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高校編14

 その翌日、タイミングが良いのか悪いのか……練習後に監督が僕を体育教官室に呼んだ。


「失礼します」

「おう、涼真。なんで呼んだか分かるか?」

「この間の練習の件ですか?」

「それもある。でも、それも含めて、今までのお前の扱いについてだ。一度話さないといけないと思ってな」

「なんでオレは今干されてるんですか?」


 率直に聞いてみた。


「なんでだと思う?」

「シュートが決められないからですか?」

「それもあるが、それだけじゃない。何で今お前のシュートは入らないんだろうな? そして、お前の学校生活や授業態度、成績。全て今どうなってる?」

「正直、ひどいと思います」

「そうだろ? なんで直そうとしない?」

「サッカーだけやってればいいと思ってるからです」

「それが間違ってるんだよ。サッカーは人間性が優れてないと絶対に上手くならないし、勝てない。お前が伸び悩んで、上手くいってない理由はそこにある」

「じゃあどうすればいいですか?」

「それを自分で考えるんだよ。自分で気づくってことが大事なんだ。自分で気づいたことは忘れない。オレは涼真が自分で気づくまで、お前を使わない。きっかけは与えたから、あとは自分で何とかしろ」

「はい……」

「オレは肉屋でりんごは注文しない。できると思ってるから言ってるんだ。壁を乗り越えろ。お前がもう一皮むければ、今年のチームは絶対強くなるぞ。全国行きたいんだろ? お前を最初から使ってたのは、その意識の高さや、サッカーに真摯に取り組む姿勢に期待してたんだ。それがなくなったら使われるわけがないだろ。考えたら、それを言動や態度で示せ」

「分かりました」


 真面目に学校生活を送らなきゃいけないのは、何となく分かった。でも、人間性か……どうすればいいんだろう。


 紀子先生に言われて、剛や祐佳、サッカー部の仲間たち、みんなが支えてくれているのは今回のことで改めて良く分かった。あとは何に気づけばいいんだ? 僕は思い切って遥香に電話しようと思った。僕が悩んでいるとき、一番理解してくれるのは遥香である。でも、2年の月日が、それを変えているんじゃないかと思うと怖かった。この間かけた時にはそれを知る覚悟がなかったのである。でも、今は何となく大丈夫な気がした。

 緊張しながら電話をかけた。前回と違い一瞬で出たため、僕はつい、


「わっ」


 と声をあげてしまった。


「わって何?(笑) 久しぶりだね。元気だった?」

「元気っちゃあ元気だし、元気じゃないと言えば元気じゃない。遥香は?」


 僕は久しぶりの遥香との会話にドキドキしていた。


「私は元気だよ。実は涼真のことは祐佳とか剛から聞いたりしてるんだ。ごめんね。涼真は私の事忘れちゃった?」

「よく言うよ。自分からあんな別れの手紙書いておいて……聞きたいことや言いたいことはいっぱいあるっつーの」

「だよね(笑)そうだと思う(笑)でも、今日は何かあったから電話してきたんでしょ?」

「そうゆうこと。さすがだね」


 そして僕は高校に入ってから今までの出来事を話し、今悩んでいることを遥香に伝えた……。


「なるほどねー。なんか涼真の高校生活が簡単に想像できちゃう(笑)私からは一つだけ。今、涼真のことを大切に思ってくれている人のことを悲しませる人間になるな! それだけは約束して?」

「悲しませないためにはどうすればいいのかな?」

「私は何でも一生懸命やる涼真が好きだったよ。そして、本当は優しい涼真も好き。私がいなくなって、やさぐれたから、神様が罰を与えてるんじゃない?(笑) でも昔から何度も言ってるけど、私はずっと応援してる。私の期待も裏切らないでよ? 私も頑張ってるんだから、一人で頑張らせないの!」

「今までサボってきたところもあるから、急に変われるかな……」

「いいから、変わりなさい! 今変わらないと、これからも今まで通りが続くよ」

「でた、『いいから』 これを言われるとやるしかないって思う」

「涼真は大丈夫だよ」

「ありがとう。話せてよかった。選手権、仙台スタジアムでやる時は観に来てくれよ」

「まずは明日からでしょ。期待してる。またね」


 遥香と話し終えて、僕はまた考えた。

 とにかく全部を一生懸命やろう。常に誰かが見ていると思って言動しなきゃまた同じことを繰り返す。きっと僕のシュートが入らないのは、細かいところまでこだわってないからだ。ボール一個分の差で泣かないように、細かい所まで突き詰めよう。

 など、実際に僕の考えの土台になったことが頭に思い浮かんだ。きっかけは遥香やみんながくれた。みんなを悲しませることはしない。そのために何をすればいいか考えて行動しなきゃいけないのだ。と強く誓った。



 そして、夏休みに突入した。すぐに選手権の一次予選があった。僕は、やはり監督の言う通り出られなかった。出られなかったどころか、メンバーからも漏れ、応援に回された。

 でも、僕は全力で応援した。ところがなんと、一次予選の決勝で仙台北高校に逆転負けを喫した。相手は3年生が多く残り、うちは1,2年生しかいないというハンデはあったが、うちが一次予選で負けるなんて、あり得ないことだった。僕のことで大会直前にチームがバタついてしまったのもあるかもしれない。選手権という目標にしていた舞台で、去年は何もできず二次予選の一回戦敗退、今年は応援で一次予選敗退。チャンスはあと1回となった。

 当然チームは落ち込んだ。監督は「伝統に泥を塗った」と厳しい言葉を残した。僕は、敗戦後みんなに集まってもらった。そこで、


「オレの勝手な行動で、迷惑かけてごめん。そのせいだけではないと思うけど、負ける原因を作ってしまった。これから全力でやってくから。本当にごめん」


 と、みんなの前で謝った。将大が、


「お前のせいじゃない。オレらがだらしなさすぎた」

「この夏、練習の質をもっと上げていこう」


 篤が言う。もっとやらなきゃだめだ。と、チームで決め、夏休みの練習を追い込むことにした。

 監督とも相談し、練習のある日は毎日午前午後の二部練習にした。午前中はとにかく走った。20㎞のロードが多かったが、僕は毎回1位を取るように全力で走った。何回か1位になったが、それに負けじと浩太や篤や将大がついてきた。練習の強度も試合に近づけるようにとにかく上げた。かなり集中した練習ができていたと思う。


 ある日、あまりにも暑かったため、練習後プールに入ろうという話になった。学校のプールは夏休みも水が張ってある。僕等は、練習後の汗まみれの状態で、プールに侵入し飛び込んだ。本当は勝手に入ってはダメなのだが、こんな暑いのだ。しょうがないだろう。中にはフルチンで飛び込むやつもいた。チームは確実に良い雰囲気になっていった。プールから上がって、優太が言う。


「2年生だけで飲み会しようぜ」


 みんなで乗っかる。


「いいじゃん、やろうぜ!」

「幹事は優太な」


 優太はムードメーカーで宴会部長的な立ち位置だ。

 早速、夏休みの終盤、夏休みのお疲れ様会として、駅前の居酒屋で飲み会が開かれた。高校生が飲み放題で飲みまくる。そこで、僕は決意表明をした。


「来年は絶対全国に行くぞ!」


 酔っぱらっていたからか、死ぬほど盛り上がった。僕もみんなも、お互いに普段言えないことを言いまくった。もちろん基本的にはサッカーのことだ。でも、優太が僕に、


「涼真に冷たくされると悲しくなる~」


 と、ベタベタしながら言ってきた時は、さすがに気持ち悪いなと思った。

 一次会が終わり二次会のカラオケに向かう途中、仙台のアーケードを全力疾走するアホや、ヘッドスライディングするアホがいた。今思えば大迷惑な話だが、やっているときは面白かった。

 カラオケもでかい部屋に入り、みんなで歌いまくった。


こうして、僕の転換期となった、高2の夏休みが終わった。


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