第281話 正義の科学者と駄菓子ビッグカツ・カツとじとサッポロ生ビールナナマルと
「みんなご飯できたわよー!」
もっか、朝食を私たちは食べてるわ。ご飯に、目玉焼きにウィンナー、そして千切りキャベツとお味噌汁。どこに出しても恥ずかしくない朝食ね。
「が、ガンダムSEEDフリーダムがアマプラで観れり! 別世界線すげー! 勇者一週間くらい前に映画でみれり」
※6月8日よりネトフリ、アマプラで配信
とミカンちゃんはアニメ映画にくっそテンション上げてるわ。ことみちゃんは目玉焼きは醤油派なのね。
「金糸雀、マヨネーズとって」
「はいどうぞ」
ヴィクトリーアさん、ご飯、目玉焼き、味噌汁にマヨネーズを……なのになんで千切りキャベツだけソースなのかしら。もちもちと私たちは朝食を食べて、今後どうしようかと考えていたわけだけど、
ピンポーン!
あら、宅配かしら? 私が扉を開けると、そこにはすげー怪しい中華系の男性の姿。
「こんにちは〜、ワタシ。本日引っ越してきたモーという物あるよ」
うわー! ベタなエセ中国人きたー! 丸いサングラスにちょび髭、私は中国人です! と言っているような帽子に人民服。そして語尾にアル。これは危険な予感がするあ。
「あー、ご丁寧にどうも私はこの部屋の留守番をしている犬神金糸雀です」
「貴女が、不可視境界線を超えてきたビール世界線からエール世界線にやってきた人ね?」
ん? 言っている意味が半分くらい分からないけど、ちょっと意味が分かるお話をしているわね。
「えっと、詳しく」
「立ち話もアレなんで、中でお話しするヨ? これ、入居の挨拶の粗品ね! 大した物じゃないけど」
そう言って私の手に乗せたのはあの駄菓子のビックカツ。それも10枚くらいあるわ。本当に大した物じゃないわ。まぁ、美味しいけどね。
「エセ中国人来たれり!」
「こらミカンちゃん、失礼でしょ!」
「あちらもビール世界線の住人ね? そして人外が一人と、比類なき運命の落とし子が一人ね」
モーさんは、あの戦闘能力とかはかりそうな何かをつけて私達の測定を始めたわ。それにミカンちゃん超絶テンションを上げてるわね。
「すげー! スカウターなりっ! 勇者にも貸してほしいー!」
「イイよどうぞ」
ミカンちゃん、モーさんからそれを借りると、モーさんを見て。
「モー・マン・タイ博士。戦闘能力たった5。ゴミなり!」
「ワタシ、正義の博士ヨ! 裏方ではっきするタイプね!」
あー、この人博士系キャラなんだ。でも自分で正義とか言っちゃうのが、アン博士と同じヤバさを感じるわね。
「モーさん、もしかしてタイムマシーン作れるとか?」
「作れるヨ」
「マ! 是非、お願いします」
そう言うとモー博士は何やら大きな本を取り出したわ。そこには正義烈大百科と書かれた何やら怪しげな本。
「清朝時代にワタシのご先祖様。正義烈斎様が書いた発明本ね! これによると、タイムマシーンの作り方も記載してるアルヨ! 金糸雀ちゃん、この本によると電子レンジでタイムマシーンを作るんダッテ。酒飲み五人が必要とも書いてアルヨ」
「清朝時代に電子レンジあったんですかね? まぁ、いいや。なんか飲む準備しますよ」
モー博士は天鳥さんの部屋の電子レンジの改造を始めたわ。じゃあ、私は……この大量のビックカツを使って何か作ろうかしら? 昔、これでカツ丼作るネタを見た事あるわね。まぁ、同じ揚げ物だし不味くはないでしょ。
揚げ物といえば、女房はビールでいいかしら?
「サッポロ生ビールナナマル。へぇ、こんなの出たんだ」
卵とじと玉ねぎを麺つゆで味付けして、そこに一口大に切ったビックカツを投入よ。香りは完全にカツとじだからすごく美味しそうね。でもこういうやろうと思っても今までの私ならやらなかったわね。
「はいお待たせー! ビックカツのカツとじとサッポロ生ビールナナマルで乾杯しましょ!」
これはグラス出さなくてもいいか。準備もできたので、
「モーさん、キリのいいところで休憩して飲みましょ」
気がつけば電子レンジがいつの間にかロボットに変わってるわね。科学者って凄いのねー。
モーさんは私の方を向いて、
「はーい! もうちょっとでタイムマシーンの頃助が完成するヨ」
という事で一旦休憩してリビングのテーブルで、ビックカツのカツとじを前に私たちはサッポロ生ビールナナマルを掲げる。
「タイムマシーンで本来の部屋に帰る為に、乾杯!」
「乾杯なりっ!」
「金糸雀が行くなら、私も行く」
「金糸雀とミカンが帰ってしまうと、私は行くところがないな」
「出会いあれば別れアルよ! 乾杯ね!」
サッポロ生ビールナナマル。これはアレね。普通にビールだわ。PSBと青一番絞りより、ナチュラルにビール感があっうて美味しい。
「ぷひゃあああ! うんみゃい!」
「金糸雀嫌い……どうせ私だけ仲間はずれにしようとしてるんだ」
さて、ヴィクトリーアさんは無視よ無視。元気がないのはことみちゃんね。まぁ……
「ことみちゃん、多分なんだけどね? ここの元々の家主の天鳥さんなら事情を聞けば置いてくれると思うから、私が書き置きしておくわね? 犬神家の人間は基本的に助けを求める人を拒まないから」
あのセラさんですら、兄貴が部屋に置いていたくらいだし、ことみちゃんは人畜無害だから天鳥さんも面倒見てくれるでしょう。
「ビックカツのカツとじ食べましょ」
みんなでいざ実食。
まぁ、卵とじが美味しいから問題ないと思うけど。
「「「「「!!!!!!」」」」」
うまっ!
何これちょっと待って! 美味しいんだけど、当然トンカツじゃないからガッツリ感はないけど、ベクトルの違う美味しさが口の中を広がるわ。
手元のビールとの相乗効果が悪魔的。手が止まらないわ。
「麦酒お代わりなりっ!」
「かーなーりーあー!」
「私もお代わり」
「私も欲しいネ!」
喉が鳴るわ。一瞬にしてビールが一缶消費された。悪魔のおつまみね。二本目をプシュと開けてみんな喉を鳴らすわ。確かにこれはご飯に乗せて食べても美味しいかもしれないわね。貧乏学生が作ったとか、色々諸説あるけど、バカにしてたわ。ビックカツカツとじ。一食50円くらいで作れるし、凄いポテンシャルね。
「金糸雀さん、お代わり良いネ?」
モーさん、ピッチ早いわね。私はサッポロ生ビールナナマルを手渡すと、タイムマシーンについて尋ねてみたわ。
「このロボットになってしまったタイムマシーンで本当に帰れるんですか?」
「帰れるヨー。金糸雀さん達はどうやってここにやってきたアル?」
「同じく科学者の人が勝手に電子レンジ改造して」
「私と同じく正義の科学者アルか?」
「正義の……というか、どちらかといえばマッドサイエンティストですかねー」
「あぁ、ヨカッタよ!」
「何がですか?」
「金糸雀さん、正義の敵は悪じゃないアルヨ」
何やら哲学的な話をモーさんがし始めたけど、一体何事かしら? ヴィクトリーアさんですらモーさんの話に集中してるわ。
「正義の敵はまた別の正義アルよ」
モーさん、多分やばい人ね。あんまり深く関わると良くなさそう。泥酔する前に私とミカンちゃんは元の世界に帰らせてもらおうかしら。
「モーさん、じゃあそろそろ私たちは元の世界に、ことみちゃん、これ手紙書いたから。役に立たないと思うけど、ヴィクトリーアさんとセラさんにも頼ってね」
という事でようやくお別れの時がやってきたわね。モーさんは電子レンジ型ロボット頃助を連れてくる。
「どうやってこれで帰れり?」
「ダイヤルを合わせてビール世界線にするネ」
チッチッチッチ。
チーン!
私とミカンちゃんの目の前にはモー博士、そしてことみちゃんにヴィクトリーアさん。えっ? これ失敗してね?
「えっと、モーさん?」
「そういえば、今日クリーニング出してたんだったアル! これにて失敬」
逃げやがった。
まぁ、仕方ないわね。仕方がないからサッポロ生ビールナナマルでやけ酒よ。私たちはお昼前から夜まで飲んで、気がつくと眠りについていたわ。それにしても三十本程全員で消費は飲みすぎたわね。天鳥さんごめんなさいね。
「金糸雀殿、金糸雀殿ぉ! 起きるであるぞー!」
懐かしい声、これは夢? 「んんっ」と私が目を覚ましたら、そこには宙に浮かぶ甲冑の首。もとい、デュラさん。
「デュラさん! という事は! 元の世界に?」
「そのようであるな。天鳥殿の姿が見えぬ故」
「天鳥さんってどんな人だったんです?」
「金糸雀殿と同じく、大変できた人であったぞ! クソ女神を出禁にした英雄であるな。ワインに精通しており、金糸雀殿の部屋のお酒を飲むことを躊躇していたであるが、そこは我が、上と下のラック以外は飲んでかまわぬと伝えておいたである」
そうなんだ。じゃあ、多分ことみちゃんは大丈夫そうね。ミカンちゃんは隣で寝てるわね。
「しかし、金糸雀殿。そちらは一体誰であるか?」
それは不穏な一言だったわ。ゆっくりと横を見ると、見知らぬ女の子がむにゃむにゃと寝てるわ。私はゆすって「起きて! 貴女誰?」と聞いてみると、寝言で、
「勇者ミクーン・オリジナリィなりぃ」
スクルドさんが言ってた名前よね? 誰だったけっ?
あっ、エール世界線の勇者連れて帰ってきちゃった……




