第324話 マイアと梅肉オクラ冷奴とアサヒゼロカクテルと
さて、本日は唐突に禁酒の日となったわ。何故なら……
「金糸雀ちゃん、デュラハン、カツカレーおかわりです!」
なんの前触れもなくニケ様がやってきちゃったのよね。本日は犬神家のカレーに合う豚カツをデュラさんが考案したという事で奇跡のコラボレーションを楽しもうと思っていたら、ニケ様がその神格なのかとんでもない嗅覚で駆けつけちゃったのよね。カレーでビールをきゅーっと楽しもうと思ってたんだけど、ニケ様に昼からの飲ませるのは面倒な事以外にならないので我慢ね。
実は私はオムライスとかカレーライスでビールを楽しむの凄い好きなんだけど……まさかね。犬神家のカレーは水を一才使わずにトマトジュースと赤ワインを水代わりに作るから普通のカレー粉で作ってもお店のような味に早変わりするのよね。そんなカレーに合わせる為にデュラさんが試行錯誤したトンカツ。アヒージョで揚げたトンカツ。要するにニンニクと唐辛子の味を吸わせたオリーブオイルで作るトンカツがとんでもなくカレーに合うのよね。
※調べる限りではどの料理人も作っていない当方オリジナルのトンカツレシピだと思います。正直、カレー食うのに滅茶苦茶金かかりますが、滅茶苦茶美味しいです。普通の油より扱いが難しいので低温調理が必要なのと材料費を考えるとコスパが悪すぎるので、多分お店でこのカツカレーを出すと一皿一万円近くするんじゃないですかね。アヒージョで素揚げした野菜も並べるとその辺のお店のカレーに勝った気になれるのでおすすめです。
ただでさえ、スパイス香るカレーライスなのに、トンカツの方からもスパイスを感じられるなんて凄いわ。デュラさんのカツカレー、ミカンちゃんはすでに四杯目のお代わり。
「うまー! 勇者カレーライス超すきー! シュワシュワのみたしー」
シュワシュワもとい炭酸をこよなく愛する勇者、ミカンちゃん。でもダメなのよ。ニケ様がいるから……そんな中で、私たちを救ってくれる物があるわ。
「ご飯食べたら、ノンアルでちょっと何かつまむ? お昼がカツカレーだったから、あっさりした物でもどう?」
「おぉ、良いであるな! それなら奴はどうであるか? こちらもちょっとアレンジレシピを作ってみたいであるぞ!」
冷奴を奴って言っちゃうデュラさん、もう地球の日本に染まりすぎよ。
「勇者、海の家で食べる奴好きー!」
貴女もね。ミカンちゃん。焼きそばじゃなくてあのクソ不味いの豆腐なのに何故か海の家で食べると美味しく感じる冷奴をチョイスするあたりガチね。
「私はお豆腐は食べた気がしないので、そこまで好きじゃないですねー」
一番、豆腐食ってそうなニケ様はお子様舌だから淡白な物よりジャンク系の物が好きなのよね。でももれなく加護とかいうチートのおかげで太らないのよね。ずるくない?
さぁて、ノンアルかー。私の部屋にはノンアル系の飲み物もたくさんあるんだけど、これらは休肝日に飲む物じゃなくてお酒の割材として使ってるのよね。ウォッカや焼酎を混ぜるだけで○○系カクテルの出来上がりなのよ。禁煙するつもりのない人がニコチンガムを噛みながらタバコ吸う感じに近いわね。
ガチャリ。
そして私達はニケ様にだけノンアルを飲ませようとしていた事がバレたのか、当然の来客。ニケ様が反応。
「金糸雀ちゃん、行ってはいけません」
「どうしたんですか? まぁ、誰か来たなら出ないとダメでしょ」
玄関にはりんごのように真っ赤な髪をしたショートカットの美女。これはあれね。私の今までの経験からして。
「女神の方ですか?」
「あらぁ〜、よく気づきましたねぇ〜。ここがニケの言っていた人間の住処ねぇ〜。貴女が金糸雀ちゃん?」
「はい、私がこの部屋の家主の犬神金糸雀です」
「わぁ〜! 会いたかったわぁ〜、私は豊穣の女神・マイア」
あっ、やべ!
豊穣の女神系ろくな女神様いないのよね。かくいうニケ様も勝利の女神であり、豊穣の女神の側面があるとかないとか、神様の設定適当すぎでしょ。
「マイアさんって豊穣の女神以外に他の特性的なものあるんですか?」
「私ぃ〜? 春の女神よぉ〜」
「あー、もしかしてマイアさんからメイとか来てるんですか?」
「関係ないわねぇ〜5月は初夏よぉ〜」
「まぁ、確かに……ニケ様もいますけど一緒にどうですか? ノンアルで冷奴食べるんですが」
「じゃあ〜、お言葉に甘えてぇ〜」
マイアさんを連れてくると、ニケ様が心底嫌そうな顔をしているのにマイアさんは変わらぬ笑顔で「ニケぇ〜、来ちゃったぁ〜」と一方通行な仲の良さを見せてくれるわ。さぁ、どういう事なのかしら?
「とりあえず今日は休肝日という事で、アサヒゼロです」
私がそう言うとミカンちゃんがアホ毛をピンとアンテナみたいに立てて理解してくれたらしいわね。ピーチリキュール、アップルリキュールを入れたグラスにアサヒゼロを注ぎ、ピーチビールもどきとアップルビールもどきを作って持ってくるわ。ニケ様とマイアさんのアサヒゼロにはりんご果汁と桃果汁、そしてレモン汁を少々。ノンアルアップルビールとノンアルピーチビールを偽装。
「梅肉オクラ冷奴も完成であるぞ!」
真夏のスタミナメニュー、梅肉オクラをご飯にかけて食べると美味しいのよね。そりゃ豆腐にも合うわよね。みんなにグラスが行き渡った事で、
「夏から秋になろうとしているのに何故か春の女神様がやってきたけど、そんなの些細な事よね! 乾杯!」
普段のテンションではない感じでミカンちゃんとデュラさんも乾杯とグラスをかかげる中。
「わ〜! ニケぇ〜、乾杯ぃ〜!」
とマイアさんだけ滅茶苦茶テンション高いわね。ニケ様も閉口気味に「乾杯ですよマイア」とグラスをカチンと当てる。そしてアサヒゼロにリキュールを入れて飲むビールテイストカクテル。私はピーチ味。
まぁ中々美味しいわね。ノンアルビールだから故、ピーチリキュールでアルコールを足しても喧嘩しないわ。
「うみゃああ! りんご味、クソうみゃああ!」
「うーうむ、アサヒゼロはビールっぽい味であるな」
ニケ様とマイアさんは?
「わぁ〜! 美味しいですねぇ〜! ニケぇ〜」
「そうですね」
なんかニケ様が辛辣ね。挨拶程度しかした事のない隣人に対する態度だわ。デュラさんが全員分盛り付けた梅肉オクラ乗せの冷奴を用意してくれたわ。
「さぁ、春の女神の口に合うかわからぬが、どうぞであるぞ!」
「あらぁ〜、悪魔は料理上手ですねぇ〜」
いざ実食。
梅肉オクラに合わせた物はレモンを絞って作ったポン酢ね。美味しいわ。これ、ちょっといい居酒屋のお通しで出てくるやつじゃない。
「うぉー! うおぉー! うめぇええ! デュラさん、つよつよぉ!」
「つよつよ頂いたであるな!」
ニケ様もパクリと食べて「おいしー!」と言っている中、マイアさんがグイグイっとノンアルのアサヒゼロを飲んでから梅肉オクラ冷奴をパクり。
「わぁ〜、おいしぃ〜!」
「それは良かったであるぞ」
と和んでいると、マイアさんが……
「そろそろぉ〜、私もぉ〜、お酒が飲みたいですぅ〜」
バレてるわ。ニケ様が目を丸くして「どういう事ですかぁ! 金糸雀ちゃん! マイアにお酒を出しちゃいけません!」とやや怒ってるけどニケ様は気づいてなかったのね。さて、そしてニケ様がマイアさんにお酒を出しちゃダメと言う。ニケ様以上にややこしいって事なのかしら?
「マイア飲めり?」
「勇者ぁ〜いただきますぅ〜」
あっ、飲ませちゃった。「はわわわわ!」とニケ様がなんかあざとい焦り方をしているけど、
「オォイ! ニケぇ! お前、また人間に迷惑かけてんのかコラぁ!」
おや? キレ上戸ね。
「ほら、金糸雀ちゃん、言わんこっちゃない」
「テメェに言ってるんだよニケ、あぁ?」
「マイアさん、まぁまぁ抑えて」
私が仲介しようとしたらマイアさんは私とミカンちゃんの肩をくんで、
「いいんだ。あーしに任せとけ、こんな堕女神に従う必要なねぇ!」
「マイアつえー!」
「なぁ? お前ら、あーしを信仰しちまえよ!」
「「はい」」
私とミカンちゃんは秒でマイアさんを信仰する事にしたわ。だって今のところ、オラついているけど優しいし、女神の気品を感じさせられるわ! だってニケ様が滅茶苦茶嫉妬の炎に狂ってるもの。
「金糸雀ちゃん! 私もお酒!」
「金糸雀、あんな奴に酒なんて出さなくていい。水道水でも飲ませとけ、な?」
「マイア! なんでそんな酷い事言うんですか!」
うん、確かにニケ様も少しかわいそうに思えてきたわ。と私の良心がぐらりと揺らいだところで、
「今年、ニケが迷惑をかけた世界、国、種族、アテナ様が頭をお抱えになるから、あーしみたいなのが呼ばれるんだろ? 女神教育係、母親の神たる私にご依頼されたんだ。一から教育だ。オラ、立て!」
マイアさん、あ! 仏教のお釈迦さまのお母さんマーヤさんなんだ!
「嫌ですー! 金糸雀ちゃん、勇者ぁあ! デュラハーン! 助けてぇ!」
女神が女神に連行されていくわ。そんな様子をミカンちゃんがニヤニヤしながら見ている。まぁでもニケ様には悪いけど少しお説教を受けるべきなのよね。
東西南北中央不敗、スーパー女神になって戻ってきてくれる事を期待するわ。
あーん! あーん! とニケ様の雄叫びにも近い鳴き声をBGMに聴きながら私は冷蔵庫から冷えたビールをトンと置いて、
「飲みましょうか!」
ミカンちゃんとデュラさんの笑顔が咲いたわ。




