第293話 【特別編】韓国宅飲み・女神様と、デリバリーマムズタッチと
ニケくんは、あれだな。お酒が入ると幼児化するタイプだな。自分に注目してくれないと機嫌が途端に悪くなる。初々しい限りだ。だが、外で飲ませると、他者に絡み酒はお国柄宜しくない。専ら彼女は私の部屋限定で飲ませる事としよう。
「受験戦争、この国は大変ですね! 子供に覚醒剤を飲ませたり、ADHD用の薬を与えたり、後遺症に苦しんでいる子供が大勢います」
とテレビのニュースを見ながらニケくんが言うので私は驚いた。彼女は文字も言葉も分からなかった筈なのに、高度な文法をすでに理解している。
「ニケくん、韓国語ヒアリングできたのかい?」
「テレビを見て覚えました! 何を言っているか分からないと困りますからね! ふふふ、神々のアカシックレコードの解読よりはるかに簡単ですよ!」
ふむ、容姿端麗で聡明、美しい者は優れているという論文は実際合っているのかもしれないな。そんなニケくんの偽造パスポートも完成したわけで、本日がニケくんとの最後の晩酌になる。さて、韓国グルメも一杯あるわけだけど、大抵日本で食べられるし、ここはデリバリーグルメでも振る舞ってあげようかな。
「ニケくん」
「はーい! なんですか烏子ちゃん!」
「ふふ、ちゃん付けはなんだかこそばゆいな。今日はハンバーガーを食べようと思うのだけれど、好きかい?」
「ハンバーガーはですねー! 大好きです!」
「うん、いい返事だ。セラもその内帰ってくるだろうから、三人分注文しておこうか? お酒はあえて、マッコリにしようか?」
「麦酒などの方が合いませんか?」
ふふふ、マッコリはね。コーラで割ると面白いお酒に早替わりさ。きっとペーペーの金糸雀じゃこんな飲み方させてもらえないんじゃないかな?
「まぁ、任せてくれたまえ! きっとニケ君が気にいる物を出そう。それより、ハンバーガーだ! 何がいい?」
「プルコギバーガーも美味しそうですけど、サイバーガー気になりますね!」
「じゃあ、二つずつ頼もうか? 骨なしニャンニョムチキンにケイジャンチーズフライドポテト。これだけあればいいかな?」
「烏子ちゃん、どうして私にここまでしてくださるのですか?」
うーん、それは難しい質問だね。
「じゃあ、ニケ君、逆に尋ねよう。誰かを助けるのに理由がいるかい?」
「金糸雀ちゃんも天鳥ちゃんもそうでしたが、貴女達は人間にしておくのが惜しいですね」
「ははははは! とても面白い冗談だね。でも、我が子にはよくだらしないところがあると叱られるよ」
「烏子ちゃんがですか? なんとも厳しいお子さんですね。大女神アテナ様のようです」
「戦いの女神か、私は争いよりも君。勝利の女神の方が好みだね。敵はいつだって自分自身だと私は思っているんだ。徳を積めばどこかで神様が見ててくれるかもしれないしね」
「私が神ですよ!」
「はいはい、君は確かに酔った愛らしさも含めて女神だよ。昨日は面白い話を延々と六時間は聞かせてくれたね」
彼女は作家か何かなのかな? 異世界から現れた魔物を女神という設定のニケ君と人間達と魔物、神々と一体になって撃退したと、共有の敵を作るというのは実に戦術としても戦略としても創作としても正しい。
だけど、現実にはそうはいかない。数年前、人類に共通の敵と言えるコロナウィルスが蔓延したけれど、世界は一つになるどころか、荒れに荒れた。
「ニケ君の語る世界がくればいいね」
ピンポーン!
「おや、デリバリーが届いたらしい」
しかし、韓国という国は文化を最近作り始めたと言っていいね。アイドル、グルメと各国の物を真似て独自の進化をさせる。ようやく黎明期を脱したわけだけど、あとは中国の傀儡である事を辞めた時本当に素晴らしい国になると思うんだけどね。実にいい匂いだ。マクドナルドとも違う、韓国ロッテリアとも違う。
ガチャリ。
「烏子ー、今帰ったぞー! 酒ー!」
おや、セラ君が帰ってきたね。これでニケ君における韓国最後の晩餐が始められそうだ。
「セラ君、ちょうど食料も届いた。手を洗ってからこっちへきたまえ」
本日はシャンパングラスと行こうか、マッコリとコーラ。マッコーラを全員に注ぎ、私はグラスを掲げた。
「我ら、生まれも育ちも違うが犬神の門をくぐりし飲み友だ。今晩は無礼講でやってくれ! 私の先祖の犬神も不思議な客人を酒でもてなしたと祖母に聞いた事がある。なんともそれは羨ましいと思っていたが、私も似たような経験ができるとは思わなかった。この出会いに感謝! 乾杯」
「ふふ! 私はどこにでも存在し、どこにも存在しない。シュレディンガーのエルフとは私のことだ! 乾杯」
「あれですねー! 金糸雀ちゃんと違って烏子ちゃんは話せば話すだけ大人ですね! 乾杯です!」
嗚呼、楽しい。
「ふーう、マッコーラはうまいね」
「烏子ちゃん! 美味しい! 私はですねー! いつも人間達にですね」
「烏子ぉー! お代わりー」
学生結婚で子供を産んで、そのまま研究員として働いて、女子会のような事はてんで経験がなかった私への神様からの贈り物かな? だとしたらこれはとても嬉しい。
「二人とも、酔うのはまだ早いよ。まずはプルコギバーガーから食べてみようか?」
ハンバーガーとお酒というジャンクな組み合わせは本当に合うよね。もしゃりとプルコギバーガーを齧ってそしてマッコーラで流し込む。時折、ケイジャンチーズフライドポテトを摘んだりして。
「あああああ! 烏子ちゃん、おいじいいいい!」
「そうかい、ニケ君に喜んでもらえて良かったよ」
「烏子、ニケをあまり甘やかすなよ! 割と依存しやすいんだ」
「セラ君、君がそれを言うかい?」
「女神ニケは私がかつて魔王と戦った勇者達のパーティーにいた時に生まれた女神でな。レヴィアタン等も同期で奇跡の世代と言われている女神だった。いや、この話はやめておこう。さて、メッコーラのお代わりを」
「セラ君、それ以上飲むとまたトイレに篭るだろう? コーラにしたまえ」
「烏子ぢゃん! おさげおがわりぃ!」
「はいはい、ニケ君も飲みすぎると明日の便で大変な事になるよ。さて、まだ入るだろう? 次はチキンの挟んだサイバーガーを頂こうじゃないか!」
私は自分のグラスのマッコーラを飲み干してマッコーラを入れ直す。セラ君は素面に見えていきなりリバースするからもうコーラだな。
マムズタッチのハンバーガーの定番はどちらかというとこのサイバーガーなんだよ。
※日本では渋谷に一店舗だけあります。サイバーガーの見た目はKFCのチキンサンド(最近バーガーに改名したのを作者は認めてません)に近い感じですが、めっちゃくちゃサクサクします。
「サイバーガーのサイってなんですかー!」
「鶏のももの事だよ。まぁ、やってごらん。中々良い食感だからさ」
ニケ君とセラ君がサク、バキと小気味良い咀嚼音を響かせながら美味しそうに食べる姿を見るだけで楽しいものだな。私は飲むけど、実はあまり食べないので、こんなに普段食べ物が並ぶ事はない。
「おいじぃーー!! あぁあああああ!」
それにしてもニケ君はよく感動して叫ぶ子だね。かなり酔ってそうなので彼女コーラにしておこう。私が残りのやかん一杯分のマッコリを処理すればいいか。
それから朝方までニケ君の作り話とセラ君の作り話を聞いて、二人が眠りについたので、私は洗い物を済ますと、ニケくんが帰る準備を進める。
「おはようございます。烏子ちゃん」
「やぁ、おはよう! ニケ君、金糸雀に電話をしておきなさい」
私のスマホを渡して金糸雀に電話をさせると何やら話し込んで何か金糸雀「金糸雀ちゃん、違うのです! 私はですね!」と何か説明をしているな。
「ニケ君、タクシーを呼んでいるのでそれで空港まで行って帰るといい。お金は支払い済みだ」
「烏子ちゃん、私は貴女に何も返せていないのですが」
「君は女神なのだろう? 神に何か見返りを求めるものじゃないさ! いや、もうすでに貰ったか。君との二日日間は中々ファンタスティックだったよ! そうだね。じゃあお祈りだけしておこうかな? 私の子供の人生に勝利がアランことを」
私とニケ君はそこで別れた。
それからニケ君と会う事はなかったし、金糸雀とも別段仲の良い親戚でもなかったので連絡する事もなかったのだけど、我が子と会った時、何かある度に助けてくれる。自らを勇者と名乗る外国のお姉さんがいたときく。
多分、ニケ君の事だろう。




