第298話 明智光秀とエースコインとクライナーファイグリングと
「えっ、私。本能寺とか行ってませんけど」
私達の前で衝撃の一言を言い放ったのはまさかの天下の裏切り者と名高い明智光秀さん。私は当然歴史で学んでいるから知っているけど、ミカンちゃんとデュラさんはゲームやドラマなので彼の事をある程度認識しているわけで……
「えー! 光秀地味かもー、戦国BASARAの光秀みたいにヴィジュアル系の方が良き」
「うむ。“麒麟が来る“とかは盛ってたであるな」
ちょっとー! ちょっと、ちょっとー! 確かにー、なんかイメージの明智光秀って狂気を秘めていたりとか、二心抱いている的なのあって人ってそういうヤバい人を魅力に思う部分もあるわよ。これは認めるわ。で、実際がほんと、普通の人が来た時どう反応していいか分からないけど、言っちゃダメでしょ。
「ハハっ、殿も遊びが足りぬとよく私に申したものですな」
「信長恨んでなき?」
「まぁー、天下まで王手で突如実力主義を曲げられた所は思う部分はありましたけど、やはり殿は先をみる眼はありましたからな。驚いても恨む程では」
「「「えっ!」」」
じゃあ誰が信長公襲ったの?
「やっぱり猿! 秀吉が信長殺ったり?」
「後の世では信長呼ばわりしていたらしいであるからな」
「いや、羽柴殿もないのでは……言ってしまえば殿の事を名指しで文句などみんな言っていましたよ。だって殿、無茶がすぎるので、冬の戦で酒盛りして凍死者が大勢でた時など、流石の私も激怒しましたしね」
※諸説あるらしいですが、戦死者より多かったとか。
「さすが信長公ね。元祖宅飲みの達人」
「信長つよつよー」
「うむ、信長殿はくっそかっこいいであるからな」
「不思議な場所の皆々様は殿を?」
という事で、かつて信長公が本能寺で亡くなる少し前にこの部屋にやってきた事を明智さんに私たちは語ると、明智さんは目頭を押さえて涙を堪えていたわ。
「誠とに無念でしたでしょうな」
「でも自分の天命を受け入れて、私達が逃がそうとしたのを断ったのは本当に心が打たれましたよ」
「勇者、これアマゾンで買いにけり!」
そう、ミカンちゃんが持ってきたのは、殆ど信頼性のない特級呪物的歴史資料“信長公記“
「太田牛一殿がこのようなものを……」
「当時の寿命を考えても太田殿は長生きであるな! 戦国乱世から江戸時代まで生きていたであるものな」
ペラペラとめくりながら明智さんは時折笑い、時折真面目な顔をして信長公記を読んでいるので、私は何かつまめる物でも戸棚をみると、日清のエースコインがあったのでそれを大きなお皿に入れる。
「勇者パリピ酒買ってたり! 光秀くっそ地味だから、パリピ化させり!」
と言ってミカンちゃんがバケツタイプのワインクーラーに氷と共に持ってきたのはクラブやナイトプールでよく見るクライナーファイグリング。ドンキとかでも最近買える小さいボトルに入った20度くらいのカクテルね。
「どうであったであるか? 歴史は正しいのであるか? いかに光秀殿!」
「デュラさん、それは野暮というものでしょう。未来に私や殿が語られている。それだけで良いではないですか、ハハっ! 私が裏切り者とはまぁ元々色んな場所で仕えておりましたし、地方者の出世をよく思わない者もいましたからな」
やっぱり明智さんは謀反を起こしてないのかしら? だとすれば誰が本能寺の変を起こしたのかしらね。
まぁ、確かに歴史は分からないからロマンがあるとも言えるわね。
「明智さん、お酒はいける口ですか?」
「もちろん! 大酒飲みだらけの信長軍ですよ?」
「光秀、この時代の酒やばし!」
「うむ、我らの世界でもワインの水割りとかで飲んでるであるからな」
※江戸くらいまでの水準で飲まれて酒の度数は5度前後くらいと思われます。
「キンキンに冷やして一気で行ってください。でも無理しないようにしてくださいね」
ショット一杯分の量が入った瓶のクライナーファイグリングの飲み方は一気飲みなんだけど、大丈夫かしら?
「光秀がパリピになれるように乾杯なりー!」
カチンと私たちは小さな瓶を当てて一気にクライナーファイグリングを飲み干す。色んな味が沢山あるんだけどあえて基本のイチヂクじゃなくて私は全員ココビスケット味を選んだわ。クラブとかナイトプールで呑む時は高揚しててさらにキンキンに冷やして飲むからこの味くらい甘い方が美味しく感じるんだけど、戦国時代の人は甘味好きが多いのでチョイスしたわ!
「あんみゃい!」
「おぉ! 甘っである」
「!!!! こんなうまい酒が」
ほらね。明智さんドンピシャじゃん。そこで私はスッとエースコインを差し出すと明智さんは赤ら顔でそれを見て、
「いくつかは見たことのある古銭を使われていますね。お菓子ですよね? いただきま……うまー!」
「時期によってはエース家紋って言って明智さんの家紋を模ったお菓子もあったんですけどね。このお菓子もベストセラー商品です。きっと私が死んでも尚受け継がれていくような物ですよ。ささ、お酒おかわりどれがいいですか?」
色んな色のクライナーファイグリングを見て明智さんは「美しい。されど、これは口にしていい色ですか?」とペパーミント味を見て戸惑ってるわね。ペパーミントはミント系が苦手な人でも割と美味しく飲めると思うけど、戦国時代の人の味覚だとどうなのかしら?
「おぉ! はっか味ですか! これは上品だ。この甘い菓子がよく合いますなぁ」
ミカンちゃんはひょいひょいとクライナーファイグリングをすでに5本目に突入しながらサクサクとエースコインを食べて、
「ゲフッ! エースコイン腹にたまれり」
「勇者、行儀が悪いであるぞ」
いつもながらミカンちゃんは自由ねー。明智さんは「私はもう一本で打ち止めですねーこの酒はきつい!」と最後に呑む3本目を悩んでいるので、私がおすすめをしてみたわ。
「最後は馴染みの深い柚子とかの味がするユズ・マンダリンなんてどうですか?」
「おぉ、ではそれをいただきましょう」
薬でも飲むようにクイっとクライナーファイグリングを飲み干す明智さん、相当フラフラしてるけど、一枚一枚楽しそうにエースコインをつまんで食べて、昔の人って特有の品というか間みたいなものがあるのよね。時代が進むにつれて失ってしまったものなのかも。
「なるほど、私が殿を……ハハっ、それはいい! それは」
なんかー、あれねー、明智さん悪い方にお酒入っちゃったかしら? 最初にこの部屋に迷い込んできた時は、私が名前を名乗ったら、深々と頭を下げて自己紹介をしてくれたのに、今はなんというか瞳に妖艶な何かを光らせて、フラフラと玄関まで戻っていくわ。
「あれは、信長殺りそうな顔をしてり」
「うむ、まごうことなき我々のよく知る明智光秀殿であるな」
まじで! もしかして明智さん、お酒に酔った勢いでやっちゃった感じ? 元々燻っていた部分とかがあって、酔ってスイッチ入っちゃったとか?
ガチャリ!
「先ほど、この扉から復讐鬼みたいな人間の男が出て行きましたがみなさん大丈夫でしたか?」
ニケ様が何やらバスケットに果物なんかを入れてやってきたわ。手土産持ってくるなんて初めての事じゃないかしら?
「あら! これですか? みなさんいやしんぼですねー! これはですねー! 知恵の実です! 楽園で豊作すぎて廃棄しないといけないくらい収穫できたので分けてもらいました! みなさんで食べましょう。各種賢さステータスが上がりますよ。軍略、知略にもたける事ができて、クーデーターや謀反をする人なんかにもってこいなので、先ほどの人間の男にも一つ差し上げました」
「「「あ!」」」
ニケ様だ。
知恵の実食べる前はまだギリギリ自分を抑えられたかもしれないのに、神様の気まぐれで運命の悪戯が起きたんだ。
私たちが黙っていると、ニケ様は台所で知恵の実をウサギさんカットにしてお皿に入れて戻ってくると、
「じゃあ! 金糸雀ちゃん、お酒ください!」
と言うので私は無言で山のようにワインクーラーで冷やされているクライナーファイグリングをニケ様にお薦めしたわ。
流石に居た堪れなさすぎてニケ様のお説教もミカンちゃんですら右の耳から左の耳に流れるくらい。
戦国時代に思いを馳せたわ。
ときは今ニケの節介でやらかす明智かな。




