第285話 シェイプシフターとゴーヤのモツ煮込みと梅サワーと
「金糸雀ちゃん、アナザー勇者お風呂掃除終わりましたよ! お買い物、行ってきましょうか?」
「あ、りがとうございます」
「ひっ……」
とんでもない事が起こってしまったわ。ニケ様が女神になってしまったの。ミクーンちゃんがドン引きして私が腰を抜かしていると何か恐ろしい物でも見るように本来恐ろしい者のハズのデュラハンの首だけのデュラさんが、
「金糸雀殿、ミクーン殿。一体これは? クソ女神の新手の嫌がらせであるか?」
「ふぅ……デュラさん、ありのまま起こった事を話すわね? 私が起きたら、ニケ様が女神的な事をしにきたと思ったら、本当の女神みたいな事を今、してるの。なにを……何を言っているか分からないと思うんですけど、私も何が起きたのか分からないの。頭がどうにかなりそうよ。神の加護だとか呪いだとかそんなチャチなものじゃ断じてないわね。もっと恐ろしいものの片鱗がリアルタイムでお買い物中よ」
どうせニケ様の事だから、お酒と自分の食べたい物を買ってきて散財するに違いないわ。私とデュラさんは祈るように、誓うように、願うように、そんな終わっている行動を取って戻ってきてくれると思ったわ。
「金糸雀ちゃーん、デュラハーン! ゴーヤが安かったので、このモツと煮込みなんて作ってくれませんか?」
そう言って私にトートバックを渡すニケ様、綺麗なゴーヤが二本とビニールで二重に包まれたモツ。成程、さてはこのニケ様、ニケ様じゃないわね。ニケ様は3歳の子でも我慢できるお店の中で買った物を開けないという事ができないのに、ビニール袋を使うなんて考えができるわけないわ。
「金糸雀殿、このクソめ、いや女神はもしかすると」
「うん、デュラさん。私思うのよね。本物かどうかより、女神かどうかじゃないかなってね」
「誠の女神の模範なりにけり」
私達は満場一致で、目の前の神々しいオーラを放っている何者かをニケ様(真)と仮定する事にしたわ。だってもしかすると……
「勇者達の前に現れていたあの邪悪なる女神が偽物であったり?」
「……盲点だったわね。私達、ニケ様ってあのニケ様しか知らないから」
「うむ、まぁあれは限りなく悪神に近い何かであろうしな。が、女神ニケが言う通り、ゴーヤとモツの煮込みを作ろうであろう」
私達は目の前でニコニコと微笑んでいるニケ様(真)の言う通り、ゴーヤとモツの煮込みを味噌味で作り始めると、ニケ様(真)は……あぁ、ああああ。編み物を始めたわ。
「デュラさん、あれ」
「金糸雀殿、見ぬ方が良い事もあるであるぞ」
「そうですね。お酒準備しますね。砂糖を一切使わずにウォッカで漬けた梅酒があるんで、これでドライな梅サワーでも作りましょうか」
ミクーンちゃんがうっとりとニケ様(真)を見つめているので、本当に今のニケ様がニケ様なのかもしれないと私も思い始めたわ。湯煎して油をとった下ごしらえをした牛モツに適当に切ったゴーヤを味噌ベースのタレ、日本酒をドバドバと入れて煮込むわ。ちょっとだけワタを一つまみするのがデュラさんならでは、苦味をプラスしたわね。
「二人とも、完成であるぞ! さぁ、食器を用意する故、女神ニケもきりの良いところで手を置くと言い」
「はい!」
デュラさんの精神ダメージが凄いわね。普通に返事をしただけなのに、邪悪さが一切ないわ。私は50度のウォッカで砂糖無しで漬けた梅酒を用意すると、レモンを絞って炭酸水と割った梅サワーを人数分。
すると! 私は気絶しそうになったわ。デュラさんなんて泡を吹いてる。
「この勝利の女神ニケ。全ての命ある者の明日の勝利を願います! 乾杯!」
祈っとる! あのニケ様が、いや、この方はニケ様(真)だったわね。祈りを捧げているの。自分の都合で力を使っていたあのニケ様とは違い、私達はそれが当然のように行っているニケ様(真)に感動を覚えながらグラスを掲げたわ。
「乾杯!」
「乾杯であるぞ!」
「乾杯なりけりー!」
んぐんぐんっ! なんてドライなの、推定15度くらいの梅サワー、無味のウオッカが梅の風味を引き立ててレモン汁が味の調整に一躍買ってるわ。さて、お神酒は十分。次はゴーヤとモツの煮込み。いざ実食よ!
ぱくりと食べた瞬間広がる苦味、と思ったら味噌とモツの脂身がそれを中和して、自然と梅サワーに手を伸ばしてくれる。ニケ様は姿勢正しく、食べ方も飲み方も綺麗で、毎回グラスを置く前にテーブルをネモフィラモチーフのハンカチで拭いておいてくれる。
完全に別人が確定したわけだけど。
「ニケ様ぁ、次は何食べたいですかー?」
「うむ、女神のチョイスで作るのも悪くないである!」
「勇者、買い物いけりー! 真なる女神ニケ、信仰せり」
「あらあら、まぁまぁ!」
この瞬間、私達のテーブルに花が咲いたような幸せな空気が出来上がったわ。うふふ! あははは! と私が思う最高の宅飲みが一席設けられたと言っても過言ではないわ。そんな空気は長くは続かないのが、世の常である。何故なら、もうこの部屋の中にいるのよね。
「金糸雀ちゃん! 別世界の勇者! デュラハン! なんですか! シェイフシスターと私を間違えて!」
ニケ様(偽)が怒って入ってきました。それに暗い表情になるデュラさん、殺意が増していくミクーンちゃん。そんな中でもニケ様(真)は「これ、とっても美味しいですねぇ!」と優しい空気を出すものだから、ニケ様(偽)がブチギレたわ。
「私の容姿で、私の声で! みんなを惑わすとは何という事ですか? 太陽神が許そうとも、勝利の女神は許しませんよ!」
「まぁ、待つといいクソ女神よ! この女神ニケは良いやつなのである」
「デュラハン! あなた! 魔物である貴方ならこの偽物から神気が放たれていない事に気づいているでしょう!」
「うぬぅ、クソ女神が纏っている邪悪なオーラの事を神気と言うのであれば……」
ニケ様、次は私を見て、
「金糸雀ちゃん! この偽物、何か普段の私と違っておかしいという事があったでしょう?」
あるにはあったけど、普段のニケ様がどう考えてもおかしいというか、狂っているというか……私たちは勇者ミクーンちゃんにバトンを渡したわ。
「この女神ニケこそ誠の女神と認めり、自分の事を女神と勘違いしたシェイフシスターは消え去れ!」
その瞬間、ニケ様(真)は私にしか見えない冷たい笑みを見せたわ。多分、これで入れ替わりができたとかそういう感じなんでしょうね。でも、ニケ様、自暴自棄になったら何しでかすか分からないないのよね。
「分かりました。私が女神である証明をします。その魔物を消滅させます」
ほら出た。一番最低な力による行使、でもミクーンちゃんが神殺しのスキルを……
「勇者の力が反応せず……」
「私に楯突く者の加護は消去しています! 武器も没収です」
「恐ろしくクソな神であるな。女神ニケよ。逃げよ!」
このままじゃ、ニケ様に消滅させられています可能性のあるニケ様(真)。私はそんなニケ様(真)の手を握って、
「行きますよニケ様(真)こっちです!」
「待ちなさい金糸雀ちゃん! その泥棒猫殺せないでしょう!」
物騒な事を言っているニケ様をデュラさんとミクーンちゃんが止めてくれているけど、ニケ様(偽)。本当の女神だけあって本当に強いのよね。私はニケ様(真)を玄関の扉の先に押し込むように逃がしてあげる。
「金糸雀ちゃん?」
「短い時間でしたけど、貴女は間違いなく女神でした。さようなら、お元気で」
シェイフシスターとかいう魔物だったのかもしれない。だけど、私たちの心の中には今もなお女神ニケ様(真)が生き続けているのだ。
余談だけど、狭い地域で、女神ニケ様の信仰が盛んだと聞いたけど、それがニケ様(真)なのか、ニケ様(偽)なのかはわからないわ。
「わかりますか? 金糸雀ちゃん、私は人間達を率いてですね! あの異世界の魔物相手にこういってやったのです!」
本日もニケ様(偽)はお得意の昔話を聞かせてくれるわ。




