第323話 アネモイと復刻版チョコバナナロールとアイリッシュコーヒーと
ミカンちゃんはコンビニエンスストアがめちゃくちゃ好き。それは毎日寄らないと病気になるというくらい好きなのよね。きっと日本で初めてコンビニが普及した時の日本人のように強烈な利便性という魔力に取り憑かれているんでしょう。そんな中でもミカンちゃんはそのコンビニでしか買えない専用商品を好む傾向にあるのよね。
「勇者、チョコバナバすきー!」
と言ってこの前チョコバナナを作るキットを買ってきてはデュラさんと私にチョコバナナを作らせたりしたわ。
そして、本日。
「うおー! うおー! かなりあ、デュラさん、閲覧せり! チョコバナナのパン売ってり!」
そう言ってセブンイレブンの袋から取り出した大量の菓子パン。確かにチョコバナナをイメージした商品みたい。
2003年に売っていた商品の復刻なのね。私は知らないわね。
※記憶が定かじゃないんですが、2003年時はチョコはなく全部黄色いバナナパンみたいな名称でした。実はこの商品、2010年に一度売られているんですよね。このチョコバナナロールの復刻なんじゃないかとセブンの企画部の人、間違えてんじゃね? とか思ってます。
という事で本日はチョコバナナロールをおつまみにする気満々のミカンちゃん。もちろんこれをデザートにすればいいだけなんだろうけど、どんなおつまみにもお酒は合うようにできてるの。お茶系のお酒を作ればいいだけなんだから! もうちょっと涼しくなってくれればココア系のカクテルがいいんだけど、まだ正直夏と言っていい気候の日々なのでコーヒー系で作ろうかしら。
「今日はホット系のカクテル作るわよ」
「えぇ! 勇者しゅわしゅわが良き……」
「ミカンちゃんだけコーラコーヒーハイボールにしてあげるわ」
そういえば昔、セブンイレブンでコーラコーヒーも売ってたわね。普通に不味くてレギュラ商品化できなかったけど。あれって結局お酒が入ってカクテルとして完成するものだから、単品のコーラとコーヒーとか人を選びすぎるでしょ。
「デュラさん、生クリーム作ってもらえますか? 甘め、冷ためで」
「了解であるぞ!」
エスプレッソマシーンを用意して、アイリッシュウィスキーを使ったコーヒーカクテルの上に冷たくて甘い生クリームをたっぷりのせる冬のカクテルなんだけどこれが夏に飲んでも美味しいのよね。
ガチャリ。
「ミカンちゃん、玄関見てきて」
「えぇえ……めんどい」
とか言いながらミカンちゃんは面倒くさそうに玄関まで向かって行くわ。そこで。
「北風なり!」
「おう勇者、何してん?」
ミカンちゃんの知り合いパターンね。そう言ってミカンちゃんと一緒に現れたのは、あらイケメン!
少しほりの深いゲルマン民族を感じさせる清潔感のある青年ね。
「北風の妖精であるな」
「あー、ほんとに悪魔と普通の人間と生活してるのな。ちわっす。自分、北風の妖精アネモイっす。ミカンとは同郷の仲というか……幼馴染っすね」
これまでミカンちゃんの幼馴染、人間ゼロなんだけど……どこに住んでるの? なんか由緒正しい柑橘類農家の娘って情報だけはミカンちゃんのお母さんから聞いてるけど。そこどこ?
「アネモイ、風だからこっちにも普通にきてり」
「ビスクドールは恋をする実写化せり!」
「は? 推しの子もするとか言ってなかったか?」
「アンダーニンジャもせり! ベイビーワルキューレはドラマ始まったり」
「マジで! 激アツじゃん!」
凄い地球の情報に詳しい異世界組ね。あんまりテレビ見ないから推しの子くらいしか私分からないんだけど、あんなアンチ芸能界みたいな作品、よく実写しようと思ったわね。脚本家と漫画問題とかも取り上げてたわよねアレ。その後に現実に漫画家が自殺しちゃったし、次は脚本家が自殺しても知らないわよ。
「アネモイさん、私はこの部屋の家主の犬神金糸雀です。二人は部屋に居候。多分、聞いてるのよね。よかったらコーヒーのお酒でも飲んで行きませんか? ミカンちゃんが菓子パン買ってきたのでそれでおやつにしようかなって思ってたんです」
私がそう言うとアネモイさんは私の両手を優しく握って。
「是非、素敵な金糸雀さん」
「えぇ! そんなうふふ」
「かなりあ、きめぇ!」
キモいにしなさいよ! キメェはなんかアウトでしょ。という事で、私たちはお皿に乗せた復刻チョコバナナロールとアイリッシュコーヒー、ミカンちゃんはコーラコーヒーハイボールを前にしてグラスとガラスのマグカップを掲げるわ。
「夏の終わりに乾杯!」
「乾杯なり!」
「乾杯である!」
「気の向くままに乾杯!」
上はちべたくて、中はあったかい。そして飲むとウィスキーでポカポカしてくるアイリッシュコーヒー。風邪引いた時とかにたまに飲んでたわねぇ。
「ほほ、これは大人のオヤツであるな。うまい」
「うんうん。美味しいです金糸雀さん」
「えぇ、ほんとにー! お代わりありますからねー!」
私がそうニマニマしながらイケメンと話しているとミカンちゃんがずずっとコーラコーヒーハイボールを不満そうに飲み干して「おかわり!」というので、2杯目を作ってあげる。
「じゃあ、チョコバナナロールも食べてみよっか?」
いざ、実食。
「あら!」
「おっ!」
「にゅ?」
「ウマっ!」
そう、完全にチョコバナナだわ。チョコバナナじゃないのに、完全にチョコバナナ! これ、すご! 昔からセブンイレブンはもとより、各コンビニやスーパーでこの手の商品ってずっとあったんだけど、今回の復刻版チョコバナナロールはある種、それらの行き着く先ね。見た目のチョコバナナ感ですでに頭はチョコバナナにされているのに、一口食べると、バナナクリームが口の中に広がってチョコの部分と合わされる事であら不思議、私は今。パンを食べているハズなのにチョコバナナを食べさせられているわ。
何を言っているから分からないと思うけど、私にも分からないの。セブンイレブンで限定発売しているチョコバナナロールを食べてみてとしか言いようがないわね。何か恐ろしいものというかチョコバナナの片鱗を味わった気分ね。
「チョコバナナロールとアイリッシュコーヒーがよく合うであるな……ピッタンコであるな」
あえて、おじさん用語をデュラさんが使ったのは復刻のパンだからね。デュラさんがこうやって使うと、当時に対してリスペクトをしているので若く感じるのにおじさんが使うと凄いヤバいなって思うのはなんなのかしら。
「いや、これほんとウマイっすね! 金糸雀さんの作ってくれたカクテルともマジ合うし、屋台のチョコバナナみてー」
うーん、なんで日本の屋台とか知ってるんだろって思うけど、北風だしね。アネモイさん。そりゃ日本にも毎年やってくるんだ。というか、日本満喫しすぎね。
流石に菓子パンだから一個食べるとお腹いっぱいになるわね。甘いし、ミカンちゃんはもう4個目食べ始めてるけど、私たちは静かにアイリッシュコーヒーを飲みながらブレイクタイム。
「じゃあ、そろそろ俺は行こうかな。おやつゴチした!」
「見送りしますね」
玄関で再びアネモイさんが私の両手を優しく握って囁くように言ったわ。
「北風は毎年きますから。また、よっていいすか?」
「うふふ、いつでもOKでーす!」
きもっ! とリビングの方からミカンちゃんの叫び声。ミカンちゃん、私が女を見せるとキモがるのやめてくれないかしら。部屋に戻ると、ミカンちゃんは当然いなくて、瞳をキラッキラに輝かせたニケ様が御着席。
「金糸雀ちゃん、このバナナのパン、食べていいんですか?」
「はい、いいですよー。カフェオレがいいですか? それともブラック?」
私はエスプレッソマシンの前でポーズをとりながらニケ様にそう聞いて、コーヒーを飲ませて帰ってもらおうと思ったんだけど。
「金糸雀ちゃん、私もお酒が飲みたいんですけど?」
「やだなー。私たち、コーヒーと菓子パンでおやつタイム中だったんですよ」
と愛想笑いを返したところ、ニケ様が立ち上がり、私をギュッとハグ。
ん? んん? なんだろう。この人、ほんと見た目だけは超美人だからちょっとドキドキするのよね。
今日に限ってなんだろうと思った時、耳元で囁くように、私に恐怖を植え付けてきたわ。
「クンクン、これは嘘つきの匂いですねぇ。金糸雀ちゃん」




