第276話 アスクレピオスとポテトスタックとトリスハイボール缶〈新橋トリスバー監修 パイナップル〉と
私とミカンちゃんは街を探索してみたけど、殆ど変わり映えはしない風景が広がっていたわ。世界線が違えど、そこにある物には変化はないという事なのね。私はそもそもパラレルワールドという物に関して随分懐疑的だったので少しばかり今の状況に驚いてもいるのよね。仮説すると、これは一般的に考えられている選択肢が違う可能性の世界という事ではなさそうという事。
もし分岐した世界の一つがここだったとすると別の世界線に私がいるという事そのものがその世界線の否定であり矛盾している事になるのよね。
結果としてここは異世界であるという事になるのよね。あるいは太陽系の裏側に似たような惑星群があって、似たような世界を形成している繰り返しの概念の世界かもしれないけど、いずれにしても日本銀行券は使えるし、価格は物価上昇している私の世界線と同じだし、いずれにしても言える事。
「こっちも政治家は無能の極みという事ね」
「二番好きの人が都知事になろうとしてり?」
「女性政治家って揃いも揃って無能な人しかいないから、世で活躍している女性にめちゃくちゃ迷惑なのよね。母数の差だから男性政治家が有能かと言われるとそれも難しいんだけどね」
元明石市市長みたいな実力(学歴)も実績(人口増加日本一)も伴っている人は国会議員から多分嫌われるのよね。要するに仕事ができる人が追いやられる会社みたいな物かしら? 私も経済学を専攻しているわけだから、日本がダメになる頃合いの計算と、他国で生活していき、いくら資産が必要なのか割り出しているわけなのよね。
この国を治せるお医者さんはいないのかしら?
「ミカンちゃん、トリスバーの新作出てたから買ってきたわ」
「勇者、かなりあが酒買う時、箱一つ買うの好き」
「ミカンちゃんが運んでくれるからよ」
だって24缶くらいないと足りないのよね。特にミカンちゃんは炭酸系のお酒だとザルみたいに飲むし、デュラさんもあれで結構お酒強いから私もテンション上がってついつい缶に手が伸びるのよね。
ガチャリ。
「おいでなすたっわね。誰かしら?」
「クランケを感じたのだが」
うーん、蛇が巻き付いたオジサンがやってきたわ。でも割と清潔感があって法衣みたいなの着てるわ。
「どうでしょう。後ほど来ると思うんですが、思い込みの激しい女神の亜種みたいな人は病気かもしれません。私はこの部屋の別世界線の家主の犬神金糸雀です」
「ワシは全ての医療の父。アスクレピオス。これでも神の一端じゃ」
「あー! 薬メーカーとかどっかの救急車のマークの! 結構有名な神様ですよね!」
「そうか? 知られているという事は悪い気はせんな」
ここで私の金糸雀ポイントよ! 割と腰低いかめちゃくちゃ偉そうな神様はまとも。絶妙にこの人いい感じとか思う神様は大抵地雷ね。
「今は患者はいませんけど、お酒飲もうと思っていたので、アスクレピオスさんもどうですか?」
「酒か、酒は薬にもなり、毒にもなる」
科学的にはお酒は身体に悪い物、だけど、血糖値を下げる白ワインや、風邪予防になるビール、鬱の治療薬にもなるお酒。一概には言えないのよね。
特に私なんかはお酒は私の人生を彩るスパイスだと思っているからこれがない世界に行けば私はお酒を製造するわね。
「ということで、新橋トリスバーシリーズの新作のお酒が売っていたので買ってきたわ。本来のお店だとパイナップルが本当に浸かっているんだけどね」
私はハイボールグラスとアイスペール、そしてトリスハイボール缶〈新橋トリスバー監修 パイナップル〉を三本用意したわ。トリスウィスキーは可もなく不可もなくなブレンデットウィスキー。よく言えば万人受けする。悪く言えば、物足りないお酒ね。同じ価格帯ならブラックニッカや海外のだとティーチャーズみたいなお酒があるので私は好んではあまり買わないわね。
それにボトルで買うならティーチャーズ一択になるわね。最近ティーチャーズも缶のハイボール出てたわね。今度買わなくちゃ。
でも、この新橋トリスバーシリーズは別格。
「ウィスキーを使ったサワーだと思うと、現在販売されている物の中では新橋トリスバーシリーズが酎ハイ系の中で頭一つ抜けて美味しいわね」
という事でこのお酒に合うおつまみ作りね。本日はポテトスタックでも作ろうかしら、ビールやハイボールに合うのよね。薄く切ったじゃがいもとベーコンを段々に重ねて焼くだけ。
超簡単、時短おつまみね。
「お待たせしましたー! じゃあ、医療の神様。アスクレピオスさんの今後の活躍により全ての病気と勝利の女神が撲滅することを願って、乾杯!」
「ハハっ、医療は勝利する事より、敗北する事の方が多いけどな。乾杯」
「乾杯なりぃ!」
カンと大きめのハイボールグラスを合わせて、一口。トリハイにパイナップルの風味が強く主張してきてたまらないわね。ほんとジュースみたいにゴクゴク行けちゃうわ。
「んま!」
「これは、かのギルガメッシュが求めたという不死の甘露か? 美味すぎる」
「うきゃあああ! うみゃあああ!」
御神酒代わりに私たちは一本丸々飲み干して二本目に入る前に、ポテトスタックの登場よ。この主張の激しいお酒にはこのジャンク感丸出しなおつまみがよく合うわ。
「ポテトスタックも適当に摘んでくださいね」
「おぉ! 美味しそう。いただきます」
もむもむとアスクレピオスさんはポテトスタックを食べて「う、うまい! 酒」とポテトスタックとトリスハイボール缶〈新橋トリスバー監修 パイナップル〉のマリアージュに感激してるわね。
そう、異世界の人との宅飲みってこんな感じでいいのよ。毎回毎回、なんかやらかすエルフとか、勝利の女神とかが嫌がらせにくるので忘れてたけど、私の望む宅飲みの姿ってこうよね? 特に何がある訳でもなく、ただ美味しいお酒とおつまみを相手になんでもない事を語り、その時限りでも最高の時間を過ごす。これぞ極みね。
「勇者、おかわりかもー」
「はいはい、いくらでもどうぞ」
でもね? 私は知ってるのよ。楽しい時間は長くは続かないという事。カチャカチャと鍵穴が回される音。これはセラさんが帰ってきたわね。というか勝手に合鍵作るとかほんとこの人、怖いわね。
「かなりあー、帰ってきたぞー、あとヴィクトリーアの奴もいたから拾ってきたー、酒だ酒ー」
「ぐすん、金糸雀。聞いてほしい」
ダブルできたかー。二人ともどっかで引っ掛けてきたのか、すでに酔ってるのがほんとどうしょうもないわね。
「とりあえずお水飲んでください。どうせ安酒ばっかり入れたんでしょ?」
二人に水を用意すると、「どうして私だけ、水なんだ! 私もトリス飲みたい! 金糸雀は私にだけいつもそうやって!」と喚くヴィクトリーアさん、そして「二回も言わないと分からんか? 私は酒を所望したんだぞ!」というセラさん、こいつら何様のつもりなのかしら?
「金糸雀、摘み出していいかも」
と私の表情を見たミカンちゃんがそう言うので、私はとりあえず笑顔に変わる事にしたわ。静かに飲んでいるアスクレピオスさんの体に絡みついている蛇が口から錠剤を二つだして、セラさんとヴィクトリーアさんの水の入ったグラスに放り込む。
酔っているから薬を盛られた事に気づかない二人はそれを飲んで、
「「っ! …………」」
バタンと倒れたわ。泡吹いてるけど大丈夫かしら?
「ヒュドラですら即死する毒を盛ってみたが、よくて二時間程で目を覚ますだろう」
「すげー! 医者の神すげー! クソエルフと、アナザークソ女神を倒したり!」
まぁ、毒盛って昏倒させただけなんだけど、普通に人間相手なら犯罪なんだけど、私はなんかイラっときてたので、トリスハイボール缶〈新橋トリスバー監修 パイナップル〉を盛ってきてプルトップを開けると再びアスクレピオスさんとミカンちゃんと乾杯してそれを飲み干したわ。
嗚呼、あと二時間もしたらこいつら起きるのかーとか嫌な事を忘れようとしていたら、カバンを持ってそろそろ帰る準備をしているアスクレピオスさんが、私に一つの薬を渡してくれたわ。
「これなんですか?」
「これを渡しておこう。この者達が目覚めたあと精神的な苦痛に耐えられない時、飲むといい。この物達に盛った物と同じ薬だ」
あー、あー、なるほどね。
セラさんとヴィクトリーアさんがうざかったらこの薬を飲んで自害しろと、私はゴミ箱にそれを放り込んで帰っていったアスクレピオスさんにこう言ったわ。
「日本ではまだ安楽死は禁止なのよ」
ミカンちゃんがゴミ箱から猛毒拾って半分に割って、セラさんとヴィクトリーアさんに追加で飲ませてるのを私は見て見ぬふりをしたわ。




