中学編14
3月になり、高校入試前日。剛と祐佳と久しぶりに3人で会い、頑張ろうと言い合った。祐佳とは試験会場が同じなので、一緒に行くことにした。
そして入試本番を迎えた。祐佳と会場に着き、2人で座った。同じ学校なので席が前後だった。うちの学校から仙台広陵を受けるのは僕と祐佳だけだ。学区外ということもあり、僕等の地元からは結構遠い。学力だけ見れば似たような学校は近くにあるため、部活で来るという目的がなければうちの中学校からはなかなか受験しない高校だ。
とりあえず5教科全て終え、帰宅する。祐佳は結構できたらしい。僕は数学でミスり、正直やばい気がした……。
帰って母親に、落ちたかもしれないと伝えた。母親は、
「受かるか落ちるかどっちかなんだから、確率は50%。だから大丈夫!」
と励ましてくれたが、僕は完全に落ちた気でいた。滑り止めの私立は受かっていたが、別に行きたくなかったため、完全に現実逃避に走った。
「落ちたら海外に留学する」
と、ずっと家で言っていたが、誰からも本気にされなかった。そりゃあそうだ。
そんな気持ちのまま、合格発表の前に卒業式があった。正直、不安しかなかったため、全く覚えていない。進路が決まってない状況でする卒業式を楽しめるやつがいるのか? と思った。それでも一応写真を撮り、剛と祐佳と帰った気がするが、何の記憶もない。夏希にボタンをあげたのは何となく覚えている。
そして、いよいよ合格発表の日を迎えた。祐佳は自己採点をしてみて、余裕だったらしい。僕も自己採点してみたが、正直微妙だ……こんな時にやらかすなんて、日ごろの行いのせいだろうか……。
合格発表は僕と、僕の母親と、祐佳の3人で見に行った。向かっている最中、夏希から「受かったー」とメールが来た。僕は自分の結果が出るまでは気が気でなかったため、返事は後にしようと、携帯を鞄にしまった。
緊張しながら学校に到着する。僕の受験番号は93で、祐佳は94だ。何の都市伝説なのか、祐佳が途中で、
「3の倍数の受験番号は受かるらしいから大丈夫!」
と意味不明な励ましをしてくれた。そしたら祐佳落ちるじゃん……。
いざ、受験番号が張り出されている昇降口に行く、もうすでに周りでは歓喜の声を上げている受験生が多くいる。友達と喜んでいたり、親と泣き合っている受験生もいる。その一方、落ち込んで帰っている受験生ともすれ違う……もうどうにでもなれ! 張り出された番号を見た。探していると、祐佳が先に声をあげた。
「あったー! 涼真、あったよ!」
「え? 本当?」
「本当! ほら!」
僕の目にも93と94の番号がうつった。
「よかった……」
僕は喜びより、どちらかというと安心した。ふと横を見ると、なぜか祐佳とうちの母親が泣いて抱き合っている。
「何泣いてんのさ?」
と僕が言うと、
「だって涼真が落ちたってずっと言ってるから……」
「母さんもダメだと思った……」
心配させてすみません。でも、これでやっと高校サッカーのスタートラインに立てる。
帰り道、夏希に合格の報告メールを送った。夏希は今度お祝いしようね。と言ってきた。
祐佳のもとには剛からメールが入り、剛も受かったらしい。これで、みんな合格である。3人共合格したら、うちの父親が回らない寿司に連れて行ってくれると言っていた。
そのため、すぐ剛と合流し、仙台駅前の寿司屋でお祝いした。たぶんめちゃくちゃ高い店だ。だが、みんな合格の嬉しさから全力で食べた。いくらかかったか知らないけど、ごちそうさまでした。
次の日、中学校に合格を報告した。紀子先生も菅原先生も喜んでくれた。紀子先生からは、
「大変だったけど、涼真の担任で良かった。何かあったらいつでも来なさい」
と言われ、菅原先生からは、
「後輩になるな。サッカー部を頼むぞ」
と言われた。卒業式ではろくに感謝の気持ちも伝えられなかったため、自分なりの最大限の感謝の気持ちを伝えた。
中学の先生達には本当に迷惑をかけた。担任だった聡子先生、高木先生、紀子先生、顧問の菅原先生、こんな面倒な悪ガキで申し訳ない。でも、本気で心配してくれ、応援してくれてありがとう。
そして、夏希と会い、お祝いでカラオケに行った。
カラオケから帰ると、剛と祐佳が僕の部屋にいた。携帯持ってるんだからメールくらいしろよ……と思った。部屋に入るなりいきなり剛が、
「夏希と付き合ってんの?」
と聞いてきた。
「まあね」
きっと受験が終わったこのタイミングで聞いてくるかな。とは思っていた。でも、僕が答えると、剛も祐佳も、「涼真がいいならいいんじゃない」と言ってきた。何となく言いたいことは分かる。でも、どうしようもない……。
「遥香も音楽科の学校に受かったらしいよ。一応報告ね」
祐佳が言ってきた。僕は複雑な気持ちもあったが、嬉しかった。
「オレが受かったって祐佳から伝えておいて」
「それでいいのね?」
「いいよ」
「おめでとうって連絡すればいいじゃん。2人とも頑固なんだから」
「なんかどんな話すればいいか分からん」
「お前らってか、うちらってそんな関係じゃないじゃん」
剛がボソッと言った。言いたいことは分かるが、本当にどうすればいいか分からなかった。好きな気持ちがなくなったわけじゃない。だからこそ以前のように仲良しの幼馴染の関係に戻れるのか。それで満足できるのか不安だった。
「それより春休みどうする? どっか行かない?」
僕は話を反らしてそう言った。
「高校の準備に街に買い物でも行くか」
剛が乗ってきた。
「私、服欲しい!」
そういえば仙台広陵は私服の学校である。僕と祐佳は服を買わなければいけない。
「じゃあ明日早速行こう。11時集合で向かって、駅前で昼食べて買物しよう」
僕が言った。その後解散となり、僕はちょっと遥香のことを考えて寝た。
次の日の朝、バタバタと階段を駆け上がってくる音がする。
「涼真! 電話!」
母親が叫ぶ。まだ9時じゃん……休みの日くらいもっと寝かせてくれ。誰だこんな朝に……。
「広陵高校のサッカー部の先生からだってよ!」
僕は目が覚めた。ビックリして下に行き、電話に出る。
「もしもし……」
「風見涼真君ですか? 合格おめでとうございます。仙台広陵高校サッカー部顧問の白井です。もしよかったら、春休みのうちからサッカー部の練習に参加しませんか?」
僕は驚いたが、チャンスだと思い嬉しかった。
「ぜひ行きたいです」
「では、明日の1時に広陵高校のグラウンドに来てください。よろしくお願いします」
「ありがとうございます」
「では待ってます」
電話が終わり、内容を説明した。母親は、
「良かったわね。今日剛たちと買物に行くんでしょ? サッカー用具も足りないの買ってきなさい」
とお金をくれた。そして、剛と祐佳が家に来て、朝の出来事を話した。
その後、ご飯を食べて買物に行き、入学の準備をした。祐佳は自分も練習参加したいから自分から連絡してみようかなと言っていた。剛はユースの練習に参加する予定になっていた。
みんな高校生活に向けて着々と進んでいっているのである。楽しみではあった。だが、きっとこれから、もっと忙しくなるし、環境も変わる。剛は高校も違う。遥香はもう近くにいない。ずっと変わらないと思っていた関係が、もしかしたらこうやって少しずつ変わっていってしまうのかな……と思うと少し寂しかった。
そして翌日、僕は電車とバスを乗り継いで広陵高校まで向かった。緊張してグラウンドに向かうと、もうすでに選手が円になって集合していた。人数も多く、強豪校独特の雰囲気もあったため、少し圧倒されたが、これからここでやれる楽しみも感じていた。
グラウンドの外で立っている僕に気が付いた女子マネージャーが、こっちに歩いてきた。
「新一年生ですか?」
と聞かれたので、
「あ、はいそうです」
と答えた。マネージャーに荷物置き場に案内され、荷物を置き、着替えてグラウンドに向かった。選手の円の中に入れられ、自己紹介をすることになった。
「高峰中から来た、風見涼真です。ポジションはFWです。よろしくお願いします!」
と、まあ普通の挨拶をした。全員で拍手をし、盛り上げてくれた。もの凄く良い雰囲気のチームなのがビシビシと伝わってきた。
練習が始まり、中学とのレベルの違いや、練習に対する意識の違いに若干戸惑ったものの、感想としては、やれそうだな。というものだった。先輩方も、積極的に話しかけてくれた。サッカーに真剣に取り組めそうな環境で嬉しかった。
練習が終わり、少しコーチと話をした。監督がいなかったのだが、それは、今日県選抜の活動があって、そっちに行っているということ。広陵からも2人県選抜が出ていて、その選手は今日そっちの練習に行っているということ、推薦で合格している新1年生が2人いて、すでに練習に参加しているが、今日は2人とも用事で来られていないということ。インターハイの地区予選が4月から始まり、1年生でも試合に出るチャンスはあるので、春休み中の練習に毎日参加したほうがいい。ということを聞いた。
僕は、試合に出られるチャンスがあると聞いてやる気が出た。毎日参加して、4月の大会から出たいと思った。
次の日も僕は練習に参加するため、学校に行った。前日教えてもらった荷物置き場に行き準備をしていると、声をかけられた。
「新1年生?」
そこには僕よりは若干小さいが、色黒のいかにもサッカーやってます。みたいな雰囲気の男がいた。
「そうだよ」
「オレも新1年生。平井浩太って言います。よろしく」
「オレは風見涼真。よろしく」
と自己紹介したが、平井浩太といえば小学校の時の県大会MVPの選手でベガウスジュニアユースにいた選手だった。
広陵に来たのか。と思った。そして、時間ギリギリにもう一人新1年生が来て、そいつとも自己紹介をした。そいつは拓也と言って、県大会ベスト4に入った蒲沢中のキャプテンだった。
さすがに良い選手来ているんだなと思った。
その日は監督も来ていて、昨日よりさらに厳しい雰囲気で練習が進められた。練習後に新1年生の3人が呼ばれ、春休みの遠征の案内の紙を渡される。遠征に参加してもらいたいから、帰って親と相談するように。ということであった。
家に帰って、さっそく親に遠征に行きたいという話をしたところ、快く参加を認めてくれた。そして剛に電話をし、浩太が広陵にいることを伝えた。
「小学校の時は化け物だったけど、中学であんまり伸びてないはずだわ。何回かうちとベガウスで試合したけど、うちの方が強かったし、試合には出てたけど、オレの方が中学ではうまかったね」
自信満々に言っていた。まあ、でもそれが事実なのだろう。中学でも活躍していればそのままユースにあがるはずだ。
そして、3月の後半、広陵高校はフェスティバルに参加するために茨城に遠征に向かった。バスの中では僕は先輩に囲まれて質問攻めにされていた。内容はサッカーの話ではなく、女の子の話だった。彼女はいるのか、初体験は済ませたのか。など、いかにも高校生の先輩が後輩に聞くような会話だ。
突然だが、僕は夏希とこの時点ですでに別れていた。春休みに高校の練習に参加し始めた頃から、会う時間がなくなり、夏希の方からあっさり別れを告げてきた。僕もサッカーのことで頭がいっぱいになっていたこともあり、すんなり受け入れ、何も感じなかった。別れの理由すら覚えていない。
僕が、
「彼女とは最近別れたばかりで、経験人数は2人です」
と伝えたら。驚かれた。基本的に僕に話しかけてきたのは一つ上の学年の先輩達なのだが、初体験を済ませている人はほとんどいないらしく、根掘り葉掘り聞いてきた。男の世界って感じだったが、中学では先輩とこんなに仲良く話すことがなかったので、楽しかった。僕が入る理数科の先輩もいて、いろいろ聞いてみた。理数科は1クラスしかないから、3年間クラス替えがないこと。クラスメイトは変わり者が多い事。女子が少ない事。などを聞いた。遠征では先輩方や、推薦の同級生2人と仲良くなることができた。みんないい人である。
サッカーの面でも、最初は当然Bチームでのスタートとなったが、遠征最終日にAチームに呼ばれ、Aのデビュー戦でゴールを決めることができた。そのゴールの時は新入生の僕のゴールをみんなで祝福してくれ、これが全国を目指す強豪校の雰囲気なのだなと感じることができた。




