第296話 宇宙戦艦艦長とラクダバーガーとモアブハイボールと
“これよりワープに入ります! 各員衝撃に備えてください“
「諸君、この旅についてきてくれてありがとう。我々の船出はおそらく片道切符、宇宙の彼方、サケノンダルに運命背負い今旅だった。改めて礼を言わせてくれ!」
「艦長!」
「艦長! 最後までついていきます!」
「諸君、本日のディナーの前に私は少しお花を摘みに! 宇宙空間のどこに花畑があるねん! なんちゃって!」
宇宙戦艦サバトの艦長・オチタ・ジュウソウは乗組員が大爆笑のコスモギャグを景気よく一発飛ばしてお手洗いの扉を開いた。
ガチャリ。
「ここはー!」
「ぎゃ、ぎゃああああ! 誰ですか貴方!」
「し、失敬!」
今あった事を説明すると、私が自分の部屋の自分お手洗いにお花を摘みに行ったら、何故か知らないオジサンがドアを開いて閉めたわ。
誰あの人? というか警察? というか殺した方がいいのかしら?
「艦長なり? 宇宙戦艦なり! すげー! つえー」
「ほう! 必殺の魔導砲なる超兵器を! SFであるな!」
大体理解したわ。きっと異世界からやってきた人ね。
まぁ、でもそんなの関係ないわ!
乙女の秘め事を覗くとか処刑するしかないわよね?
「あのー!」
私が殺意増し増しでリビングに向かうと、覗きのオジサンは見事な土下座をしてる。
「この部屋の家主殿の犬神カナリア様でいらっしゃいますね? 私は宇宙戦艦サバトの艦長。オチタ・ジュウソウと申します。こんな乙女の……覗きは私の国ならガソリンをかけられての焼身刑。ですが、少しだけ待ってほしい! 私は私の故郷の星に、持ち帰らねばならない物があるのです! どうかこの通り!」
へー! 覗きは焼身刑なのね! いい星じゃない! 痴漢とか児童虐待とかも全部そうすればいいのに! まぁ、正直覗きというか事故だし、おじさんも反省してるし、
「もういいですよ! てか、宇宙戦艦の艦長さんなんですね! 何を持ち帰らなければならないんですか?」
私がそう言った時、ミカンちゃんが私の袖を引っ張って、
「かなりあー、くそ腹減り減り腹なりにけりー!」
そういえば、私たちランチ前だったんだ。という事で、
「艦長さん、良ければ一杯ウチでやっていきませんか? この部屋いろんな人やってくるので! 私たちお昼まだなんで」
「そういえば私も夕食前でしたな! お邪魔でなければ! 異界惑星の食事なんてこんな機会がなければ食べられませんからな」
まぁ、そうよね。宇宙食の方も気になるけど、今日ってそういえば何作るんだっけ?
「バンズにトマトにピクルスにチーズ。ハンバーガー?」
私がそう尋ねると、デュラさんが超能力で冷蔵庫よりパティを取り出したので間違いないみたいね。
「ラクダバーガーであるぞ!」
「ラクダ?」
「うおー! うおー! 砂漠の国で歩いてる獣ぉ!」
どうやらお取り寄せでレアなお肉を注文していたみたい。パティに加工されているみたいだけどこれでハンバーガーを作るみたいね。
「ら、ラクダですと! 3000年前に生息していたという幻の動物……この星にはまだ生息しているのですか?」
「砂漠系の国と鳥取県にいますね。まぁ、私も食べた事ないんですけどね」
※ラクダを食べる某国で食べた時は、はっきり言って臭くて美味しいなとは思いませんでしたが、お取り寄せのラクダパティは馬肉的な牛に近い味で普通に美味しかったです。
「砂漠の国はきつい酒を飲めり! でもシュワシュワがよき! かなりあ作ってほしいかもー!」
砂漠の国が度数のきついお酒を飲むなんて映画かアニメの話よ。暑いからビール一択に決まってるじゃない。でもまぁ、ミカンちゃんの期待を裏切らないように、爆弾でも作ろうかしら。
「どうしようかな。バーボンでいっかな」
私はノンエイジのワイルドターキーを用意して普通にハイボールを作って全員の手元にジョッキを置いたわ。
「バーボンハイボールであるか?」
「それにこれを落として飲むの」
ショットのスカイウォッカを私は手に持ってこう掛け声をかける。
「さぁ、ハイボールジョッキにショットグラスを落として乾杯しましょ! ビールじゃなくてハイボールに落とすから、爆弾は爆弾でも全ての爆弾の母。モアブね! さしずめモアブハイボールね! じゃあセーので行くわよ! せーの!」
ぽちゃん!
シュワシュワーとハイボールの中でウォッカが混ざり合う。本来ビールでやっても20度くらいのお酒なのに、ハイボールで作ると25度近くになるんじゃないかしら? なのに味はハイボール。だったら全部ウィスキーでいいじゃない! とか思うけど、ウィスキーをケチって濃いハイボールを飲みたい貧乏学生の裏技みたいな飲み方ね。
「それじゃあ、艦長の惑星間飛行に乾杯!」
「乾杯なりー!」
「乾杯であるぞ!」
「おぉ、こんなサプライズが待ち受けているとは、乾杯!」
ミカンちゃんはぐびぐび飲んでるけど、これ相当きついわよ。
「ぷひゃあああああ! うんみゃあああああ!」
「おぉお、これはとんでもないハイボールであるな!」
「もう殆ど、アル中カラカラさんが飲んでる領域よね」
「なんたるきついお酒、こんな物をこの惑星の人は飲んでいるのですか?」
「一部のアルコール分解能力が高い人だけなので、普段は私たちもこんなヤバいの飲んでませんから!」
美味しけど、これは良いお酒の飲み方じゃないわね。その場の空気に合わせて作ってみたけど、ニケ様とかセラさんには絶対飲ませちゃダメな奴だわ。
「では、ラクダバーガーも食してみるであるぞ! レンコンチップスを付けてみたである!」
相変わらずデュラさんの料理は私が食べたいと思う組み合わせに落ち着いてるわね。レンコンチップスの薄さも揚げ具合も完璧ね。
じゃあ、
「食べましょうか!」
いざ実食。
艦長がどうやって食べようかと戸惑っているので、ミカンちゃんのように大きく口を開けてかぶりつくか、私やデュラさんのようにナイフとフォークで切り分けて食べていくか、好きな方を選んでもらうと艦長はアメリカンスタイルで手に持って頬張ったわ。
まぁ、ハンバーガーの一番美味しい食べ方よね。
「ラクダ、おいし!」
「うむ、ビーフよりあっさりと馬肉のようであるな」
「これが……絶滅したラクダの味」
ゴッゴッゴッとモアブハイボールを飲み干したミカンちゃん、私は二杯目を注いであげると、
「ラクダつよつよぉ!」
最上級のミカンんちゃんの褒め言葉出たわね。もしかするとミカンちゃんは私の人生で食べてきたハンバーガーの数を超えるくらいこっちにきてからジャンクフードを食べてるからその中でも感動レベルだったのかもしれないわね。
付け合わせのレンコンチップもじゃがいものポテチとは違って味わい深いし、いい箸休めになるわ。お酒が切れたわ。
「デュラさん、艦長。モアブハイボールお代わりどうですか?」
「いただくである」
「ハハっ、この一杯で十分です。これは飲み過ぎ禁止ですね。宇宙の彼方にあるサケノンダルにあると言われている度数20度を超えるスピリッツを見つける事が宇宙戦艦サバトの使命、このお酒を飲み。少し希望が見えてきました」
度数20度のスピリッツって日本の焼酎くらいね。
「それってどのくらい必要なんですか?」
「絶望的な量です。容量としては……そうですねバケツ2杯分。世界を救える量と科学者達は言っていましたね。彼らは机上でしか物を言わない。その一言は世界に滅べと言っているような物……」
うーん、宇宙戦艦を作れるような科学技術があるのに、蒸留酒を作る事ができないのかしら? まぁ、異世界って色々あるみたいだから一概に私の物差しで測るのはアレだけど……
「ちょっと待っててもらっていいですか?」
私はストックのお酒置き場から、大五郎20度、4Lボトル。ブラックニッカ37度、4Lボトル。角ウィスキー40度、5Lボトル(リキュール)。キリンウォッカ50度、4Lボトルを持ってきたわ。
「これ、全部割材としてストックしてるお酒の一部なんですけど、必要なのがあれば好きなだけ持って帰っていいですよ」
「…………こ、こんなに? 私は夢でもみているのか? で、ですがこれを私が持ち帰ったら金糸雀さんは……」
「いえいえ、隣の部屋に十倍以上同じ物ストックしてるので、多分一生かけても飲み切れないんですよね。ウチの酒キチ兄貴のお酒なんで全然気にせず持って帰ってください」
「金糸雀さん、パンツを見たのに、かたじけない」
「……忘れてください。でもでも、そのかわり宇宙航海の話って聞かせてもらっていいですか? 私の世界では宇宙なんてまだまだ遠い未来の話なんですよ」
「構いませんよ」
私達は20度以上のスピリッツがなぜか作れないのに、宇宙戦艦を作れる艦長の世界の話の虜になったわ。これ、きっと本来は航空学者とか天文学者とかが聞くべき内容だったんだろうけど、私たちの世界では不可能といわれて決着した理論がさも当たり前に使われている艦長のお話。
そして食事が終わり、軽いコーヒーなんかで頭を冷やした後、台車に乗せた私の部屋の割材達は艦長の世界を救う為に玄関から旅立って行ったわ。
遥か遠い宇宙の彼方。未曾有の危機が救われたと共に絶対に到達できない場所に同様の文化レベルを持つ知的生命体の存在が確認されたと論文が発表される。そして誰が言い出したのかこんな詩がうたわれた。
飲みたくて、飲みたくて、手が震える。
酒断ち想う程遠く感じて
もう一度飲ませて、嘘でも
禁酒法前のように“スピリッツだよ“って
科学力が進んだ世界は、身体に害を及ぼす事の方が多い酒文化を捨てた。されど、有史以前より、原始生命の頃から生物と関わりの深い酒を切り離すという事は種の根絶に他ならなかった。遺伝子に組み込まれた快感を捨てた時、世界は死ぬのである。
とか、私の部屋のポストにイタズラみたいな手紙が入っていたので、お酒は飲んでも飲まれたらダメねとゴミ箱に捨てたわ。




