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高校編25

 そして夏休みは、練習を見て頭の中を整理すること、上半身のウエイト、左膝のリハビリ。この3つに専念しようと考えた。練習を外から見るのはすごく良かった。みんなのプレーも見直せたし、サッカーについて深く考えることができた。ウエイトは尾形先生が、つきっきりで指導してくれた。リハビリは加圧トレーニングを行い、徹底的に筋力強化を図った。これがきつかった……。

 必死にリハビリを行った成果からか、夏休み明けには走れるようになっていた。さすがに復帰とまではいかなかったが、医者も回復が早い方だと言ってくれた。走る時は毎回尾形先生にテーピングを巻いてもらった。ウエイトも含めて、この時期はかなりお世話になった。


 9月の頭に文化祭があったが、僕等サッカー部は選手権が迫っており、浮かれている暇はなかった。ただ、全体企画は楽しんだし、毎年行われている、部活動対抗ダンス大会はサッカー部が優勝した。未成年の主張で永井が後輩のマネージャーに告白したのもうけた。振られていたけど。僕はミスターコンテストに出場させられた。そりゃあ悪い気はしなかったが恥ずかしかった。

 高校最後の文化祭が終わり、9月中旬頃から、少しずつボールを蹴り始め、ダッシュや切り返しができることを確認し、僕は9月末に復帰した。復帰したばかりの頃は、体がフワフワして違和感があったが、なんとか感覚を取り戻そうと努力した。そして、復帰後最初の練習試合があった。僕はスタメンだった。久しぶりの試合で少し不安だったが、なぜか怪我の前より落ち着いてプレーできるようになった。頭が整理されたからなのか、筋力がつき、フィジカル的に強くなったからなのか分からないが、とにかく良い感じだった。


 そして選手権二次予選の抽選の日。僕はキャプテンとして監督と抽選会に行く。選手権の抽選会は準決勝、決勝が行われる仙台スタジアムでテレビ局も入って行われる。抽選会には二次予選進出の16校のキャプテンが集まっている。剛もいた。僕は剛と軽く話した。


「足はどうだ?」

「テーピングすれば問題ない」

「どこかでやれるといいな」

「そうだな」

「大会終わるまでは敵同士だからな」

「分かってる。剛でもここは譲るつもりはない」


 抽選が始まった。高校総体のベスト4はそれぞれシードに入っている。第一シード東光、第二シード仙台学園、第三シード国府、第四シード宮城県実業。監督に、


「どこ狙うんだ?」


 と聞かれる。


「やりやすいのは県実業の山ですかね」

「くじ運は?」

「篤よりは良いはずですよ(笑)」


『仙台広陵高校』


 アナウンスが流れる。「はい」と返事をして、ステージ上の抽選箱の方へ向かう。僕は左手を箱の中に入れる。最初に触ったボールを引こうと思い、ボールを手にする。係の人に、ボールを預ける。


「仙台広陵高校、6番」


(本当に狙ったところにきちゃったよ(笑))


 第一シードの東光が1番で、宮城県実業が8番だ。仙台二郷が5番に既に入ってたので、一回戦はそこ。勝てばおそらく県実業だった。


『塩川高校』


 お、剛はどこ引くかな。


「塩川高校、7番」


 マジが。塩川高校の相手はシードの県実業。しかし、塩川は剛の力もあり、インターハイ予選はベスト8、夏のフェスティバルでも、準優手と力をつけている。これは分からないな。お互い初戦に勝てば当たることになる。


 帰ってみんなに報告した。


「最高の組合せじゃん!」

「涼真持ってるな!」


 みんな笑顔になっていた。篤だけは複雑そうな顔をしていた(笑)



 選手権二次予選の前日、教室でミーティングが行われた。まずはメンバー発表。3年生は当然全員がメンバーに入っている。僕はいつもの16番だ。監督からの話がある。


「オレが監督になって10年になるが、今年は一番良い。20年ぶりの全国に向けて良い準備をして、最高の大会にしよう」


 キャプテンの僕が話す。


「怪我で迷惑をかけたけど、ついにこの日が来た。3年生全員で出れて本当に嬉しい。まずは明日、明後日と勝って、来週の土日に繋げよう。泣いても笑っても、うちらにとっては最後の大会だ。どうせなら笑って終わろう。そして全国に行って正月までサッカーをしよう」


 2年生キャプテンの小堀も話す。


「先輩たちを絶対にここで終わらせません。メンバーもベンチも応援も、一丸となって勝利に向かいましょう」


 初戦は仙台二郷。ここは進学校で3年生が引退しており、2年生しかいない。確かに上手い選手もいるが、力の差はある。僕等は4―1で勝利した。

 将大がハットトリックと爆発した。僕は相手のハンドで得たPKを蹴り、4点目を取っただけだった。まあ、チームが勝つことが最優先だ。


 そして、隣の会場で、県実業と塩川の試合が行われていた。そっちはなんと延長までもつれる激闘だった。僕等も明日戦う相手なので、急いで着替えて試合をスタンドで見た。

 延長の後半に剛が、自陣から相手を切り裂くスーパースルーパスを出した。それに走り込んだフォワードがキーパーと1対1になり、見事に決めた。この1点を守った塩川が、なんとシード校の県実業を倒したのだ。

 これで、明日の相手は塩川になった。

 篤が、


「相変わらずあいつはやばいな。なんだよ最後のスルーパス」

「大丈夫。うちらの方が力はあるさ。落ち着いてやろうぜ」


 僕は嬉しくてしょうがなかった。ずっと尊敬していた幼馴染の剛と、明日本気で試合ができる。最高だ。


 その夜、祐佳から電話が来た。要件はどうせ剛のことだろうと思った。


「明日試合なのにごめんね。明日も会場行くから頑張ってね」

「それだけか?」

「いや、剛のことなんだけど……」


 剛と祐佳はあれ以来連絡もとってないらしい。


「明日の試合ほど複雑な試合はないよ……」

「まあそうだろうな。明日は剛を応援すればいい」

「そんなわけいかないよ! 涼真や広陵のみんなに負けてほしくない。しかも剛なんて何も連絡すらよこさないし、自分勝手すぎる」

「だったら、わざわざこんな明日試合のタイミングでオレに電話なんてしないだろ。前も言ったけど、剛は高校で自分のサッカー終わらせるつもりだから。明日はうちらが勝つから、剛の本気の試合見られるのはきっと最後。最後くらい応援してやれよ」

「塩川が勝つかもよ?」

「剛には悪いけど、こんなところで終われない。塩川に勝てばきっと東光だ。東光に負けっぱなしは嫌なんだよ。大丈夫、試合終わったらきっと剛は祐佳に会いたくなるよ」

「分かった。じゃあ、明日は剛のことを見てる。でも、親友がキャプテン同士で戦うなんて漫画みたいで楽しみにしている自分もいるんだ」

「じゃあ、祐佳は主人公に想いを寄せるヒロインだな。明日はドキドキしながら楽しみなよ。最後に勝つのはうちらだけどな。じゃあおやすみ」



 塩川高校との試合が始まる。試合前の監督の指示も、10番の庄司剛に気をつけろ。ということだった。

 何があったか分からないが、県選抜、日本代表候補まで行った、おそらく宮城県では1番の選手が無名の高校を率いて県大会ベスト8まで来た。本当に漫画の主人公みたいなやつだ。でも、負けるわけにはいかない。

 僕は、


「剛はパスを出すときは相手を見なくても出してくる。それには特に気をつけたほうがいい」


 と、ずっと見てきた剛の癖をできるだけみんなに伝えた。

 そして、スタジアムの下で入場を待つ。僕も剛もキャプテンだ。お互い先頭で並び入場する。目は合わさない。審判が歩き出し、着いていく。僕は、後ろを向き、


「行くぞ!」


 と声をかける。

 スタジアムに入り、応援団の応援と観客の拍手が響く。両チーム向かい合い、初めて剛と目が合う。礼をし、キャプテンだけが残り、審判とコイントスをする。コイントス後、キャプテン同士で握手をする。剛が、


「お前とこうやって試合できるなんて最高だな」


 と言う。


「オレも楽しみにしてた」


 固く握手をし、拳を合わせる。



 親友同士が戦う試合が始まった。



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