第325話 フェノゼリーとからすみと5倍どむと
本日、私の部屋にパパが選んだふるさと納税の返礼品を送ってもらったのよね。
「明太子なり?」
うん、確かに見た目は似ているわね。どっちも魚の卵だし、それにどっちも高級品よね。ただ、明太子はスーパーでも安い物は買えるけど、この返礼品の食材に安い物は殆ど見た事ないわね。自家製しようとしても4、5000円はかかるし。
「これは、からすみよ。日本三大珍味の一つね。ちなみに残りは雲丹とナマコの内蔵の海鼠腸流石に今回はどう考えても日本酒系を合わせるのが礼儀ね」
「えぇ、勇者しゅわしゅわがいいー!」
なんかミカンちゃん、日に日に幼児化しているような気がするけど勘違いよね。デュラさんはからすみを見つめて、
「これが、からすみであるか? 宝石のように美しいであるな。この世界の食べ物は味だけでなく、容姿まで優れているから驚きである」
うん、昔の人はこれもゲテモノの一つだったんだろうけど、私たち飲兵衛からすれば一度は食べたいおつまみなのよね。最近はからすみをサラダとか、他の料理にアレンジしたりするのも流行ってるのよね。
「今回は、古代の日本をイメージして、濁り酒、あるいはどぶろくを合わせましょうか? 3倍、いいえ。今回は5倍どむ。君に決めた!」
いつもいつでも美味くいくなんて保証はどこにもないけど、いつもいつでも私はお酒に本気で向き合っているのよ。
「5倍ドム? ニュータイプ専用のドムなり? なんなり?」
「なんだかんだと言われたら、答えてあげるのが世の情けね。世界の飲兵衛を救う為、日本酒の平和を守る為に濁り比率ともろみ比率を5倍に引き上げたラブリーチャーミーなどぶろくね。ちなみに、3倍どむもあるわよ」
「えぇ、なんか金糸雀のテンション、くそキモい!」
「うるさいわね! それだけからすみに私もテンション上がってるのよ! こんなの一腹7、8000円するのよ!」
「して金糸雀殿。からすみは作れるであるか?」
「一回作ったけどコスパが悪いので買った方がいいわね」
ボラの卵巣を購入して氷水で締めて血抜きして塩漬けして乾かして出来るんだけど、そもそも卵巣が高いので手間と失敗を考えると購入した方がいいかなと私は思うわね。ただ作れば半額くらいでからすみが食べられるわね。
「ほぉ」
これはあれね。デュラさん作る気満々ね。ミカンちゃんはいまだにからすみを凝視して「ご飯と食べり?」「だから明太子じゃないって、少し食べてみる?」そう私は言って、少し切ってデュラさんとミカンちゃんに。
いざ、実食。
「ん? チーズなり? んん? ウニなり? ん?」
「おや? なんという心地よい癖……言葉にできぬであるな。旨味と旨味が喧嘩をせず……」
ふふふ、日本の食べ物に慣れまくっている二人ですら言葉を失うのね。私もちょっぴり……
「んんんっ、んまー! つよつよー!」
「かなりあ……きもっ!」
いやいや、ミカンちゃん、貴女のセリフじゃない。なんで私が言うとキモいのよ! まぁいいわ。
「さて、普通に食べても美味しいんだけど、じゃあそれぞれアレンジした物用意しておつまみにしない?」
ガチャリ。
「ちょっとまてーい! 俺っちも仲間に入れろい!」
毛皮の民族衣装みたいな服を着た長身の女の子来たわ。でか! 2メートルくらいありそう。
「私は犬神金糸雀です。貴女は?」
「俺っちはフェノゼリー。人間が困っていると助けたくなる妖精だい!」
「あー、美味しいからすみの食べ方に困っている私たちを助けに来てくれたんですかね? じゃあ、フェノゼリーさんも一緒におつまみ作りしましょう!」
私達は大きな一腹を5頭分し、5分の1はスライスしてそのまま食べる用に。そして残り5分の1ずつを使って独自のおつまみ作りが開始されたわ。制限時間は30分。
冷蔵庫の食材と睨めっこしているデュラさん、ミカンちゃんはお得意のコンビニに買い出しね。
フェノゼリーさんは缶詰や乾物、そして果物を見つめてる。
私はそうね……イカ墨ソース、ミニトマト適量、そして大葉。これでいいかな? 恐らくデュラさんは本格的なものでくるでしょうし、ミカンちゃんはジャンク路線、フェノゼリーさんは全くの未知。私が安牌役になるわ。
30分後!
ミカンちゃんはコンビニの袋を持って戻ってきたわ。
「よーし! じゃあ、みんなのアレンジレシピの前に、純正からすみをおつまみに乾杯しましょ! 5倍どむ。効くわよぉ! 乾杯」
「乾杯であるぞ!」
「乾杯なりぃ!」
「わーい! 乾杯だー!」
ごきゅ! あ、うんま!
「うみゃああああああああ! あま酒みたいなりいぃいいい!」
炭酸狂信者のミカンちゃんを唸らせる5倍どむ。デュラさんも「この口当たり、後から来る日本酒感」「うめー! なんだこの酒」といい感じの盛り上がりね。で付け合わせのスライスからすみをパクリ。
「あ……あぁあ……おいじ……」
生きててよかったぁ! 私個人的な主観だけど世界三大珍味より遥に日本三大珍味の方がつよつよね。くいっと大きなぐい呑みを私は手元から離して三人に問うわ。
「では、みなさん、よござんすか?」
気分は吉原とか、治外法権のようなアウトローな飲み会。そして、表向きは出せないような代物、魔改造されたからすみ料理品評会。
「では、我からよろしいか?」
いきなり大本命のデュラさん。薄くスライスしたからすみと千枚漬け、そしてモッツラレラチーズ。トリフ塩にオリーブオイルを添えて。
「おしゃれ!」
「デュラさん、凝り性なりにけり」
「悪魔だから美的センスぱねぇ!」
私たちの反応にデュラさんは笑うと「では実食をお願いするであるぞ」と言ったとき。
「中々のお手なみですね! デュラハン。むぐむぐ。お代わりです! あと金糸雀ちゃん! お酒!」
「「「「!!!!」」」」
至極当然のようにニケ様がミカンちゃんの隣に座って上品にかちゃかちゃとナイフを動かしてる。デュラさんのバチくそ美味しそうな料理を私たちは無言で食べて、5倍どむをクイッと決める。
「じゃ、じゃあ次はミカンちゃん」
「金糸雀。みんな。俺っちの食べてくれねーか? 美味くできたかわかんねーけどさ」
とフェノゼリーさんが言うので私たちは承諾。私たちの前にオーブンから出されて出てくる謎の食べ物。
「パイであるか?」
「へへっ! いいから食ってみてくれよ!」
ニケ様が「いいでしょう」と聞いてもいないのにグラタン皿の中にあるパイ的な何かを食べて「おいひー! 金糸雀ちゃん、お酒」と言うので私たちは意を決してフェノゼリーさんの謎料理をいただく。
「うみゃ!」
「おぉお!」
「あら美味しい!」
使った材料はリンゴ、鯖の水煮缶詰、トマト缶。クラッカーに餃子の皮。そして少量の調味料と、味付けに……まさかのからすみ。からすみを脇役において、ゲージにクラッカー、サイコロ状に切り分けたリンゴと水煮とトマト缶ソース、蓋がわりの餃子の皮。こんがり焼けたそれはミートパイ。いいえ、フッシュパイアップル仕立て。リンゴが意外となんでも合う事は盲点だったわ。
「へへへ、よかったぜ。酒。お代わりいいか?」
「はいどうぞ!」
「金糸雀ちゃん、私はまだ飲んでませんよ!」
さて、次はジャンクだろうと思っていたミカンちゃんね。
「勇者の番なりにけり! ヒーローは遅れてやってけり!」
ドン!
とミカンちゃんが用意したのは、大きなコンビニサラダ、サラダチキン、煮豆ミックス、チキンラーメン。
こ、コブサラダ!
「混ぜた後に、おろしきでサラダにかけりぃ! この前オフ会で出してもらったサラダなりぃ! トリフの代わりにからすみにて候っ!」
そんなミカンちゃんのからすみコブサラダをニケ様はもぎ取るようにバクバクと食べて。
「うん、合格です! 勇者!」
「う、うざすぅ! 超、消え去ってほしいなりぃ!」
と嘆くミカンちゃんをよそに私達もからすみコブサラダをいただくわ。
「おぉ、こりゃうまいである」
「確かにいい箸休めね」
「うまいうまい!」
ミカンちゃんが料理をする事は一年に一回あるかどうかなのでこれは貴重な一品ね。私たちは5倍どぶで口の中をスッキリさせると5倍どむも丁度なくなったので。
「じゃあ〆は私のイカ墨とからすみの和風パスタをどうぞ」
イカ墨と潰したからすみソースに細かく刻んだ大葉、そして一番の大きな具がミニトマトね。合わせたわけじゃないのに、コース料理みたいなからすみに私達は大満足。
「金糸雀ちゃん、私お酒飲んでませんよ?」
「金糸雀、みんな、俺っちは役に立てたか?」
フェノゼリーさんに私達は無言で親指を立てる。それにフェノゼリーさんも可愛い笑顔で親指を立てたわ。
私たちに別れの言葉はいらない。
だって、またいつかどぶろくとからすみを食べる時に出会えるような気がするから。
だから、私達は笑顔で、無言でただ手を振るだけよ。
「金糸雀ちゃん! 怒りますよ!」
出会いと別れはいつも同時にやって来るのよね。
「金糸雀ちゃんがイジワルするー」
涙は見せないわ。
「もう! 金糸雀ちゃん、めっ! しますよ!」
ニケ様、いつ帰るんだろう。




