第265話 ファウスト博士とそら豆とドライマティーニと
「金糸雀はどんなお酒が好きなの?」
お酒のボトルを拭きリカーラックの手入れをキサラちゃんに手伝ってもらいながら世間話の一環にキサラちゃんに質問されたので私は少し考えるわ。というか嫌いなお酒がない。
「どんなお酒でも好きだけど、私は特に洋酒が好きね。その中でもジンとウィスキーと、赤のワインかしら?」
よく日本人に洋酒の味が分かるのか? とかいう外国人がいるらしいけど、はっきり言って旨味成分を唯一感じる事ができる日本人にしか世の中の美味しいは分からないと私は答えてあげれるわね。ただし、やっぱり日本酒は日本の物が美味しいように、洋酒は残念ながらまだ海外のお酒の方が遥かに美味しく思うわね。ビールは断トツ日本だと思うけど。と答えると。
「お、おぅ。金糸雀がお酒をこよなく愛し、お酒にも愛されている事を深く、暗黒騎士は理解した」
引かれちゃったじゃない。それにしてもキサラちゃん、綺麗な青髪に健康的な褐色の肌。薄い唇、大きな目。ほんと可愛いわね。魔族という種族らしいけど、人間にしか見えないし、同じ人間にしか見えない魔の者はニケ様とセラさんがいるから、ミカンちゃんに対して百合属性を発揮する以外、割とまともなのよね。
「キサラちゃんはどうしてミカンちゃんを好きになったの?」
「勇者と暗黒騎士の出会いは最高! 勇者を待つ砦に暗黒騎士は座し待っていた。そこには多くの剛の者。数々の罠、しかし勇者は面倒に思ったか、砦ごと魔法で吹っ飛ばした」
うわ。ミカンちゃんやりそう。私もめんどくさがりな方だけどミカンちゃんそういう次元のところにいないものね。私の部屋でもくっちゃ寝ゲームしてアニメ見て漫画読んで、どこに出しても恥ずかしくないニートだもの。その癖、容姿が可愛いから適当に配信するだけでお金稼いでるし、ナチュラルにあざといのでアンチも湧きやすいけどカルト的な人気があるものね。
「勇者は天然自然で我をいき、魔王様以外でそんな生き様をしている者を初めて見た。それは一目惚れだった。それからあの手この手で暗黒騎士は勇者と二人っきりになろうと策を講じた。すると、勇者から変質者扱いを受けて、興奮した」
ダメだわこの子、早くなんとかしないと。見た目の可愛さに騙されてるけど、だいぶアレな子ね。
「昔から暗黒騎士殿はそういうところあるであるな。会議で西方地域の征圧命令を出されたのに、頑なに拒否していたである」
「勇者と会えなくなる故、部署異動拒否権を実行した」
拒否できるんだ。というか、侵略戦争を部署異動とか言っちゃうんだ。デュラさんは綺麗にそら豆を洗っているのでこれを茹でるか焼いておつまみにするんでしょうね。ミカンちゃん何してるのかしら?
ふとリビングを見ると、PS5を頭に乗せてゴーグルモニターでゲームをしながらストレッチしてるわ。こういうミカンちゃんの奇行が最近はなんとも思わなくなってきたわね。
「おつまみがそら豆なら、今日はカクテルでも作ろうかしら?」
「金糸雀はカクテルも作れるの? テレビとかでやってた」
「出来るわよ。従姉妹がバーテンダーだし、私も一応、ガールズバーでお酒出してるんだからね? 田舎者だった私はガールズバーって女の子限定で入れるバーだと思ってたけど、クソみたいな客層のバーもどきだったんだけどね」
「ふはははは! だが、見てくれがよくないとそういう店では働けぬであろう? 金糸雀殿が美しいという証拠であるぞ」
またまたぁ、デュラさん一応悪魔だけどデュラハン。騎士だから女性を立ててくれるんですよねー。ほんと、こういうところナチュラルに言えるのは日本人男性にはない魅力ね。
「うん、確かに金糸雀は美人だと思う。真顔の時の目つきクソ怖いけど」
「褒められたかと思ったらなんかビビられたわ。どうしよっかな? ドライベルモットを使って、ドライマティーニなんてどうかしら?」
「おぉ、カクテルの王様。カクテルはマティーニに始まってマニティーニに終わるというやつであるな!」
「そうそう。基本ビーフィーターとかバーテンダーさんは使うんだけど、私のフェイバリットはこれね。タンカレーのNo.10よ」
私はジンで一番美味しいという物をあげるとすると、これかブードルスね。万人受けするというか日本人の口によく合うのよね。当然ジントニックから入ったんだけど、ジンベースカクテルはこのどっちかを基本私は使ってるわね。というとかっこいいんだけど、バーテンダーさんが作るビーフィーターのカクテル程私がビーフィーターを使っても美味しくできないから、高価で美味しいジンを使って素人的に騙してる感じね。※ガチでバーテンダーのカクテルはなんか違います
私の部屋、というか兄貴のリカーラックにはカクテルベースのお酒から、カクテル用のリキュールまで揃っているのでドライベルモットもいくつかあるので、私はその中から私のドライマティーニ用のノイリープラット。
ガチャリ。
誰か来たみたいね。ミカンちゃんは絶対にお出迎えに行くつもりがないので、「キサラちゃん、お出迎えお願いできる?」と聞いたら頷いて玄関まで行ったキサラちゃんが「なんたる魔力」とか言うので私もやむなし玄関を覗くと、
「こりゃたまげた! 魔族がいると思ったら次は普通の人間? なんでぇ、ここは? ビックリ箱か何かかい?」
とやや江戸っ子調で話す、白いスーツを着てカンカン帽を被った薄いブロンドの髪をした男性。青い瞳に白い肌。当然、イケメン!
「こんにちは、この部屋の借主の犬神金糸雀です」
「こりゃご丁寧にどうも! あっしは流れの魔法使い、ファウストってんですわ。周りのみんなはファウスト教授って呼んでるので好きに呼んでくだせぇよ。転移魔法の実験中に扉が現れちまってあら大変、開いたらここにきたってわけさぁね」
「今から一杯やろうかと思ってたんですけどどうですか?」
「そりゃいいねぇ! 転移魔法には失敗したけど、棚からビスケットってなぁこの事かい」
棚ぼた的な格言なんでしょうね。みんなリビングに着席してもらうと、私はミキシンググラスに氷を入れて、タンカレーのNo.10を50cc、ノイリープラットを10cc入れるとくるくると冷やしながら混ぜるわ。そしてカクテルのショートグラスに注いで、オリーブを添えると完成ね。
「はい、みんなお待たせ! 結構度数高いカクテルだからゆっくり楽しみましょ」
「ささ、そら豆も茹で上がったので完成であるぞ」
ここでスマホで私はジャズを流してみたわ。曲名はチック・コリアのスペイン。照明をやや暗めにしてみれば洋酒が並んだ私の部屋はバーっぽくなるわね。
「じゃあ、ファウスト教授の魔法が成功する事を祈って乾杯」
「乾杯なりぃ!」
「勇者結婚しよう。乾杯」
「乾杯であるぞ!」
「うーん、美しい酒だねぇ、いただきましょうかねぇ。乾杯」
タンカレーのNo.10を使う事でこの上品な味わい、辛めでキリリとした切れ味が特徴のドライマティーニがあら不思議、なんとも言えない香り高く、甘さをやや強めに感じる出来のカクテルになっちゃうんだもんね。
「なんというか、金糸雀殿のステアが見事であるな」
「勇者、シュワシュワがいいかも」
ミカンちゃんはショートカクテル全般飲ましがいないわねぇ。キサラちゃんなんか、ポーッとミカンちゃんをみながらドライマティーニ楽しんでるじゃない。よからぬ事を考えてるんでしょうけど。
「いやぁ、困ったねぇ。なんでぇこのきつい酒は? それでいながら、うまいねぇ。つまみのこのデカい豆? 一体どこで作られたものだね? これもうまい」
ヒョイぱくとそら豆を食べてドライマティーニを一口。ファウスト教授、カクテル飲むの様になるわねぇ。
「でか豆勇者スキー! くっそうめぇ」
「枝豆のボス?」
「暗黒騎士殿、そら豆はさやが空に向かって伸びる為、そら豆と呼ばれている枝豆とは別種であるぞ」
「首だけのデュラハンさんは物知りだねぇ! そしてなんて、いい名前だ。こんなにうめぇのにさらに高みを目指すってかぁ? こりゃ剛毅でいいや。転移魔法が完成できるかもしれねぇさな?」
その転移魔法という言葉に反応したのはミカンちゃん「勇者、転移魔法できらぁなり」と言うのでキサラちゃんも「暗黒騎士もできらぁだ」それに釣られてデュラさんまで「転移魔法であるか? できらぁであるな」となんか変なテンションで言うのでファウスト教授が、
「ほんとかい? 凄まじい連中だとは思ってたけど、こいつぁ、びっくり箱どころの騒ぎじゃないねぇ」
とドライマティーニをちびりと飲んで嬉しそうに語ってる。いいわねぇ。イケメンが私の部屋にいて、喋っているだけで尊いわ!
「教授に教えり?」
「暗黒騎士は可!」
「うむ転移魔法であれば勇者の方法でも暗黒騎士殿の魔法でも、我の魔王様直伝でもどれでも覚えていくといいであるぞ」
なんなのそれ、転移魔法のバーゲンセール? それにドライマティーニを飲み干したファウスト教授はにっこりと微笑んだわ。
もう可愛いんだから!
「やめときましょう。皆さんとの出会いだけで大きな宝。それ以上もらっちまったら、こりゃ加護の受けすぎってもんでさぁ! 転移魔法は必ずあっしが独自に開発してみせるぜぇ」
「ファウスト博士にできれり?」
ミカンちゃんの質問にファウスト博士は少し考えてから、ニヤリと笑ってこう言ったわ。
「できらぁ!」
なんなのかしら? 異世界ジョーク? よくわからない流れだったけど、楽しく私たちは飲んでファウスト博士を玄関までみんなで送った時、
「これ、あっしが魔法で作った魔石。賢者の石、少々の邪悪な者であれば寄せ付けないから置いておくといいさね? じゃあね金糸雀ちゃん、二人っきりだと口説いてたかもしれないさね。こんな美人に会えて儲け儲け」
「えぇ、そんな、美人だなんてぇ」
「かなりあ、くそキモい!」
そんなノリツッコミをして見送った後、入れ替わるかのようにニケ様が当然の如くご降臨されて、ファウスト教授が置いていった賢者の石とかいう物は粉々に砕け散ってたわ。
そして私のスマホから流れる曲名がロリーングストーンズの悪魔を憐れむ唄が流れ出して、私はニケ様にさっさと眠っていただくように、ジン、アブサン、ウィスキーをかき混ぜてアースクエイクというカクテルにプレミアム焼酎の魔王を混ぜて私のオリジナルカクテル。
「ニケ様どうぞぉ、ラグナロクです」
「あら、綺麗なお酒ですね! いただきます!」
魔王が入る事で、物凄くはっきりとスパイシーになってめちゃくちゃ美味しいんだけど、めちゃくちゃきついカクテルなので、一杯で勝利の女神も神々の黄昏にさせる効果があるわ。




