第306話 貧乏神と蛤鍋とKYOTOHOLiC xxxHOLiCボトルと
「何これ? マネーバトラーG2」
私の部屋に突如届いた段ボールに入っていた謎の勾玉と説明書。
※かつて実在した通信販売のクソ商品になります。
ミカンちゃんとデュラさんが私の持つ勾玉を見て、驚愕の表情を見せているわね。これ、特級呪物かしら?
「金糸雀殿……一体それは……どこでそんな力を秘めた物を」
「勇者、ゴクリと唾を飲み込めり……辺境の村で邪神が復活したのを止めた時の緊張感といえり」
「ちょっと読んでみるわね。なになに?」
“最近の金運学による金運エンジンを搭載し、猛烈な金運促進効果によって、あなた様の金回りの良さを極限にまで加速して金回りをフル回転させます。過去において、このARTはごく一部の特権階級にのみ販売ルートが限定され、それが金権政治を生み出した事につきましては当社も深く反省しております。現在、日本では貧乏神が異常発生する深刻な問題が発生しています。貧乏神とは取り憑いた人の金運を食べて借金地獄に陥れてしまう恐ろしい神です。この非常事態に当社ではある大作戦を展開します。その作戦とは、マネーバトラーG2をご購入いただく事によってお金持ちになっていただくだけ! そして、そのお金を好きなだけ使っていただくだけ! 実は、このARTによって獲得した金銭には貧乏神を中毒死させる効果があり、そのお金が日本中に出回る事によって貧乏神は死滅するのです!“
※マジでこう書いてあった。
「えっと……猛金運が鬼のように押し寄せる! 貧乏神も顔面蒼白!! 神霊パメラ・ピラ。値段、3万8千円。たっか!」
「ヤベェ! テキストに才能を感じれり」
「うむ、よく分からんがストゼロを数本キメてから勢いで書いたような清々しい売り文句であるな」
いや、うん。金運が上がりますよという事を長々と、金運学って何? そもそも一部の特権階級もたかだか3万8千円の商品買って特権階級になれたの? この文章を考えた人の頭の中とOK出した上司であろう人に非常に興味が湧くわね。で、この勾玉ネックレス。
「これは何か力を感じるの?」
「うむ、心地よい程の禍々しさであるな」
「身につけたら詰みなりぃ」
えっ、マジで! それやばくない? 私たちはこの謎の詐欺臭がする通販アイテムを元のダンボールの中に入れて強く封印すると、お酒を飲む準備を始めるわ。
「今日は蛤を頂いたので、蛤鍋にしてみようと思うんだけどどうかしら?」
東京で購入したらすごい価格がしそうな大きい見事な蛤。蛤は潮干狩りとかで稀に出現す嬉しさ倍増よね。今回はシンプルに塩と昆布で蛤の出汁がきいたお鍋にしようかしら。
「良き良き! 風情がありぃ!」
「蛤は縁起物であるからな!」
この人達、故郷の記憶とかちゃんとあるのかしら? 完全に日本に染まってるけど……蛤鍋にするなら自ずと合わせるお酒は日本酒がいいと思うんだけど、アレ飲もうかな?
「CLAMPのお酒あるのよね」
有名な同人作家、漫画家集団CLAMP、それぞれが相当な拗らせオタクなわけだけど、確かな実力を持ち日本の漫画文化を牽引してきた彼女らは様々なコラボレーションをしているのだけど、その中の一つに日本酒があるわね。
ちなみに私はCCさくらのアニメの再放送からCLAMPを知った口ね。
「うおー! うおー! xxxHOLiCのユウコなりぃ!」
「我は聖伝が好きであったなー」
本当に、二人は大丈夫かしら? そう、今回飲むお酒はKYOTOHOLiC xxxHOLiCボトルね。兄貴が何かで購入したのかもらったのか、日本酒用冷蔵庫に入ってたので、そろそろ飲もうと取り出したわ。
「ワタヌキが小狼の半身とかいまだにこじつけくさしー」
「CLAMP殿らは書きたい物を書いてオチと結末を恐らく考えていないので、どの作品も終わりが微妙な作風なのは古典の漫画家らしいであるな。今は、それだと編集にボロカスに言われるらしいであるが……」
なんで漫画界の事も詳しんだろう? まぁいいや、京都好きになってもらうようにと癖があってちょっぴり不思議なxxxHOLiCとのコラボボトル、お酒の方は正直で癖がなくて、飲みやすい口当たりね。
「じゃあ、乾杯しましょ!」
ガチャリ。
さて、きたわね。
「お邪魔しまーす」
「はい、いらっしゃ……えっ? 花魁さん?」
そこには煌びやかな着物を着たxxxHOLiCの主要キャラクターのユウコさんのような和美人がやってきたのだけれど……さぁ、誰かしら。ミカンちゃんの瞳孔が開いてるくらいやばい系の人なんでしょうね。
「私は犬神金糸雀です。この家の家主です」
「そうなんだー! 私は貧乏神! よろしくね!」
「「「貧乏神!」」」
いやいやいやいや、イメージの貧乏神って凄い見窄らしい姿をしているんだけど、この人凄いお金持ってそうな。
夜の蝶じゃない?
「なるほど、神の類であったか……それも邪神ではなく正統な神」
「そうそう! わかるー? さすが、首だけ妖怪ちゃん」
「あの……貧乏神さん、今からお酒飲むんですけど一緒にどうですか? あと、そこまで裕福じゃないんでこれ以上貧乏にされると困るので、その……」
「えー、お酒ぇ? シャンパン?」
「いえ、日本酒です」
「日本酒ってなんかダサいのよねー、まぁいいか! 飲もうか? 金糸雀ちゃん!」
やばいわ。
貧乏神を家に招き入れてしまったわ。
ぐつぐつと煮たつ蛤鍋を私は運び、冷やしたKYOTOHOLiC xxxHOLiCボトルをワインクーラーの中に入れて用意。
「へー、おっしゃれーな日本酒ねー!」
「じゃあみなさん、まずは一献。お疲れ様でしたー! 乾杯!」
「「「乾杯!」」」
クイッと私たちはまずは神々と同じステージに立つ為にお酒を飲んだわ。物語に出てくる甘露をイメージしただけあって、値段相応の味がするわね。
「このすば酒とはちょい違い?」
以前、このすばコラボ日本酒をそういえば飲んだわね。あれも超高級酒として名高い物だったけど、今回のKYOTOHOLiC xxxHOLiCボトルは大衆を意識しつつも普段の日本酒より明らかに特別な時に飲みたい仕上がりね。
「ぷはー! おいしー! 金糸雀ちゃん、もー一杯!」
「あ、はい。どうぞどうぞ!」
「蛤も食べていい?」
「貧乏神殿、我がつごうであるな?」
「悪いねー、首だけ妖怪くん」
「貧乏神、貧乏じゃなくみえりー」
「そりゃそうよー! ギャンブルする人とかが神様、仏様助けて〜! ってお願いする神様が私なんだもん! 私はそんな人たちの金運をもらって信仰されているから!」
あ、やばい神様だ。
人間の欲とかを食らって生きてるんだ。
「ま。マネーバトラーG 2の出番なりぃ!」
そう言ってミカンちゃんは段ボールに封印した例のアレを取り出すとそれを貧乏神さんに近づけたわ。
「あー! 懐かしい、それ。よく信仰してくれたわー!」
説明書には貧乏神を死滅させるとあるけど、貧乏神さん由来の物だったわ。ミカンちゃんは私から受け取った蛤鍋のお汁をずずっと啜って。
「うまし! 勇者、蛤スキー!」
と現実逃避しちゃったわ。ミカンちゃん勝てない相手になるとほんとヘタレよね。でも蛤とKYOTOHOLiC xxxHOLiCボトル。合うわー! 汁を啜って口の中に蛤の風味がいる内に日本酒で流して、次は蛤の身をいただくの。
「う、うまー!」
「ぽかぽかしてくるであるなー」
「勇者しゅわしゅわで飲みたいかもー」
私たちが蛤鍋を堪能していると、貧乏神さんは手酌で日本酒を注ぎながら楽しそうに一口。
「食事をして幸せ、仲良しとして幸せ、お酒を飲んで幸せ。人間らしくて実にいいねー! そういうところって貧乏神いずらいんだよー! 三人はお金お金言わないのが高得点!」
「まぁ、私も人なりにお金は好きですし、稼ぎたいと思いますけど、そこに近道はないですからね」
「金糸雀ちゃん、えらい! よーし! 私がお酌しちゃおう!」
「えっ……いんですか?」
貧乏神さんにお酌してもらうってどういう状態? てか、見た目No.1だから後でお金請求されるとかじゃないでしょうね?
「貧乏神が与えるのは貧困か、希望かなんだー! 本来与えられる側だからねー! 私」
要するに貢がれまくってるから見た目が花魁化したんだ。貧乏神さん、日本橋とかで小判撒いても違和感なさそうだし。
「良い子は貧乏にしないのが、貧乏神の鉄則!」
「そうなんですね……悪い子だったら貧乏にされてたんですね。こわっ」
私たちはできる限り穏便にお酒と蛤鍋を食べ終え、貧乏神さんを玄関まで見送ろうとした時、
「こーん! にーち! わ……貴女は貧乏神!」
「あ? 敗北の女神がここに何しにきたのかなー?」
ニケ様のオロオロする表情と、生ゴミでも見るような目でニケ様を見つめる貧乏神さん。
二人の間に何があったのか分からないけど、私とミカンちゃんは貧乏神さんに手を合わせてニケ様共々お帰りいただくのをしばらく待ったわ。




