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高校編6

 高校で付き合った人 5人目 通っていた美容室のアシスタントの香澄(高3、12月~高校卒業後の5月)


 僕には高1の頃から通っている美容室がある。仙台駅前にある美容室で、結構お洒落なところである。最初は友達に紹介してもらって行ったのだが、そこからずっと行き続けている。カットしてくれる人は鈴木さんという男の人で、理想通りにいつも切ってくれる。シャンプーなどは別のアシスタントの人がやってくれているのだが、大抵若い女の人がやってくれる。

 高3の時くらいから、香澄さんと言う人が僕のシャンプーを担当してくれていた。普段はカットだけなので髪を乾かしている時くらいしか話す機会がない。毎回たわいもないことを話すくらいだった。


 部活を引退した後、何となく気分転換にパーマをかけることにした。その時、香澄さんがパーマをかけてくれたのだ。その時は時間があったので、結構いろいろ話した。地元が弘前で、僕の父親の実家が近いということや、高校の時はサッカー部のマネージャーをやっていて、選手権がテレビ放映された時、テレビで僕のこと見たなど、結構話が盛り上がった。僕の香澄さんのイメージは、お団子ヘアーで、かわいい大人の女性という感じであった。現に、年齢も22歳で、僕より4つ上だった。話も盛り上がったので、冗談っぽく、


「連絡先教えてくださいよー」


 と言ってみたら、


「ごめんね、お店では決まりで教えられないの。鈴木さんに怒られちゃうから」


 と、もっともな理由で断られた。


「じゃあ、外で会ったら教えてくれますか?」


『お店では』という言葉が引っかかったので、一応聞いてみたら、


「外で会えたらいいよー」


 と言ってくれた。とはいえ、百万人都市の仙台の街でたまたま会うなんて難しすぎる……。


 この時期の僕は、受験のため、駅前の予備校に通っていた。そして、9時くらいまで勉強してから帰っていた。帰り道は美容室の前を通る。毎日のことなので、もしかしたらいつか会えるかも。と思い、期待しながら帰っている自分がいた。

 僕は、家に帰ってしまうと勉強ができないタイプの人間のため、予備校の自習室には本当に毎日いた。

 

 2週間くらい9時ごろに自転車で通るが、店に電気がついていることが多い。美容師って大変なんだな……そんなことを考えながら、通り続けたある日、美容室から誰か出てきて、折り畳み自転車に乗っていく人影を、遠くから発見した。もしかしたらと思い、信号待ちで追いつき隣に並んでみる。やっぱり!


「香澄さん? こんばんは」


 声をかけてみる。香澄さんは、信号の方を見ており、ビクッとしてこっちを見る。


「ビックリした! 涼真君じゃん。どうしたのこんな遅く」

「予備校で勉強してた帰りなんです。偶然ですね」


 期待はしていたが、本当に偶然なので嘘はついてない。そのまま、帰りが同じ方向だったので、一緒に自転車をこいだ。


「じゃあ、私こっちだから」


 と言われ、別れようとした時、


「あ、ちょっと待って下さい!」


 と呼び止めた。


「前言ってた約束覚えてます? 連絡先聞いてもいいですか?」

「そういえば言ってたね(笑)うーん、どうしようかな……鈴木さんとかに言わない?」

「絶対言いません!」

「じゃあいいよ!」


 と言って、連絡先を教えてくれた。

 それからメールのやりとりを始めたが、あっちは毎日仕事で忙しく、一日数件しかやりとりができない。それでも、仕事後に必ず返事をくれたのは嬉しかった。


 ちょうど12月に入ったころだったので、クリスマスの予定を聞いてみたが、当然仕事だった。でも、クリスマス前の月曜日、仕事が休みの日は予定がないと言われたので、一緒に光のページェントを見に行くことになった。

 その日は勉強を早く切り上げ、17時くらいに待ち合わせをした。香澄さんは、まあまあ高そうなレストランに連れて行ってくれた。香澄さんとの食事は今までにない感覚だった。なかなか社会人の女の人となんて高校生が知り合うこともなかったので、新鮮だったというのもあるが、仕事への考え方や、美容師としての目標などを聞くのが今までにないことで楽しかった。

 僕も自分の目標や、サッカーへの考え方などを真剣に話してみた。高校に入ってからは、そうやって熱く女の人に語るのは恥ずかしさというか、自分をさらけ出したくないと思い、避けてきたが、香澄さんは何か分かってくれそうだったのでしゃべりやすかった。僕が正直に、


「今まであんまこうゆう話を女の人にしたことない」


 と言うと、


「それは涼真君が大人な考え方してるから、話がかみ合わなさそうな人との会話を無意識に避けてるんだよ」


 と言われた。年上の女の人に大人扱いされ、ちょっと嬉しかった。なんでも、美容室でいろんな人と話をしていると、浅い話をする人と、深い話までできそうな人が感覚で分かるらしい。

 食事を終え、会計の際、僕が支払おうとしたが、「社会人だから」と押し切られてしまった。なんか子ども扱いされている? と思いながら、そのまま外に出た。外はもう光のページェントが点灯していた。香澄さんは仙台に来て2年目で、イルミネーションに感動していた。仕事帰りに遠くに点灯していたのは見えていたが、光の中に入ったのは初めてらしい。去年は1年目で忙しすぎてそれどころじゃなかったようだ。

 そのため、仙台に来てから彼氏はいないらしい。香澄さんは当時の藤本美貴に似ていて、めちゃくちゃかわいく、彼氏が2年近くもいないのが不思議すぎた。

 歩いている時、人混みということもあり、距離が近くなった。これはいけるかな? と思い、手を繋いでみた。香澄さんは何も言わず、僕の手を握り返してくれた。そうして、しばらく歩いた。手は繋いでいるが、僕は平然を装って話している。香澄さんも普通だ。僕も1月のセンター試験に向けて勉強しないといけないし、香澄さんも仕事忙しいから、これからなかなか会う時間がない。次に会えるのはいつか分からないから、今言ってみるか。


「まだ、2人であんま会ったことないけど、付き合ってくれません?」

「年上だけどいいの?」

「逆に年下で大丈夫ですか?」

「いいよ。涼真君なら」


 あっさりOKをもらえた。


「私、これから年末年始まで仕事で、年末年始は実家に帰ることになってるから、次会うのは、涼真君の試験が終わってからかな」

「そんな会えないんですか?」

「そこは頑張ってよ、受験生(笑)」

「分かりました。オレは1月のセンター試験終わったら、二次はサッカーの実技なんで勉強しなくても大丈夫なんです。だからセンター試験終わったら会いに来ますね」

「うん。何か、話しててドキドキしてたんだ。付き合おうって言ってくれて嬉しかった」

「同じです(笑)」

「あと、付き合うんだから敬語は辞めてね(笑)」

「分かった。香澄さんは美容室で話してる時もタメ口だったから、絶対子ども扱いされてると思ってた」

「そうだっけ? それくらい話しやすかったってことだよ。それと、香澄でいいから」

「いいの?」

「その方が嬉しいよ」


 こうして、僕は香澄と付き合うことになった。受験前に余裕なものである。まあ、あまり本気で受験のことを考えていなかったというのもあるが……。

 センター試験が終わって、勉強のプレッシャーから解放された僕は、香澄に連絡をした。お疲れ様会をしてくれるということで、香澄の家に行くことになった。僕は初めて一人暮らしの女の人の家に行った。

 最初に感じたのは良い匂いがするということだった(笑)ハンバーグを作ってくれ、2人で食べた。その日は泊まっていった。朝起きると朝食を作っていた。香澄は合鍵を僕にくれ、先に仕事に向かっていった。僕は部屋を出て学校に向かった。


 うちの高校は当時、卒業式は派手な格好で出るような伝統があった。そのため、僕は卒業式前日に髪を染めた。いつもの美容室には当然香澄がいて、香澄に染めてもらった。付き合って最初の美容室なので、なんかお互い気まずかった(笑)


 無事卒業したのはいいが、僕は浪人生になってしまったので、予備校に通った。その後も香澄との関係は変わらず、家に泊まりに行ったり、香澄の休みの日には遊びに行ったりと、普通に付き合っていた。


 その後、僕がプロサッカー選手を本気で目指し始め、香澄も3年目になりアシスタントからスタイリストとして頑張っていた。僕等は夏前くらいに、お互いの将来について話し合った。その結果、別れてそれぞれの道を頑張ろうということになった。おそらく、このまま付き合っていても、いつか離れることになるのは分かっていた。2人ともどちらかに合わせたり、一方に着いていったりする人生を送ることはできない。香澄らしいと言えば香澄らしい考えだった。僕は別れる前に、香澄に、


「髪を切って?」


 とお願いした。美容室の担当は変わらず鈴木さんだったので、香澄に髪を切ってもらったことはなかったのである。

 香澄は将来、独立して自分の店を開きたいと言っていた。だからなのか、


「自分の店ができるまで涼真君の髪を切る楽しみはとっておく、プロサッカー選手の髪を切らせてね」


と言われ、いずれ髪を切る約束をして別れた。



 そこから、2年後……僕はアルビレオン新潟でプロサッカー選手になっていた。夏のオフで久しぶりに地元に帰り、いつもの美容室に行った。担当の鈴木さんが変わらず迎えてくれる。


「風見君立派になったねー」

「そんなことないですよ。高校から何も変わらないです」

「頻度は減っちゃったけど、帰って来る度に来てくれて嬉しいよ」

「鈴木さんが僕の髪のこと一番知ってますからね」


 というような会話をしながら気になったことがある。香澄が見当たらない。前回、冬に来た時はいたのにだ。


「香澄さんって今日休みですか?」

「あー、香澄さんは、4月で退職したよ。同業者と結婚して、自分達でお店出すんだってさ」

「そうだったんですね。それはすごいですね」


 僕は素直に嬉しかった。結婚したというのは若干気になったが、それ以上に感動が上回った。香澄とは何の後腐れもなかったが、僕の方もいろいろあり、全く連絡していなかった。久しぶりに香澄のアドレスを開き、メールしてみた。


『今日、お店で聞いたんだけど、自分のお店出すんだって? 結婚もしたんでしょ? おめでとう』


 エラーになって返ってくるかなと思ったが、無事送ることができた。しばらくして返事が返ってきた。


『久しぶり! 元気だった? 涼真君の活躍雑誌とかネットで見るよ。頑張ってるよね。鈴木さんに聞いたと思うけど、同じ美容室の人と付き合って、結婚して一緒にお店出そうって決めたの。来月オープンするんだ』

『全然活躍なんかしてないよ。まだまだ足りないこと多くて。もう来週には新潟に帰るから、オープンの時には行けないけど、冬に帰って来た時に行ってみるよ。髪切ってくれる約束したもんな』

『私も覚えてたよ。じゃあ、お店オープンしたら教えるね』


 そんなやり取りをした。

 そして、冬のオフに帰省し、教えてもらった店に電話してみた。香澄が出たが、最初、何も言わず普通のお客さんとして予約をした。最後に名前と連絡先を聞かれたので、


「風見涼真です。番号は080―●●●●―●●●●です」


 と答えたら、


「涼真君!? 声似てるなと思ったけど、まさかなって思ったよ。わざわざお店に電話してくれたんだね。ねえ、予約夕方って言ってたけど、この日夜は空いてない?」

「夜でも別にいいよ。特にこの日はやることもないし」

「OK! じゃあ、19時にお店来て」


 言われるがまま、当日19時に向かった。夫婦2人でやっているようで、そんな大きな店ではないが、お洒落でキレイな店だった。中に入ると、スラっとした細身の男性がお辞儀をして迎えてくれた。


「風見涼真様、本日はありがとうございます。こちらへどうぞ」


 めちゃくちゃ丁寧に案内された。周りには他のお客さんはいないようだ。案内され、鏡の前の席に座ると、その男の人が、


「では、ごゆっくりどうぞ」


 と言って奥へいなくなった。そうすると、その男の人と入れ替わるように、香澄が奥から出てきた。


「いらっしゃいませ」

「なんかすごい丁寧に出迎えられたんだけど」

「今日は特別だよ。本当は営業時間終わってるんだけど、涼真君の髪はちゃんと切りたくて。さっきの男の人が店長で、私の旦那なんだけど、全部知ってるから大丈夫。約束通りプロサッカー選手の髪を切らせてね」


 全部知っていて、あんな大人な対応を取れるなんてすごいと思ったが、それは口には出さなかった。


「約束したね。なんか恥ずかしいけど、よろしく」

「了解。今日はカットとパーマでよろしいですか?」

「お願いします。お任せで」

「やっと、切れる。実は昔から涼真君の髪やってみたかったんだよね。鈴木さんがうらやましかった(笑)」

「そうだったの? 全然知らなかったよ」

「かっこよくなって新シーズン迎えてね」

「でも、香澄はすごいね。本当に自分の店持っちゃたじゃん」

「私一人じゃ無理だったかな。今の店長がいろいろやってくれました。涼真君だって、本当にサッカー選手になったじゃん」

「オレなんて全然だよ。試合にも全然出れてないし」

「でも、こうやって名前載ってるの見てるよ」


 そう言って、Jリーグの選手名鑑を出してきた。


「美容室にサッカー雑誌は似合わないだろ(笑)」

「つい買ってしまった(笑)」

「オレ来シーズンから海外のチームに行くんだ。もっと出場機会増やしたいのと、精神的にも成長したくて」

「そうなの? どこの国?」

「シンガポール。年明け出発して1シーズンは過ごすよ」

「そっか。遠くからだけど応援してる。今日は新たなスタートを幸先よくきれるように全力でやらせてもらいます」

「旦那さんもすごい良い人そうだし、幸せそうでよかった」

「まあね。涼真君はどうなの?」

「今付き合ってる人とかはいないかな。たぶん結婚もまだまだ(笑)」

「大丈夫、涼真君は素敵な人だから、きっと涼真君を一番に好きでいてくれて、涼真君も心から好きになれる人が現れるよ」

「本気で好きになれた人いたんだよね」

「そうなの? 今は好きじゃないの?」

「今でもその人のこと好きだよ」


 香澄に髪を切ってもらうのは、これが最初で最後になったが、切ってもらってよかった。こうして、僕は海外挑戦に向かったのである。



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