中学編13
家に帰って、遥香からの手紙を読んで僕は唖然とした。手紙には、僕への感謝の言葉、励ましの言葉、そして最後に別れの言葉が書いてあった。なんでも、遠距離でお互いすれ違ったり、やるべきことができなくなるのが耐えられないらしい。淡々と書いていたが、きっと僕のことを想って言ってくれたこと、遥香の決意は変わらないことが痛いほど分かったので、メールも電話もしなかった。
この引っ越しを機に、僕と遥香は別れ、音信不通になった……。
そのことは当然、祐佳と剛にも言った。2人とも、
「それでいいの?」
と言ってくれたが、もうどうしようもないし、何より2人も遥香の気持ちが分かるようだった。それ以来、2人は遥香とメールや電話をしていたようだが、僕の前では遥香の話はそんなにしなくなった。
その後、夏休み中に各部活から選抜される駅伝部に選ばれ、持久力強化をした。ひたすら走っていたら僕は仙台市で区間賞をとり、チームとしても県大会に出てしまった。
また、夏休み中に僕は死にかけた。僕、剛、翔平、俊一で遊んでいた時に、学校の裏の田んぼに原チャが一台乗り捨てられていた。盗まれたものなのか何なのか分からなかったが、鍵がついていて、エンジンがかかる状態だった。その原チャは数日間、僕等のおもちゃになった。近くの田んぼ道を交代で走らせていたのだ。僕は初めて原チャを運転したが。勢いよく発進しすぎて、スピードにテンパって田んぼに突っ込んだ。ちなみに死にかけたのはこのことではない。
少し原チャに慣れてきて、この原チャで海に行こうということになった。うちの中学は海の近くで、数キロ行けば海岸がある。ただ、遊泳は禁止されている。スラムダンクのように4人乗りを試みたが、さすがに無理で、考えたのが、僕が運転、剛が後ろに乗る。比較的小柄な俊一が足を置くところに体育座り、翔平がチャリに乗り、僕の腕を持つ。この形で海まで公道を爆走した。仙台でも比較的田舎で、そんなに交通量がないとはいえ、よく捕まらなかったと思う。
海に着いたら、原チャで盛り上がったテンションのまま海に飛び込んだ。水をかけあったり、海の中で鬼ごっこをしていた。僕は逃げてちょっと砂浜から離れたところに来てしまった。戻ろうかなと思ったが、いくら泳いでも戻れない……みんなは砂浜の近くにいる。僕の異変に気付き、みんなで僕に大声で呼びかける。僕は当然呼びかけに答えることができず、とにかく必死で泳ぐ。泳いでも泳いでも陸が近くならないどころか、どんどん横に流されていく。みんなも走って必死で追いかけるがどうにもならない。僕は疲れてきたし、もうだめだと思い、ただただ浮かんでいた。このまま浮かんで、あいつらが助けを呼ぶのを待つしかないと思った。そして、死んだらどうしようと本気で思った。だが、流された先が運よく防波堤だった。
追いかけてきたみんなと、たまたまそこにいた釣り人に救出された。九死に一生を得て何とか陸に上がったら、足がめちゃくちゃ腫れていた。クラゲに刺されていたのだ。僕等は何とかそのまま帰ったが、近くにいた人の通報により大騒ぎになり、身元がバレ、様々な人に死ぬほど怒られた。僕は父親に何発もぶん殴られた。死にかけるわ、騒ぎになるわで、散々な出来事だった。
夏休み後は、特に何もない毎日を送っていた。部活はもちろんない。最上級生になり、ヤンキーも卒業してしまったため、学校生活も平和だった。ただ、担任の紀子先生には迷惑をかけまくった。学校にあまり行く意味を見出せなくなったので、当然遅刻はするわ、授業はサボるわで散々だった。
新卒の先生と言うこともあり、一生懸命指導してくれようとしたが、僕はそれがうっとうしかった。一度授業中に抜け出そうとしたら止められ、振り切って逃げたら付いてきたので、しょうがないから男子トイレに逃げたら、トイレの前で泣かれてしまった。祐佳に、「さすがにかわいそうだから辞めな」と言われ、心配かけない程度に真面目に学校に行くことにした。教員生活最初のクラスに僕みたいなのがいてすみません。と、今では思う。
そして、担任との面談の結果、志望校を当初の予定通り、仙台広陵に決めた。紀子先生は僕が進学校でサッカーがしたいというのを応援してくれた。
ただ、実は広陵は学区外にあり、普通科は受けることができず、より偏差値が高く、県全体から受験ができる理数科を受けることになった。僕としては数学が得意だったし、別にどっちでも良かった。
剛はクラブチームで全国大会に出場した。高校はユースに上がるため、そのユースの練習場が近く、自分でも入れそうな公立ということで、塩川高校を第一志望にした。結構なヤンキー校である。
祐佳は、成績が良く、剛と同じ学校というのは選択肢になかった。進学校の女子校やバスケで私立ということも考えたらしいが、いろいろ考えて女子バスケが強い公立にすることにしたらしい。それが何と仙台広陵で、僕と祐佳は同じ高校を目指すことになった。
そして季節は冬を迎えた……。
僕は特に塾などに行かずに勉強していた。剛は塩川高校でさえも受かるかどうか微妙なラインだったので、僕は週に1、2回ほど剛に勉強を教えに行っていた。
志望校が同じになったので、祐佳とも一緒に勉強をした。僕と祐佳は秋の模試でA判定が出ていたため、普通にやっていれば受かると思っていた。ただ、親に「冬休みくらいは塾の講習に行ったら?」とすすめられた。まあ、みんな勉強で今年はクリスマスって雰囲気でもなかったので、冬期講習だけ塾に行くことにした。
いざ冬休みに入り、塾に行った。近所の塾に一人で行ったのだが、そこは隣の中学の学区内で、知り合いがいなかった。まあ一週間くらいだし、一人で勉強に集中するか。と思い、教室の前の方の席に座った。なんか後ろは隣の中学の生徒がグループになって話していたので行きにくかったのである。座ってよく見てみると、うちの中学の生徒もいるが、特に話したことのない人ばかりだった。
(明日は時間ギリギリに来よう……)
と思っていたら、入口から夏希が入ってきた。夏希は中2の時同じクラスで、たまに一緒に遊んだりしていたので、結構仲が良い。
中3になってからも修学旅行とかで一緒に話したり遊んだりしていた。違うクラスということや、受験シーズンになったということもあり、最近はあまり話してなかった。
「夏希―」
「あれ涼真じゃん?」
そう言って僕の隣に座った。
「夏希と塾で会うなんてめっちゃ意外(笑)」
「うちだって高校行きたいから当然でしょ」
「何? この塾ずっと通ってんの?」
「いやー、冬期講習だけだよ。さすがに親が行けって言うからさ」
「オレも全く同じ。お前さ、どこ受けるの?」
「うちは国府。涼真は広陵でしょ?」
「そうだよ。何で知ってるの?」
「まあいろいろね~」
「なんだそれ。でも知り合いいてよかったわ。後ろの中学のグループがうざくてイライラしてたよ」
「まさか塾でキレたりしないよね?」
「さすがにない(笑)」
「だよね(笑)」
2人で笑い合った。授業が始まり、塾なので当然みんな真面目に授業を受ける。みんな公立志望なので、公立の試験の過去問を解きながら対策するのがこの講習の目的だ。
授業が終わって、夏希と帰ることになった。外はもう真っ暗だった。
「涼真自転車でしょ? ケツ乗せて」
「女子がケツとか言うなよ。なんでお前チャリじゃないんだよ」
「だって、うちチャリ通じゃないもん」
「いいじゃん塾の時くらい。いつもふざけてるくせに、変なとこだけ真面目だな」
「よく言われるー。ところで授業どうだった?」
「余裕」
「さすが涼真。マジでイラつく」
「そんな睨みつけんなよ」
「とりあえず橋の所のファミマまで。家その近くだから」
と言って後ろに乗り出した。
「ファミマで何かおごれよ」
「やだねー」
そして約10分の道のりを2ケツで帰った。
「サンキュー。明日もよろしくな」
「毎日送ってくのかよ」
「女の子の夜道は危険でしょ」
「夏希は大丈夫だろ」
「こんなかわいい子、一人で歩いてたら襲われちゃう……」
「はいはい。まあいいよ。どうせ家に帰る途中の道だし」
「サンキュー! じゃあ明日ね!」
「バイバイ」
そう言って帰った。その次の日から、夏希と塾で授業を受けて、一緒に帰るというのが何日か続いたある日、いつも通りファミマの近くに着くと、
「今日ちょっとファミマで肉まん買って、近くの公園で食べない?」
と言われたので、ファミマで買物をして、近くの小さい公園のベンチに座り食べた。
「ねえ、遥香と連絡とってるの?」
「いや、引っ越してからは一度も。剛と祐佳はメールとか電話してんじゃない?」
「そうなの? 何か別れたとは噂になってたけど、そこまでとはね。やっぱり中学生の遠距離は無理かー。遥香は今頃、東京で新しい彼氏作ってるって! 遥香めっちゃかわいいから東京のイケメンたちがほっとかないでしょ!」
こいつ……気にしていたことをズケズケ言ってきやがって……。
僕はあれから遥香のことは考えないようにしていた。最初は無理だったが、人間は環境に慣れるものなのか、いつしか辛い思いは薄まっていた。もちろん、忘れたわけではないし、まだ好きかと言われると好きだとは思う。ただ、きっと僕の性格上、付き合ったままだったら会いたいし、心配だし、何しているか気にしてしまうし、こんな穏やかには過ごせなかったと思う。遥香はそれも考えて別れたのかな。と、自分に都合の良い解釈をしてみる。
言われっぱなしは悔しいので、
「お前だって雄大と付き合ってんじゃん。その後どうなのさ?」
「もうとっくに別れたよ。どんだけ古い情報持ってんのさ。遥香いなくなって沈んでるうちに時代は動いてるんだよ」
いちいちむかつくことを……。
「なんで別れたの? 雄大はお前にぞっこんだっただろ」
「ぞっこんってうけるんだけど(笑)だってあいつ高校でサッカーやらないって言うんだもん。サッカー部のキャプテンが高校でサッカーやらないなんてあり得ないでしょ。男ならもっと上を目指せって感じ」
「お前それだけで……」
「それだけって何さ。うちにとっては大事なことなんだけど。言ってなかったけど、うちの夢はサッカー選手と結婚することだから。そうゆう意味では剛が一番近いんだろうけど、剛には祐佳がいるからねー」
「なんだそれ……」
僕は唖然としたが、夏希はマジらしい。
「うち結構本気だから。高校入ったらサッカー部のマネージャーやるし。本当は広陵行きたいんだけど、学力高すぎ! あそこならサッカー強いから、サッカー選手になる人捕まえられるかもしれないじゃん?」
「お前ある意味すげぇよ。こんな話したの初めてだな」
「でも、涼真って選択肢もあるよ。うちと付き合わない?」
突然の告白に僕は一瞬フリーズした。
「おーい。結構本気だよ」
「ちょっと待って。いきなりすぎるし、軽すぎるし!」
「だって涼真はプロ目指してるんでしょ?」
「まあそうだけど……」
「じゃあいいじゃん。遥香とも別れたことだし、他に好きな人いるの?」
「今は特にいないけど……」
「じゃあいいじゃん」
「マジで?」
「マジ」
僕はちょっと考えたが、夏希のこと嫌いじゃないし、遥香のこと考えてもしょうがないよなと思った。
「じゃあいいよ」
「ほんとにー? よかった。じゃあ今日からよろしくね」
「こちらこそ」
「じゃあ今日は帰るね。帰ったらメールするから」
夏希の勢いに半分流され、付き合うことになった。 剛と祐佳に言おうかなと思ったけど、何となく言うのをやめた。 次の日からも塾の授業を受け、一緒に帰るというのが続いた。
そして、付き合った翌日、公園でキスをした。何回か同じことを繰り返していると、夏希がうちに来たいと言い出した。しょうがないので、親にばれないよう裏口から入り、そのまま2階の僕の部屋までこっそり行かせた。
僕は親に帰ってきたことを伝え、怪しまれないよう、ご飯を食べ、お風呂に入り、部屋で勉強して寝ると言い、2階に上がった。2階は僕と弟の部屋しかなく、ほとんど親は来ない。ドキドキしながら部屋で夏希と話していた。そして夏希が眠いと言い、布団に入っていった。
「こっちおいでよ」
と言われたので、
(あー、このままするのかな)
と思いながら布団に入った。そのままキスをして抱き合った。お互い初めてじゃなかったので、とまどうことはなかったが、僕は遥香以外の人と初めてした。
その後も夏希とのデートは公園か、親がいない時や夜中の僕の家がほとんどだった。受験生と言うこともあり、真面目に勉強していた時もあったが、たいていは2人でくっついていた。
それが冬休みの間続き、いよいよ3学期となった。もうすぐ入試、そして卒業である。さすがにこの時期になると剛や祐佳とも学校で話すだけで、ほとんど遊ばなくなる。僕と祐佳の誕生日が1月にあったが、今回はメールでおめでとうを言い合うだけだった。夏希とも特に変わらず過ごしていた。




