高校編4
高校で付き合った人 3人目 同じ高校の先輩の綾さん(高2、9月~高3、5月)
僕は高校時代、3年間連続で体育委員だった。体育委員の一番の仕事は体育祭の企画・運営である。6月の高校総体明けくらいから、7月の体育祭に向け準備が始まる。
綾さんは1つ上の学年で、女子バスケ部のマネージャーをしていた。そして体育委員で一緒になり、その時から話すようになった。それまでは、顔と存在は知っていたが、話した記憶はなかった。
体育委員での第一印象は『めっちゃ馴れ馴れしい』だった。僕のことをいきなり呼び捨てにし、「涼真、これあっちに運んで」とか「はい、じゃあこれは涼真がやってね」というように、ほぼ初めて関わったのに、めちゃくちゃ指示は出してくるし、距離をつめてくる。見た目は小動物みたいなかわいさがあるのに、性格はハキハキしていて仕事も熱心だ。そんな感じなので、別に色々言われても嫌な感じは全然しなかった。
体育祭が終わってからも、廊下や体育館で会うと、「元気か?」とか「最近どうよ?」みたいな、たわいもないことを話しかけてくる。好きになったとかではなかったが、ちょっと気になったので、祐佳に聞いてみた。
「最近綾さんにめっちゃ絡まれるんだけど、あの人っていつでもあんな感じなの?」
「基本的には誰にでもフレンドリーな人だからね。でも、涼真のことは好きみたいだよ。この間も『涼真がさー』みたいな話してたよ。私も友達ってことでいろいろ聞かれるし。でも、恋愛感情かは分からないな。綾さんってあまりにも堂々と話すから、好きとかじゃなくて、ほんとにかわいがってる後輩として見てる可能性もあるよね」
「なるほどねー、よく考えたら連絡先も知らないし、聞かれたことないから、そうゆうことなのかな」
「ちなみに巴さんは将大君の事が気になるらしくて、今度連絡先聞いてアプローチするって言ってたよ」
将大は理数科でサッカー部である。僕の高校での親友だ。巴さんは女子バスケ部の先輩だった。
「マジか。そっちの方が衝撃」
こんな話をした数日後の夜、僕が家にいたら将大からメールが来た。
『今週の土曜日の練習後、暇?』
『特に予定はない。街中ブラブラして帰ろうと思ってたくらい』
『バスケ部の巴さんと遊ぶことになったんだけど、着いてきてくんない? あっちは綾さん誘うって言ってた』
『お前、今巴さんといい感じらしいじゃん。協力してやるからおごれよ』
『分かったよ。じゃあ土曜日部活終わったらチャリで街中な』
『オッケー』
こんなやりとりをした。
そして、いざ土曜日。4人で昼ご飯を食べ、僕はひたすら将大の良いところを話してやった。食べ終わる頃、
「私たち、用事あることにして2人にしてあげよう」
と綾さんが言った。僕もそれに乗った。レストランから出て、
「私たち、買物あるからここで解散ね」
と分かりやすい嘘をついた。将大と巴さんもお互い会うのに僕等をダシに使ったわけだから、その方がいいに決まっているのだが、恥ずかしがってか、「なんで?」「もうちょい一緒に遊ぼうよ」と言ってきた。しかし、半ば強引に2人を送り出した。別々になったところで綾さんが、
「あの2人付き合いそうだよね。涼真が暇なら、これから少し時間潰さない?」
「いいですよ。あの2人ってそこまでいってるんですか? 将大なんてかっこいいくせに奥手だから、彼女とかいたことないらしいですよ」
「巴も彼氏いたことないらしいよ。初々しくていいね」
「綾さんは彼氏いないんですか?」
「お? どうした急に? 私のこと狙ってんのか? だめでしょ~好きな人いるくせに」
「好きな人? どうゆうことです?」
「祐佳が言ってたよ。涼真は中学の頃の彼女がずっと忘れられないって。だから、他の人と付き合ったりしてるけど、本当はその人の事が好きなんだって」
あいつ……余計なことを……遥香のことは忘れているつもりだけど、あいつはそうゆう風に思ってるんだな。実際僕自身も分からないでいたし、何て言おうか迷って少し黙ってしまった。
「それでも良いって言ったらどうする?」
「え?」
「好きな人いても付き合ってって言ったら涼真はどうする?」
「いやいや、そんなんで付き合えるわけないじゃないですか。今はサッカーに集中したいから、彼女は作るけど、本気で恋愛しないみたいなことは決めてるんですよ。でも、それを知られてる人と付き合うのは何か後ろめたいっていうか……」
「隠してる方がひどいと思うけどね(笑)」
「確かに……」
「私がこれ言わなかったら、どうせ私の事落としにきてたんでしょ? 涼真は手も足も速いって有名だからね」
きっとそれを言い出したやつは、上手いこと言っているつもりなのだろうが、上手いと思いたくない……。
「手は余計です。でも、オレ本当にそんな感じですよ。それでもいいんですか?」
「まあ、私が変えられる可能性も0じゃないじゃん。重く考えずに付き合ってみよう!」
「そこまで言うならいいですけど……」
こうして付き合うことになった。
綾さんは付き合っている時も、その明るい性格は変わらず、サバサバしていた。僕は、そのあまりベタベタしてこない付き合い方がちょうどよかった。
綾さんは受験生ということもあり、僕もあまり負担にならないようにした。それでも学校で話したり、一緒に帰ったり、少し息抜きで遊んだりはした。年上だからか、どんどん引っ張ってくれ、話もよく振ってくれたので、居心地は良かった。ちなみに将大と巴さんも無事付き合うことになったらしい。
その後、綾さんは隣の県の国立大学に合格した。受験の追い込みの時期はほとんど会っていなく、合格が決まった次の日に久しぶりに会った。
お祝いをしてあげようと思い、簡単なプレゼントとイタリアンの店を予約して行った。ご飯を食べ終わると、珍しく綾さんの方からホテルに誘ってきて、その日はものすごく求められた。受験のストレスだったのか、何なのかは分からないが、ビックリしたことを覚えている。
そして、綾さんの代の卒業式の日、僕は高熱を出した……。学校なんて行くのは無理なほどの熱であったが、綾さんやお世話になったサッカー部の先輩の晴れ姿を見るために、這いながら卒業式に出た。
式中は倒れそうなくらい具合が悪かった。なんとかサッカー部の先輩を見送り、綾さんと写真を撮った。その後、一緒に帰る予定だったが、
「さすがに帰りな。今日はクラスで打ち上げもあるし、友達と帰るよ」
と言われた。実はこの卒業式の日に綾さんは僕と別れるつもりだったらしいが、僕があまりにも具合が悪そうだったため、辞めたらしい。
その後、綾さんは大学生になり一人暮らしを始めた。ゴールデンウィークに帰って来た時、会って話をした。僕は遠距離だし、お互い気持ちがなくなっているのが分かったため、別れることになりそうだなと思っていた。案の定、綾さんは僕に別れを告げた。理由はやはり環境の変化らしい。僕の中では長く付き合っていたこともあり、情はあったのだが、去る者を追ってもしょうがないと思い、あっさり別れを了承した。
この時は、綾さんでこんな感じなら、これからどうやって人のことを好きになればいいのだろう、そもそも本気で好きな人ができるのか……と思っていた。




