第94話 女神達と豆腐ようとどなん水割りと(花酒)
さて、目を覚ますと私は私の部屋にいるのにミカンちゃんとデュラさんの姿がない事に辺りを見渡してとりあえず冷蔵庫からウィルキンソンの炭酸水を取り出すとそれを一気に飲み干した。
「ミカンちゃーん? デュラさーん? いないんですかー? うん、沖縄出身の大学の友達の上運天さんから昨日貰った豆腐ようがあるのでここは私の部屋で間違いないけど二人の気配が一切ないわね」
さて、どういう状況かしら? と思っているとガチャリと玄関の扉が開かれる。ミカンちゃんがデュラさん連れてコンビニでも行ってたのかしら? とか思うと。
「はいってください! ここが私の加護を与えし金糸雀ちゃん! ちなみにこの世界の子供では氏子というんですよ!」
私はニケ様の氏子になったつもりは1ミリもないんだけど、そんな事を言ってぞろぞろと入ってくる美麗な方々、なんとかコレクションでもはじめるつもりかしら?
「久しいなぁ! 元気しとったかぁ? 金糸雀ちゃん」
「これはこれは、ペルセポネさんと……」
えぇ! これまた超美人のえへへ、誰だろう。目を瞑っている黒髪のお姉さん。他の二人より派手じゃないけどむしろ落ち着いていて私的にはグッドよ!
「暁の女神。エオスだ。私の目を人間が直視するとあまりの光の強さに目が潰れてしまう故、このような無礼を許せ」
「いや全然、ミステリアスでむしろ私的には有りよりの有りです! でも目をつぶっていて不便じゃないですか?」
「大丈夫だ。金糸雀の元気で温かい魂もペルセポネの強く気高い魂もあとニケの慈しみとあとアレな魂も感じている」
アレってなんだろう。気になるなぁ。でも……
「ところでそんな神々しい皆さまが揃って何か御用ですか? ミカンちゃんとデュラさんもいないし」
「ウチからその話してええか?」
私の部屋を一時的に聖域。局所結界を張ってやってきたとか、プライバシー意識が低い事をされている事をしれっと言われ本題。
なんと女神という方々も序列があるらしく、その中でも三人の上長にあたるような女神がいるらしく、
「まぁ、けったいな女神でなぁ? この前神々のミード4000年物をパーティーで出しよって、これより美味しい酒は誰にも出せへんやろうなぁってゴッド・マウントとってきよったんや。で、酔っぱらったニケのアホが。金糸雀ちゃんの所のお酒の方が遥かに美味しいですぅ! とか喧嘩売って今に至るわけやな」
うわっ。ニケ様なにやってんすか……大勢の女神様の前で私の名前出さないでくださいよ……心証が私の心証問題が。
「で、そのミード4000年物より美味しいお酒を持っていくと言っちゃったわけですね? てかなんですか4000年物って、私も呑んでみたいですよ。山崎50年物みたいな感じですかね」
「金糸雀ちゃん、ごめんなさぁい。でもあのイシュタルさんをぎゃふんと言わしたいのぉ! 何か出して!」
あぁダメだ私が初心者すぎて一番高いお酒って山崎50年それかロマニコンティくらいしか思い浮かばない。でも高い=美味しいじゃないし、海底に沈んでるオールドボトルも開けてみるまで美味しいかどうかわからないなんて言うし、ここは既製品よね。
「まぁ、まずは呑みながら話しますか? 今日はペルセポネさんもいるしニケ様のウザ絡みもなんとかなるでしょ、皆さんは匂いと味がきつい物大丈夫ですか?」
といいつつ豆腐ようを食べたら三人がどんな顔をするのか気になったので私は、小さく切ってつまようじと共に小皿にそれぞれ入れた豆腐ようと、
「はい、本日は泡盛オブ泡盛。花酒のどなんです!」
度数は60度。国産のお酒でも海外視線でもトップクラスにパンチの効いたお酒よ。ウィスキーのブッカーズと殆ど同じってよく考えると凄いわね。
「まずはシャンパングラスで少量をストレートでどうぞ! かなりきついのでゆっくり舐めるように飲んでくださいね! あと、チェイサーとしてシークワーサージュースです」
準備は万端。じゃあ、美女どころか女神に囲まれてニマニマしてしまう私は当然テンションも上がるので、
「では麗しい女神様達にかんぱーい!」
「私の加護を与えている金糸雀ちゃんに!」
「ウチも加護を与える予定の金糸雀ちゃんに」
「ふふっ、私もあとで加護を与える金糸雀に」
かんぱーい! と三女神様が私を取り合いしてるみたいでニチャってしまうわね。て、やっぱどなんきっつ! 強烈なアルコール臭。から口の中に広がる甘み。三女神様も舐めるように飲んでシークワーサージュースで流す。
「あら美味しいですねぇ」
「めっちゃウマやん!」
「うみゃい!」
ん? エオスさん、今なんて? 私に気づかれたエオスさんは、コホンと咳払い。目をつぶっていてちょっと気高そうな女神様だけどエオスさん、ウチのミカンちゃん寄りなのかも。
「じゃあ次はロックアイスに入れたどなんで、豆腐ようを合わせてみてください! これは合いますよ!」
紅麹と泡盛で漬け込んだ豆腐。植物性国産チーズともいえるこれ、私大好きなのよね。ほんのちょっとつまようじで削ってぱくり、そして追っかけどなん。
「んんんっ! んまぁ!」
完全に高級チーズ。口の中で溶けて泡盛の味が広がる。それにおっかけどなんで口の中が喜んでるんですけどぉ!
「はぁ、こらたまげたわぁ……旦那がウチの機嫌取る為に持ってくる珍味なんかとは比べもんにならん」
「そうだな。私の浮気相手でもこんな美味い物は貢いでこない」
しれっとエオスさん猛毒ね。そんな旦那とか愛人の話をしている二人の女神様を見て、段々ニケ様の目が据わってくるわね。そろそろ入っちゃったかしら? こういう人、まぁニケ様の場合は女神だけど、お酒飲んじゃダメな典型よね。
「金糸雀ちゃん! 分かりますか? 世の中、旦那や恋人ゴッドマウントを取る連中がいますが、一人というのはそれだけ希少性が高くですねぇ! あっ、このお豆腐おいしー」
花酒を片手に豆腐ようを食べる女神様って今思えば凄いビジュアルだなぁ。まぁ、それを言ってしまうと私にもブーメランしそうなのでアレだけど……なんかこう私の理想とする女子会とは程遠いわね。
バーニャカウダーと甘めのカクテルとか? あー、女子会とかやった事なさすぎて全然分からないわ。
「どなんお代わりの人いますか?」
まぁ、聞かずともわかってるんだろうけど。三女神様は皆手をあげる。
「ウチもろていい?」
「私も貰おう」
「金糸雀ちゃん! 聞いてますか? お酒お代わり!」
はいはい、流水で洗ったロックアイスも新しく追加してどなん2杯目。最初のストレートを合わせたら3杯目か。
というか今朝方じゃない。
「エオスさんは暁なんで夜明けの女神様なんですよね?」
「あぁ、いかにも。金糸雀は賢いな!」
「えへへ、美人に褒められるとたまりませんなぁ。じゃなくてあの、そろそろ夜明けっぽいんですけど帰らなくていいんですか?」
これは私の正直、素直に思った疑問だった。時間は午前5時前くらい。何気になんて時間にお酒飲んでるんだ私は……
「帰らなあかんわな? ニケ連れて帰りーや。ウチはもうちょっと金糸雀ちゃんと飲んでるわ」
「ええっ……こんなアレな女神を連れて朝を呼べと……まだ飲み足らぬし1日くらい朝が来なくてもいいと私は思うのだが? そもそも毎日決まった時間に朝が来るとか私の仕事ブラックすぎるだろ」
それ女神様が言っちゃダメなんじゃないかしら……というか私も今日学校行かないといけないんですけど! 酒臭くないかな……とりあえずこの女神様達には帰ってもらいましょう。
「あの、これ新しいどなんです。これをその御局様の女神様に出してあげてください!私、今日朝から用事あるので本日はこれでお開きという事で」
ハハッと笑いながらそう言うと、エオスさんが「それもそうだな。金糸雀の邪魔をした。とてもすまない」
「あっ……」
エオスさんが私の額にキスをして……
んんっ
「あれ? 朝?」
「かなりあ、お腹すいたー! あさごはー!」
「ハハッ、金糸雀殿。今日は学校であろう? 早く準備をするであるぞ!」
はて、あれは夢だったのか? 口の中に広がる豆腐ようと花酒の味が私に教えてくれる事実としては……考えるのはやめましょうか……
しばらくしてペルセポネさんにミード4000年物より美味しい花酒のどなん60度で煽り散らかされた女神のお局様、イシュタルさんがウチに来る事になるんだけどそれはまた別のお話。




