第310話 八尺様とうざくとアシードアスター 太陽すもものチューハイと
「絶対に誰の声がしても開けてはいけないとお坊さんにその子は言われたのね?」
「何故なり? ゴースト系であればゴースト系を屠れる魔法を放ち!」
「うむ! いかなる魔性であっても浄化系の魔法には弱いであるからな」
異世界組に怪談話は全然意味ないのよね。
私が怪談話をしているというのには意味があって、現在停電中なのよ。ミカンちゃんとデュラさんのおかげで冷蔵庫の中身も部屋の明かりも、室内の気温もなんとかなるけど……魔法って凄いわね。
「二人の世界でもなんかそういう事ってないの? 幽霊とかに子供が連れされたーとか!」
「魔除けの護符を最近の人間の子供は持っておるからな!」
「うぬ! 不審者がいれば、爆砕の護符を使えしと大人から教わり!」
結構異世界の子供って凶暴なのね。まぁ、私の世界みたいに色々なものが整っていないから自分の身は自分で守らないといけないのかもしれないわね。ミカンちゃんとデュラさんは高校野球の応援に必死なのよね。特にどこの県を応援しているわけじゃないのが、異世界の人ね。両校のナイスプレイに興奮して声を上げてるわ。
「今年はオリンピックからの高校野球。最高であるな!」
「くっそ最高なりにけり!」
確かにロードレースを見るのに私も深夜まで二人と興奮したわね。オリンピックで自転車レースって東京五輪でも行われてたらしいけど、見たことなかったのよね。
「そういえば、鰻の蒲焼を一本もらったんだけど、鰻丼作るには少ないから、うざくにして食べましょうか?」
「ほぉ、うざくであるか! して、どのように」
「私のやり方ですけどいいですか?」
「勇者、酢の物すきー!」
まず、材料はこんな感じね。
うざく 3から4人前。
・鰻の蒲焼1本
・きゅうり2本
・生生姜少々
・酢大さじ3杯
・醤油小さじ2杯
・みりん小さじ2杯
・めんつゆ(ガチの人はだし汁)大さじ2杯
・レモン汁大さじ2
きゅうりを斜めに薄く切って塩揉み、水分をできる限り搾り取るわ。調味料を混ぜた液体に薄くきったきゅうりと千切りにした生生姜を入れてしばらく放置。その間に鰻ね。
「うなぎはお湯洗いであるか?」
「水洗いでいいですよ。水分をキッチンペーパーで拭き取ったら付属と冷蔵庫にある鰻のタレをハケで満遍なく塗って、シワをつけたアルミホイルに皮を下にしてオーブントースターに入れます。関東風は五分、関西風なら一五分。今回は関東風で作ります」
焼けた鰻を細長く切っていき、汁を切ったきゅうりの酢の物に合わせて出来上がり。
「はい、こんな感じです。私の酢の物液はたこきゅうとかにもおすすめですよ。じゃああっさりとコッテリのうざくの相手には日本酒かビールがオススメなんだけど、あえて酎ハイ行きましょうか?」
マイナーなメーカーのアシードアスター、お洒落なチューハイをよく出してるんだけど、何処で売ってるの? ってくらい取り扱いがないところはないのよね。ほろ酔いみたいに飲みやすくて美味しいお酒が多いんだけど、ほろ酔い良いちょっと度数の少し高いお酒が飲みたいなーって時には重宝するわね。
「本日は太陽のすもも酎ハイよ」
綺麗な赤い缶をトンと私は置いて、グラスにアイスペールを用意。ビール以外の缶のお酒は基本氷を入れてあげた方が雰囲気も出るし美味しいわね。
※ハイボール系は氷込みで飲む事を推奨されているのでそのまま飲むと微妙に不味いです。言うなれば家で配合を間違えたハイボールですな。逆に酎ハイは氷無しでも美味しいですけど、氷込みの方がより美味しいです。
ガチャリ。
今日はどんな人が来たのかしら?
へ?
「ん? あー、今日は、私は犬神金糸雀。この家の家主です」
「ポポポポ…………」
人語を介す事ができない系の人来たわね。しかも見上げるくらい大きな女の人。黒髪ロングに白いワンピース。昭和の清楚系って感じなんだけど……
「クソでけー!」
「これ勇者! 女性の容姿について声に出すものではないであるぞ!」
ミカンちゃんたまにデリカシーをどこかに置いてくるものね。この女の人、どっかで見た事があるような? ないような?
「お酒今から飲むんですけど、一緒にどうですか?」
こくりと頷いてくれたのでこっちの言葉は通じるみたいね。綺麗に靴を合わせておくと私の部屋に上がって、リビングに案内。身長2メートル50センチくらいはありそうね。
トントン!
女性は何か書くものをと私に所望するので、大学ノートとペンを渡すと、達筆な字で彼女は。
“八尺様“
と書いたわ。
「自分で自分の事、様づけせり!」
「あー、思い出したわ! この人、怪異系よ。都市伝説の本で読んだ事ある。ショタ好きの怪異で、家族とか友達に化けてショタを襲うのよ!」
「は、は、犯罪なりにけりぃ!」
「うむぅ、八尺殿。それは……少し考えを改めた方が良いかと思うであるぞ」
ブンブンと八尺様は首を振って、
“ショタ違う! 可愛い男の子“
とややキレ気味に弁明されたわ。可愛い男の子ならまぁ、ギリセーフよね? ギリ?
「勇者が間違ってりごめんなさい。八尺」
「確かに、可愛いは正義であるからな!」
二人を懐柔したわ。まぁ、とりあえずこういう会話はお酒を飲んでからね。とくとくとくと全員のグラスに氷をガッチガチに入れて太陽のすもも酎ハイを注ぎ入れる。
「ぽぽぽぽ!」
きっと乾杯って言ってるのよね?
「乾杯!」
「乾杯なりぃ!」
「乾杯であるぞ!」
んっんっん! あー、このジュースみたいな感じ、美味しいわー。初めてお酒を飲む時って大概みんな酎ハイよね。未成年の打ち上げとかでもよく現れるお酒達。日本は世界的に見ても異常らしいわね。
「ぷひゃあああ! うみゃああああ! しゅわ甘、うみゃああ!」
「ぽぽぽぽぽぽ!!」
「八尺殿も気に入られたであるな! ではでは、うざくも頂くであるぞ」
酸っぱすぎず、鰻ときゅうりに合うように調合してるからあっさりとこってりのマリアージュがたまらないはずよ。
いざ、実食。
「うん、上出来ね」
「酢の物うんみゃい!」
「ポポ、ポポポポッポ!」
“私、もう少し酢がきいてる方が好き!“
八尺様はそっちかー、うん酸っぱければ酸っぱい程好きって人いるのよね。確かにお酒のオツマミは味が濃い方が合うしね。
「まぁまぁ、鰻と一緒に食べてみてくださいよ」
恐る恐る、八尺様はうざくを食べて、太陽のすもも酎ハイを一口。いい笑顔で親指を立てたわ。それにしても八尺様、可愛い男の子はこの部屋にはいないけどどうして来たのかしら?
「八尺様は何をされててこの部屋に迷い込んできたんですか?」
カリカリカリと八尺様はペンを動かす。
“十五年前、怪我をした私を助けてくれた可愛い男の子がいました。お礼に私は男の子を襲おうと男の子の家に行ったのですが、男の子は夏休みに祖父母の家に来ていただけで、私が夜這いに行った日にはもう元の家に帰ってしまったのです“
良い風の話ですらなく、単純に怪異ね。なんか私、昔、大きなお姉さん助けた覚えあるわね。幼稚園くらいの時に……まさかね。
でも、こう言うお話ってなんかお酒が進むのよね。
「かなりあおかわりなりー!」
「我も我も!」
「ポポポポポ!」
はい、三人分!
“可愛い男の子の事ばかり考えていたら今日、目の前に扉が、これはもしかすると男の子の部屋に通じているんじゃないかと“
ん? 可愛い男の子って……私はアルバムを引っ張り出すと、ペラペラとめくり、小さい頃の私の写真。短い髪で見ようによっては男の子に見えなくもないわね。
「もしかして、その子ってこの子ですか!」
「ポポポポポポオ!」
「あの、興奮しているところすみません。それ、私です」
「…………」
ミカンちゃんがゴクゴクと太陽のすもも酎ハイを飲んで携帯ゲーム機を取り出したわ。
「うぉおおお! 八尺殿が、八尺殿がぁああ!」
キラキラとめちゃくちゃ良い顔で砂になって行ったわ。いや、いいじゃない。女の子でも、可愛い女の子に助けてもらったんだから! しかもその子が大人になって元気にしてるんだから、なんでその世界に絶望したような笑顔で消えていくのかしら……
二次成長が来る前は男の子も女の子もみんな可愛いから、間違える事もあると思うけど、私は絶対に都市伝説八尺様を許さない。




