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中学編12

 だが時は待ってはくれない。傷心のまま中間テストを終え、すぐに合唱コンクールの練習が始まる。そして合唱コンクールが終われば夏休みになり、遥香は転校してしまう。


 合唱コンクールの、指揮者、伴奏者、パートリーダーを決める話し合いが始まった。伴奏者は当然遥香。今年は指揮者やりたがりそうな人いないよなー。と思っていたら、後ろに座っていた剛に、


「お前やれ!」


 と言われた。


「なんで? 嫌だよカップルってバレてんのに指揮者と伴奏者なんて恥ずかしいじゃん」


 もうこの頃には僕らが付き合っていることなんて、ほぼみんな知っていた。


「やれって言ってんだろ! やんなきゃ後悔するぞ!」

「マジで無理だから」


 そうこう言っているうちに、


「誰もいないなら……」


 みたいな雰囲気で吹奏楽部の相川君が手を上げようとしていた。真面目で良い子である。それを剛が止める、


「相川ちょっと待て。落ち着け、お前にはパートリーダーが似合うよ」


 という意味不明なことを言い出した。遥香はずっと下を向いている。


「とにかくやれ!」


 剛が若干キレた。


「涼真にやらせっから!」


 続けて剛が大声で言い始めた。とりあえずクラス的にはそれで良かったらしい。決定の空気になった。僕はこの空気はやるしかないかなと思った。さすがに去年みたいにキレて迷惑かけるのは嫌だと思っていた。人は成長するものだ。でも、それ以上に、自分から立候補するのは恥ずかしいけど、しょうがないなぁ……的な雰囲気であればやりたいと思っている自分もいた。その日から僕の指揮の練習が始まった。


 遥香の家で練習をした。今年は課題曲『大地讃頌』自由曲『時の旅人』である。遥香の伴奏に合わせて指揮をしてみるが、僕は芸術的センスがないらしい。でも、まあそれなりに形になってきた。


「まあまあいいんじゃない?」


 とお褒めの言葉を頂いた。


「教えてくれる人が良ければもっとできたな」


 嫌味な返しをする。


「私以上に教えられる人がどこにいるのか教えてほしいんだけど」


 などと冗談を言っているうちに、僕は思い出す。


「なぁ、なんでオレに指揮者やってほしいの? 剛にあんなことまでやらせてさ」

「だって、小学校1年生の時に、私のコンクール見て、『オレが遥香の指揮をする!』って言ってくれたじゃん」

「オレそんなこと言ったの? さすがに小1のことは覚えてない……」

「でたよ。言われた方は覚えてるものなんだから。指揮者なんてあんたには無理なんだから、この合唱コンクールしかないでしょ! まだサッカーで落ち込んでるのは分かるけど、最後のチャンスかもしれないんだから、約束守ってよ、指揮者さん」


 そうゆうことだったのか……昔から遥香のコンサートとか発表会はよく行っていたけど、そんなことを小さい僕が言うなんて……。


「それなら頑張るしかないじゃん。頑張るからさ、去年弾いてくれた宇多田ヒカルのファーストラブまた弾いてよ。あれ聞いたら頑張れるわ」

「いいけど、そんな宇多田ヒカル好きだったっけ?」

「そうでもないんだけど、何か聞きたい」


 そう言うと遥香はファーストラブを弾き始めた。僕はそれを噛み締めるように聞いた。


 その後も、鬼コーチのもと、指揮の練習をした。指揮者がコーチされるってどんな状況だ? とも思ったが、こうやって遥香と過ごす時間もあとちょっとだと思うと頑張れた。剛と祐佳も差し入れを持って応援に来てくれた。ただ、僕がその差し入れを口にする前に3人が全て食べていた……。



 そして合唱コンクール本番。3年生なので、流れはバッチリだったが、めちゃくちゃ緊張した。いざステージに立つと、背中から観客の視線がビシビシ伝わってくるし、当然だがクラスメイトはみんな僕の方を見ている。始めるために、伴奏者である遥香の方を見ると、少し微笑んでくれた。僕は腕を振って指揮を始めた。自分でもよく覚えていないくらいあっという間に2曲が終わった。


 放心状態のまま席に戻った。演奏がどうだったかなんて全然覚えてない。2年生の時のような盛り上がりも僕の中ではない。ただただ、終わったなぁ……と思っていた。そして表彰式。3年生の部の発表となる。最優秀伴奏者賞は……当然遥香だった。そして最優秀指揮者賞……なんと、僕の名前が呼ばれた。僕は裏で何か力でも働いているのか? と思った。先にステージに立っている遥香の隣に立つと、ボソッと、


「コーチが良かったからだな」


 と言い出した。僕は訳が分からず、


「そうだな」


 それしか言えなかった。

 そして、うちのクラス自体は銅賞で終わってしまった。最後の合唱コンクールだったが、遥香の転校が近かったからか、指揮者でそれどころじゃなかったからか、あっさり終わってしまったような感じがした。



 そして、一学期の終業式。合唱コンクールが終わってから、僕はなるべく遥香と一緒に過ごした。サッカー部を引退して暇だったため、ほとんどの時間を遥香と過ごそうとしていた。遥香は吹奏楽部で最後まで、祐佳は県大会に向けて、剛はクラブチームでそれぞれ頑張っていたが、僕は以前みたいにみんなに負けているという焦りの感情は特に持っていなかった。というより、何も考えられなかったという方が正しいのかもしれない。

 遥香がクラスで転校の挨拶をする。みんなで書いた色紙と花束を渡す。遥香は笑っていた。クラスの女子はみんな泣いていたのに。遥香は我慢しているのだろうなと思っていた。

 みんなで写真を撮って終業式は終わった。遥香の引っ越しは3日後である。


 夏休みに入って、僕は遥香の引っ越しの手伝いをした。剛と祐佳も練習が終わってから来ていた。僕等3人は遥香にアルバムを送ろうとしていた。小学校から撮っていた4人の写真を一冊のアルバムにした。公園、運動会、学芸会、修学旅行、花火、クリスマス、制服、自転車の二人乗り、カラオケ、サッカーの試合、バスケの試合、コンクール……多くのイベントや日常が4人で過ごしたものなんだなと思い、少し泣けた。最後のページには3人でメッセージを書いた。僕はそこには彼氏としてではなく、幼馴染として、


『遥香と一緒にいた時間は宝物。オレも頑張るから、遥香も頑張れ! お互い夢を叶えよう。絶対負けないから』


 と書いた。


 いよいよ、出発の日。遥香の家に行った。徒歩30秒ほど。もう来ることもなくなるんだなと思った。

 でっかい引っ越しのトラックが来ていて、遥香のお父さんも来ていた。剛と祐佳も来て、見送りが始まった。遥香のお父さんとお母さんは僕等にお礼を言って、先に車に乗った。


「遥香、元気でね。これ、アルバム。みんなで作ったからね」

「ありがとう」


 そう言って遥香は泣きだした。祐佳も当然泣いていた。剛も僕も涙ぐんで鼻水をすすっていた。遥香と祐佳は抱き合っている。


「私からも……」


 と言って、遥香は僕等に1人ずつ手紙とミサンガを渡してくれた。


「手作りだから、みんなでつけてね。みんなの目標が叶うように作ったから」


 剛が僕を押し、遥香の前に立たせる。


「これ写真立て。アルバムと被るけど、修学旅行の時2人で撮った写真入れておいたから」


 声を震わせて言う。号泣はしないように耐えていた。


「ありがとう。じゃあ、そろそろ行かなきゃ」


 そう言って、遥香が僕を抱きしめてきた。僕も抱きしめ返した。


「ずっと応援してる」


 遥香がそう言い、車に向かった。遥香は手を振り、後ろの席に座った。出発しても後ろの窓からずっと手を振っていた。僕等も見えなくなるまでずっと手を振り続けた。


「行っちゃったね……」


 祐佳が言う。


「せっかくだからミサンガさっそく足につけよう。左足な」


 と剛が言い、みんなでつけた。

 こうして遥香は引っ越していった……。


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