第263話 殺人ウサギと人参スティクとサケ・ゴジラと
「小栗旬、メカゴジラに意識乗っ取られり、コングざまぁ!」
「メカゴジラというより、メカキングギドラであるな。武器を使わねば勝てぬとは情けないゴリラであるな」
「暗黒騎士は思う。ゴリラがゴジラに勝てる道理はない」
モンスターバースを見て三人が盛り上がってるけど、キングコング酷い言われようね。まぁ、本場アメリカ全州でもゴジラとコングの人気投票してコングが殆どの州でゴジラに惨敗したのよね。
「小栗旬じゃなくて釈由美子にメカゴジラ乗せればよかったり」
「メカゴジラで唯一、釈由美子殿の三式機龍のみがゴジラを撃退してるであるからな」
それじゃあキングギドラがゴジラを憎む憎悪を釈由美子、もとい自衛隊員の茜のゴジラを憎悪する心が超えるか同調してゴジラもコングも勝てなくなるでしょ。本日みんなでゴジラを観ているのは、先日私の家に届いた日本酒によるところなのよね。
サケ・ゴジラ。
ミカンちゃんが怪獣映画好きすぎて十本注文したのよね。サブスクで怪獣映画をマラソンしながら怪獣談義してるわ。
「では最強のゴジラの敵は誰だと思うであるか? 我はやはり、魔王様でもないと倒せないのではないかと思わせるカイザー・ギドラであるな」
「えぇ、勇者スペゴジかもぉ」
「モンスターバースのメカゴジに一票」
何も分かってないわね。
ゴジラを死に至らしめたのはデストロイヤよ。というか、なんで異世界組はこんなに怪獣好きなのかというと……
「ゴジラを観ているとドラゴンを思い出すであるなー!」
「勇者ドラゴンスキー! ドラゴンパネぇなり!」
「暗黒騎士も好き。かっけぇ!」
ドラゴンは異世界でも人気の怪獣なのかしらね?
「今日はそのゴジラのお酒飲むんでしょ? 冷酒にするとして、どうしよっかな? 野菜ステックでも作ろうか?」
と、私は自然な流れで太りにくいおつまみを選択したわ。冷蔵庫を開けるときゅうりとセロリを切らしてたので人参だけでいっか、代わりに酒盗を使った野菜ステックソースで日本酒とのマッチは完璧よ。
ちなみに酒盗ソースは酒盗にマヨネーズオリーブオイル、七味、パセリを混ぜて完成。
ガチャリ。
良いタイミングで来るわねぇ、私が出迎えに行くと、片眼鏡をかけた紳士の装いをしたウサギ頭の人?
「いらっしゃい。ここは私の部屋で、私は犬神金糸雀です」
「どうも、殺人ウサギです」
「えっ、私殺されるの?」
ピストルを私に向ける殺人ウサギさん、しかしその引き金を引くとただのライターで、懐にしまう。
「いやー、ここであなたを殺そうとすると、奥から感じるおっかない気配に私が消されそうなので、ウサギだけに犬には歯向かいません」
「ちなみに何故ここに?」
「元いたところで殺しすぎて、憲兵に追われて逃げてたら扉を見つけて」
この殺人ウサギさん、ダメね。
まぁ、我が家で殺意がないなら別にいいんだけど、なんか私も感覚おかしくなってるわね。
「とりあえず殺人ウサギさんが好きそうなおつまみ用意してるのでどうぞ」
「お言葉に甘えて」
リビングに案内すると、ミカンちゃんがキサラちゃんの膝枕でスナック菓子食べて、キサラちゃんは目がいってるわ。
デュラさんは、全員分の日本酒だけどワイングラスを用意して、準備万端ね。
「おや? 獣人から魔物にクラスチェンジ仕掛けている者であるな」
「こちら殺人ウサギさん、なんか元の世界でやらかしてるっぽいわ」
ミカンちゃんとキサラちゃんがチラ見して、気にも留めない様子。そんな三人を見て殺人ウサギさんは……
「一体、ここにいるお三方はどれだけの命を奪ってきたのか」
あー、良く考えたら三人ともそりゃそうよね。
異世界狂ってるわねー! まぁ、私には関係ないし、日本酒飲も。
サケ・ゴジラ、福島の大吟醸なのね。いいじゃない!
なんか、くだらない説明文書いてあるわ。
※一部抜粋
“つまり、ゴジラを倒すことが目的で造られたサケを使用した作戦であるとも考えられる。
この使用目的が何であるかは非公開だが、人気酒造は、この依頼を“旨すぎて飲み過ぎてしまうサケ”と捉え開発を行った。[省略]ぜひ大きめのワイングラスで冷やした(8度~15度)状態でサケ・ゴジラを飲んで欲しい。この兵器をどのように使用するかは、購入した貴方次第だ。“
要するに八岐大蛇をやっつける時にヒントを得たみたいな、実にくだらない! こういう遊び、私は好きよ! 木箱に入ってゴジラの印刷されたボトルが気取ってなくていいわね。
という事で用途(?)に従ってワイングラスをデュラさんが用意してたのね。
「じゃあ、殺人ウサギさんがしっかり罪を償えるように乾杯!」
「うおー! うおー! ゴジラ乾杯なりぃ!」
「うむ! 怪獣王に乾杯」
「ゴジラ・フォーエバー! 乾杯」
みんな殺人ウサギさんに辛辣ね。というか、三人の心はゴジラとお酒飲んでる気分なのかしら? まさに俺TUEEEEEEの化身、怪獣王破壊神ゴジラだもんね。異世界組好きそうよね。
そのシン・ゴジラならぬサケ・ゴジラの味わいわ?
ははーん、ゴジラらしいというか、素直に強い味わいがあって、名前負けしてないわ。あえて単純な辛口にしていないところがいいわ。果物感も感じるし、ワイングラスで呑むと開いてくる。
「んまー! ゴジラんまー!」
「確かに上品である」
「暗黒騎士も満足」
「あぁ、この口当たりは何もかも踏み潰し、蹴散らして、ありとあらゆる者に反抗するような。それでいて揺るぎない信念を感じさせるワインですね」
殺人ウサギさん、ゴジラ知ってるの? なんでそんなソムリエみたいな感想出てくるのかしら? さておき、さておき。このサケ・ゴジラに対抗する為に私の対・ゴジラ犬神研究所で作ったのは人参ステック、酒盗ソースよ。
「人参ステックも食べてみて、日本酒に合うソースを作ったから」
「勇者、にんじんスキー!」
「甘くて美味いであるからな」
「にんじん綺麗」
異世界組、何出しても美味しく食べてくれるから好き! でもただ一人だけ、殺人ウサギさんだけが、人参を見て青ざめてるわ。
もしかして人参食べれないの? ウサギが人参食べれないとかもうウサギやめて欲しいんだけど。
「こ、これは! まさか……」
酒盗ソースに恐る恐る殺人ウサギさんは人参ステックをつけると齧歯でポリッと齧ってしばらく咀嚼。全然関係ないけど、小学校の頃の夏休みにウサギの餌やり当番させられたの思い出すわね。
ポリポリポリ、そしてサケ・ゴジラを上品に殺人ウサギさんはスッと飲み干すと遠くを見つめているわ。
「私ね? かつては冒険者になろうとして王都に出てきたんですよ。夢や希望に満ち溢れ、その時に母から持たされた弁当もこの野菜でした。ですが、現実はうまくいかず、田舎から出てきた私は中々冒険者として芽が出なかったんです」
なんか自分語り始めたわね。
SNSとかでも唐突に自分語りする人いるけど、病んでるわねぇ。要するにうまくいかず、ある時揉め事で殺人に手を染めて、今に至る的な事を言ってるわね。
ウサギの獣人には人参ステックは取り調べのカツ丼みたいな役割なのかしら? そんな絶妙に同情できない話のミカンちゃんの感想。
「情けねぇ! プププ! 勇者、田舎から出てもどこに行ってもチヤホヤされり! 勇者、またなんかやっちまったり? と言ってたら歓迎されり」
ミカンちゃんやめてあげて、
「ふむ、まぁ勇者とは幾度となく命懸けの戦いをしたが、あれは滾ったであるなぁ!」
ライバル出現話もだめ!
「暗黒騎士は勇者を一目見た時から恋に落ちた!」
ハーレム展開もやめたげて!
ほらぁ、改心しかけてたのに、また瞳が濁ってきたじゃない。なんか異世界の光と闇を垣間見たわね。
「ほら、殺人ウサギさん、グラス空いてるじゃないですか! 飲みましょう! まだ一升程度も空いてないですよ。ささっ、ぐっと! このお酒を飲んでゴジラ倒しましょう」
こうやって楽しい宴をしていると、必要な時には来なくて、迷惑な時にだけやってくる。
行動自体はゴジラみたいな女神様がやってくるのよね。
「かーなーりーあーちゃーん! あーそーぼー!」
今回の登場は誰の入れ知恵か、どういうテンションなのか、ミカンちゃんは気づくと逃げ出し、それを追ってキサラちゃんもいなくなり、デュラさんはため息がてら、ニケ様用のおつまみを作り、そして!
「たくさん人を殺したですって? 許される事ではありません! 罪を償うつもりがあるなら憲兵に捕まりなさい。恐らくは極刑でしょうが、ソークシケイ王国であれば征服戦争を隣国に仕掛けた時、力を貸した事で私も顔が少しききます。どこまでできるか分かりませんが、一応口添えしてあげましょう。ですが、万が一あなたが死刑にならなかったとしても奪った命は聖女の蘇生魔法でもなければ帰ってきませんよ」
蘇生魔法で帰ってくるんだ! とか、多分その国、即死刑になるんじゃない? とかそんなツッコミよりも、めっちゃニケ様が、普通すぎる対応をしていて、この人、そういえば女神だったっけっ? て私はこれにどん引いたわ。




