げ、


「あと20分、後悔ないように走るぞ! 勝って全国だ! 行くぞ!!」

「オーッ‼」


 気合が入る。ベンチのメンバーとタッチをする。みんな口々に、


「頼むぞ!」


 と、言ってくる。最後に監督と握手をした。


「最後まで変えないぞ」

「もちろんです」


 そう言葉を交わした。監督に背中を叩かれ、延長のピッチに向かう。途中で足を止めて、空を見て一度深呼吸をする。

 篤が、


「どうした?」


 と、声をかけてくる。


「最高のチームだな」


 と、僕が篤に言う。


「お前のチームだろ。勝ったらもっと最高だぞ?」


 と、僕の背中を叩く。


「その通りだ」


 僕は笑って答える。キャプテンマークに手を当て、キックオフに向かった。

 キックオフの時将大に、


「守備はオレがやるから、お前は前線に残ってろ」


 と言われた。


「オレがおいしいとこ持ってっていいのか?」

「勝つためだ」

「任せろ」


 そうして、延長戦が始まった。延長戦はお互いにギリギリの状態で進んで行った。疲れでスペースが広がりオープンな展開になっていった。チャンスもピンチもあったが、どれも決定的なものではない。

 延長の前半が終わり、後半が始まる。後半も半分が過ぎ、PKも視野に入ってきたところで、僕にビックチャンスがおとずれる。将大の言う通り、守備にあまり参加せず、常に最前線で残っていたところ、篤のロングボールが相手ディフェンダーの頭を越えて、僕に届いて前を向く、完璧なファーストタッチで相手ディフェンダーを置き去りにし、前には広大なスペースができた、ドリブルで独走し、キーパーと1対1になれる場面だ。

 おそらく、観客の今日一番に近い大歓声が聞こえる。

 味方から、


「行けー!」

「勝負だ!」


 と、いう声が聞こえる。完全にキーパーと1対1だ。キーパーが慌てて出てくる。僕は、かわしてやろうと思いキーパーにフェイントをかけた。完全に引っかかり、キーパーをかわし、目の前にはゴールしか見えない状況になった、若干距離があったので、少し強いボールを蹴ろうと思い、足を振りかぶった瞬間、戻ってきた相手が斜め後ろから、スライディングをしてきた。交錯して、倒れた。さすがに後ろからのタックルはファールだろと思ったが、笛が鳴らない。味方もベンチもスタンドも、


「おーい!」

「ファールだろ!」


 と、声を上げるが、プレーは続く。

 逆にカウンターのような形になり、味方の陣形が整う前に攻められる。僕はさすがにまずいと思った。みんなもファールだと思い、一瞬足を止めている。僕はボールを全力で追った。しかし、ロングボールをサイドに展開され、相手に自陣深くまで侵入されてしまう。


(やばい!)


 全員後ろ向きにされ全力で戻っているが、相手の枚数の方が多い。僕も全力で戻るが、ゴール前にクロスを上げられてしまう。相手にゴール正面に走り込まれシュートを打たれる。篤が横からシュートブロックに入るが間に合わない。

 なんと、ゴールを決められてしまう。浩太や将大が、審判に抗議する。監督もベンチで第四の審判に抗議をしている。しかし覆らない。審判にそれ以上はカードになると言われる。


 篤が、


「もう取り返すしかない!」


 と、言う。時間も残り少なかったので、すぐ切り替えて試合を始める。

 もうなりふり構っていられない。とにかく残り数分、ゴール前に放り込み、どんな形でも良いからゴールに押し込むしかない。

 何で負けている時はこんなに時間が進むのが早いのだろう。あっという間にアディショナルタイムが表示された。残り2分である。

 アディショナルタイムに入り、あとどれくらい時間があるか分からない中、コーナーキックを得た。ベンチからはキーパーも上がれ! という指示が出た。もうこれがラストなのだろう。相手も全員で戻っている。


「どんな形でも良い! 絶対触るぞ!」


 僕が叫ぶ。みんなも答えてくれる。浩太が蹴ったボールは僕の頭を越えた、将大が頭で合わせる。ディフェンダーに当たりこぼれる。僕はそのボールに飛びつく。相手の方が触るのが早い。クリアされたら終わってしまう。僕は相手の正面にとにかく飛び込んだ。クリアボールは僕に当たり、まだペナルティエリアの中だ。


(誰か押し込んでくれ)


 こぼれ球を篤が打つ。しかし、相手もブロックに入る。ブロックされたボールが相手に転がる。僕の目には審判が視界に入り、笛をくわえている。


(やめろ、まだ終わるな)


 そして、相手のクリアと同時に、試合終了の笛が鳴った。

 相手チームはベンチからも選手が飛び出してきて喜んでいる。

 僕は崩れ落ちた……。

 相手のキャプテンが僕の背中を叩き、


「ありがとう、すごいチームだったよ。お前が一番怖かった」


 と、言ってきた。僕は涙を流しながら、立ち上がり、握手をし、


「全国、頑張れよ」


 と、言った。

 みんなフィールド上で崩れ落ちている。顔を上げている選手は誰もいない。キャプテンとして僕がみんなに声をかけなければいけない。最後までしっかりやろう。と思った。

 僕はフィールドを周り、一人ずつ、背中や肩を軽く叩きながら「ありがとう」と声をかけた。

 そして、相手チームに挨拶をし、自分達のベンチにも挨拶をする。3年生はもちろん、1、2年生、マネージャー、コーチも泣いている。

 僕も一瞬両手で顔を抑えたが、涙をこらえ、


「さあ、最後応援団に挨拶に行こう! 堂々と顔上げていこう! 立派に戦ったんだ、胸を張れ!」


 と、言ったが、こうゆう時はきっと逆効果なのだろう。余計泣き声がひどくなる。監督が、僕の頭をグシャグシャとし、ポンッとしてくれた。


「立派だった。よくやったよ」


 と、言われた。

 その言葉に自然と涙が出てきた。フィールドを横切って、観客席に挨拶に行く。ゆっくり歩くが、歩きながらも観客の拍手と、「広陵! 広陵!」という応援団の声が聞こえる。みんな手やユニフォームで顔を押さえている。一人で歩けず、肩を抱きかかえられている選手もいる。

 僕は顔を上げて、全員を整列させる。

 観客席を見ると全校応援の女子生徒は大半が泣いている。

 男子生徒も泣きながら「ありがとーう!」とか「顔上げろー!」と叫んでくれている。

 親たちも泣きながらずっと拍手をしてくれている。

 サッカー部の先輩たちも最前列で僕等の名前を呼んでくれている。

 ベンチに入れなかった選手たちは、大号泣だ。


「応援、ありがとうございました!」


 僕は多少声が震えたが全力で言い頭を下げた。


「ありがとうございました……」


 全員が後に続くが、力がない。観客からの本当に大きな拍手がスタジアムに響いた。

 ロッカールームに戻り、まだ泣いている3年生に僕は一人一人声をかけた。そして全員と抱き合った。みんなで「ありがとう」と言い合った。

 最後のロッカールーム、監督が、


「お前らには夢を見させてもらった。こんな素晴らしい経験をさせてくれてありがとう。3年生はこの最高の仲間を一生の宝物にして、次のステージで羽ばたいてほしい」


 と、言っていた。僕も当然最後に挨拶をした。


「みんなとサッカーができて良かった。目標には一つ届かなかったけれど、ここまで来れたのはみんなのおかげです。広陵に来てよかった。こんな素晴らしいチームのキャプテンでいさせてくれてありがとう。最後決めれなくてごめん」


 挨拶が終わり、3年生が集まってきた。


「オレらこそごめん、涼真と全国に行きたかった」

「ここまで続けられたのは涼真のおかげだよ。ありがとう」


 と、言ってくれた。何より嬉しかった。



 後輩達に次を託し、僕等の高校サッカーはこうして幕を閉じた……。



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