第266話 続・魔王の娘とこどもの日メニューとLOVEずっきゅん(日本酒)と
5月5日、その日。私たちの部屋に唐突にボーナスタイムが訪れたわ。
「うおー! うおー!」
ミカンちゃん大興奮、そして、デュラさんとキサラちゃんが深々と頭を下げて玄関で跪いているの。そして私も気がつけば笑顔になってしまう。
玄関からの来訪者は艶々の黒髪にギザギザの歯、そして瞳の色が左右で違う。セーラ服のような愛らしい服を着た超絶美少女。
そう、魔王の娘。
「アズリたんちゃん、いらっしゃい! きゃー、来てくれたの? 今日、子供の日だったわね! パーティー? どうしよっかデュラさん?」
「頭を上げよ。デュラハン。そして暗黒騎士。クハハハハ! 余、降臨である」
「アズリたん来れりぃ! そしてクソ女神も何故におり?」
そう、何故かアズリたんちゃんがニケ様と一緒にやってきたのよね。ミカンちゃん、アズリたんちゃんがいるテンションでニケ様がいても逃げ出さないのは凄いわね。
「私が、魔王の娘を連れてきてあげたんです! 私にも魔王の娘が来た時みたいに! うおー! とか、きゃー! とか、傅いたりしてほしいです!」
もう、ほんとダメな女神様ね。今までの行いが邪険にされる要因だって言うのに、アズリたんちゃんはほんと良い子で、日頃の行いの全てから見た目の愛らしさに至るまでパーフェクトだからこんなに歓迎されているのなんで分からないのかしら?
「クハハハハハハ! 余が魔王三柱の連中と人間の町を社会勉強しに行った際、こやつがたかっておってな! 店の店主がたいそう迷惑を被っていた故、余が連れてきた。たかり女神に会ったのも何かの縁である! 金糸雀の城へ余も同行し、今に至る! 実に愉快だ」
控えめに言ってニケ様、最悪ね。殆どヤクザじゃない。いや、ヤクザに失礼ね。とは言っても今日のニケ様はアズリたんちゃんを連れてきてくれたので、プラマイゼロね。
「余が来たからと言って特別なもてなしは不要であるぞ! 普段、貴様らが食している物でよし」
「本日は子供の日だから、しょうぶのお風呂、ちまきでも食べようかと思ってたから準備するわね」
ジュースは、あっ! カルピスあるじゃない! ナイスミカンちゃん。
「ミカンちゃん、アズリたんちゃんとお風呂入ってきちゃって」
「ラジャー! アズリたん。風呂に参れり」
「クハハハハ! 勇者、貴様の面白い喋り方も変わらぬな。共に汗を流すとするか」
「あ、暗黒騎士も殿下の背中を流したいかも」
と手を挙げるキサラちゃん、違うわよね? ミカンちゃんとお風呂入りたいだけよね? でもアズリたんちゃんそんな事知らないので了承しそうね。
「えぇ、勇者、アズリたんと水いらずがよしぃ」
「クハハハハハハ! 余はどこでもモテモテある! 暗黒騎士よ。今度時間を取る故、今回は勇者に譲るとよし」
「……はっ! 仰せのままに」
流石にキサラちゃんも魔王様の娘相手には口答えとかしないのね。
じゃあ、私たちはこどもの日仕様の料理を開始しますか、デュラさんをチラリとみるとデュラさんも頷いてくれたわ。
「デュラさん、ひな祭りじゃないですが、お姫様ですし、子供の日ですし、ちらし寿司作りましょう。カツオの造りを乗せて」
「殿下の為に金糸雀殿。かたじけない」
私たちの調理スタート、私は酢飯と卵がかり、カツオの作り、カニ缶、そして秘蔵のいくらの醤油漬け、蓮根の酢漬けなんかを乗せて子供の日仕様のちらし寿司の完成よ。
アズリたんちゃんはカルピス飲むでしょうから、私達大人組は、
「じゃじゃーん! 私達の今の気持ちを代弁する日本酒。LOVEずっきゅんよ」
少女漫画みたいなラベルのワインボトルみたいな形の瓶に入った日本酒、限定仕様なので日本酒冷蔵庫に入っていた物ね。
シャンパングラスを人数分用意して、二人が上がってくるのを待っていると、艶々、ピカピカになって戻ってきたミカンちゃんとアズリたんちゃん。二人ともジャージスタイルで戻ってきたけど、ミカンちゃんの見え隠れするあざとさに対してアズリたんちゃんはくっそ可愛いわね。こんな子、外歩いてたら即攫われるわよ。
「じゃあ、アズリたんちゃんとの再会に乾杯」
「女神との再会も祝してください!」
「チッ、アズリたんちゃんと、ニケ様の再会に乾杯!」
私の音頭の後、少しの間を置いてアズリたんちゃんがカルピスを掲げて、
「クハハハハハハ! 乾杯!」
「乾杯であるぞ! 殿下!」
「殿下、お変わりなく、聡明であらせられる。乾杯」
「うおー! アズリたん、ゲームして、お菓子食べて、アニメ見て、泊まっていけり! 暗黒騎士が代わりに帰れり!」
「もー! 女神にもチヤホヤしてください!」
カオスねぇ!
LOVEずっきゅん。パイン、あるいはオレンジのようなトロピカルなフルーティーさを感じさせる特別な日本酒ね。徳島のお酒、やっぱ島系ってなんか美味しいお酒隠れてるわよね。
「クハハハハ! カルピスの懐かしき事よ」
「はい、アズリたんちゃん。チラシ寿司よ。おかわり欲しかったら言ってね」
「ご苦労」
スプーンで上品に一口、「クハハハハ! やはり美味い! ゴブリンロードが魔王城の料理指南役を現在受け持っているが、まだまだである! がしかし、デュラハン。貴様の功績により、魔王城の食事による満足度は上々である! 褒めて遣わす」と魔王城の社食(?)みたいな物が相当美味しくなったのね。
「私はですねー! かつて、アズリタンの父。魔王アズリエルや勇者と共に、異世界の魔物をですねー」
出たわね。ニケ様の武勇伝。
「クハハハハ! 未だ過去の栄光に縋るとは愚かの極みぞ? たかり女神よ!」
正論言われちゃったじゃない。それに赤い顔をしたニケ様はチラシ寿司をガツガツ食べて「美味しいー!」と叫んでから「絶望し、諦めた人間に私はなんと言ったかわかりますか?」と無理矢理話を続けたわ。
あれよね? ニケ様がいつもキメ顔で、敗北とは己の心の中にあるとかなんとか言うのよね。よっぽどこの台詞気に入ってるんでしょうね。
「敗北とはですね!」
「貴様は既に酒に敗北しているであろう? クハハハハハハ! 余は貴様が勝利しているところを見た事がなし! が、それも一興」
ブワッ! ニケ様泣いちゃったわ。ほんと不憫ね。神様とかって寿命はないと思うんだけど、ニケ様って神としてもうピークアウトしてるんじゃないかしら?
「ちらし寿司、終わりけり」
たらい一杯に作ったのに、食べ盛りが沢山いるとすごい減りね! じゃあ、デザートのちまきでも食べましょうか?
「ちまきよ。一人、二個あるからこれもお酒に合うわよ! アズリたんちゃんはお茶入れましょうね?」
「クハハハ! さすがは金糸雀、余が申す前に行動する。デュラハン、暗黒騎士。よく見倣うと良い」
「「御意!」」
泣きながらニケ様がそれを見て「私もぎょい! ってやってくーだーさーい!」とニケ様が騒ぐのでミカンちゃんが「ウザっ!」と言ってまた泣かしたわ。
泣いても喋ってもウザいので困りものね。
でもちまきというお菓子が運ばれてくると、ニケ様の涙が秒で止まるわ。これ嘘泣きじゃない? 酔って構って欲しいからそういう嘘なき上戸も出てるとかだったら最悪ね。
「勇者、ちまきちょースキー」
「葉に巻かれている。これはどのようにして食すのか?」
アズリたんちゃんがそう聞くので、みんなでアズリたんちゃんに笹の葉を剥いて食べる事を教えると、
「ほぉ、糧食に持たせるのに良いやもしれぬな! クハハハハハハ! 甘くて美味い!」
天使がちまき食べるわ。いや、魔王の娘だった。口元隠しながら食べるのはやっぱりマナーもしっかりわきまえていていいわぁ! それに対してニケ様は、全部剥いて大きな口を開けて食べちゃってまぁ。
「美味しい! 金糸雀ちゃん、これ美味しい!」
「あー、はい。そうですか」
出たわ、ニケ様の強行策。名指しで絡んでくるのよね。アズリたんちゃんは二個目のちまきを食べる前にお茶を音を立てずに飲んで、目を瞑ってる。
「茶も美味い。この緑色の独特な茶がまた奥ゆかしくもあるな。クハハハハ!」
ミカンちゃんがLOVEずっきゅんの二杯目を自らグラスに入れて、日本酒でちまきを楽しもうとした時、アズリたんちゃんとミカンちゃんが玄関を見たわ。
ガチャリ。
誰か来た。二人が反応しているからなんか凄い力を持った人なんでしょうね? 誰かしら? と思ったら、
「うおーい、金糸雀、帰ったぞー! 柏餅がそこで売ってたから買ってきた。みんなで食べよう。そして酒!」
帰ったとか言ってるけど、この酔いどれエルフがここに住んでいたのは、兄貴がこの部屋の家主だった頃なのよね。というか子供の日になんでこんなにオールスターがやってくるのかしら? と思った時、私はLOVEずっきゅんを飲んで宇宙の真理を解き明かすようなひらめきが頭を巡ったわ。
アズリたんちゃんは当然子供。
そして、ニケ様とハイエルフのセラさんは、あれだわ! 大人になりきれなかった子供。
ははーん、どうりでタチ悪いわけね。
子供って時として悪魔みたいな事するわけだけど、それが大人になりきれなかった子供がやらかすと、災害みたいになるのね。私は愛らしいアズリたんちゃんと反面教師となる、酒カス二人を肴にLOVEずっきゅんをゆっくりと堪能したわ。




