第291話 ガープとスーパーのピザと宝焼酎ハイボール(岩谷の新生姜わり)と
「新幹線クソかっけぇ! 勇者もシンカリオン乗りたし」
男児向けロボットアニメをミカンちゃん達と視聴して私はふと疑問に思ったわ。新幹線ロボットになるという事は軍事転用されてるんじゃとか? 新幹線乗ってて突然ロボットになられたら乗客は一体どんな感じになるのか? とか、いやアニメや漫画のご都合主義だとはわかってるんだけど、リアルだったらヒッチャカメッチャカになってるわよね。
ピンポーン!
あら、この感じは兄貴が贔屓にしている酒屋さんね。
「はーい! ちょっと待ってくださいねー!」
「金糸雀ちゃん、今日も可愛いね。はい、これ新商品」
「あはは、ありがとうございまー。というか兄貴っていくらくらい前払いしてるんですか?」
「一生分? じゃあねー!」
お酒一生分っていくらよ。兄貴の事だから大勢で飲むことも考慮して2000万くらい前払いしてそうね。さて、本日の新商品は……嘘でしょ! こんなお酒出ちゃったの?
あのオツマミの征夷大将軍、岩谷の新生姜。それで割ってある。宝焼酎のハイボール。綺麗なピンク色の缶だけど、味の想像が全くつかないわね。
「おや、宝焼酎ハイボールであるか? 美しい色であるな!」
「うおー! うおー! 勇者、焼酎ハイボールスキー!」
炭酸ならなんでも好きでしょうが、と言うかこれが異世界組の反応って思うと少し泣けてくるわね。割と年齢がいったおじ様達に大人気の宝焼酎ハイボールを勇者と魔王軍の幹部から知名度激高なんだもんね。
「とりあえず今日はこれを飲むとして……おつまみどうしよっか?」
ガチャリ。
来たわね。今日の来訪者は誰かしら?
「こんにちは〜!」
あらやだ、そこにいたのは細い目をした優男系のイケメン。私は声をワントーン高くして、
「いらっしゃい。私はこの家の家主の犬神金糸雀です!」
「かなりあきもっ」
私が女を見せると恒例のミカンちゃんの煽り、これってミカンちゃんなりの嫉妬なのかしら? 細目のイケメンは、
「自分は、元は能天使、今は大悪魔ガープでーす!」
「我とは別種の悪魔であるか、天使から堕ちたる者であるな。そして凄まじい力を感じるであるぞ!」
「うわっ! 別の悪魔ハンと、神々の加護もりもりの人間ですかー! お邪魔しますねー!」
なんか凄い軽い感じで入ってきたけど、ガープさんは私の手を取ると、跪いて、
「金糸雀ちゃん、自分と契約してくれませんか? 自分をNo.1にして欲しいゾ! 金糸雀ちゃんが違うなーと思ったら、いつでも契約解約していいからさ!」
あらやだ! ホスト的な?
「契約しま…………」
「金糸雀殿、悪魔と契約すると厄介であるぞ! 解約方法が難解の極みで」
「目が細い奴は詐欺師なり! アニメや漫画だと最初に裏切れり!」
ザ・ホストです! という作ったイケメンより、この手の適当そう、チャラそうなの二心抱いてそう。と言う細目イケメンの破壊力は危険ね。ミカンちゃんとデュラさんがいなければホスト沼という闇に呑まれそうだったわ。
「デュラさんは悪魔ですけど、契約とかないんですか?」
「我は魔王様の家来である故、給金は固定であるからな。飛び込み契約をする手の悪魔は元々、天使から堕ちた者が多いである。神々に仕えていた時から制約と条件指定が厳しかった名残であろうな」
はは〜ん。デュラさんは憂慮ホワイト企業勤務の管理職で、ガープさんはブラック派遣ってところかしら。
「まぁ、ガープさん。営業頑張ってください。契約はしませんけどとりあえず本日は何かご馳走しますから」
「勇者、イオンのピザ買ってきたり!」
あー、丸々で六百円くらいの可もなく不可もないイオンの惣菜ピザね。しかも4枚も……プロセスチーズとパルメザンチーズを追加で振って、アンチョビ缶のアンチョビ乗せてオーブンで焼けばばそこそこ美味しくなるかしら?
「じゃあ、とりあえずピザが焼ける前に焼酎ハイボール(岩谷の新生姜割り)で乾杯しましょうか? じゃあ、岩谷の?」
「「新生姜なり!(であるぞ!)」」
「なんだなんだこのテンション! 乾杯でぇーす!」
やっぱりあのCMの真似をしないとダメよね。私たちはピンク色をした焼酎ハイボールをごくごくと若干の不安を感じながら飲む。あー、生姜だもんね。普通にこれジンジャーハイだわ。それも上品な甘みがあって美味しいかも。
「うん、結構いけるわね」
「岩谷の新生姜に負けない宝焼酎ハイボールも凄いであるな」
「ぷっひゃあああ! うみゃあああああ! お代わりー!」
相変わらず炭酸系だと飲むの早いわねー。ミカンちゃん、一人で数日留守番させたらコーラとお菓子持って部屋に引きこもりそう。
「これ……ちょ、これ。うま! こんな酒。悪魔界にはないデス」
そりゃないでしょうよ。悪魔よりもこの世が一番人を惑わすように出来てるんだから、でも美味しいと思ってくれるのは気分いいわね。
チーン!
オーブンからピザが焼けたという意思表示。デュラさんが超能力で運んできて鍋敷を引いてそこに熱々のピザを置いてくれるわ。さらに魔法で綺麗に八頭分。本当に魔法って凄いわね。
「うまく切れたであるな! さぁ、タバスコに洋胡椒に乾燥唐辛子。好きな物で食べるといいであるぞ!」
「勇者。俄然タバスコなりぃ!」
全く、ミカンちゃんお子様なんだから! ピザといえばグリーンチリソースでしょ! デュラさんは乾燥唐辛子。キョロキョロしているガープさんにミカンちゃんがタバスコをさっと渡したわ。
「ピザ初めてなり?」
「恥ずかしいながら」
「究極の引きこもり飯、ピザパイ。食べれば別れり、その破壊力! 勇者、ピザだぁーいすき!」
いざ、実食。
「おぉ! 美味いであるな!」
「うんみゃあああああ! ピザつよつよぉ!」
「これ、うんま!」
まぁ、異世界組の感想ね。なんだろう。このスーパーのピザ、なんだか懐かしい味がするわ。宅配ピザや自家製ピザ、冷凍ピザともまた違う。よく言えば、ジャンキーで、悪くいえばチープな感じ。あぁ! 思い出した。
近所のパン屋さんにあったピザパンに似てるんだ!
※宅配ピザがくっそ普及する前はピザはパン屋さんの専売特許でよく作られてました。しかし案外売れないので作るパン屋さんが減ったんですが、平成の最後くらいまで1ピースピザを売ってるパン屋さんがちらほらありました。しかも、今思えばデリバリーピザよりはるかに美味しかったです。
「ここに、焼酎ハイボール(岩下の新生姜割り)を追っかけると!」
あっ! これ、めっちゃ合うわ。これがいいちことか二階堂とかじゃなくて宝焼酎のハイボールだから見えてくる景色がね。
「そういえば、ニケ様ってどうしてるのかしら?」
「さぁ? どこかで拾い食いでもしているのではないであるか?」
「クソ女神故に死なず、愚かに浅ましくたかってり」
日頃の行いが酷いから比例して酷い言われようね。ニケ様の事なんで、身柄に心配はないんだけど、よそで迷惑かけてる心配があるのよね。
「め、ニケというのはまさか、女神ニケの事だったり? 違うよねー!」
ガープさんが凄い冷や汗。どうしたのかしら?
「最近見ないんですけど、ウチでよくお酒となんか食べにくるんですよ。ニケ様、お知り合いですか?」
「契約してくれた人間が悪魔との契約クーリングオフされるともれなく女神ニケがやってきて……仲間が大分やられたんだよねー。金糸雀ちゃーん。契約迫ったとか口が裂けても言わないんでちょ! 自分消されちゃうよー! マジでー! ここ怖いからそろそろドロンするわー。ご馳走様ー!」
あら、ニケ様。そんな詐欺に対する消費者センターみたいな仕事してたのね。一応女神だったわあの人。名前だけで悪魔を震え上がらせるニケ様の神格に驚きながらも私たちは普段のニケ様を思って、誰がいうわけでもなく玄関に向かって焼酎ハイボール(岩下の新生姜割り)を掲げてニケ様に乾杯を送ったわ。
ルルルルルル! スマホが着信。
「えっ? 国際電話かかってきたんだけど、もしもし? ニケ様? サランヘヨって、韓国? は?」




