第267話 巴御前と源氏パイとアサヒGINONレモンと
「源平合戦って、義経クソ戦犯なり?」
「まぁ、元々自民党と民主党のラップバトルみたいなもので実は裏では繋がっていたのに、義経がめちゃくちゃにした的なのが実際の歴史よね」
結果処される事になるけど、あれは義経のせいで三種の神器が失われたのが大きな問題だったのかもしれないわね。私は過去の歴史とか気にしないタイプだけど、源氏と平家と言えば。三立製菓株式会社のお菓子を思い出すわね。あれ、くっそ美味しいのよね。
「勇者、平家パイすきー」
「我は殿下がお気に入りであった源氏パイに1票であるな」
「暗黒騎士、話についていけず涙目」
キサラちゃん、二人が完全に日本に染まってるだけだと思うわ。ミカンちゃんがのそのそと自分の巣もとい、寝室に入ると、平家パイと源氏パイの二つを持ってきたわ。ぬかりないわね。まぁ、かくいう私もギンビスのアスパラガスと食べっ子動物は絶やした事がないわね。デュラさんはかりんとうとフィンガーチョコレート。
「ミカンちゃん、お菓子は一つにしておきなさいよー」
「良き良き! 勇者、平家パイ食べり」
ガチャリ。
このタイミングで? 一体誰が来たのかしら? キサラちゃんの瞳の瞳孔が開き、ミカンちゃんの髪がふわりと静電気みたいに浮いた。これはアレねやべぇ系の力を持った人来たわね。
「ごめんあそばし?」
あら、なんか丁寧な人来たけど。私が玄関に行くと、こりゃまたど綺麗なヤマトなでしこが出てきたわ。白い肌、赤く身分のある人が着てそうな着物。細いウェストと腕、そして一つ日本人? と思ってしまう酸漿みたいな瞳。
「この家の家主の犬神金糸雀です」
「犬神? かつて滅んだというまつろわぬ民」
あーあー、そういえば犬神性って日本には存在しない事になってたわね。私の一族か金田一耕助に出てくるあの有名な一族くらいだものね。そう、犬神性は平安時代よりも昔、まつろわぬ民と呼ばれていたとかなんとか。そりゃお爺ちゃん魔法使いだったり、この部屋は色んな人来るし曰く付きでしょうね。
でも私の一族は全然関係ないのよね。
「あー、同じ漢字ですけど関係ありません。ところで貴女は? なんか高貴な雰囲気ですけど」
「私は、駒王は木曽義仲の妻」
「「「巴御前!!!!」」」
「なんです。知られていましたか! いかにも私が巴御前にございます」
実在しないはずの苗字が存在してるんだもん。実在していない女武将が存在しててもおかしくないわね。というか、巴御前って私の歴史では存在していないだけで、パラレルワールドの歴史では存在しているとかで名前が残ってるとか? ありえるわね。
「うおー! うおー! 巴御前すげー! クソ強いなりけり?」
「えぇ、いと強すぎる故、私の力ははかりつかめぬ物です」
「すげー! 巴御前すげー」
「貴女は綺麗な色の髪をした異人ですね。そして首だけの武者」
「おぉ、我は大悪魔であるぞ! 巴御前殿」
めちゃくちゃ伝説上の英雄との出会いにアイドルにあったみたいにミカンちゃんとデュラさんのテンション爆上げ。二人とも大河ドラマとか好きだもんね。それに面白くないのがキサラちゃんね。
「ぐぐぐぐぐ! 暗黒騎士が巴御前氏に勝負を所望する!」
よっぽどミカンちゃんが取られたのがしゃくだったのね。でもこれは異世界の女騎士と我が国を代表とする女武将の戦いに私も少しドキドキするわ。
「槍でも弓でも刀でも、夜の相撲でも構いませんことよ? 義仲様も大いにおよろこびになられましたし」
なんかえっちな事言い出したわね。さすが娯楽の少ない平安女子。
「バトルオブアームキングダム」
何それ? とか思わないわ。だって腕相撲だもの。実際異世界の謎パワーを持ったキサラちゃんに巴御前さんが勝てるとは思えないけど……
ドカン!
「む、無念」
私の目の前でキサラちゃんが巴御前さんに秒殺されちゃったわ。それにヒーロでも見るような目でミカンちゃんが、平家パイを見せて。
「うおー! すげー! 巴御前すげー! 勇者と一緒に平家パイ食べるなりぃ」
「平家ぇ? 橙の髪をした貴女は平家なのですかぁ?」
あっ、これやばいやつじゃない? なんか巴御前さんの目の色が変わったんだけど、ミカンちゃんも何かを察したように平家パイをテーブルに置いて、源氏パイを見せた。
「源氏パイ食べれリ?」
「源氏!!」
ぱぁああああとお花が咲いたように巴御前さんに笑顔が咲いたわ。
やっぱり源氏がいいのね。
源氏パイを食べるとして、紅茶とかコーヒーがいいかしら? でもまぁ、一応ウチにやってきた人なので、
「巴御前さん、お茶とお酒どっちがいいですか?」
「あらぁ、それはもちろんお酒で」
ですよねー。
お菓子に合わせるとなると、洋酒系かしら? ウィスキー、ブランデー、ワイン。
「勇者、しゅわしゅわ好きー! 巴御前とこれを飲めり!」
そう言ってミカンちゃんが持ってきたのはアサヒの新商品。東北限定のGINONが全国販売されたのよね。まぁ、私のようなイギリスのジン好きからすると、普通なんだけど、さすがは大手メーカーね。ジンらしさはしっかり生きてるわ。
平安時代のお姫様にレモンフレーバーのジンかぁ。
「橙の子、なんとも美しい容器ですねぇ」
「勇者ミカン・オレンジーヌなりぃ!」
「蜜柑! とても美しい名前です」
「かなりあー! これで良き!」
まぁ、いいか。GINONのレモンフレーバーを人数分用意すると、私は洋酒専用グラスに氷を入れる。このお酒も直飲みすると少しいただけない点があるんだけど、氷で加水してあげる事であら不思議。フランチャイズの居酒屋以上バー未満の満足度の高いジンリッキーができるのよね。
「最強の女武将。巴御前に乾杯なりぃ! 勝鬨なりけり!」
「おぉおお! 乾杯であるぞぉ! 勝鬨であるぅぅ!」
「ほほほほ! 二人は余程私を好いてくれているのですねぇ! 乾杯」
「いやいや、巴御前さん嫌いな日本人なんていないですよ! だって、昨今の可愛くて強い女子キャラの原型みたいな方じゃないですかぁ! 乾杯」
「しくしく、暗黒騎士は雑魚。乾杯」
そう言って泣きながら泣いているキサラちゃんに巴御前さんはくすくすと笑う。
「黒の子、武者達よりも強い力、驚きましたよ! 剛の者でしょう」
「……! そう! 暗黒騎士は弱くなし! 巴御前氏が強すぎ問題!」
ワイのワイのと持て囃されて巴御前さんも苦笑で、GINONに口をつけた時。
「口の中が炸裂した? そしてこれはぁ! なんとも心地良い! うーん、酒は好きですが、醴酒を超える物に出会えるとは、驚きです! おかわりいただいても?」
「飲みますねぇ! いくらでもありますのでどうぞどうぞ!」
「金糸雀殿、醴酒とは?」
「平安時代のお酒、日本酒の原点みたいな物でオンザロックで当時は飲んでたみたいね。飲んでみたいわね。巴御前さん、源氏パイもどうぞ」
サクサクとしたパイ生地のお菓子、当然平安時代にこんな物は存在しない。それを一つとって巴御前さんはパクリ。頬を染め、恋をしている少女のようにうっとりしてるわ。超可愛い。
「もえー! 巴御前、超もえーなりぃ! くっそ可愛いけり!」
「うむ! 今のはなかなかの破壊力であったな」
「なんという歯応え、味わい、天にも昇るようでした。ここでお酒を」
上品に口元を隠してグラスで飲んでる姿、たまらないわねぇ。美人ってだけでずるいのに、なんかこう日本の古き良き色気って女の私でも伝わる物なのね。どんな綺麗な唇をしているのか? 実際桜の花びらみたいで、私達はアイドルを中心に飲んでいたわ。キサラちゃんも巴御前さんの魅力にやられて、
「巴御前氏、グラスが空いた! ささ!」
「黒の子、ありがとう」
源氏パイでGINON。案外合う組み合わせで私達は、気分を良くした巴御前さんの舞に手を叩いて盛り上げる。
「酒殿は 金糸雀鳴きし 首武者と桃源の宴 我がてな取りそ 橙と黒の子」
なんでしょうね。要するに飲み会に私たちがいて、巴御前さんの両隣でクソ懐いているミカンちゃんとキサラちゃんを歌ってくれたのかしら?
「はぁ、堪能しましたぁ。デュラ殿の漬物も大変美味しく」
「恐縮であるぞ! お漬物と残った源氏パイを持って帰ると良い!」
「GINONも沢山あり!」
私達はテンションアゲアゲで巴御前さんを見送った後、ニケ様が来たんだけど、それがウザいとかそういう事より、なんとなくテレビを付けたところ、平安時代の遺物と思わしき物から源氏パイの袋と、GINONの缶が見つかったとかでイタズラか、未来人がいたのかとかしばらく世間を騒がしていた事に、巴御前さんが実在していたという事への感動がひとしおだったわ。




