第311話 キョンシーと一分飯オムライスとプロティンカクテルと
「の! 乗るしかなし! このビッグウェーブ!」
ミカンちゃんがテレビを前に騒いでるわね。どうせプリキュアか仮面ライダーの光るパジャマでも気に入ったんでしょと思ってたら、
「かなりあ、勇者。一分飯食べたいかもー」
「何それ?」
「あれ!」
それはテレビCM、物はそこそこ良いけど、何故か家電量販店の人があんまりオススメしてくれないアイリスオーヤマのメーカーが出すパックご飯。というかアイリスオーヤマって家電メーカーじゃなかったのね。
「これって、別にアイリスオーヤマのパックご飯じゃなくても」
「かなりあ……消されちゃうなり」
「普通にヒットマンが来るって事? それともテレビに出ている人がCMの仕事無くなるって隠語なのかしら、気になるわね」
ともあれ時短飯の事か、本日はデュラさんがいろはさん宅に出張料理しに行ってるから(出張なのにいろはさんが迎えに来たけどね)ミカンちゃんと二人だしマックでも頼もうかと思ってたけど、これなら手も混んでないし簡単にできそうね。
「いいわよ。作ってあげるわ。ミカンちゃんはどれ食べたいの?」
「勇者、おむらいすー!」
オムライス美味しいわよね。簡単なのに、満足感たっぷりで子供も大人も認める日本の誇る洋食ね。私の交流文化学科にいる海外の学友達ともよくオムライス食べに行ったわね。海外の友人が好きなら異世界の友人も好きか。
「えっとなになに?」
ベーコン一枚を一センチ間隔に切って、濡らしたスプーンで真ん中に溝を作ったパックご飯の上におきます。コンソメ顆粒小さじ1、パター一切れも真ん中に置いて、溶き卵にマヨネーズを加えた物を流し込んでラップをせずに電子レンジ500wで2分。
「1分飯じゃないじゃない! 2分めしじゃない!」
「勇者、かなりあのそういう細かいところスキー」
「ありがとう。って、まぁいいわ。思いの外美味しそうね。じゃあ飲み物どうしようか? やっぱりオムライスだしビールでもいっとく?」
ガチャリ。
お酒を決める前にやって来たのは…………あら! 流石にこの人は私でも知ってるわ!
「キョンシーさんですか?」
「まじか……そんな有名に……いかにも、キョンシーのキョウキョウです」
「うおっ! くっそエロい!」
額にお札を貼ったあの中華系モンスター、キョンシーさんの登場なんだけど、あれね。アマゾンとかで売ってて一時爆発的な人気が出た。ハロウィン渋谷とかでお巡りさんに通報されまくった痴女キョンシー衣装来た子がいるわ。
※詳しくは画像検索でもしてください。自意識過剰な人が着た画像が拝めると思います。
「もともと違う服を着てたんよ。でも目覚めたらこんな服になってて、今回はキョンシー愛好家の家で目覚めたから」
「控えめにいってど変態だったのね。その人。キョウキョウさんはまたなんでここに迷い込まれたんですか?」
「キョンシー愛好家を殺して、人間達の集落を襲おうと思ったら、霊幻道士に襲われて命からがら逃げてたらここに! まぁ、私、もう死んでるんだけどねー」
エヘっと笑うキョウキョウさん。アンデット系のギャグっていまいち笑えないのよね。中華系お団子ヘアにキョンシーだからか、吸血鬼みたいな牙、そして死んでるので生っ白くてスラリと伸びた足、うん。これはコレクションしたくなる綺麗さね。中華系の人って、属する人種にもよるんだけど欧米や他アジアとは違った美しさがあるわよね。
でもね。でも。
「アンデットはノーブラなり?」
それ、私も聞きたかったのよね。薄い布一枚のキョンシー衣装でさっきからチラチラ露出している部分。
「あー、絆創膏貼ってるよー」
「くっそエロす!」
何故かミカンちゃんガッツポーズ。あれね。コスプレとしてミカンちゃんは楽しんでるのね。見た目美少女だけど結構オタクっぽいもんね。
まぁ、私もイケメンだったり可愛かったりすれば基本OKだから、
「キョンキョンさん、今から私たちオムライスをおつまみにお酒飲もうと思ってるんですけど、一緒にどうです?」
「お酒ぇ! うれしー! 生前、酒豪を豪語してた張飛とかいう雑魚を酔いつぶした以来飲んでなかったのー!」
「「えっ!」」
あれじゃない、三国志の英雄と同名っぽいけど気にしちゃ負けね。缶ビールを取り出したところ。
「あー、でもなー! 米とお酒は太るしなー……どうしようかなー」
そうだったわ! 古来から中華系だけは痩せてる(今と違って健康的にね)=美人という方式があったんだわ。楊貴妃なんてダイエットメニュー食べてたし。それなのに、日本を含む他海外は昔は肥えていればいるほど良かった的なアレがあったのよね。まぁ、物が食べられる=子孫を残せる可能性が高いという意味合いもあったんだろうけど。
さすがは美容四千年のモンスターね。
面構えが違うわ!
だったら、酒飲み文化において他の国の追随を許さない日本国の代表として、私がそんなキョンキョンさんにオススメのお酒を出してあげるわ。
「プロティンカクテルなんていかがですか?」
「えぇ、勇者。しゅわしゅわがいいー!」
「金糸雀女史、詳しく」
日本生まれの頭おかしいカクテル。プロティンとお酒を混ぜてしまう。肝臓と腎臓に頗る悪そうなカクテルが存在するのよね。
まぁ、常飲しなければ大丈夫でしょう。
用意するのは、バナナリキュール。ミルクリキュール。バナナ、ミルク、高タンパクプロティンなんだけど。
私が用意するのは、バナナリキュール(クレームドバナナ)、牧場の夢(牛乳焼酎)、牛乳、バナナ、カルヴァドス(アップルブランデー)。そして高タンパクプロティンよ。ミルクリキュールを牛乳焼酎に変える事でカロリーオフ、そしてカルヴァドスを使う事でモンキーミックス感も出しちゃうわけ。
いつもバーメイドで従姉妹の碧狼ちゃんからもらったカクテルシェイカーを使うけど、今回は氷を入れて全部ミキサーにかけちゃうわ。
そしてカクテルシェイカーをグラス代わりに。
「はい、お待たせ! お酒なのにタンパク質も取れちゃう。プロティンカクテルよ! 振って振って! カンパーイ!」
「乾杯なりぃ!」
「なんか健康的っぽそー! 乾杯!」
度数はちゃんとしたレシピだと4パーセントくらい。私のレシピで7、8%かな? 高級バナナシェイク感たっぷりのカクテルに仕上がったわね。
「えー、これ美味しい! 白酒みたい! でも果物感たっぷりで、ウマー。金糸雀女史すごーい!」
「えぇ、そんな照れるなぁ! はい、じゃあ作るのに2分かかった1分半もどうぞ」
いざ実食。
ぶっちゃけ美味しい物しか使ってないけど、こんな簡単に作れるオムライスだからどうかなーと思ったら……
「あー。中身がチキンライスじゃないから、割とちゃんとご飯してるわね」
「チキンライスもご飯なり?」
「私からすると、チキンライスやチャーハンはもうすでにオツマミの領域なのよね」
「金糸雀女史……」
「勇者、たまにかなりあの言葉引くかも」
出たわでたでた! 私だけちょっとおかしいみたいな感覚で見てくるけど、世の中の食べ物なんて突き詰めれば全ておつまみになるんだから、別にいいじゃない。この前シュークリーム食べながらビール飲んでたら流石に学友に引かれたわね。
「とりあえずどうぞ!」
「いただきまーす! ん? あー、美味しい! 金糸雀女史、とってもおいしーよ!」
うん、嬉しいんだけど、キョウキョウさんが飲み食いする姿。ミカンちゃんじゃないけどくっそエロいわ。目のやり場に困るというのは異性にだけじゃないのが彼女を見ていると感じるわね。
「んっんっん! プハー! お酒、おかわりもらえる?」
「はーい! 度数上げましょうか?」
「いいの? お願い!」
ちょいちょいっとスピリタス、96度を数滴垂らしてあげるだけで味を変えずに十度くらい度数を引き上げられるからウォッカって優れものよね。
「勇者、シュワシュワがいいー!」
「仕方ないわね!」
ミカンちゃんのような炭酸ジャンキー用にもウォッカは一躍買うのよね。こっちはスカイウォッカ、40度。これに炭酸メイカーで度数40度の炭酸ウォッカを作って、プロティンカクテルに流し混んであげると、20度くらいの炭酸カクテル完成よ。
私はどうしようかな? ここはオレンジジュースとウォッカを足して、モンキーミックスプロティン入りにしようかしら。
「プハー! うみゃああああ!」
「ふぅう、これはいいわね! 曹操とかいう雑魚を酔いつぶした時くらいガツンとくるわ」
「昔の中国ってお酒の度数低かったんだっけ? まぁ、それはどこの国もか、それにしてもキョウキョウさんのお札ってついてて動けるもんなんですか?」
「これ絶対外しちゃダメよ? 自分を制御できなくなるから!」
あっ、これフラグだなー。
ガチャ。
「このぉおお! 泥棒猫ぉおおお! 額に紙を貼って、おしゃれのつもり! こんな物ぉ!」
入ってくるなりキョウキョウさんに絡んで、お札を取ってしまった私のストーカー的なスクブスのスクさん。キョウキョウさん、凶暴化して暴れるとかかしら?
「あー、暑くなっちゃったなー。脱いじゃおうっかなー」
「「さらにエロくなった!」」
私とミカンちゃんが同時にそう言って、キョウキョウさんを見ながらお酒を飲んでたら、後から来たニケ様にめっちゃくちゃ怒られたわ。
お酒を飲まして酔わした相手を辱めることについて延々と……
確かに素面のニケ様は正しいけど……正しいけどね。




