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高校編10

 そんな中、東北の各県の選抜チームで争われる大会が開催された。高校1、2年生が選ばれる大会である。うちの高校からは秀さんが宮城県選抜に選ばれた。そして、剛も1年生で選ばれている。大会期間中、剛からメールが来た。


「宿舎、秀さんと同じ部屋。お前最近調子悪いんだって? 明日はテレビで応援しろよ」

「分かったよ。活躍してこい」


 その大会は決勝戦がテレビ放送される。決勝は宮城県選抜対福島県選抜だった。剛は本当に宮城県選抜の中盤の要として活躍している。解説が、


「宮城県選抜の庄司剛君は良いリズムでボールを動かしていて、ゲームを作っていますね」


 と褒めていた。秀さんもスタメンで頑張っている。結果は宮城県選抜が優勝した。この大会は、数多くのJリーガーや日本代表選手を輩出しており、東北の若手選手の登竜門としての位置づけである。この大会で活躍した剛は、一歩目標に近づいたのである。

 僕は県選抜にも選ばれないし、もうプロは厳しいのかなと思い始めていた。高校生になり、だんだん現実を見始めてきたというのが正しいのかもしれない。


 とりあえず、僕と祐佳で剛の祝勝会を開いた。僕等3人の関係は何も変わってない。お互いの家にも行き来するし、剛と祐佳は変わらず付き合っている。ただ、みんなそれぞれ忙しくて、3人で集まるのは久しぶりだった。今回は僕の家に集まって話していた。


「お前、髪長すぎね?」


 剛は高校に入ってさらに髪を伸ばし、ロン毛になっていた。サッカー以外の時の格好はチャラ男である。


「いいんだよ」

「祐佳的にはありなわけ?」

「言っても聞かないでしょ」

「確かに……」

「でも、やっぱ地元が一番落ち着くわー」


 剛が言う。本当にその通りだ。何となくみんなが無言になっても別に気まずくない。みんな頑張っているから頑張ろうという気になる。



 そして、冬休みに入り県外遠征に行くことになる。この県外遠征で大会に参加してくるのだが、日程が12月24日から28日で、彼女がいる選手にとっては嫌がらせ以外の何物でもない。僕も一応彼女がいたので、口では文句を言っていたが、遠征は楽しいので本気で嫌ではなかった。

 しかし、この遠征は相手のレベルが高い上に、うちは選手権や新人戦で不本意な結果を残している。

 そんなチーム状態だったので、試合が始まると、どのチームにも勝てず、予選リーグを全敗という形で終えてしまう。あまりにもショックが大きすぎた。

 予選の最終試合が終わった後、さすがに落ち込みまくっている僕等を見て、普段厳しい監督が、


「さぁ、グラウンドが空いてるから練習しようぜ! こうゆう時は練習あるのみ!」


 と珍しく爽やかに言い放った。余程チームの雰囲気が悪かったのだろう。


 そして、この遠征はなぜか1年生の扱いがひどかった。1年生は20人近くいるのだが、部屋は宴会場のようなところで全員雑魚寝。洗濯物は1年生の仕事のため、夜中までかかる。あまりにもひどすぎるので、一周回って、みんなハイな状態になった。宴会場のため、ステージがある。そこで一発芸大会が始まった。当然やりたがらない人もいるので、誰かが一発芸をやり、最初に笑った人が強制的に次の一発芸をやらなければならないというルールがいつの間にか設定された。僕は将大がやった、『亀の立ちバック』というド下ネタで一発K.Oされた。

 あまりに盛り上がりすぎたため、この一発芸は僕等が卒業するまで、部室や、遠征先、移動のバスの中などで、頻繁に行われた。緊張を和らげるため、試合前のロッカールームでやることもあった。

 遠征中、同じ宿舎に他のチームもいたのだが、他のチームはマネージャーが洗濯をしていた。ランドリー室で、長野県の高校のマネージャー3人と一緒になり、みんなかわいかった。僕と篤が洗濯していたので、その事実を伝えたら、アホの優太が、女湯を覗こうと言い始めた。当然テンションの上がっていた僕等は全員で決行を決める。

 ランドリー室で洗濯を終わるのを交代で待ちながら、そこから大浴場の入口を見張る。長野の高校のマネージャーが女湯に入ったらメールで伝え、みんなで大浴場に行く。その時間帯、男湯には、たまたまうちの先輩の重幸さんと一徳さんが2人で入っていた。1年生全員で風呂に行ったので、


「お前ら何やってんの?」


 と言ってきた。優太が、


「これから女湯覗くんです」

「アホか」


 というやり取りがあった。

 僕等は上から女湯を覗くために、組体操のピラミッドで1人を上に乗せようとした。その一人はジャンケンで決められ、言い出しっぺの優太になった。優太はでかいし普通に筋肉質でがたいが良い。僕が、


「このデブ乗せらんねぇよ(笑)」


 と言ったが、優太はやる気満々である。


「ジャンケンで勝ったんだからしょうがない。早く土台作れ」


 と言われ、しょうがなく、土台を作り、2段目まで乗せたが、裸で滑る上に、膝が下のタイルに当たるので痛すぎる。僕等はあっけなく崩れた。ピラミッドが崩れ、男子高校生が裸で密着している。ほとんど地獄絵図だ。


「お前らバカすぎ」


 と、遠くで傍観していた重幸さんが言う。女湯覗き作戦は失敗した。まあバレたら完全にアウトだったが……そんなノリとテンションだったのだ。試合の結果は散々だったが、この遠征で僕等の代は更に絆を深めた。



 遠征も終え、年末年始のオフに入る。1月2日は初蹴りといって、OBたちが集まり現役と試合をする。当然、僕等が正月にいるべき場所は学校ではない。選手権のピッチでなければならないのだ。そのことを確認し、全員で神社に初詣に行く。


 宮城県代表は僕等がインターハイ予選で負けた東光高校だった。東光高校はこの年も全国ベスト8に入った。


 そして、冬の過酷なフィジカルトレーニングがやってくる。春に向けて体をつくらなければならない。


 厳しい冬を乗り越え、春休みが来た。僕は赤点を取りまくり、進級が怪しくなり、補習を受けるはめになった。ちなみに将大もサッカーをやりに広陵にきたので、勉強ができない。僕と将大はサッカー部の中で、「理数科ぐうたらコンビ」と言われていた。なんとか補習をクリアし、春の遠征に行けることになった。



 冬の遠征もそうだったのだが、遠征に行くときはAチームとBチームに分けられ、その都度入れ替えをしながら試合を行う。僕は入学時からAチームを外れたことがなかった。この頃になると、僕や浩太はもちろん、将大、篤、優太、拓也、洋介、ノブあたりが1年生でもAチームに入ってくることになる。もともと2年生は優秀な選手が多い。県選抜に2人入っているし、それと同様の力のある選手が他にも数人いる。

 だが、それゆえに我が強い人が多すぎる。3年生がいた時は優しい3年生がうまくまとめてくれた。それが引退したとたんに個性がうまくまとまらなくなってしまったのだ。それをうまくまとめるために、監督は多くの1年生をAに上げ、2年生の数人をBに落とした。

 僕等の代は、サッカーに対して真面目である。2年生が真面目じゃないとは言わないが、どちらかというと、技術はあるが必死さがない印象だ。


 この春の遠征の最初はAチームの半分くらいが1年生だった。それがうまくハマったのか、冬の遠征と違い、大会の予選リーグを1位で突破する。決勝トーナメントの一回戦で栃木の強豪校と当たった。一進一退の攻防の中、試合終盤に僕が相手キーパーと1対1になるが外してしまい、PKで負けてしまった。

 実は僕は選手権辺りから、ほとんどゴールができていない。いつも大事なところで外してしまっている。ポストに嫌われることも多く、この頃はただ「運がない」と嘆いていた。


 そして、次の日の順位決定戦から、僕はインターハイ予選から守り続けてきたスタメンを外されてしまう。


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