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高校編27

 翌日、試合会場の仙台スタジアムに入る。ベガウス仙台のホームスタジアムで、2万人収容のサッカー専用のスタジアムだ。今までの会場とはわけが違う。当然両校全校応援で、それ以外の観客もたくさん入る。これで燃えないわけがない。


 僕等はロッカールームに入る。いつもと違う異様な雰囲気だ。僕は尾形先生にテーピングを巻いてもらっている。いつもはうるさいくらいの試合前だが、みんな口数が少ない。沈黙に耐えられなくなった優太が、


「一発芸やろうぜ。オレからやるから、いつも通り笑ったやつが次な」


 と言って、いきなり変顔をし始めた。最初に将大が笑い、後に続いてみんな笑った。最初に笑った将大の番になる。こうやって、僕等はアホなことをやって緊張をほぐした。

 そしてミーティングをし、入場の時間が近づいてきた。監督が、


「目をつぶって、今までの悔しい事、辛い事を思い出せ。うちらはこれだけやってきた。東光には全く勝ててない。でも、今のチームなら大丈夫だ。そろそろうちが勝ってもいいはず。それだけの努力はしてきた!」

「よっしゃー行くぞ!」

「おーーーー!」


 僕が声をかけ、全員で答える。スタッフとベンチメンバーが並び、スタメンが全員とハイタッチをし、入場口に向かう。

 東光高校の選手も出てきている。東光高校伝統の白のユニフォームだ。うちは緑色。4度目の対戦。気合が入る。審判が入場を促し、入場する。観客席の下から、通路を通り入場する。

 僕がピッチに出ると目の前の景色が明るくなり、応援団の「カントリーロード」の大合唱が聞こえる。ピッチ内に整列し、観客席に礼をする。今までに見たことのない景色だ。ピッチからスタジアムを見るとこうなっているのか。と感動した。


「ピーッ!」


 審判の笛が鳴り、試合が始まった。

 東光は当然、ロングボールを放り込んでくる。その対策は十分してきたはずだが、慣れない環境と緊張からか、いつも通りにできない。相手の流れのまま試合が進んでいった。そして、相手のシュートのこぼれ球に誰も反応できず、フリーでシュートを打たれてしまい、これが入り先制を許してしまう。

 そして、その後もうまく流れを作れないまま、前半終了間際のセットプレーで2点目を決められてしまう。そのまま前半が終了した。せめて0―1で前半を終えたかったというのが本音だった。

 ハーフタイム、僕は、


「とにかく落ち着こう、1つ取れば流れは絶対変わる。これ以上の失点は絶対だめだ」

「セカンドボールが拾えてないから、オレが少し中盤に落ちる」


 と将大が言った。


「とにかく、後半だ。まだ40分ある。慌てないで行こう」

「先輩たちも来てるってよ。もう負ける所見せるわけにいかないよな」

「とにかくセカンドボールと簡単にボールを失わないこと。速い展開は完全に相手のペースだわ。ちょっとペースダウンさせて、こっちがボール握ろう」

「よし、行こう」


 そして運命の後半戦が始まった。

 将大が中盤に下がったので、僕の1トップのような形になった。前半よりは落ち着いたが、なかなか決定的なチャンスを作り出すまではいかない。だが、後半の中頃、うまく中盤で繋ぎ、僕がポストプレーに入る。うまく相手を密集させ、サイドを抜け出した拓也に出した。拓也はサイドを駆け上がる。僕も猛ダッシュでゴール前に入って行こうとする。ニアサイドのキーパー前にスペースがあったので、全力でスプリントを入れ、ボールを呼ぶ、


「拓也! 来い!」


 拓也からクロスが上がった。僕の後ろをボールは通り過ぎる。でも、結構ディフェンスを引き付けた。誰か二枚目入っていてくれ。


「ドカーン!」


 将大がフリーで走り込み、強烈なシュートを打った。キーパーも反応できず、ネットに突き刺さり、ゴールが決まった。僕はすぐにボールをゴールから取り出し、センターサークルに走り出す。まだ1点負けているからだ。


「将大ナイス!」


 と、みんなで声をかける。

 しかし喜ぶのはまだ早い。そのまま試合は進むが、流れは完全にこっちに来た。僕はボールを受けてどんどんドリブルを仕掛けた。

 そして、後半30分を過ぎたあたりで、将大とワンツーで抜け出した僕がシュートエリアに入った。冷静に一人かわすが、相手も必死にブロックに来る。ゴールが全然見えなかったが、ボールだけ見て、感覚でゴール右隅を狙う。うまくディフェンダーの間を抜けたシュートはポストに当たり、ゴールに吸い込まれる。


「よっしゃー!」


 僕はベンチに向かい走る。みんなもついてくる。ベンチは全員総立ちだ。僕はベンチの選手の輪の中に飛び込み、もみくちゃにされる。


「これでまだ行ける!」

「逆転逆転!」


 ワンツーをした将大とハイタッチをし、他のみんなともハイタッチしながらピッチに戻った。こうなると、もう流れは完全にこっちのものである。応援のボルテージもこの日、最高潮に達した。もう遠くの選手のコーチングが聞こえないくらいである。

 どんどん僕の所にボールが入る。相手は僕にやられているので、結構汚いプレーで止めようとしてくる。もともと荒っぽいチームが、なりふり構わず僕を削ってきた。

 残り時間は5分を切った。ファールが続きイライラしてくる。僕にボールが入り、ドリブルをすると、また倒された。しかし、今度はノーファール。あり得ねえ……と思ったが切り替える。その流れで相手はコーナーキックを得る。久しぶりのピンチである。相手もこの時間帯に点が欲しいはず。相手はかなり前がかりになっていた。浩太とアイコンタクトをする。ノブのことも呼び、裏を指さし、ジェスチャーで伝える。相手のコーナーキックを跳ね返す。それが浩太の所にこぼれ、イメージ通り、僕を走らせるボールを出してくる。東光のディフェンスが鬼の形相で迫ってくる。ノブが、僕を追い越し、サイドから抜けていく、僕は前線にパスを出すが、パスを出した後、後ろからスライディングを受ける。がっつり削られ倒されるが、


「プレーオーン!」


 審判の声が響く。アドバンテージで続行だ。ノブがそのままドリブルで前に行く。将大、洋介、浩太、拓也が僕より前に行きゴール前に入って行こうとしている。僕もすぐ立ち上がり、ゴール前に少し遅れて入る。ノブがゴール前にクロスを上げる。ゴール前は混戦だ。誰かが頭に当てたボールが、ペナルティエリアの少し外を走っていた僕の前に転がってきた。少し弾んでいて、難しいボールだな。と思ったが、トラップしたら追いつかれる。と思い。体を倒し、足をおもいっきり振りぬいた。上手くインパクトすることができ、ボールはレーザービームのように、ゴールに飛んでいき、クロスバーに当たり、下に落ちたボールが跳ね返り、ゴールの上のネットに突き刺さった。


「うおーーーーーー!!!」


 割れんばかりの大歓声である。

 僕はそのまま、今度は観客席の方に走った。広陵の応援団の前に行き、拳を突き上げ大きくガッツポーズをする。


「よっしゃーーーーーーー!!!」


遅れて僕の背中に、どんどんとチームメイトたちが覆いかぶさってきた。


「勝てるぞ!」

「これは絶対いける!」

「涼真! やったな!」


 同点ゴールからわずか5分後に逆転ゴール。盛り上がらないはずがない。これで3―2だ。審判に戻るように言われ、ピッチ中央に戻る。応援団がゴール後の応援歌を歌い、「涼真」コールがスタジアムに響く。僕は戻り際、観客席に向かい、もう一度片方の拳を突き出した。

 僕にハイタッチを求めた篤が泣きそうな顔をしている。

 僕は、


「まだ泣くのは早い。あと数分集中だ。最後の守り頼む」


 そう篤の耳元で言った。

 ベンチから、


「あと5分ないぞ!」


 と声がかかる。

 僕は手を叩きみんなを鼓舞する。


「守りに入らないぞ! プレッシャーかけ続けろ!」


 相手はもうパワープレーに入るしかない。僕等はラスト5分とにかく耐えた。僕も下がった。そしてアディショナルタイムに入った。プレーが切れる度に、観客席から歓声が上がる。もう必死に耐えて、とにかく声を出す。


「やるぞ!」

「集中!」


 そして、マイボールになったら、とにかく前にボールを蹴り、時間を使った。とてつもなく長く感じる数分間を耐え抜き……。


「ピッ、ピッ、ピッー!」


 リベンジを果たす笛が鳴った。

 ベンチからみんな出てきた。僕等は、歓喜の声を上げ続けた。

 そして、抱き合った。浩太や将大の目には涙が浮かんでいた。


 最高の気分である。

 スタジアムからは東光高校が負けた驚きもあり、大きな歓声が上がっている。 

 僕等は挨拶をした後、全員で手を繋ぎ、応援団の所へ向かった。僕が、


「応援ありがとうございました!」

「ありがとうございました!」


 と、言って繋いだ手を全員で上げる。応援団は観客席から身を乗り出して、タッチを求めてくる。僕等もそれに応え、上を向いて、みんなとタッチする。応援団からは、「最高!」とか「かっこいい!」といった歓声があがっている。親やクラスメイトが僕の名前を叫んでいるのも分かる。観客席を見渡すと、剛と、祐佳と、遥香がいた。僕は大きく手を振った。みんな手を振り返してくれた。

 ロッカールームに戻り、みんなで喜びを分かち合った後、僕は、


「切り替えて、明日に備えよう。まだ何も成し遂げてない。明日勝って、もっと最高の瞬間を味わおう!」


 と言って締めた。東光に勝っての決勝進出。あと一つで全国大会。チームの雰囲気も最高潮だ。

 スタジアムを出る時に監督から声をかけられた。


「今日の2つのゴールは、細部にまでこだわり続けたお前に神様がご褒美をくれたんだな。両方ともポストに当たってギリギリだったけど、どっちも入っただろ?」

「なんとなくその意味が分かりました。勝負は本当にボール一個分で変わるんですね。その一個分を埋めるのが人間性や日頃の行いのような気がします。前のオレだったらあれは入ってませんね(笑)」


 そんな会話をしてから帰った。本当にその通りだと思っていたし、自分を見つめ直して良かったと改めて感じた。


 その夜はイメージを膨らませながら、早めに休んだ。剛、祐佳、遥香から、


『明日も頑張って』


 とだけメールが来ていた。返事はせず、今はとにかく試合に集中すると決めていた。

 決勝の相手は仙台学園。キックオフは翌日の昼過ぎからだ。朝学校に行って、ミーティングをしてからみんなで向かうことになっていた。


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