第283話 ヴァンパイアロードと冷奴と白ワインのオンザロックと
「勇者、納得がいかず! 女神を名乗りし邪智暴虐の邪神は滅ぶべし」
いや、そうなんだけど……グゥのねも出ないんだけど、私とデュラさんで説得を試みるも絶対に縦に頭を振らないミクーンちゃん。
「勇者ミクーンよ。であれば何故、我を滅ぼそうとせぬであるか?」
デュラさんがとっておきの自分は魔王軍に属しているという建前の話をしたところ、ミクーンちゃんは……。
「勇者、デュラさんには感謝せり! 大悪魔とはいえ、誠の騎士の心をみたり! 故、勇者はこの世界の勇者では無きため、デュラさんには危害を加えぬ所存なりにけり」
「ブワッ! 勇者ミクーンよ!」
デュラさんが陥落したわ。今のミクーンちゃんは神殺しの力を持っているから下手したら本当にニケ様消されちゃうわ。ミクーンちゃん、インスタントのカレー職人を食べようとしているけど、ご飯のグラム数もきっちりと測ってミカンちゃんにはない几帳面さ。
「勇者、職人気質スキー! 故にカレー職人も好き! いただきますなり!」
もっもっもとカレーを食べるミクーンちゃん。テーブルに座って、手をあわせて、マナーもちゃんとできてるわ。ミカンちゃんならソファーにひっくり返って食べてるのに……
「金糸雀殿、もう勇者ミクーンで良くはないか?」
「うん。私もそう思ったけど、ミカンちゃんがいないと私とデュラさんの体調にいつか不調をきたすわよ。とりあえずなんか飲みながら話そっか?」
適当にお酒を選ぶ中、ワインのオンザロックが美味しいって従姉妹でバーテンダー(バーメイド)の碧狼ちゃんが言ってたわね。
「今日は白ワインのオンザロックでもどう?」
と言った時、ガチャリと扉が開いたわ。デュラさんがゆっくりと私の前に、カレーを食べていたハズのミクーンちゃんも神殺しの剣を握って玄関を警戒する。
「ヒーホー! ここは一体どこだ? この真祖にして至高の吸血鬼たるヴァンパイアロードが迷い込むなんて実に面白い!」
凄い人きたわ。ドレッドヘアで爪がめちゃくちゃ長いデスメタルみたいな格好の女の子。
「金糸雀殿! 大悪魔クラスである!」
「ヴァンパイアロードなり! 準魔王種、超危険であると勇者は真面目に答えり!」
成程、ヴァンパイアの方は何回か来たけど、その中でも一際位の高いヴァンパイアの人ってことね。私はヴァンパイアロードさんにお辞儀をして、
「私は犬神金糸雀、この部屋の家主です」
あー、なんかこのセリフも久しぶりすぎて涙が出そう。吸血鬼って何食べるんだっけ? トマトとかかな? あと赤ワイン?
「赤ワインは酸っぱくして渋くて苦手!」
「じゃあ、白ワインの棘がなくなるオンザロックなんてどうですか?」
「えー、それ甘いの?」
「甘口もありますよ」
「じゃあそれで! おつまみはヘルシーでタンパク質取れるのがいい!」
めっちゃ女子だわ。まぁ、女の子だけれども。そうなると、日本が誇る至高のおつまみ、豆腐しかないじゃない。私はヴァンパイアロードさんを連れてリビングに戻ると冷蔵庫を開けて豆腐を一口大に切って醤油、ポン酢、ゴマタレ、バルサミコ酢とつけ汁をいくつか用意。そしてオンザロックに甘口の白ワイン、今回はシャトー勝沼の白わいんを使うわ。
足のないボウル状のワイングラスにロックアイスを入れて、甘口のワインを注いであげる。甘い飲み物は冷やすと甘味が収まるっていう子供の頃に習ったわね。缶ジュースとその隣に角砂糖を置いて、どのくらい砂糖が入っているかみたいな脅し授業を覚えている人も多そうね。
「それじゃあ、ヴァンパイアロードさんとの出会いに乾杯!」
「いただきマンドラゴラ!」
「乾杯であるぞ!」
「ヴァンパイア、死んでるから死語使えり? 乾杯」
いただきマンドラゴラって異世界でも死語なのね。そんな感じしたけど、居酒屋とかで、テンション上がったおじさんとかが、いただきマンモスって言ってると、店内全体の空気が凄まじい事になるのよね。
さて、シャトー勝沼の白わいんは……安定と安心の美味しさね。気候と土壌の問題で赤ワインには適さない日本だけど、白ワインは別格ね。あと、世界一と言っていい水の美味しさもお酒作りを後押ししてるのよね。
「わー、甘くておいちい!」
「うむ、酸味より前に甘味がくるであるな」
「うんみゃたにえん!」
「世界も認めたブドウ、甲州を使ってるワインよ。赤の評価は中々厳しいけど、白に関してはヨーロッパも大絶賛してるから、海外向き、という事で異世界組には合いそうね。じゃあこれを踏まえて奴食べましょうか?」
冷奴を食べると夏が来たって思うわね。これにきゅうりの浅漬けに枝豆なんかが飲兵衛の季節感ね。いざ、実食。
まずは醤油から、うん。普通にんまいわね。
「うーん、人間の若い娘の柔肌のように柔らかくてンマー」
ヴァンパイアロードさんのその言葉にミクーンちゃんが反応。綺麗な持ち方で持っているお箸を置いて、
「吸血鬼、人を襲えり? 子供を捕食せり?」
「ううん、私、ビーガンだからー! ちょっと血肉とかはー、あっ! 吸血鬼なのに血飲まないのかよー! とか思った? 思った? びっくらこいただろ? 真祖は血なんて飲まなくても普通の食事で栄養取れるんだー! これ、真祖の鉄則ね!」
「吸血鬼を討伐せずに済み、勇者の心の平穏は保たれり」
「ドイヒー! 勇者もお豆腐食べナイトウォーカー!」
「なりっ!」
ミクーンちゃん、まともだと思ってたけど、いや、まともだから小さな悪とかにも敏感なのね。ミカンちゃんとは違ったややこしさを含んでるわね。
「ポン酢と違ってバルサミコ酢と醤油のブレンドがたまらんであるぞ!」
私たちは自分のフェイバリット冷奴の食べ方を探りながらお酒が進む。ヨーロッパだとチーズとワインのところ、豆腐とワインが合うのは、両方その国の風土に根付いたものだからかしら?
私は白ワインと冷奴を食べながら、実は視線を玄関に向けてたの。玄関には凄い美人が仲間に入りたそうにこっちを見ているわ。時折、ウィンクなんかしているわね。
そう、ニケ様ご来場。ニケ様、ミクーンちゃんに力を与えた結果、自分の命を脅かす存在を生み出してしまった事でこっちに来るのを躊躇しているみたいね。私にどうにかしろというアイコンタクトなんでしょうね。これ、ヴィクトリーアさんだと、泣き喚いて拗らすんだろうけど、ニケ様はそこはお酒が入ってから。どっちがいいというわけじゃないけど、私は二人と知り合った分かったのよね。
勝利の女神の勝利の部分に関して、自分が負けを認めなければ常勝してると思ってるのよ。所謂最強の人ね。
「ニケ様、そんなところで突っ立ってないで、こっち来てくださいよ。ミクーンちゃんもニケ様が変な事しなければ退治しないって約束してくれましたよ」
女神なのに討伐対象にされている事を反省して欲しいんだけど、ニケ様は後ろの部分は全然聞こえてなかったかのようにスキップしながら、リビングのテーブルにやってくると、
「金糸雀ちゃん! お酒!」
「ほどほどにしてくださいよ?」
ミクーンちゃんの表情が一段鋭くなり、ヴァンパイアロードさんは、
「あっ! この真祖の同胞と眷属を滅ぼし尽くした女神じゃーん! おひさー!」
「愚かにも闇の魂に魅入られし傀儡を大量に生み出したヴァンパイアロードではないですか! おひさー!」
そんな感じの挨拶なの? ヴァンパイアロードさん、自分のお仲間滅ぼされたのに呑気ねー。でもこの手の会話ってミクーンちゃんのブロックワードじゃないかしら? ミクーンちゃんが白ワインをクイッと飲み干して、冷奴をポン酢でひとつまみ。もぐもぐと食べると口を拭いて、立ち上がったわ。
「やはり粛清が必要なりにけり」
「そうやって気に入らない命は全て刈り取りますか? 異世界の勇者よ」
「「!!!!!」」
私とデュラさんもニケ様のそれっぽいセリフには流石にドン引きね。それも
白ワインロックをちびちびやりながら冷奴を摘んでいうセリフの説得力のなさたるや凄いビジュアルだわ。
「な、なりっ?」
あら、ミクーンちゃんには何故か響いてるわ。あー、素直だもんね。
「貴女は勇者として凄まじい力を手に入れた結果、奪われる側の気持ちを考えられなくなってしまっています」
「…………ゆ、勇者」
「言い訳はよしなさい! 私は知っています。私が勇者として輩出した者が今では自らがとある世界の支配者として振る舞い、そこに残るは悲しみと絶望の連鎖です!」
ちょっと待って! でもそれ、ニケ様に原因あるんじゃ……ニケ様は私に無言で白ワインロックのおかわりを所望。
「今一度考えなさい! 貴女が勇者である理由。私が貴女に力を与えた理由。その力はこの女神を殺す為ですか? 全ての生命より愛され、信仰されたこの女神を滅ぼして後に何が残りますか?」
ちょっと、だいぶんニケ様、設定を盛り始めたわ。デュラさんに至っては洗い物始めてるし、ヴァンパイアロードさんは小話でも聞いてるみたいにウケてる。でも今回はニケ様の頭脳プレイ(?)で勝ちかしら?
「わかれり、故。勇者が女神を殺し、女神となり人々を導きけり!」
「「「えっ!」」」
「キャハハハハ! 勇者、その発想なうーい!」
話の通じないニケ様相手に、話の通じない異世界の勇者ミクーンちゃんをぶつけるのは最適解なんじゃないかと私とデュラさんは思ったけど、ミクーンちゃんもやや拗らせてるので、一夜一夜、大変だなぁと私はシャトー勝沼の白わいんをグラスに注いでヴァンパイアロードさんと月見て一杯を楽しむ事にしたわ。




