第299話 スクブスとカントリーマァムチョコまみれとデュカスタン・ファザーズボトルと
「ミカンちゃん、化粧水くらいちゃんとしないよ」
「勇者加護があり!」
お土産にパックをもらったので洗顔して化粧水で馴染ませてからって言ってるのにデュラさんも首だけあるので三人でパックをしてしばらくぼーっとしてると、
「染み込むであるなー。して金糸雀殿。本日は食事も終えたわけで、晩酌は軽めで行くであるか?」
「そうですねー。ブランデーでもゆっくり舐めますか?」
「いいであるなー」
「えー! 勇者、しゅわしゅわがいいー」
「ジンジャーエール入れてルージュ・バックにすればいいじゃない。作ってあげるわよ」
「かなりあ、神ぃ!」
おつまみどうしようかしら? ナッツ系? 乾きがいいわよね。ミカンちゃんがまた大量に買ってきたお菓子……あー、チョコ系いいわね。
「ミカンちゃん、カントリーマァムのチョコまみれもらっていい?」
「良き良き!」
たまにはアイスピックで氷成形しようかしら、塊の氷を削り出して私とデュラさんのブランデーグラスにコロンと一つ。そしてミカンちゃんのロンググラスに小さな丸い氷を四つ程入れてあげる。
乾杯の前にガチャリと扉が開いたわ。
「こんにちは〜!」
「はーい」
あら、私が玄関に行くとそこには私学の制服でも着た小学生くらいの女の子。
「あら、貴女は?」
「えー! ここってクソキモいロリコンの家じゃないの?」
「そうね。クソキモいってたまにミカンちゃんに言われるけど、ロリコンの家じゃないわね。私は犬神金糸雀。この部屋の家主です。貴女は?」
ドロンと姿が変わると、そこには角と尻尾の生えた妖艶なお姉さん。この姿、どっかで見た事あるわね。
「あー、サキュバスのサキさんに似てるから、貴女サキュバス?」
「サキ先輩の事知ってるの? 私ははぐれ者のスクバスのスクよ」
「さっきの姿だったら流石に私もお酒の提供できなかったですけど、どうです? 今から軽く一杯やるんでスクさんも」
「お酒? じゃあ、少しだけ」
私がスクさんを連れて戻ってくると、スクさんは……
「ゆ、勇者と上級悪魔のデュラハン様?」
あー、懐かしいはこの感じ、最近誰も驚く的な事ないのよね。そんなスクさんにかくかくしかじか説明。
「とりあえず乾杯しましょ乾杯! 日本という地獄で頑張って生きてるスクさんに乾杯!」
「乾杯なりー!」
「乾杯であるぞ!」
「かんぱい」
うん、やっぱコニャックはいいわねぇ。実にいい。甘くて深く何も考えずに向き合えるわ。
「哺乳瓶の形してり!」
「ファザーズボトルって言って大人のミルクって意味なのよ。70年だか80年前のフランスの偉い人が酒を飲まずにミルクを飲めって言ってメーカーが皮肉を込めて作ったボトルね」
ガン! とスクさんはロックグラスをテーブルに置いて赤ら顔。あっ、この人お酒クソ弱いわ。
「ほんとこの国、ロリコン多すぎなのよ。そもそも、サキュバスに夢見すぎ、そんな都合の良い性処理玩具があるわけないでしょ!」
なんでもスクさん曰く、サキュバスはしょっちゅうそういう行為をするわけではなく、自分の好みに対してでないとアプローチをしないらしい。
「もし、薄い本みたいな種族だったら、この世界に童貞も処女も存在するわけないでしょ!」
「「「なるほど」」」
あまりにも的確かつこの世の中の真理について私は異世界のモンスターに教わることになるとは思わなかったわ。
でもここで私に一つの疑問が生まれたわ。
とりあえず。
「チョコまみれつまみましょう」
「カントリーマァムの突然変異種、チョコまみれ、クソうまし!」
ただでさえ美味しいカントリーマァムをどこの広報の天才がチョコレートでコーティングする事を考えたのか、麻薬並みに美味しいお菓子が出来上がったのよね。
いざ、実食。
「う、うまぁああ!」
「おぉ、カントリーマァムの良さもありながら別のお菓子であるな」
「チョコまみれつよつよー!」
「……おいし」
そこで追っかけデュカスタン。
はぁ、幸せ。そう、私が一番好きなお酒はブランデー。だから別世界線の私、アトリさんがワイン通だったのは少し憧れたわね。
「チョコまみれがいるうちにデュカスタン。デュカスタンがいる内にチョコまみれよ」
かつてブランデーは口の中で転がして飲むという飲み方が日本では流行ったの舌で刺激、鼻で香り、そして飲み込んで余韻。ことマナーという物には正直な民族よね。私はしばらく余韻を楽しんだ後に、スクさんに聞いてみようと、
「何故、スクバスはJS(小学生)の格好をせり? ロリコンに惚れたり?」
「おぉ、そういえばそうであったな。先ほどの言動よりそういうことであるか?」
私がお酒のテンションで聞こうと思っていた事を異世界組の二人はサラッと聞いてしまったわね。
そこに痺れる憧れるわね。
「サキュバス種が、タイプ以外で行動を起こす事があるのよ。それは、元の世界なら死後の魂、この世界なら魂よりも重い目先のお金ね」
「すんごい、アレはお話ね」
まぁ、わからなくはないけど要するに目先のお金に目が眩んで、合法なのかグレーなレベルのデリヘル的な事をスクさんは行おうとしていたわけね。
「なに? もしかして金糸雀ってそういうのに不快感感じるタイプ」
「いえ、別に職業差別はしませんし、性産業だってそれで生活する人がいる以上必要な事だとは思いますけど」
「案外わかってるじゃない! 嫌いじゃないわよ金糸雀。なんなら、好みのイケメンになって相手してあげようか?」
おっと……危ないわね。まぁ、私もガールズバーで働いているし、そういう話になっても特になんとも思わないけど、イケメンとというのに一瞬心惹かれたわ。
「しかしそんなにお金が必要であるか?」
この私たちの世界で生きていこうと思うと、お金はいくらあっても足りないから、そこはそうなんだろうと思ったら、スクさんは……
「だって〜、私のタイプの子をNo.1にしてあげるのにー、お金がもっと、もーっと必要なんだもん」
あっ、このスクさん、ホストに騙されている典型的な女子だわ。お酒弱いからホストクラブの安酒飲んでいいように貢がされてるじゃない。まぁ、それもまた人生かもしれないけど……
「えー、勇者引くかもー」
「まぁ、我らの世界でも悪い男に引っかかる田舎の娘という構図はよくあったであるからな。大抵娼館落ちするであるな」
異世界でもあるんだー。
ピシッと氷にヒビが入ってカランと揺れる音を聞きながら、私はもう一口。そういえば私って女子にモテたわよね。
私が(イケメンに)モテないのはどう考えても貴女達が悪いわね。しゃーないなぁ。
私はスクさんのアゴクイ。
「ねぇ、スクさん。そんな軟弱な男より、もっと良い人いるわよ。お金じゃないのよ愛はなんとかーって歌ってる昭和の歌姫もいたでしょ」
「……金糸雀?」
私を見つめて恍惚の表情を浮かべるスクさんと私を見て「きっも!」とミカンちゃんはむしゃむしゃチョコまみれを食べてルージュ・バックを飲み干してお代わり。
そして、私はホスト狂いの呪縛を解き放ったと思ったら、さすが化け物、もといモンスターだったわ。
「ちょっと、あのチンカス野郎から今まで貢いだお金を取り返してくるわ。それで……金糸雀お姉様にこれからは生涯かけて尽くすので! よろしくお姉様」
「い、行ってらっしゃい」
翌日のニュースで、某所の某ホストクラブに強盗事件が発生。3メートル近い大男という顔を鮮明に写っているのに未だ犯人は見つかっておらず的な内容が流れていたわ。
変身能力がある異世界の人来たら犯罪し放題ね。
そして、恐るべき事が起きてしまったわ。
「かなりあー、水くれ水ー! あとさけー」
「金糸雀お姉様、あのチンカス野郎に借金こさえさせて高級ウィスキーを買ってきましたー!」
「金糸雀ちゃん! どういう事ですかー! こんな悪魔を手懐けて! 女神がいるでしょう!」
色んなタイプのヤバい女達に目をつけられてしまう事になったわ。
はー、やれやれ。また私何かやっちゃったかしら?
まぁ、とりあえずどいつもこいつも、
「(酔い)潰すか」




