第318話 トイレの花子さんと信玄餅とガチゼロと
「私の報告するレポートですが、今回の米不足の背景にあるある意味プロパガンダとも言えるマーケ手法についてのものとなります」
たまには大学生らしく、リモート発表会よ。ミカンちゃんにオススメしてもらって購入したゲーミングチェアの座り心地が良くて、オンザロックでバカルディ8を転がしながら優雅に発表よ。ゲーミングチェアってゲームをする為の物じゃないらしいわね。性能がいい物を総称して言うらしいわね。
知らなかったわ。
カラン!
ダイヤモンドカットされた溶けにくい氷(私が作ったんだけどね)の音を聞きながら本日の授業は終わり。ミカンちゃんは多分漫画を読んでるかサブスクでアニメ、あるいはゲームでもしてるでしょうね? デュラさんは梅干しを作ると言ってたから、二人とご飯でも食べて、もう少し勉強しようかしら。
「かなりあー、勇者ガチゼロ飲みたいかもー!」
「何それ?」
ストゼロ……もとい−196度の新商品かしら? なんかV tuberの人が飲んでるお酒?
「アニメ見てたら飲んでたり! 勇者もこれ飲みてー!」
「あー。アニメの中のお酒? 色は青だけど、旧ストゼロのダブルレモンが多分モデルになってるんじゃない?」
「えー! ストゼロは9度なり、ガチゼロは10度なりにけり!」
「一度の差なんて大した事ないじゃない。まぁ、いいか。じゃあ私が作ってあげるわよ。どんな感じなの?」
「“VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた“ではアルコール臭くて最初は不味いけど飲んでたら虜になれり」
「あー、やっぱり初期のストゼロね。中期、後期のストゼロはあんまりアルコール臭キツくないのよ。一応ウォッカとか言ってるけど本当に何混ぜてるのか分からないのよね。ストゼロの原液で再現できなくもないんだけど、どうせなら本格的に作ってみたいわね」
宝焼酎……でもいいんだけどそれだと焼酎ハイボールだしお洒落ね。大五郎? ビックマン? それともトップバリューの甲類焼酎がいいかしら?
「あー! これにしてみよっか? 梅酒用の残ったホワイトリカー」
これ消毒液みたいな匂いするのよねー! で、レモンも生レモンを絞らずにポッカレモン。氷と炭酸水の配合を調整してホワイトリカーを10%くらいにすれば……
「はい、お待たせ! 全てが作り物で作ったストロング酎ハイ。ガチゼロ試作1号よ」
「うぉー! うおー! 再現レシピなり! デュラさん、デュラさーん! 乾杯せり!」
デュラさんが梅干しの仕込みを終えて戻ってきたわ。なんか箱も一緒に浮かべて持ってきてるけど。
「それ何かしら?」
「アン博士からお土産を受け取っていたである。足が早いから早く食べるようにと言っておったであるぞ」
私は受け取った箱の紙を綺麗に剥がすと、超有名なお土産、信玄餅である事に気づいたわ。信玄餅もガチゼロ試作1号。どう考えても意味不明な組み合わせだけど……
「おつまみ、信玄餅にしてみる? 合わなくはないでしょ」
ギィ!
あら、本日は玄関からじゃなくてお手洗いの方から兄貴の物と思われる白いワイシャツ、そして赤いジャンパースカート。? あれはどこかの高級ブランドの物よね。お洒落おかっぱのヘアスタイルに濃いめのメイク、黒いマスクをした女性がやってきたわ。
「不法侵入ですか?」
「違うわよ! 私は花子。聞いた事くらいあるでしょ? トイレの?」
「しょーしゅーりきぃ! なり?」
「違うわ!」
「トイレの花子さんよ! 日本都市伝説の中でも最高位のメジャーさでしょ!」
「あぁ、トイレの花子さん。私は犬神金糸雀。この部屋の家主です」
「犬神? 犬神さんの関係者?」
「あー、元々ここに住んでたのは兄貴です」
「そう? あらそう! 私は犬神さんの恋人よ。お姉さんって呼んでいいわ!」
えっ? 兄貴、妖怪と付き合ってるの? いやでも兄貴の事ならなくもないけど……
「花子、嘘ついてり! 勇者には真偽が理解できぃ!」
「おぉ! 鑑定眼であるな!」
ぐぐぐぐぐと花子さんは顔を真っ赤にして、
「このシャツ、犬神さんにもらったんだもん! セラとかいう耳ながに水浸しにされて消滅させられかけていた時に犬神さんが助けてくれたんだもん! だから結婚するだし!」
あー、拗らせてる人ね。
兄貴、そういえば実家にいた時もサイコな女子が毎朝迎えにきてたわね。でも兄貴、一線を越える相手には女子だろうと全力でぶん殴るのよね。
ソースはセラさん。
「まぁ、兄貴の事は置いといて今からお酒飲むんですけど一緒にどうですか?」
「えー、何? 物によっては飲まないわよ」
「ガチゼロなり! クソVtuber御用達ドリンクなりぃ!」
「ふーん! じゃあ付き合ってあげるわ」
唐突にやってきた花子さんだけど、ウチのトイレに取り憑いてるとかないわよね? でもそうだったらセラさんとかニケ様に絶対ぶち殺されてるわよね。
「じゃあ、配信切り忘れないように! 乾杯なりぃ!」
「かんぱーい!」
「乾杯であるぞ!」
「何この酷い香り……乾杯」
ぐっぐっ。
あー! これこれ、昔のストゼロにあったあのヤバそうな感じ。度数を十度から十一度くらいになるように割ってるから実質ストゼロ超えてるわね。これがガチゼロかー。お世辞にも美味しいとは言えないわね。
でもなんだろう。
懐かしいわね。
「ぷひゃああああ! うみゃああああ!」
ミカンちゃんは炭酸ならなんでも良さそうなのね。
「はは、これはちとキツいであるな。まぁ、飲めぬこともないか」
「ちょっと! 犬神さんの妹がこんなお酒飲んでるわけ? ポールジローとかをゆっくり耽美的に飲んでるのよ犬神さん! きゃああああ! かっこいい!」
兄貴って私と同じで目つき悪いんだけど変な女子にモテるのなんなのかしら?
あ!
私もだわ。
せめて変な男子、それもイケメンにモテればそれなりに悪くないんだろうけどなんだかなぁ。
「ふぅ、この酒くっそ回るわね。じゃあ、信玄餅合わせてみましょ」
私たちは信玄餅の袋を開けて、中に入っている黒蜜をかけていたら、花子さんが急に立ち上がったわ。
「ちょっとアンタ達! 何してるのよ! 信玄餅の食べ方はこう!」
包み紙に信玄餅を出して黒蜜をかけて少し揉んで見せる。あー、その本来の食べ方とかいうやつね。
違うのよねー! なんというか、信玄餅の食べ方ってその食べ方より容器に黒蜜かけて食べる方がお洒落感あるのよ。
「えー! 勇者、その食べ方きちゃないとおもー」
「うむ。食べ物で遊んでいるようであるな」
「……だって、これ犬神さんが教えてくれたんだし!」
あー、兄貴あるあるね。兄貴、そういうちゃんとした食べ方とかに拘るのよ。私も信玄餅の食べ方兄貴に教わった気がするわ。
「食べ方は人それぞれですので、さ、花子さん! ガチゼロお代わりどうぞ」
「ありがと」
こういう面倒臭い女は酔わせて潰すに限るわね。
って、私、その辺のチャラ男みたいな事考えてるじゃない。お世辞にも美味しいとは思えないガチゼロ、でもなんだか飲みたくなるわね。そしてお世辞じゃなくてとてつもなく美味しいお菓子信玄餅。この組み合わせが意外にも合うわね。
「勇者ジョッキで飲みたいかもー」
ガンとこの前買ってきた1Lジョッキを持ってくるのでそこにガチゼロを作ってあげるとミカンちゃんはキューっと飲み干して、
「うんみゃい! もーいっぱい! あっ! 忘れてり!」
ほんと剛毅な飲み方するわよね。ミカンちゃんが思い出したかのようにゲーミングノートパソコンをリビングに持ってきたわ。
「そういえば酒呑くんの配信の時間であったな!」
あー、酒呑くんもとい美優さんかーメンタル弱々のくせに俺様キャラの酒飲み tuberやってるのよね。
「なになに? 何見てるの?」
花子さんはミカンちゃんとデュラさんがハマっている酒呑くんの配信を見て難しい顔をすると、ガチゼロを飲み干して、「ご馳走様」とトイレに戻って行ったわ」どうしたのかしら?
数日後。
『遊びまーしょ! あなたのお手洗いからこんにちは、花子よ! 今日のマヨえる子からの質問は? 花子さんのパンツを見せてください? もう! じゃあ少しだけよ』
「うわ、やっば」
「エロスで人気を得るのは常套手段ではあるがこれは……」
「勇者、予言せり」
花子さんは都市伝説系怪異なので知名度が物をいうのよね。だから手っ取り早く信者を得ようと、どちゃくそエロい配信を行って即バンされたわ。
令和の時代って都市伝説も生きづらいのね。




