第294話 ドンドンジュと牛肉コムタンと茨木童子と
「金糸雀ちゃん、久しぶりですね!」
羽田空港に向かうと、サングラスをしたモデルみたいな美女が私に手を振って搭乗口からやってきたわ。そのあまりの美しさに誰しもが息を飲み、足を止める。
「二度と、日本に戻ってきてほしくなかったり」
とミカンちゃんは私の隣で、何故か海外旅行を満喫したニケ様に不快そうな表情をしてるけど、こうして迎えにきているのはどういう事なのかしらね? 足の丈の短いオーバーオールにオフショルダーを合わせて厚底のサンダル、今日のミカンちゃんの私のコーデも完璧ね。
「烏子ちゃんからお酒をもらいましたのでみんなで飲みましょう! 私に感謝して飲むんですよ! 一人で寂しく困っていた烏子ちゃんの元に私が一緒にいてあげたんですが、金糸雀ちゃん達が寂しくて死んでしまうかと思って戻ってきましたよ!」
烏子叔母さん、なんか若い頃に旦那さんを亡くした人だったかしら? あんまり覚えがないのよね。というか、犬神家の一族って異世界の人ととことん縁があるのね。
「クソ女神がまたほらを吹いてり、今日はデュラさんが新メニューを作ると張り切って候。早く帰りたし!」
「じゃあ、帰りましょうか? ニケ様、ご飯食べていくでしょ?」
「当然です!」
タクシーに乗って家に戻る私達、その間にニケ様はいかに外国で自分が必要とされていたかを語ってるわ。あれだけ信仰されていたら私たちの元に戻らなかったかもしれないとかいってるけど、
「そのまま妄想の海の中に迷い込めば良き、世界中どこを探してもクソ女神を信仰する者いず」
「まぁ、なんにせよニケ様、お帰りなさい」
私がそう言うとニケ様、涙を浮かべて私に抱きついてきたわ。中身がアレじゃなければすごいご褒美なんだけど、
「もう、金糸雀ちゃんは寂しがり屋ですからね! 私がいない日は泣いて過ごしていたんじゃないですか? 飲みすぎてお説教は控えましょうね?」
こうして、何故か記憶改変が起きるのよね。ニケ様は説教上戸であるのは自分ではなく私達だと思ってるし、ほんと自分に都合よく生きてるわよね。
これが、神様だからかしら?
ニケ様からしたら久々の我が家。
「デュラさんただいまー!」
「ただいまなりー!」
「留守番ご苦労ですよー!」
私たちがそう言って部屋に入ると、そこには……
「お邪魔してます!」
「うおっ! まぶし!」
キューティクルのきいたさらっさらの黒髪美少年がデュラさんとお茶を飲みながらかりんとうを食べてまったりしてるじゃない! あまりの輝きっぷりに一瞬目がくらんじゃったじゃない!
「私は犬神金糸雀。この部屋の家主ですけど、貴方は?」
「申し遅れました。僕は、茨木童子と呼ばれているしがない鬼です。ちょっと腕取り返しに行って休憩しようとしたら扉があったので開いたら、ここに。デュラハン殿がご丁寧にお茶を淹れてくださったので、休憩させていただいていました」
「童子殿は大変礼節のあるオーガであるぞ! ささ、皆も中に入って一息つくと良い」
という事で私たちもお茶を飲もうとした時、
「オーガは滅した方がいいですね!」
ニケ様ってなんですぐ戦争したがるのかしら? 今までに何の理由もなくやっちゃったモンスターの人結構いたわよね。
「輪を乱す人は出て行って欲しいかもー」
ミカンちゃんの一言。それにニケ様が私に助けを求めるように見るので、「童子さん何にもしてないのにニケ様の考えはどうかと思いますよ? だってお稲荷さんに匹敵するくらい、鬼は日本では人気なんですから」
昔、中国が日本人を日本鬼子とかいうジャップ的な悪口を大体的にメディアに流してそれを見た日本人は、日本鬼子カッケェ! ってなって萌えキャラできたりしたのよね。ジャップにしても日本人は自ら言うくらいだし、そもそも悪口レベルで言うと世界は日本より2000年くらい遅れてるのよね。死ねとか馬鹿とか言ってる海外の人に対して、日本人はただ一言“臭っ“これだけで、絶望的な感情を相手に植え付ける事を江戸時代より前からやってきた陰湿なイジメ先進国なんだから。最低ね日本人。
「という事でニケ様、みんな仲良くしましょうよ。またどっか飛ばされるわよ?」
「そうやって金糸雀ちゃんも同調圧力に屈する!」
また面倒な言葉を覚えてきたわね。烏子さん何教えてるのよ。
「なんかニケ様、烏子さんからお酒もらってきたんでしょ? それ飲みましょうよ?」
異世界の人、人外化生の人、宇宙人とかエトセトラ。酒飲ませておけば何とかなるのよ。
「おぉ! お酒、僕大好きです! 友人の酒呑童子とよく飲み比べたものです」
「あぁ! 酒呑童子って私も知ってますよ。有名な鬼ですよねー」
「俺屍のラスボスなりけり!」
「すでに酒が好きそうな名前であるな!」
私たちが盛り上がっている中、ニケ様が何やら魔法の呪文を唱えて、ドンと!
「この瓶一杯のドンドン酒です!」
「あら、ドンドンジュですか! それも本場の」
「マッコリではないのであるか?」
「あー、マッコリの一種なんですけど、マッコリの製造過程で蒸したもち米投入して三日位寝かせて度数をブーストしたマッコリですね」
※マッコリは4%から6%くらいに対してドンドン酒は10%前後です。作者等が数日前に韓国でランチタイムに無料で飲み放題だった店のドンドン酒、瓶一杯5L程を全部飲み干したらめっちゃ喜ばれたので是非お試しください。向こうの人は酒飲みに好感を持つようです。
「じゃあなんか、このお酒に合う料理作りましょうか? 吉野家のキムチがあるし、コムタン作りましょうか? デュラさん、牛肉切ってもらえますか?」
「任せるであるぞ!」
要するに牛肉いり小鍋って感じの食べ物ね。スープは適当に中華スープとかで味付けして、そこにお米を淹れて雑炊風に、お好みで大根おろしやキムチで味変する感じね。
「じゃあ、みんな! お酒はいったかしら?」
全員が大きめのグラスを掲げるので、私は「福は内! 鬼も内! かんぱーい!」と掛け声の後に一気にドンドン酒を飲み干すわ!
うんま! これ、烏子さんが作ったお酒でしょ!
「ニケは外なりぃ! 乾杯、ぷひゃー! 微炭酸うまし!」
「クソ女神は外ぉ! うまい!」
「これは甘露などぶろくだ!」
「烏子ちゃん、美味しい!」
5L程の瓶、ちょうど五人いるし、一人1Lは飲めるわね。この前、友達が韓国に遊びに行った時に三人でこのくらい飲んだとか言ってたけど、これは一人で5Lくらい飲める美味しさだわ。全然回らない純度のいいお酒ね。
※全然回らないんです。乳酸飲料みたいで、数日体の具合も良かったです。
「勇者、お代わりなりー! ジョッキで飲めり!」
すでにビールジョッキで飲んでるミカンちゃん。デュラさんも同じくマイジョッキにかえて、
「何というか麦酒ではないのであるが、元の世界の酒感がして尚且つうまいである!」
あぁ、そうね。確かに言うなれば無駄を省いた原始的に遺伝子のどこかに組み込まれた美味しいスイッチ押してくるお酒よね。ここに牛肉コムタンを合わせれば?
「みんなコムタンも適当につついてね」
いざ実食。まずは何も入れずにお米と牛肉をスープと一緒に、
「んまぁ! 追っかけドンドンジュよ」
汁物と日本酒を合わせる飲み方、同じくその国のスープとお酒を合わせるのも美味ね。
「キムチおじやうまし! ドンドン酒お代わりなりぃ!」
待って待って! ミカンちゃん、いつの間にか私の1Lジョッキで飲んでるじゃない。そんなので飲まれたらすぐになくなっちゃうでしょ!
「ぷはー! うまし!」
「僕もお代わりいいですか?」
ゲストを差し置いてミカンちゃん、もう! だったら!
「童子さん、大きなヤカンになみなみ入れたので、どうぞ! お酌しますよ!」
「えっ! いいんですか! 金糸雀さんみたいな美女に、これは高くつくお酒だ!」
「そんなー、美女だなんてー! ニケ様やミカンちゃんの方が可愛いでしょ?」
「そんな事ないですよ。僕は綺麗な黒髪の女性が好みですから」
「えぇ! お上手ぅ!」
「か、かなりあ、キモい!」
ふぅ、ミカンちゃんのキモいいただきましたー!
やっぱりいいわね。美少年、アイドルの追っかけになる人の気持ちが何となくわかるわ。ニケ様がハフハフとコムタン食べてるけど、全然絡んでこないわね。
「金糸雀ちゃん、私も一杯お代わりですよ!」
「はーい! 結構、ニケ様飲んでますよね? 大丈夫なんですか?」
「そうですねー。烏子ちゃんの家で飲んだメッコーラよりこのお酒の方が度数低いんでしょうか? まだまだ飲めますよ!」
酔ってない。
あの面倒くさくなるニケ様が、私はそう思うとドンドン酒をニケ様にドンドン飲ませてみたわ。推定、ニケ様が朝まで説教コースになる量を飲ませてみたけど……
「はぁ、少し酔いますねぇ。僕はこんなうまい酒は酒呑童子と飲んだ酒くらいです」
と茨木童子さんは少しほろ酔いなんでお酒である事は間違い無いわね。デュラさんも顔を赤くしてるし、
「かなりあぢゃん! 私はですね! 烏子ちゃんのいる国で1万人以上の信者を増やしてですねー! 聞いてますか?」
※飲んで五時間くらいしていきなりズーンと酔いが回りました。
いきなりきたわ。時限爆弾みたいに絡んできた。
あー、でもこれねー! たまにこのウザ絡みされないと飲んだ気にならなくなってきた私がいたのよね。ミカンちゃんもウザそうな顔をしてるけど、まんざらでも無いんでしょ?
ルルルルルル!
これは確か、烏子さんの電話番号。
「もしもし、金糸雀です。あー、はい。ニケ様。いますよ。そのせつはおせわになりました。はい? えっ? 泥棒? ドンドン酒の5L瓶が気がついたら盗まれた? えっ? えっと……なんかお酒送りますね」
そうだ。
ニケ様、勝手に人の家にある物当然の如く持ってくる癖があったわ。私はドンドンジュが空になった5L瓶を見つめながら、高級ブランデーでもドンキに買いに行こうとお財布を持ってニケ様が早々にやらかしてくれたのを何だか悪夢でもみている気持ちだったわ




