中学編8
みんなの大会が終わったある日、僕らは4人+クラスの何人かで、いろんなものの打ち上げと称してカラオケに来ていた。
剛はクラブチームのため自分だけ大会の日程などがずれていて、応援が少ないことに腹を立てていたが、こいつも実はクラブの大会で全国大会に出ている。しかもU14の日本代表候補にも名前が挙がっていた。新人戦の県大会出場で浮かれている場合じゃないと本気で思っていた。
そしてカラオケが終わり、隣のファミレスで中途半端な時間の昼食を食べていた。そこで話題になったのが、3年生のヤンキー達が最近顧問のいない時間の部活を狙って、練習の邪魔をしに来ているらしい。実際体育館では、バレー部の練習中に来て、勝手にボールで遊んで帰っていったらしい。3年生は引退しているため、誰も何も言えずに見ているだけになるということだった。
僕と剛は1年生の頃闘って以来、ちょっかいをかけられなくなっていた。あいつらは自分達の言うことを聞いたり、歯向かって来ない人には強気でいく。聞いていて腹が立った。剛は、
「もし次来たら呼べよ。絶対行くから」
と言っていたが、祐佳が、
「やめときなよ。先生呼べば大丈夫だから」
と言った。そして、僕の方を見て続けて言った。
「涼真もダメだからね」
「オレは何も言ってないけど」
と言ったが、遥香が、
「あんたもこの話出てから目が怖くなったからすぐ分かるの」
と、祐佳のフォローをしていた。楽しい会だったが、この話だけちょっと引っかかった。帰りに遥香が、
「ケンカはしないと約束しなさい」
と言うものだから、
「はいはい」
と適当に言ったら、肩を殴られ、『ケンカはしません』と10回言わされた。
しかし、こうゆう話題が出ると、事件は起きるものだ。
案の定、サッカーグラウンドにもヤンキーがバイクに乗って現れた。金髪デブを筆頭に、1年の時にケンカしたあの4人だ。僕らが着替えて練習に出ていこうとしたら、サッカー部の用具室の窓が割れていて、サッカーボールが出されていた。そして、かごに入ったサッカーボールを一人が投げ、一人が野球の金属バットで打ち、一人がキーパーをやり、もう一人がそれを見て笑っている。
きっとあのバッドで窓を割って鍵を開け、ボールを出したのだなと思った。そんなことをやられているものだから、僕らは練習できない。おまけに今日は職員会議で近くに先生もいない。
キャプテンの雄大がどうする? というから、みんなで「先生呼んでくるしかなくね?」と言っていた。僕も遥香と祐佳と約束した手前、下手に食い掛れない。幸いなのが、今日は剛がクラブチームの練習で、すでに学校にはいなかったことだ。いたら止まらないだろう……。
とりあえず、翔平が先生を呼びに行こうとすると、一人のヤンキーが、
「おい! サッカー部の2年坊! 先行呼びに行ったら殺すぞ!」
と脅してきた、僕が、
「行きませんよ。ちょっと周り走ってきます」
と言い、みんなにこっそり、
「みんなで外周走りながら、翔平だけこっそり抜けて校舎入って先生呼んで来い」
と伝えた。なにかおかしいと思ったのかヤンキーどもは、
「ダメだ、そこでうちらの野球サッカーを見てろ。あと、今校舎に行こうとしたお前」
と言って、翔平を指さした。翔平はキョロキョロして自分を指さす。
「そうだよ、お前だよ。ちょっと来い」
翔平がオドオドしていると、
「来ないとバイクでひき殺すぞコラァ!」
と、声を張り上げてきた。仕方なく向かう翔平。泣きそうになりながら僕の方を見てゆっくりと歩く。すれ違う瞬間、
「何かあったら助けるから」
と声をかける。翔平は軽くうなずいてヤンキーの所へ向かう。ヤンキーは翔平に、
「先公呼びに行こうとした罰な」
と言い、至近距離に立たせて、ボールをバッドで打って翔平にぶつけてきた。みんなさすがにざわついて、やばいという雰囲気になった。
ちょうど二階の音楽室から吹奏楽部も見ている。これだけ見てれば誰か先生を呼びに行くはず。
でも、それまで待てない。翔平を助けなきゃいけない。剛はいないけどしょうがない。僕は走り出して、バッドを持っているやつに飛び掛かった。翔平は泣いている。
「いい加減にしろよ」
僕は結構冷静だった。遥香のことも考えた。でも、この場面でやらない方がおかしい。
「風見かよ。今日はマジで殺す」
金髪デブが言ってきた。
「練習の邪魔なんだよデブ」
そう僕が言うと、あっちもキレた。
1対4はさすがにきつすぎる。イッキに囲まれて背中に蹴りを入れられるわ、顔面殴られるわで、倒れそうになる。でも、こいつらマジで許せない。一生懸命やっている人の邪魔をして、友達を傷つけた。そう思って、ひたすら暴れる。翔平も勇気を出して、止めてくれている。その分反撃はできるが、ヤンキー共は基本的に僕を攻撃してくる。
(このデブくらい倒す)
と決めて、一目散に向かい、渾身のキックを胸のあたりにヒットさせた。たぶん肋骨が折れたのだろう。悶絶していた。
そしたら、チビのヤンキーがマジでキレて、バッドを持ち出した。さすがにルール違反だろ。こいつらのケンカはルール無用かよ。
「サッカー部が調子に乗ってんじゃねー!」
バッドを僕の左ふとももあたり目掛けて思い切り振ってきた。
(やばい、これは当たる……)
ちょっと捻ってジャンプしたため、若干衝撃は逃げたが、金属バットが直撃したため、立てないくらい痛い。その場にうずくまってしまった。翔平が泣きながら、
「もうやめて下さい……」
と言っているのが聞こえる。サッカー部のみんなも来てくれて、止めようとしてくれている。その時やっと先生たちが校舎の中から走ってきてくれた。サッカー部顧問で体育教師の菅原先生が、
「お前ら何やってんだ!」
と叫んでいる。
ヤンキー達は、
「やべぇ」
と言ってそれぞれバイクに乗って逃げた。
「涼真、大丈夫か?」
菅原先生が言う。
「さすがに大丈夫じゃないです」
「どこが痛い?」
「全身……でもやばいのは脚かも」
見ていた翔平が先生達に事情を話す。バッドで打たれたと聞き、さすがに救急車を呼ばれた。他の部活の生徒も集まりだした。
(やっちまった……遥香来なきゃいいな)
と思っていたが、当然来た。
「ちょっとどいて!」
声が聞こえる。
(絶対怒られるよ……)
と思ったら、泣いていた。
「涼真! 大丈夫?」
「大丈夫だよ、いつものことじゃん」
「バッドで殴られたんでしょ? 先生、大丈夫なの?」
「落ち着け、今救急車呼んでるから」
「私、一緒に乗って行く」
「先生が付き添うから心配するな、部活に戻りなさい」
「でも……」
と言って泣き始めた。
「ピーポーピーポー」
救急車が来た。僕は横にされていた。テキパキと動く救急隊の人を見てすごいなーと冷静に考えていた。ストレッチャーに乗せられ、遥香に、
「ごめん」
と一言だけ声をかけた。
ドアが閉められたが、受け入れ先の病院がなかなかないらしく、数分待たされた。外はどうなっているのだろう。ちょっと心配だった。
結局近くのまあまあでかい病院で診察された。全身打撲は当然で、足は幸いにも骨に異常はなかった。しかし、重度の打撲で、固定は必要ないけど、サポーターつけて、しばらく松葉杖だった。若いから治りも早い。と医者に言われた。サッカーはいつからできるか聞いたが、冬休み明けくらいにはできるだろうとのことだった。全治2ヶ月ってとこだ。普通の生活にはもっと早く戻れると言われた。治療が終えて病院の外に出ると夕方になっており、あたりは少し薄暗くなっていた。
僕の親は2人とも仕事で連絡がまだとれなかったらしい。僕は迎えに来た顧問の菅原先生の車に乗って学校に戻った。先生は荷物を持ったら今日は家まで送ってくれると言ってくれた。
帰りの車で少し先生と話した。
「涼真はすごいな。ケンカは良くないけど、ああやって向かっていけるんだもんな。教師としてはダメだと言うところだけど、男として尊敬するよ」
「先生、オレ昔からそうなんです。先生は今年来たばかりだから分からないかもしれないけど、1年生の時もやってるし、小学校の時からケンカっぱやいんです。普通じゃないですよね」
「うーん、でも気持ちは分かるぞ。オレもあのヤンキー共は腹が立つ。殴ってやりたいと思う事なんて毎日のようにある。だから、今はいいよ。そうやって感情むき出しにして守りたいものを守っても。でも、大人になるとそれだけじゃ大事なものは守れなくなるんだ。涼真もいつか分かる。いや、涼真なら自分で間違いなく気づくよ」
「先生もむかついてるんですね(笑)」
「そりゃあそうだ。毎日何もせず、校舎の裏でタバコ吸って、カツアゲして、暴走行為を繰り返した挙句、傷害や窃盗、器物破損。大人の言う事なんて聞こうともしない。あいつらの将来が心配だよ」
「さすが先生ですね。あんなやつらでも将来を心配してあげるなんて。でも、オレも同じです。大人の言う事なんてクソくらえって思う時あるし、悪いことだっていっぱいしてますよ」
「そうかもな(笑)でもオレが言うのも変だけど、お前らはかっこいいよ。良い事も悪いことも芯がある。悪いことしてもネチネチしてない。だから、教師としては悪いことしてても応援したくなっちゃう生徒なんだ」
「聡子先生や高木先生にも似たようなこと言われたことある。オレの関わった先生はオレが何しても絶対見捨てなかったし、応援してくれた」
「お前プロサッカー選手になりたいんだろ? お前ならなれるよ」
「なれるかな……剛の方が全然先行ってるし、今は自信ないですよ」
「自信なんて簡単に持てないよ。でも、根拠のない自信でもいいから、涼真は常に持っておけ。お前には真っすぐな強さがある。根拠がなくても絶対なれるって自信を持っておくんだ。そしたら剛と涼真、うちの学校から一気に2人サッカー選手が出るよ」
「分かった。頑張ります」
「涼真、進路は仙台広陵高校なんてどうだ?」
「なんで?」
「オレの母校なんだ。成績は宮城県の公立の中でトップクラスだから大学進学もできる。宮城の公立の進学校は男子校が多いけど、共学なら広陵が一番だ。サッカーも毎年県のベスト8とかに入っていて、昔は全国に出たこともあるんだぞ。私立を倒せる公立は県内におそらく広陵か宮城県実業くらいじゃないか。実業だとお前の学力的に物足りないからな。しかも、監督はオレの先輩で、厳しい人だけど県選抜の監督もやってる人だからチャンスは広がるぞ。涼真が広陵に行って、私立倒してベスト8、ベスト4の壁を越えてくれたら嬉しいな」
「ありがとうございます。考えておきます」
「あと、遥香が心配してたぞ。彼女困らせるなよ!」
菅原先生といろいろ話をした。体中痛くてちょっと弱音も吐いてしまったが、先生の気持ちが嬉しかった。
学校に戻ると、サッカー部のみんなと、遥香、祐佳が待っていた。
「大丈夫?」
遥香が泣きそうになりながら言うものだから、僕は元気を出して言った。
「全然大丈夫! ケンカの傷は大したことないし、脚も骨に異常なかった。すぐ歩けるしサッカーもできるようになるって」
遥香は安心したようで、祐佳と顔を合わせた。
翔平はずっと謝ってきた。別にお前は悪くない。気にするな。サッカー部のみんなも心配してくれるのと同時に、ヤンキー達をなんとかしてほしいと先生に懇願した。先生もちゃんと学校で考えると約束してくれた。
荷物を持って先生に家まで送ってもらった。6時過ぎていたので、母親だけ家にいた。菅原先生は事情を説明し、謝っていた。
僕は、
「先生は悪くないよ」
と言った。母親は、
「いいんです、昔からこんなのばっかりなんで。真っすぐに生きてくれさえすれば」
「お母さん、涼真君は大丈夫ですよ」
なんか恥ずかしくなった。
「ただ、これはケンカを越えた立派な傷害です。学校でも然るべき対応をしますので」
「分かりました。その点は学校にお任せします。今後ともうちの息子をよろしくお願いいたします」
「承知いたしました」
こうやって家庭訪問は終わった。
「母さんごめんな」
「母さんはいいけど、父さんに何て言うの? その怪我は誤魔化し切れないわよ」
「確かに……怒るかな……」
「父さんは怒るに決まってるじゃない」
「しょうがない、今回は正直に言うよ」
先生が帰って30分くらいで父さんが帰ってきた……
「何やってんだお前は!」
「分かってるから」
「分かってない! だいたいお前は学校に何しに行ってるんだ! ケンカとサッカーか? まずはしっかり勉強しろ! お前が何をしようと構わない! サッカーも否定はしない! でも、やることをちゃんとやれ! ルールは守れ! 暴力を振るっていいルールなんて日本にはない! 学生の本分は勉強だ! だいたいお前は………………」
長いよ……うちの父さんは大学の先生で、基本的に勉強が最優先だ。自分の父親をこうゆうのも何だが人間的にはしっかりしているし、尊敬もしている。ただ、人より勉強に重きを置いているってだけだ。僕のことは進学校に行かせたいし、大学にも行かせたいはずだ。きっと学歴を持った上で、好きに選択しろって感じである。理想は宮城で一番の進学校の仙台松高に行かせ、国立の東北大学に入学させたいと思っているはずだ。聞いたことはないが普段の口ぶりと雰囲気で分かる。
それにしても今日は説教が長い。しかも関係ない話にまで飛んでいる。教員ってのは話し出すと止まらなくなるのだな。僕もその血を引き継いでいるのだが……。
弟はソファーでテレビを見て笑っている。よく見るとテレビはニュースだ。笑う訳ない。こいつ兄が怒られているのを見てニヤニヤしているな。あとで絞めよう……。
などと考え、チラッと時計を見ると9時を過ぎていた。げー、もうそろそろ2時間じゃん。解放はまだか……。
「ピンポーン」
こんな時間に誰だ? 母親は逃げて風呂に入っている。父親が、
「和真出ろ!」
と弟に言い、説教を続ける。
弟が玄関に行き対応する、
「和真! 涼真は?」
(この声は……助かったかも)
バタバタバタ!
廊下で足音が聞こえ、リビングに剛と遥香が入ってくる。
「おじさん、こんばんは」
遥香と剛が声をそろえる。父親の説教が一旦止む。最後に、
「とにかく反省しろ!」
と言って、僕への説教は終わった……
「遥香、剛どうした?」
父親が2人に声をかける。
「今日のことで心配で来たの。もしかしておじさん怒ってた?」
遥香が聞く。うちの父親は僕には厳しいくせに、遥香達にはめっぽう甘い。
「もう終わったから良い。晩ご飯は食って来たのか? シュークリームあるから食べていきなさい。涼真、お前はご飯を用意しろ。お前も食べてないんだろ? 父さんも帰ってすぐ話したからお腹すいたんだ」
この野郎……こっちは怪我人だぞ……少し怒りが湧いて言い返そうかと思ったが、さすがにやめておいた。
母親が準備していたご飯を盛り付け、テーブルに持っていく。そして剛と遥香に父親がジャスコから買ってきたシュークリームを出す。
うちの父親は母親がいらないというのに、仕事帰りにいろいろなものを買ってくる。こんなに食べられないといつも言われているが、おいしそうなものはつい買ってしまうらしい。まあみんなのためにというのがあるのだろう。
「いつも涼真が迷惑かけてるだろ」
「はい(笑)」
遥香が言う。おい、今はそれ洒落にならんぞ。
「オレも練習の後、遥香に電話で今日のこと聞いて慌てて来たぞ。迷惑かけんな」
シュークリームほうばりながら言うセリフか?
「お前ら、本当に心配してるのか?」
「心配してたけど、おじさんの説教外まで聞こえてたから、雰囲気で大丈夫そうって剛となったから安心しちゃった」
それって安心する材料なのか?
「これからも、今まで通り仲良くしてやってくれ」
「はーい」
和やかである。一応その後僕の部屋で話した。慌てて入ってきたのは父親の説教から救うためだったらしい。それはよくやったと思った。
「オレがいない時に無茶すんなよ」
と剛。
「今日のはしょうがないから、ケンカしないって約束破ったことにはしないであげる。でも、次はないよ」
と遥香。
「とにかく怪我早く治そう」
2人共そう言って帰っていった。
そして秋も終わり、冬の匂いがしてきた頃、僕は普通に生活できるようになった。
ヤンキー達はその後、先生達から僕等には近づかない約束をさせたようだ。今回のことで学校としても問題になり、次は警察を呼ぶとなったらしい。他の部活にも平和が戻った。まあ僕の犠牲の意味があったのは良かった。




