中学編9
そして、もう少しで冬休みというころ、僕らはクリスマスに何をするか考えていた。サッカーもオフシーズンで、来年は受験。遊ぶなら今しかない。
冬休みに入り、その日は祐佳の家に集まっていた。僕はいつも通り漫画を読む。祐佳の家で今ハマっているのは『DEAR BOYS』というバスケ漫画である。
クリスマスどうするかを話す予定だったが、クリスマスに仙台市民がすることなんて決まっている。光のページェントを見に行くのだ。仙台の街中がイルミネーションでライトアップされる。結局、4人で行って、途中から別行動しようということになった。
それ以上に僕は焦っていた。夏に付き合いだしてキスは何回かしたが、それ以上に進んでいない。中2の男子ならまあ誰でも考えるだろう。そして、僕が焦る原因が剛だ。実はもう初体験を済ませたらしい。いつの間に……僕は剛から直接聞いたが、祐佳は遥香に言っているのだろうか。さすがに祐佳に直接聞くわけにもいかない。
この冬休みに何とかしたい! 不純なことをずっと考えていた。別にその考えがバレたわけではないと思うが、剛がひそひそと話しかけてくる。遥香と祐佳はおしゃべりに夢中だ。
「とりあえずこれやるよ」
コンドームだ。
「お前これどうした?」
中学生がコンドームを買うなんてなかなかできない。
「姉ちゃんの部屋からもらってきた」
佳菜ちゃんもやることやってるんだな。さすが高校生。じゃなくて、
「これどうすんだよ?」
「財布の中に入れて、その時になったら使うんだよ」
当時、財布にコンドームを入れておくとお金がたまるといった都市伝説があった。
「まあとりあえずもらっておく……」
剛に背中をバーン! と叩かれた。
家に帰って一人で考えていた。問題は場所とタイミング……。中学生だからホテルに行くわけにもいかない。お互いの家しか選択肢がない。タイミング難しいよなーと思っていた。
だが、奇跡が起きる。家族でクリスマスの日から2泊3日で温泉旅行に行く事になった。当然僕も行くように言われるが、
「今年はいいや。来年受験でみんなと遊べるの最後かもしれないし、留守番してる」
さすがに泊まりなので、多少揉めたが、最後はなんとか押し切った。よし! これで3日間は自由だ! 僕はめっちゃ喜んだ。ここで重要なことを思い出す。
「あ、クリスマスプレゼント……」
不純なことで頭がいっぱいだったため、大事なことを忘れていた。今日は12月22日。もう時間がない。だいたい彼女へのプレゼントって何買えばいいんだ? 当時まだインターネットもそこまで普及していなかった時代だ。当然知識がない。
ちなみにみんなの誕生日は、遥香が6月13日、剛が6月19日、祐佳が1月21日、僕が1月24日だった。ちょうど、6月と1月に分かれてるため、毎年まとめてお祝いをしていた。前回の誕生日はまだ付き合っていなかったため、今回が付き合ってから初めてあげるプレゼントになる。
あいつが欲しいもの……そういやあんま聞いたことがない。
僕は祐佳の家に電話した。
「ねぇ、遥香ってなんか欲しいものあるって言ってた?」
「今さら? クリスマス間に合うの?」
「明日買いに行くって」
「遥香が欲しいものかー……新しいピアノが欲しいみたいなこと言ってたけど」
「却下。もっと現実的な物」
「そう言われてもね。遥香はあんま物欲ないんじゃない?」
「逆に祐佳は何か欲しいものあるの?」
「何? 涼真がプレゼントしてくれるの? じゃあ、新しいバッシュか、アクセサリーか、バックか、MDウォークマンかな」
「お前は物欲すごいな」
「とりあえず、ネックレスとかでいいんじゃない?」
「そんなもん?」
「まあ遥香は涼真がくれたものなら何でも喜ぶと思うけど……あ、そういえば、私の部屋にジョーダンのユニフォーム飾ってるでしょ? それ見て『部屋にユニフォームいいなー』みたいなこと言ってたよ」
「バスケのユニフォームあげろってこと」
「違うわよ! 好きな選手のユニフォームを部屋に飾りたいってことでしょ」
「あいつから好きなスポーツ選手なんて聞いたことないぞ」
「何言ってるの。遥香が好きなサッカー選手は『風見涼真』でしょ(笑)」
「でも、部活で借りてるユニフォームあげるわけにいかないだろ」
「まあねー。まあそれは涼真がサッカー選手になってからってことで」
「とりあえず明日街まで行って買ってくる」
「頑張って。剛も絶対忘れてるから、うまく伝えてよ!」
「分かったよ。じゃあまた」
ユニフォームねぇ……そうだ! 僕は一つ閃き、机に向かってあるものを完成させた。そして剛に電話をかけ、明日一緒にプレゼントを買いに行く約束をした。案の定忘れていた。
無事、剛と2人でプレゼントを買った。中学生なのでそんなお金もないが、同じ店でちょっと似ている感じのネックレスを買った。お揃いとまではいかないが、仲の良い2人なら喜んでくれると思った。
そして、クリスマスイブの夜、光のページェントを見に行った。点灯の5時半に間に合うように行き、みんなで点灯するところを見て、お互い別行動をし、7時半に駅集合という流れだった。さすがに中学生が夜レストランとかに入れないので、晩ご飯とパーティーは帰って家ですることにしていた。
剛たちといったん別れ、遥香と歩く。人が多いのでしっかり手を繋いだ。2人で光の木のトンネルを抜けていく。
「綺麗だねー。なんか、この中にピンクの電球が一つだけあって、それを見つけると幸せになれるらしいよ」
「一つだけって……ここに電球何個あんのさ?」
「分からない(笑)数万個?(笑)」
後から調べて分かったがおよそ60万個らしい。
少し歩いてみたが簡単に見つかるわけがない。僕らはいつも通りたわいもない話をしていた。そろそろプレゼントを渡そうかなと思った時、遥香が、
「あった!」
と声をあげて、繋いでる手とは逆の手で、僕の胸を叩いてきた。
「え? どこよ?」
「たぶんあれがそう! 行くよ」
手を引っ張られ一本の木の下に向かった。下から見上げると確かにオレンジの光の中、一つだけピンク色に光っている。
「お前よく見つけたな」
「日頃の行いじゃない? 私が彼女で良かったね。これで涼真も幸せになれるよ」
めちゃくちゃドキッとした。正直十分幸せだった。でも、そんなこと口に出して言えるわけがない。何も言わず2人でピンクの光を見ていた。僕はハッとし、ここしかない! と思った。
「遥香、これプレゼント」
僕はリュックからプレゼントが入った袋を渡した。
「え? ありがとう。涼真がこんな気が利くなんて思わなかった」
「お前はオレのことなんだと思ってるんだ……」
「まあまあ(笑)開けてみていい?」
「いいよ」
遥香は袋から箱を取り出し開けた。袋はいったん僕が持っている。
「かわいい! ありがとう」
そこで僕がネックレスをつけてあげるくらいのことができれば良かったのだが、まだ中学生。そこまでの経験はない。遥香はそっと箱を閉め、
「今度つけるね」
と言ってくれた。僕は持っていた袋を渡し、
「袋の奥までちゃんと見て」
と言った。遥香は不思議そうな顔をして、袋の奥に手を入れた。中からは紙が一枚出てきた。
『プロサッカー選手風見涼真のユニフォーム引換券』
遥香は腹を抱えて笑い出した。
「なにこれ?(笑) まず字が汚い(笑)」
「そこじゃないだろ!」
僕は恥ずかしくなった……それを察したのか、
「嘘嘘、本当は嬉しいよ。じゃあ、絶対プロになって私に『KAZAMI』って入ったユニフォームちょうだいね。それまで失くさないで持ってるからね」
最高に恥ずかしかったが、あげて良かったと思った。遥香が笑顔になってくれる。それが嬉しかった。
「絶対なるよ」
この時はまだサッカーで上には上がたくさんいるなんて何も知らなかった。無知ゆえになれると勘違いしていたのだ。今後ぶち当たる壁のことなんて当然分かるはずがない。でも、純粋な気持ちでそう言った。
「私からもプレゼント」
遥香は持っていた袋を僕に渡した。
「マフラーだよ。ちゃんと学校にもつけてきてね」
「ありがとう。今出してみていい?」
「ダメ! 中に手紙も入ってるから、帰ってから読んで!」
「そう言われると気になるな」
ごそごそと袋の中に手を入れると、肩を叩かれる。
「怒るよ。帰ってから見なさい」
ちょっと本気の顔になっていたので、その場で見るのは諦めた……。
「そろそろ時間だから行こうか」
僕等は、駅の方に向かって歩いた。僕はその間ずっとしゃべっていた。サッカーのことや学校のこと。遥香はずっと笑顔で聞いてくれていた。
その後、剛たちと合流し、家に帰って少し遅めの晩ご飯を食べ、ケーキを食べた。剛たちも楽しかったらしく、お互いのプレゼントを見せ合いながらキャッキャッと過ごした。
みんなが帰った後、遥香からの手紙を読んだ。内容は、
『いつも一緒にいてくれてありがとう。ずっと一緒にいようね。いつでも応援してるから。でも、ケンカはしないでね。普段恥ずかしくて言えないけど、大好きだよ』
という内容だった。そして最後にユニフォームを着てサッカーをしている僕の絵があった。嬉しくて、携帯があったら電話かメールをしているところだ。でも、もう12時を過ぎている。さすがに家にも電話かけられないし、大人しく寝よう。
翌日からうちの家族は旅行に出かけた。僕は昨日の嬉しさもあり、早く会いたくなって遥香を家に呼んだ。5分もしないで遥香は家に来た。ちゃんとプレゼントしたネックレスをつけてくれている。
「今日からみんないないんでしょ? ご飯とかどうするの?」
「買い置きがいっぱいあるから大丈夫。明日は剛の家行くかも。まあなんとかなるよ」
「じゃあ今日は私がご飯作ってあげる」
「いいの? ありがとう」
遥香は料理が上手い。よくお母さんと一緒に作って、それを食べさせてもらっている。遥香は冷蔵庫の中を見て、食材を確認していた。僕は、
「上の部屋に行かない?」
と緊張して言った。
「いいよー」
僕が考えていることが、分かっているんだか分かってないんだか……遥香は明るく答えた。
2階の僕の部屋に行き、2人で話す。正直何を話したのかは覚えていない。何かのタイミングで、ベッドに座り横に並んで話す。僕は我慢できなくなり、会話の途中で抱きしめた。
「どうしたの急に」
と言いながら、僕の背中をポンポン叩く。
そのまま押し倒す。
「ちょっと……」
と言われるが特に何も答えず、遥香の上に覆いかぶさる。こっからどうしよう……とりあえず顔を上げ、キスをする。キスが終わった後、遥香が、
「しちゃうの?」
と聞いてくる。僕は、
「ダメ?」
と聞く。ここは違う言い方があった気がするが、当時の僕がそんなこと分かるはずがない。
「いいよ」
それでも遥香は優しく答えてくれる。きっと何もかも分かられているのだろう。
「でも、ちゃんとつけてね?」
「分かってる」
僕は財布から剛からもらっていたものを取り出した。それを見た遥香は、
「ちょっと待って(笑)私も同じの持ってる(笑)」
と言って財布から取り出した。
「ほら?(笑) 剛でしょ?」
「あいつ……」
2人で笑い合った。緊張が少しほぐれて、自然と2人で布団に入る。服を脱ぎ、キスをする。
「ピンポーン! ピンポーン!」
誰か来た。この連打はあいつか……タイミング悪いよ……そう思って起きようとした時、
「いいから、出ないで」
と言って僕の頭を掴みキスをしてきた。
インターホンは数回鳴って、いないと思ったのか静かになった。そして、僕らは緊張しながらも、続きをした。僕らの初体験は幸せいっぱいに終わったのである……。
年末年始はさすがに家族と過ごした。僕は父の実家の弘前のばあちゃんの家に行き、親戚からお年玉をもらい、温泉に入り帰ってきた。この頃から温泉は好きだった。冬休みも終わりを迎えようとしていた、ある日、僕らは僕の家で長期休み恒例の「宿題を終わらせる会」を開いていた。僕は今回奇跡的にほぼ全ての宿題を終わらせていた。というのも、正月ばあちゃん家でやることがなさすぎて、終わらせたのである。残る宿題は、サッカー部で出された、冬休み中にサッカーの試合を何か一試合見て感想を書くというものだった。
その日は全国高校サッカー選手権の決勝戦。僕はこれを見て書こうと思い。テレビをつけていた。実は高校サッカーの存在は知っていたのだが、ちゃんと見るのはこれが初めてだった。決勝の対戦カードは船橋工業対鹿児島学園。共に名門だ。
僕は感動した。高校生が必死になってサッカーをしている。しかも満員の国立競技場という最高の舞台で。負けたチームの涙も、勝ったチームの歓喜も、全てが美しく感じた。この瞬間から僕にとって高校サッカーは特別なものとなる。
「オレも選手権に出たい」
「オレは出ないよ。クラブのユースにそのまま上がるから」
僕が言うと、剛が答えた。選手権は高校サッカー部の大会で、クラブチームは参加しない。プロになるにはクラブと高校サッカー部の2つの道がある。遥香と祐佳は宿題の手を止めて僕らの話に耳を傾ける。
「前に菅原先生に言われたんだけど、オレ広陵に行って、私立倒して選手権に出るわ。全国まで出ればもしかしたらスカウトされるかもしれない」
本当にプロだけを目指すのならば、私立のスポーツ学校の方が良いのだろうが、僕は親の影響や、なまじ勉強ができたことから、全てを捨てて、サッカー一本で高校を選ぶという選択がこの時はなかったのである。
「じゃあオレはクラブから直接プロ入り目指す。オレと涼真のサッカーが交わるのはプロ入り後か。でも、その前にお前が選抜とか代表に入ってくれればいいんだけど、無理そうだもんなー」
「いつかお前に追いつくよ。そのためにオレは今、自分の進路を決めた! 今年は頑張る」
「サッカー見てそこまで思えるなんて単純すぎ。でも良いと思う。2人とも頑張ってね」
遥香が言った。
「お前も頑張れよ。今年はオレと祐佳は中総体で全国、剛はクラブユースで全国、遥香はコンクールで全国。みんなで全国行って、ついでに旅行もしようぜ」
「旅行は分かんないけど、それは最高だね。じゃあ神社にお参りに行かない?」
祐佳が言った。家の裏にはそんな大きくはないが神社がある。
「よし、行こう!」
選手権を見て熱くなりテンションが上がった僕は言った。
「寒いから出たくないけど、こいつこうなると止まらないんだよな……」
「そうゆうことだね(笑)」
剛と遥香が呆れていた。




