第297話 ハーフドワーフとそーめんチヂミと東京クラフトホワイトエールと
「最近はDIY人気なり?」
「少し前から海外かぶれの日本人が増えたから人気みたいね」
DIYって要するに海外は古い家に住む事が多いから海外ではマストで素人工事が必要なのよね。対して日本は建物に対する厳しい管理がなされているから、自ら手を加える必要は殆どないので、ファッション性の意味合いが強いのよね。それに私みたいに賃貸に住んでるとDIYなんて夢のまた夢よ。
「そういえば、アマゾンプライムデーでeco popを二つ購入したのよね。ステレオペアで音楽でもかけましょうか?」
私たちはお酒が好き、読書が好き、以外にも音楽を楽しめる文化があるのよね。それは勇者のミカンちゃんも大悪魔のデュラさんもね。
「おぉ! 我はYOASOBIを所望するであるぞ!」
「勇者、キングヌー」
本当に日本に染まりすぎよねこの二人。まぁ、どっちも凄いアーティストよね。私はどちらかというと洋楽の方が好きなんだけど、
「アレクサ、チェインスモーカーズのI LOVE Uをかけて!」
「グラブルのサンプル音声使ってる洋楽なり!」
※興味ある人は聞いてみてください。作者は最初、意味不明すぎてゲシュタルト崩壊起こしました。ラブソングを歌う洋楽に突然、日本語の萌えボイスが入る謎すぎる曲です。
流石に二つスピーカーを使ってステレオペアにすると音がいいわね。しばらくは音楽はこれだけで楽しめそうね。
「本日だけど、デュラさん、そうめん。去年もらった物をさっさと消費したいのよね。じゃないとまた貰い物で増えていきそうだし」
「ソーミンチャープルでも作るであるか?」
「勇者、チャンプルスキー!」
三日前もチャンプル食べたのよねー、ここはそうね。ネオソーメンとして最近巷で流行っているソーメンチヂミでも作ろうかしら。確か材料はニラ、ソーメン、卵があればできるとか、チーズにむき海老も入れちゃおうかしら。
「今日はそーめんチヂミよ」
「アレンジ料理であるな! してどの様に作るであるか?」
ガチャリ。
「修理に来たっすけどー? あれ? ここどこだ?」
あら、珍しいタイミングでの訪問ね。「ミカンちゃん見てきて」「えー! 勇者、ゲームなう!」と言いながらswitchを手に玄関まで行ってくれるミカンちゃん。
「勇者様ぁ?」
「いかにも、勇者なりにけり!」
そう言ってミカンちゃんが連れてきたのは普通の青年。耳の形状が少し変わってるけど、一般の村人って感じかしら? 腰に道具袋を下げているので、大工さんかしら?
「いらっしゃい。ここは私の部屋で、私はこの部屋の家主の犬神金糸雀です。ミカンちゃんとデュラさんは居候です」
「あっ、こんにちは! 家の修理依頼に出張してたんですけど、気がついたらここに、自分はテラ。あんまり口外してないんすけど、ハーフドワーフです」
「なんと!」
「すげー! ハーフドワーフ初めてみたり!」
珍しいんだ。私には全然分からない感覚ね。一見すると普通の人にしか見えないけど、あのずんぐりむっくりしているドワーフの人との合いの子なのね。
「あまり出産例が少ないっすからね。子供の頃はそこそこいじめられたっすよ。でもまぁ、母さんの容姿と父さんの技を受け継いだのでそこそこ今は仕事ももらってやっていけてるっす!」
「へぇ、そうなんですね! せっかく来たんでなんか飲食して行ってくださいよ。もうおもてなしが最近当たり前になりすぎて何にも驚かないわ。ここはそういうところだと思ってさぁ!」
「悪魔と勇者様と……綺麗なお姉さん、じゃあ。お言葉に甘えて」
「テラさん、今なんて?」
「えっ? 綺麗なお姉さん?」
「って私の事?」
「はい」
「もう! テラさんったらー! そんなところに立ってないで早くこっち座って座って!」
綺麗なお姉さんだって! もう!
「き、キモい! かなりあクソキモい!」
「もう、ミカンちゃん。女の子がクソとか言わない!」
こんな気分の良い日はちょっといいお酒を飲まないといけないわね! そういえば最近、再販されたサントリーのプレミアムビール買ってたわよね。
「今日は東京クラフトホワイトエールで乾杯しましょう!」
ビールは缶のままも美味しいんだけどクラフトビール系はやっぱり専用グラスに移した方が美味しいのよね。エール用のグラスを人数分用意して、
「じゃあ! 綺麗なお姉さんは好きですか? 乾杯!」
「乾杯です!」
「乾杯であるぞ!」
「きも乾杯なりぃ!」
ホワイトエールは年末にカレンダービールのドイツビールでしこたま飲んだけど、日本のホワイトエールはそういえば久しぶりね。
うん、オレンジの様な風味が清々しいわね。
「うんみゃい!」
「おぉ、香るエールとはまた違うであるな」
「お、美味しい! 何このエール!」
あら、珍しい。異世界の人は大抵、麦酒って言うのにテラさんはエールをエールって言ったわ。このビールは喉越しを楽しむようなビールじゃないわよね。ミカンちゃんはすでに2本目だけど、じゃあそーめんチヂミを作ろうかしら。茹でたそーめんと刻んだニラに溶き卵を落として油を引いたフライパンにむき海老やシーチキンを引いてそこに生地を流し込むの。パリパリのそーめんが面白い食感になるのよね。最後にチーズを振りかけてコチュジャンソースをかけて出来上がり。
「はい、お待たせ! 適当につまんでみて」
「うおー! うまそー!」
「こういうアレンジ料理は金糸雀殿の専売であるな」
「うわー! 王宮の料理みたい」
前々から思ってたけど、異世界の食文化ってどんな感じなのかしら? 熱いうちにみんなで実食。
うん、まぁ美味しいわね。もう少し辛くしても良かったかしら?
「うみゃい! 勇者、これスキー!」
「チジミのような違う食べ物であるな。が、実にうまいである!」
「金糸雀さん、美人なのに料理上手だなんてすごいなー」
なんだろう。
テラさん、私の欲しい言葉を言ってくれるじゃない。大学の男子は犬神さんって料理上手だよね! くらいまでは言ってくれるけど、美人だとか可愛いとかって単語は聞いた事ないのよね。
そんな言われ慣れてない事言われたら照れるじゃない!
「テラさん、飲んでますか? いくらでもあるのでどんどん飲んでくださいね!」
「楽しんでまーす!」
「やーん、可愛い!」
「きもっ!」
ミカンちゃんに時々キモいって言われないといけないルールはないんだけど、なんだろう。ミカンちゃんみたいに思いっきり正直に言葉をぶつけてくる友人って東京来てからいろはさんくらいしかいない気がするわね。
「シーチキンのが実にうまいであるな! これ、マヨネーズを少し加えても! おぉ! この麦酒によく合うである!」
みんなのビールが足りなくなってきたので、お酒置き場から東京クラフトホワイトエールを取り出そうとして……あっ! やば!
ガシャン!
兄貴の時代から使ってきた、巨大なリカーラックが壊れたわ。これに関してはまた後ほどどうにかしようとした時、
「金糸雀さん! 大丈夫ですか? お怪我は?」
「あー、うん。大丈夫。ありがとうございます」
「これ、立派なラックですけど、よければ自分が直していいっすか? お食事のお礼に!」
「えっ、いいの?」
「任せてくださいっす! 生業は大工っすけど錬金術の方も銀細工士クルシュナ師匠に学んだので金属の手直しもそこそこいけるっすよ!」
「クルシュナさんのお弟子さんだったんだ!」
「師匠の知り合いっすか?」
※第一話登場
私はクルシュナさんとの思い出を少しばかり語り、クルシュナさんのお土産にと東京クラフトホワイトエールを一箱持って帰ってもらう事にしたわ。異世界にいない私たちには知るよしのない事だけど、テラさんが直してくれたテラさん印のリカーラックは丈夫で、ゆくゆく大きな会社を立ち上げるテラさんの商品として目が飛び出るほどの価格で取引される代物になるの。
「いやー! 立派なラックになったであるなー!」
「かっけぇ!」
「そうねぇ、ストック用のお酒置き場にするの勿体無いくらいね」
ガチャリ。
「かなりあー! 水と酒とつまみー!」
「金糸雀ぢゃーん! 聞いてください! 女神長のアテナ様が私が金糸雀ぢゃんに迷惑がけてるとかいうんですよー! 聞いてますかー?」
酔っ払いが二人降臨し、「げっ!」とミカンちゃんが部屋から飛び出して言ったわ。私とデュラさんはこの二人の相手を覚悟していたところ。
「おぉ、ちょっと足がフラフラ」
と言ってニケ様とセラさんがテラさんが作ってくれたリカーラックに! これ壊れる奴だわとか思ったら、
「ダークネス・ディザスター・ウェーブ! であるぞ!」
デュラさん渾身の魔法攻撃で二人が倒れる方向を変えてくれたわ。バタンと倒れた二人は何事もなかったかのよに深い、深い眠りつについたわ。
「デュラさん、ありがとうございます!」
「なんの、こんな立派な工芸品がクソ女神共に壊されると思うと悔しくて次いである! が、我が最強クラスの魔法をくらっても無傷とは恐ろしい害獣共であるな……」
今までデュラさんはクソ女神、クソエルフとは言ってたもののそこまでは言わなかったのに、リカーラックを守ってくれたデュラさんに、
「デュラさん、二人は寝ちゃいましたし、飲み直しませんか? 東京クラフトホワイトエールもまだありますし」
「そうであるな。そーめんチヂミ、我のアレンジを作らせていただくであるぞ!」
「えー! 楽しみー!」
五分後に私たちは二人が目覚めてくる事をまだ知らない。




