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高校編7

 僕が高校の時付き合った人はこんな感じであった。


 改めて言うが、僕の高校時代はサッカーと、サッカー部の仲間たちとの物語である。

 僕のサッカーの物語はずっと続いていく。高校サッカーがゴールではない。プロになって更にレベルの高い環境や指導に触れて、サッカーがもっとうまくなり、よりサッカーが好きになる。けど、僕の長いサッカー人生の中でも、この時以上に熱くなり、大切な仲間と一つの目標に向かってきた3年間を越えることは二度となかった。



 話は高校1年生の春に戻る。


 インターハイの地区予選を終え、5月末に始まる県大会に向けてチームは盛り上がっていた。

 僕は予選後からスタメンで使われることが増えた。組合せ抽選も終え、結構良い山に入った。インターハイ予選は32チームでのトーナメントである。5月の最終週の土日に1、2回戦があり、準々決勝からは6月の高校総体期間の3日間で3試合行われる。サッカーは試合数が多いため、前の週から始まり、そこで負けてしまうと、学校で行われる高校総体の壮行式にサッカー部は参加できないらしい。負けて他の部活のために壮行式に出る。そんな惨めな話はない。トーナメント的には2回戦の宮城県実業戦が山である。

 初戦の前の週にAチームだけが行く1泊2日の遠征に参加した。1年生では僕と浩太だけだった。そこの遠征でもスタメンだった僕は、本番もスタメンで使われることを確信した。その後メンバー発表があり、僕は予選と同様に16番だった。


 そして迎えた県大会初戦、僕はやはりスタメンだった。相手は古川実業で、そこまで強い相手ではない。結果は5―0で圧勝した。僕も5点目を決め、高校の公式戦初ゴールを記録した。


 翌日、シードの宮城県実業との試合である。古豪で、部員数も多い。応援にも熱が入っている。僕とマッチアップするのは1つ上の県選抜の選手らしい。やってやるぞ。と思い、試合に入ったが、この試合僕は何もできずに、後半の途中に交代させられてしまった……本当にこの試合は何もできず終わった。

 初めて高校の県トップクラスのチームや選手と当たって、若干ビビったのもあったが、そもそも実力で何もできなかった。

 監督からは「良い勉強だ」と言われた。試合はフリーキックから高2の県選抜の秀さんが合わせ、先制し、そのまま逃げ切った。ベンチも応援もシード校に勝ったことでかなり盛り上がったが、僕の心は浮かなかった。それを感じ取ったのか、秀さんが、


「涼真が次活躍する場を作ったんだから、今はチームの勝利を喜べ」


 と言ってくれた。秀さんは僕のことを気にかけ、かわいがってくれる先輩だった。僕は入学してからずっと秀さんといたし、尊敬していたので、素直に聞くことにした。


 これで県ベスト8。壮行式が行われ、クラスに戻ると、担任の先生から、


「サッカー部が土曜日の試合に勝って、準決勝まで行った場合、日曜はサッカー部の全校応援です」


 うちの高校では県のベスト4から全校応援になるらしい。僕は燃えた。全校応援で1年生の僕が活躍するなんて最高じゃん! 本気で思っていた。

 クラスメイトからも、絶対勝って応援させろとか言われたし、メールでも勝たなきゃ罰ゲーム! みたいなことが送られてきた。

 高校総体は土、日、月と行われる。準決勝が全校応援だと、日曜が登校日となるため、どこかで代休になる。お前らの狙いはそこだろ。と心の中で突っ込んだ。


 ベスト8からは県サッカー場と言って、芝のスタジアムで行われる。中学の時一度やっているが、高校は注目度が違う。観客席はほぼ満員だった。僕は前の試合で何もできなかったので、スタメンを外されるかな? と思ったが、なんとかスタメンで使われた。この日の相手は、名取南高校。毎年強いわけではないが、今年は良いらしく、ここまで勝ち上がってきた。


 試合が始まり、メンバー外の選手の応援が響き渡る。僕はFWとして何とか点を取りたいが、自分にまだ技術がないことは分かっている。とにかくチームの為に自分ができることをやろうと思っていた。

 と、いうのも前日のミーティングで3年生のキャプテンとマネージャーが、3年間の思い出と、この大会に賭ける意気込みを話していた。うちの学校は進学校のため、この大会で引退をする3年生も多く、全員でできる最後の大会らしい。今年の3年生は、あまりうまい代ではなく、監督にボロクソに言われながら頑張ってきた。それを最後の最後で実らせたいらしい。


 確かに、3年生のスタメンは3人と少ない。残りは6人が2年生で後は1年生の僕と浩太である。僕は3年生の為に頑張ろうと決めた。試合前に秀さんからも、


「お前が常に動き出しして、裏のスペースを狙ってくれると助かる」


 と言われたので、常にアクションを繰り返したし、守備も前から全力で追った。その甲斐もあってか、立ち上がりに相手のミスを僕が誘発し、秀さんがまた決めてくれた。

 みんなで応援席のところに駆け出す。秀さんを中心にみんなが抱き合い、歓喜の声をあげる。試合はその後うちが押し気味でゲームを進めるが、追加点が奪えない。しかし、こちらもしっかりと相手の攻撃を防ぐ。最後の時間でピンチがあったものの、なんとか守り切って試合終了。準決勝に駒を進めた。組合せにも恵まれたが、ベスト8の壁を越えたのである。

 秀さんや浩太と握手をし、大盛り上がりの観客席に挨拶をした。これで明日は全校応援だ。相手は前年度全国ベスト8の東光高校である。


 東光高校は私立高校で当然スポーツ推薦もある。宮城県では仙台学園と並ぶ伝統校で強豪校であるが、ここ数年は東光高校が県では頭一つ抜けている存在だ。部員数も100人くらいいる。

 試合前、ロッカールームからスタンドを見る。相手も全校応援なので、応援も半端ない。まずはこの雰囲気に圧倒される。

 高校3年間で何度も対戦することになるのだが、毎回すごい応援団だ。もちろん選手のレベルも高い。だが、全国に行くには東光と仙台学園は避けて通れない道なのだ。


 僕は今日もスタメンだった。ロッカールームで気合を入れ、整列をする。僕はまだ1年生だったが、この試合の意味は分かっていたつもりだ。公立が私立を倒して全国に行く。まさに中学時代思い描いていたことだ。早くもその目標が叶うかもしれない。

 もっとも、先輩たちは去年も一昨年も悔しい思いをしている。この試合に賭ける気持ちは僕より強いのかもしれない。しかも、うちはもう何十年も全国の舞台から遠ざかっている。『必ず勝つ』そう言って入場に向かう。審判団を先頭に入場する。カントリーロードが応援団によって歌われる。もの凄い迫力だ。相手と向かい合って握手をする。みんなごつい……そりゃあそうだ相手のスタメンはほぼ3年生なのだから。


 キックオフの笛が鳴る。

 試合開始から東光高校がそのパワーを武器に、どんどんうちのゴール前にロングボールを放り込んでくる。うちは東光高校のこの力任せのプレーと相性が悪い。うちの選手はどちらかと言うと技術で勝負するタイプが多い。だが、それを上回るくらいのフィジカルで来られると、局面ごとに分が悪くなってしまう。

 立ち上がりに浮足立ってしまい、開始5分で先制を許してしまう。そのまま押されっぱなしではなかったが、基本的に相手のペースで前半が終わってしまう。

 ハーフタイムで気合を入れ直し、後半に挑む。後半開始早々チャンスが訪れる。浩太からのスルーパスに僕が抜け出し、キーパーと1対1になる。僕は中総体でこのシュートを外して負けた時から、シュート練習を何百回と繰り返してきた。全てはこの1本のために……。

 僕は力任せではなく、キーパーをよく見て、空いていたニアサイドに流し込むようにシュートを打った。そのシュートが見事ゴールに吸い込まれ、1対1の同点に追いついた。僕は応援団の方に向かって走った。ガッツポーズをして喜ぼうと思ったが、味方の誰かになぎ倒され、そこにみんな重なってきた。


「よくやった!」

「ナイス!」


 と声が飛び交い、もみくちゃにされる。うちの応援団も大盛り上がりだ。

 そこからはうちのペースになった。ボールをうまく持てるようになり、シュートまでいくシーンも増えた。一度、秀さんのシュートがポストに当たったりもした。僕も全力で走りまくった。

 試合時間が残り10分を切ったあたりで、相手がカウンター気味で裏に抜け出した。慌てて戻るうちのディフェンス陣。なんとか攻撃を遅らせたが、ゴール前まで運ばれてしまう。僕は正直疲労がたまっていて、戻るのが遅れた。そんな時、ディフェンスリーダーの鳥谷さんが、


「涼真! バック! プレッシャー!」


 とコーチングした。僕の近くの選手が前を向いてシュートを打ちそうだった。コーチングに慌てて反応し、遅れてディフェンスに入ってしまったため、後ろから押す形となり、ファールを取られた。

 ゴール前の直接狙えそうな距離である。やばい……と思ったが、守るしかない。僕は壁に入った。死んでも避けない。と思っていたが、相手キッカーが蹴ったボールは、壁の上を抜けて、ゴール右隅に入ってしまった。喜ぶ相手チーム。1―2と勝ち越され、僕は下を向く。


(やってしまった……)


「切り替えろ!」

「まだ時間はある!」

「もう一度チャンス作るぞ!」


 先輩たちが声を出している。そうだ、まだ諦めるわけにはいかない。この失点を取り返さなきゃ。

 試合が再開し、数分間、僕はボールを追った。おそらく後半残り5分とアディショナルタイムになったあたりで、僕はボールを追いかけ、相手と交錯し、倒れた拍子に右足をつった。この激しい試合で1年生が走りまくれば、1試合もつわけがない。もちろん試合中はそんなこと考えてなかったわけだが……。

 僕は立てなくなった。ベンチが動き出し、そのまま担架で出されたと同時に交代となった。なんとかトレーナーの肩を借り、ベンチに戻ったが、戻りながら僕はもう泣いていた。

 ベンチ前で監督と握手をし、ベンチに座りユニフォームで顔を隠しながら号泣した。ベンチで先輩に、


「よくやったけど、まだ終わりじゃない。顔を上げろ!」


 と言われた。マネージャーの先輩がタオルと水を僕に渡して、


「信じよう」


 と言ってくれた。


「はい……」


 と僕は答え、涙を流しながら試合を見つめた。監督がピッチギリギリまで出て大声で指示を出している。応援団もまだまだ諦めてない。そして、ピッチの先輩達や浩太も手を叩いてチームを鼓舞している。


(なんとか、なんとか追いついてくれ……)


 その思いもむなしく、ピッチに試合終了のホイッスルが鳴る。

 僕は座っていたベンチから崩れ落ちて泣いた。決定的なファールをしてしまった責任、最後まで走れなかった悔しさ……。先輩の想いをダメにしてしまったとことから、ゴールを決めたことなんて頭から消えていた。

 ベンチの先輩に肩を抱きかかえられて、なんとか立つ。相手チームがベンチ前に挨拶に来る。そして、味方チームも挨拶に来る。


「ありがとうございました」


 キャプテンの声も震えていた。その後のみんなの挨拶もほとんど聞こえなかった。ベンチで浩太や2年生の先輩が泣いている。監督やコーチ達は、


「ナイスプレー! さあ、応援団に挨拶に行こう」


 と言っている。キャプテンも泣きながら、


「挨拶に行こう」


 とみんなを促す。僕はずっと泣いていた、泣き止むどころか、ひどくなる一方だ。3年生のレギュラーの翼さんが僕の所に来た。


「お前のおかげでここまでやれたよ。あと頼むな」


 翼さんは、下手な僕のことを褒めてくれる優しい先輩だった。その言葉で更に涙が止まらない。僕は、


「すみません、すみません……」


 しか言えない。翼さんは、そう言う僕の頭を抱きかかえる。そのままピッチを横切り、応援団に挨拶に行く。僕はずっと顔を上げられないまま、頭だけ下げる。応援団からは、大きな拍手が送られた。観客席からいろんな声をかけられた気がするが、全然耳には入らなかった。


 僕の最初の大会はこうして終わった……。


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