第314話【33万PV 特別編】 魔王様と柳川鍋と古い友人と
※勝手に休暇週間として福岡にグルメとお酒の旅にふらっと出てみました。
「くーはっはっは! ひなよ! 福岡にゆくぞ!」
「ふ、福岡ですか?」
魔王様がまた何かおかしな事を言い始めましたね。あのニケさんを呼んで謎のワープ的な事をするんでしょうか?
「東京駅へ行くぞ! しん・かんせーんに乗る! ひな、貴様のチケットも買った。準備せよ」
「あ、普通に行くんですね」
私と魔王様は東京駅から新幹線に乗って福岡へ向かいます。駅弁で私はさくら御前。魔王様は柿の葉寿司8個を前にして、魔王様がこの前“麒麟・はれ風“を購入した時に付いていた保冷バックにビールを6缶入れて福岡に向かいます。
「ひなよ。あえてビール三缶ずつにしたのは腹を慣らしておく為、故慌てて食べるな。慌てて食べると胃がびっくりして体を損なうとこの前てれびぃでやっておった。まずは乾杯だ!」
「はい、乾杯です」
プシュッとビールを開けて魔王様の缶とカツンとぶつけた時、私と魔王様の座っている指定席の対面側にキャリーバックを持って座る男性。見るからにややこしそうですよ。明らかに普通の日本の人ではない昔の人っぽい格好をした人。魔王様とその人の目が合いました。
「やや、アズリエルでは? アズリエルじゃーん!」
「おぉ! 貴様は面白呪術師。晴明ではないか! 久しいな!」
やっぱり知り合いでしたか……私の事を見て、晴明さんとやらが魔王様の事を肘でつついてます。なんだか凄い古い反応ですね。晴明さんという方らしいですけど。
「アズリエル。またおなごにまとわりつかれているのか? お前はいつもそうだな」
「くーはっはっはー! ひなは余の家来だ。今より福岡にぐるめぇを堪能しに行く。貴様も来るか?」
「あー行く行く! しかし、かような乗り物を作ってしまうとは、人間。ここに極まれりだなぁ。1000年前とか牛車よ? 歩いたほうが速かったからね?」
うーん、この人。1000年前の日本からきた人みたいですけど、魔王様とお知り合いみたいで、未来の文明の利器に関してもそこまで驚かないんですね。
「天童ひなです。よろしくお願いします」
「これはこれは、俺は安倍晴明。法師陰陽師。今で言うところの政治家的な奴ね。道満ちゃんとこれからの国やばくね? って話になって俺が異世界に行って国を救うヒントを調べに行ったところ、アズリエルや勇者って奴らと仲良くなって日の本に戻ってきたら1000年後よ! 笑っちまうよな! ワハハハハハ!」
「くーはっはっは! 1000年後に戻ってどうするか! やはり貴様は面白い!」
面白くないですよ。
待たせているご家族とか、その道満ちゃんって友達とかいるんでしょ? やっぱ魔王様の知り合いぶっ飛んでますね。
私たちはビールで乾杯をしながらなんと晴明さん、平安時代の方でムーンウォークは自分が最初に行ったとかわけのわからない話をされていますね。それにしてもお話が面白いです。
気がつくと博多駅に到着。そこから西鉄電車に乗り換えて魔王様の今回の目的地。
「やながわに参る!」
「柳川ですか? 博多ラーメンとか食べましょうよー」
「ひなっち。アズリエルが行くってんならきっと美味いんだぜー! なんせ、異世界で遊びに行く時はアズリエルは大将だったからなー! よく皇国ヴェスタリアの王様に朝まで騒ぐなと説教されたねー! 懐かしい」
「うむ、あの国王にはよく大目玉を喰らったである」
知らない国が出てきましたが、魔王様。一応、王様じゃないですか……そんなお話を伺いながら柳川にやってくると魔王様は近所を散歩でもするように私たちを一軒のお店に連れて行ってくれます。
「ここで余達はドジョウを食う。くーはっはっは!」
「まる鍋なら東京でも食べられるじゃないですか?」
「まる鍋ではない! 柳川鍋である!」
鰻の専門店みたいなお店に入ると魔王様は、「瓶ビール、3本。柳川鍋三人前だ!」と常連並みの対応ですが、ここに魔王様がきたのは初めてなんですけどね。
「くーはっはっは! ではまず麦酒で乾杯である!」
「あー、魚にはアサヒスーパードライがあうもんなー! ウェーイ! 乾杯!」
「乾杯です!」
平安時代の人って凄いパリピですね。
令和の時代でどうやって生きているのか分からないですけど、トー横キッズ達みたいに何かしら生きていく方法があるんでしょうか?
「ひなっちいい飲みぷりじゃん!」
「恥ずかしながら、お酒大好きなんです」
「俺もー! じゃあ式神見せちゃおっかなー!」
「くーはっはっは! やめよ! 店が壊れて怒られる! 来たみたいであるぞ! 柳川鍋!」
お待たせしましたー! と私たちのテーブルに溶き卵を引いたまる鍋? すごく美味しそう。
「ねぶか(ネギ)めっちゃかかってるし。いと美味そう!」
「おぉ! 食う前から美味いのがわかるな!」
確かに、ドジョウってみんな最初はゲテモノ扱いするんだけど、栄養価は鰻より高くて、値段は安くて、近しい味がするんですよね。というか最近高級魚扱いなので私も東京でもまる鍋なんて殆ど食べる事ないんですけどね。
「では、いただきまーす!」
結構太ってて大きいドジョウです。かつて江戸時代なんかでは庶民の味方でよく食されていたらしいですけど、今や殆どスーパーとかでお見かけする事がなくなりましたね。
「くぅ! うまい! 卵とドジョウ! 偉い!」
魔王様は目を瞑って美味しそうに食べてますね。異世界の人ってお肉系よりお魚系が凄い好きなんですよね。魔王様いわく、お魚を生で食べたり色んな方法で食べれる私の世界は幸せだって言ってましたね。スーパーでお魚が並んでいる様子を代官山でジュエリーを見る婦人のような表情で魔王様もダークエルフさんも見てましたし。
「ドジョウかー、ガキん頃はよく食べてたけど、式神呼べるようになってから鯛とかばっか獲らせてたから、久しぶり食べると。んまいね!」
と言いながら晴明さんはビールを片手でそそいで一口。「おねーさん、ビールおかわりねー!」と麦酒ではなくビール。やはり晴明さんは日本人ですね。めちゃくちゃ令和時代に順応されてます。
「晴明さんって今、なんのお仕事されてるんですか?」
「あー、霊とかの相談受けたり、マンション建てる時とかの祈祷とか。1000年後も陰陽術師、引く手数多で驚いたわー!」
「陰陽術って宗教なんですか?」
「ひなっち、あれだね。宗教の宗はむね。己の事だよ。己の教え。要するに自分の信念の事を宗教ってんだよ。俺にとっては陰陽術は物心ついた頃から読み書きより前に覚えたしねー。まぁ、言うなれば? ソウル? 宗教っちゃー宗教かもね」
「くーはっはっは! 貴様の詐欺師的な発言に余の魔法城にいる魔物達も実に爆笑の嵐であった!」
結構いい話だと思ってたんですけど、晴明さん、詐欺師なんですか? 私も店員のお姉さんにビールをおかわりしてから柳川鍋を堪能します。ご飯にかけて丼的にして魔王様が食べられてます。私も後でしてみよう。
「アズリエル。ひなっち、凄い妖気を……いや陽気を感じるねぇ……玄関からこっちを覗いてる……魑魅魍魎を煮詰めてホワイトソースとニンニクで味付けしたようなやつ……」
「我らが盟友。女神ニケではないか?」
「……アズリエル、正解!」
えぇ……ニケさん、なんで私たちが行く所行く所いるんでしょう? あの人にお酒飲ませると面倒な事しか起きないんですよね。でもお二人はパリピなので仲間外れとかには絶対しないんです。
いい事だと思うんですけど、友達の粗相は怒って欲しいですね。
「私だけ仲間はずれですか! ひなちゃん!」
えぇ……私に絡んできましたね。でも、私だって東京に長く住んでいるんです。今、魔王様級のパリピがもう一人いるんです。
「ウェーい! にーけ! にーけ! ニケニケニケ! こっちきて一緒に柳川鍋で飲もうぜぇ! ひっさしぶりー!」
「おや、貴方は異界の召喚術師。晴明じゃないですか! 私に八岐大蛇とかいう邪神をぶつけてきた事はまだ許してませんよ! あれからも八岐大蛇は飲み友になったんですからね!」
「くーはっはっは! 今日はやつのようにうねうねとしたドジョウである! まぁ、座るとよし! 安倍晴明にいつもの説教を聞かせてやると良い!」
お店の人の迷惑にならないように私はニケ様がお説教を始める前にお会計を済ませる事にしました。また一人、魔王様のお友達が令和の東京にやってきてしまいました。
金糸雀ちゃんといろはさんのお土産を選びながら遠くてニケさんが喚き散らかしているのを聞いて帰りの新幹線を思うと憂鬱になります。




