中学編11
修学旅行が終わると、学校は中総体一色になる。3年生はもちろん最後の大会だ。僕は昨年出られなかった悔しさを味わった。そして、そこからいろんな人に迷惑をかけたり支えてもらったりした。
練習の成果もあり、だいぶ成長したと思う。今年は当然レギュラーとして出ることになる。メンバー発表も終え、また11番をもらう。壮行式も無事終わり、いよいよ本番だ。
組合せは、一回戦が宮町中、二回戦が田谷中である。田谷中は新人戦では途中で負けてしまっていたが、実力的にはこの地区で僕等と1、2位を争う。同じ山に入ってしまったと思った。中総体は新人戦と違い、2校県大会に出られるので、田谷中が違う山だと少し助かると言うのが本音だった。これで準決勝の田谷中に勝たなければ県大会には進めない。とにかくやるしかなかった。
そして、今年の中総体は6月11、12、13日に行われることになっていた。6月13日は遥香の誕生日である。決勝まで進めば、遥香に見てもらえる。遥香からも、
「バースデーゴール期待してるね」
と言われていた。当然やる気も起きる。中総体前はサッカーのことで頭がいっぱいだったため、みんなと集まったりもせず、サッカーに集中していた。バスケ部の祐佳も同じだった。
しかし、僕の思いとは裏腹に、サッカー部の他の選手は余裕を見せていたり、中3になってからタバコを吸いだすやつもいた。こんなんで本当に大丈夫か……と思ったこともあった。
そして、いよいよ中総体一回戦。相手は練習試合では大差で勝っている相手だ。ある程度楽ができるだろうと思ったが、想像とは違うゲーム展開になった。
試合は雄大のフリーキックを僕がきれいに頭で合わせ先制する。しかし、すぐ同点に追いつかれる。なかなか追加点が取れず焦っている間にカウンターから失点し、逆転を許してハーフタイムを迎える。ハーフタイムで立て直し、後半は裕也のゴールと、またまた僕のヘディングで逆転し、何とか勝利することができたが、あまり内容が良くなかったのが引っかかった。
翌日、県大会出場のかかった大一番だ。当然、僕の両親や、遥香も来ている。他にも運動部じゃない生徒達も応援に駆けつけてくれたりした。剛はいつも通りベンチに入り、コーチ的な立場になっている。試合が始まった。
お互いにガチガチの試合展開のため、なかなか前半は両チームシュートまで持っていく機会が少ない。0対0のまま前半を終えた。
全然上手くいかなかった僕は剛に、
「どうすればいい?」
と聞いた。剛は、
「もっと積極的にシュートを狙った方が良い。シュートチャンス何回か逃してる」
と言った。僕の後半の課題はシュートを増やすことだった。
そして、後半がスタートした。後半も基本的には前半と似た展開だったが、後半も半分が過ぎた頃、試合が動いた。うちが自陣のペナルティエリア内で守っている最中、雄大の所にボールがこぼれた。そのボールはバウンドしており、処理が難しかったが、足を振り上げて必死にクリアしようとしていた。その瞬間、後ろから相手選手が雄大の背中を押した。雄大は少し体重が前にかかり、腕にボールに当たった。その瞬間……
「ピーッ!」
審判の笛が鳴った。こっちがファールをもらったかのように見えたが、判定はハンドで相手のPKだった。その前に押されたと抗議するが判定は当然覆らず。そのPKを落ち着いて決められ、先制を許す。
試合時間は残り10分。こっちも慌てて攻める。もうとにかく攻めるしかない。点が取れなければ中学でのサッカーが終わってしまう。
そして、この試合一番のチャンスが僕に巡ってくる。
僕はサッカー人生において、忘れることができない分岐点を何度も経験している。ゴールを決めて人生が変わることもあれば、外して人生が変わることもある。このシーンは僕のサッカー人生の最初の分岐点であった。
右サイドを抜け出し、フリーでボールを持つ、ドリブルを開始し、キーパーと1対1になる。少し角度がなく、中ではゴール前で裕也が呼んでいる。そこまで見えたのだが、僕は剛に「積極的にシュートを打て」と言われたことが頭にあり、とにかく無心でシュートを打った。ゴロの弾道のボールは相手キーパーの右足に当たり、ゴールすることができなかった。
頭の上を狙っていれば、自分で決めることにこだわらず、確実に裕也にパスしていれば……「たられば」を言い出したらサッカーはキリがない。ただ、僕は決定的チャンスを外した。その結果だけが残ったのだった。
その後、試合終了間際に雄大が直接フリーキックを枠に飛ばすが、キーパーがはじき、試合終了。喜ぶ相手を横目に僕等は茫然と立ち尽くした。みんな泣いていたが、僕は泣けなかった。自分も含めてだが、チームとして意識高く練習し、もっと勝つために全てを賭けられたのではないかと思った。タバコを吸って、練習に真面目に取り組んでないのに、何でこいつらは泣いているんだろうと冷静に見れてしまう自分もいた。
みんながどう思っていたかは分からない。でも、僕はもっと本気でやりたかった。しかし、それをちゃんと伝えられなかった僕にも問題はあった。『偶然の勝ちはあるが、負けは必然』とはよく言ったものだ。きっと僕等は新人戦の優勝で天狗になり、調子に乗っていたのだ。負けて気づくなんて何て惨めなのだろう。監督の菅原先生が、
「交通事故にあった気持ちだ。負けるなんて信じられない」
と言っていて、その言葉にみんな号泣していたが、僕は冷静にそんなことを考えていた。
チームが解散し、翌日は学校の決まりで、負けた部活はどこかの部活の応援に行かなければならなかった。しょうがないので、女子バスケの応援に行った。遥香も剛も気を使ってか必要以上には話しかけてこなかった。女子バスケはさすがである。圧勝で優勝し県大会出場を決めた。チームメイトにバンバン指示をする祐佳を見て、僕は、
(祐佳はすごいな)
と思っていた。僕も基本的にはどんどん言うタイプだったのだが、サッカー部では、ハッキリ言いすぎてチームが壊れてしまうのを恐れた。中学生なんて、ちょっとしたことで、「あいつうざいからもう辞める」となってしまうものである。確かに僕は若干サッカー部の中では意識が浮いていた気がする。でも、チームの為に、勝つためにもっとできることがあったんじゃないかと思っていた。
そんなテンションだったため、その日の遥香の誕生日は何もしてあげられなかった。バースデーゴールをプレゼントする予定だったし、大会前でどこにも買い物も行けなかったため、何のプレゼントもない。遥香はどう思っていたのだろう。




