第260話 大口真神と骨つきカルビとアサヒ食彩と
そういえば去年の※この頃、お稲荷さんがやってきて私もミカンちゃんもデュラさんもなんだか幸福な気持ちで一日を過ごしたのよね。
※85話参照
「ミカンちゃん、デュラさん。今日は代々木公園にピクニック行かない? もしかしたらお稲荷さんにまた会えるかもしれないわよ!」
「勇者いくー」
「おぉ! お稲荷さんであるか! 久しいであるな。会いたいものである。では準備をして行くとするか」
「ちょっといいお酒あるからそれで乾杯ね!」
お稲荷さんが来るかもしれないから私とデュラさんは稲荷寿司と巻き寿司、卵焼き、かまぼこ、焼き海苔とお稲荷さん接待料理を作って重箱に詰めていざ公園に向かおうとしたそんな時、どこかでお酒を飲んできたであろういろはさんが向こうからやってくるわ。
「ウェーイ! カナと勇者ちゃん、それにシェフ。どこいくんだい?」
「今から公園に行くんですが、いろはさんめっちゃ飲んでます?」
「こんなの飲んだ内に入んねーって、クンクン。なんかうまそうな匂いがすんだけど! キャハハハハ! 弁当持ってんじゃん! イェーイ! いただきまー」
ガールズバーのリーダー的ないろはさん。その強引な性格と態度は時に自然災害のようで、私達が準備したお酒をラッパ飲みにして、お弁当をガツガツと食べて、驚愕の表情で見つめていた私に空になった酒瓶と重箱を返された。
「げふっ、チョーうまかった! サンキュー! お礼にこれやんよ!」
「ちょ、いろはさん!」
「嵐の超特急なり……」
「うむ、あの行動力、魔王軍向きであるな」
ニケ様といろはさんの大きな違いはいろはさんならしゃーないかなって何故か思えてしまうところ。そして私の手元には、プレミアム生ジョッキ缶のアサヒ食彩がロング缶で3箱。何故かキンキンに冷えてる。
しかしおつまみが消えてしまったわ。いろはさんめ! 何かコンビニとかで買っていこうかしらとか思っていると、私の袖をくいくいと引っ張るミカンちゃん。
「勇者、あれ食べたいかもー」
「あぁ、そういや代々木公園、バーベキューできたわね。お肉屋さんも近隣にあるし、よし! 今日はアサヒ食彩飲みながらBBQとかやっちゃう?」
BBQ、イメージでは鉄の串に肉やら野菜やらをブッ刺して食べるあれだけど、日本のBBQは外でやる焼肉よね。BBQをお肉屋さんで購入してするとなるとちょっと思ったより出費がありそうだけど、まぁいいか。
「かなりあ。案ずる事なき、勇者。今日プチかねもなりけり!」
「え? 1000円札?」
「……まさかやるつもりであるか?」
やるって何を? ミカンちゃん、宝くじ売り場に向かって歩いていくけど……あっ、まさか前に屋台のくじ引きでやったアレをするつもりなの。
ミカンちゃんは宝くじ売り場の前でしゃがみ込み、お祈りポーズ。
「この世界を統べる異界の神々よ。我、勇者ミカン・オレンジーヌ。主神マフデトガラモンの加護を受けし者。我、ここに異界の神に祈る、我、ここに異界の神に願う。我が愛すべき友、お稲荷様の為に日本人を平伏させるお金の王者、福沢諭吉を降臨させたまえ!」
結果、スピードくじを1000円分購入して5万円にしちゃったわ。宝くじ売り場で受け取れる金額は基本5万円までなのよね。あー、びっくりした。1億とか当てられたらちょっとした大問題になるところだったわ。
それにしても勇者の力を無駄な事にミカンちゃん使うわよね。
私たちはお肉屋さんでそりゃ質の良いお肉と近所のスーパーで野菜を仕入れると、BBQ道具のレンタルを申し込んでいざ代々木公園へ。
食べ終われば公園だし、ゆっくり昼寝や読書もいいわね。
「火を起こしも最近はくっそ簡単になったのよね。ジェル状の発火剤があるから簡単に炭に火もつくしあとは待つだけですね」
私が文庫サイズの本を読みながらデュラさんにそう言うと、デュラさんがタイトルと表紙を見て、私に質問。
「ラノベであるか?」
「うん。厳密には違うんだけど、兄貴の知り合いの絵師兼作家さんの自費出版の本を貰ったから、一巻もあるけどデュラさんも読みますか?」
「良いであるか?」
そう、意外とミカンちゃんとデュラさんは読書が好きなのよね。というか、異世界って読書という余暇の楽しみ方が存在しないというのが驚きだったわ。専門書しかないらしくてそもそも多文化が入り乱れすぎて一つの文字を読めても意味がない上に共通言語は大事な事にしか使えないと。結局物語は語り部や詩人による口伝になると、だから小説文化、この地球圏だけみたいなのよね。
「ほぉ、『世界の平和より自分の平和 著・三ツ葉きあ』なんという無作法なタイトルであるか……内容は神仙の類を秘めた能力者系の作品であるな。成程、色々欠落したり、抜けているが魅力的な主人公とそれを取り巻く個性的な登場人物が織りなすコメディあり、同性愛あり、スプラッター要素もある現代系ダークファンタジーであるか、興味深い。が、殿下にはまだ読ませられぬであるな」
「あはは、まぁ。私もそうですけど、女の子はこういう作品って結構好きなんですよね。カッコいいキラキラした男の子達と、強い女性達が登場する物語。私が小さい頃はこういう作品って結構多かったらしいんですけどね」
というかデュラさん、めちゃくちゃ読みとるわね。あー楽しいなって感じで読んでくれればいいんだけど、深いため息をつきながらゆっくりと文字に目を進ませてる。
「より平なり?」
「ミカンちゃん知ってるの?」
「よき! ネットでも読めり」
「あー、でも文庫版の方がいいわよ。あとで読んでみる? ちょっと感じ違うし、いま3巻しか空いてるのないけど」
「よめり!」
私たちはこの作品に脇役として登場するとあるキャラクターが我が家にやってきた事があったのを……実は気づいていなかったの。
※104話参照
「金糸雀殿、火。そろそろ良いのではないか?」
「あ、そうね。のめり込みすぎてたわ。なんせみんな顔がいいから」
私はトングでお肉を焼こうとした時、
空が真っ暗になったわ。周りの人の動きが止まった。これはお稲荷さんのご登場ね。私たちがアサヒ食彩を持って待っていると、空より真っ白な巨大な犬がやってきたわ。
「も、モロである!」
「モロなりぃいい! もふもふぅ!」
「モロって、あの黙れ小僧! の? あーでもそんな感じね」
私たちの前に怪獣みたいな大きさの犬が現れたけど、いつもの事すぎて、喋り出すのを待っていると、
「この俺の姿を見ても恐れぬか? 人間と、人間? と、あとなんだその首だけの……」
思いの外、若い声をしている真っ白い巨大な犬さん。それに私はそれなりに大きな声で答えてみたわ。
「私達はー前にここでお稲荷さんと一緒に食事をした、犬神金糸雀とデュラハンのデュラさんと勇者のミカンちゃんでーす。あなたはー? 誰ですかー?」
「モロなり!」
「モロじゃない! あー、でもジブリのモロのモデルになった厄落としの大口真神とは俺の事だ!」
意外と物知りね。
そう言うと、大口真神さんは人間の姿になったわね。耳なんてピンと伸びて白い作務衣コートなんて着てオシャレじゃない。それに、なんというか髪型がホストウルフだわ! というか顔もなんというか、
「大口真神さん、超イケメンじゃない! そっちの方がいいわよ!」
「えへへ、そうかな?」
「えー、勇者もふもふの方がいい。ていうか、お稲荷さんに来てほしかったー」
なんでもそうだけど、どこに地雷があるか世の中分からないものなのよね。大口真神さんはミカンちゃんのその、心無い(?)一言を聞いて、絶望したような目をするとポロポロと涙を流し始めたわ。
「うわおーん! みんなお稲荷、お稲荷って、狐は悪者の物語が多いのに、愛犬家の方が絶対的に多いのに、お稲荷ばっかりぃ!」
わおんわおん、大口真神さんが泣き喚くので、デュラさんが「ゆ、勇者。謝った方が良くないであるか?」とミカンちゃんに諭して、ミカンちゃんが凄い不満そうな顔で、「勇者悪くないけど、謝れり、さーせんなり」と心がいくばくかもこもっていない謝罪を前に大口真神さんは、
「そもそも日本の神界の不動のナンバーワンアイドル・お稲荷。ずるすぎるだろ? 伏見も稲荷グッズで大儲け、これみよがしに日本人のスケベ絵師は狐耳巫女描いてればいいみたいな風潮で、困ったらロリババアにしとけば安定! もうこの国はダメだ! いっそ俺が滅ぼしてやる」
目的と手段が変わっちゃったわね。こうして邪神とかって生まれるのかしら? まぁ、大口真神さん、可愛いので助力しようかな? イケメンだし、まぁ、イケメンは国の宝だからね。
「大口真神さん、いえ、真神さん。貴方は間違ってるわ」
「俺が……間違ってる?」
「そもそも、なんで狼信仰から狐信仰に変わったか知ってる?」
「それは……」
要するに狩猟民族時代、原始時代の日本人からすれば農作物を荒らす他の獣を食べてくれる狼は山や森の神様だと思われていたわけね。で、そこから農耕が発達して文化が進むと共に収穫シーズンになると稲穂の色をした狐の姿が見えるようになって狐が出てくる頃は実りの季節。そこから豊穣の神様となったわけね。食べる事は生きる事に直結するから、今なおお稲荷さんは私たち日本人の中で最大級のアイドルってわけね。
「要するに、真神さんは自らがトレンドに追いついていなかったんですよ。今やペット人気は犬から猫に、さらに爬虫類人気も最近勢いを増してますから、トレンドを逃せばアイドルとしては終わりますよ?」
「…………そんな、もう俺はハナから負けていたのか」
そんな真神さんに私はプシュッとプルトップを開けた食彩を手渡すわ。そう、でももう遅いなんて事は人生においてはあり得ないわ。それも永遠に生きてる神様ならなおさら。
「真神さん、人気者になれる方法。教えてあげる」
「ほんとか! 金糸雀! お前、まさか。犬神の根源神かなにかなのか?」
「ただのイケメンと酒好き女子大生よ。まずは乾杯よ。おつまみは目の前のバーベキュー! じゃあ、私が教えるように真神さん私たちを盛り上げてね?」
いい感じにお肉に火が通り始めた頃、野菜を投入していくわ。そして、私たちの乾杯の音頭が始まった。
真神さんはアサヒビール・プレミアム生ジョッキ缶のアサヒ食彩を掲げて、
「もっとちょうだい!」
「「「もっとちょうだい!」」」
私たちも合いの手を入れるわ。
「もっとちょうだい!」
「「「もっとちょうだい!」」」
「人間の信仰、もっとちょうだい!」
「もっとちょうだい!」
「「「もっとちょうだい!」」」
「もっとちょうだい!」
「「「もっとちょうだい!」」」
「人間の信仰、もっとちょうだい! それでは可愛い、俺のお姫様から、さんさん、にーに、一言ちょうだい!」
そう! 私を姫扱いしてもらうシャンパンコールならぬ、アサヒ食彩コールよ! こんな風にホスト遊び的な遊びする女子大生、私以外、いる?
「えぇー、まーくんに乾杯!」
「かなりあ、くそキモい! 乾杯なり」
「このテンション、魔王軍を思い出すであるな!」
魔王軍ホストクラブなの?
「乾杯いただきましたー! ウェーイ! 乾杯!」
グビグビと私たちはアサヒ食彩を飲む。うん、当然生ジョッキ缶の良さを持ちながらプレミアムビールらしい口当たり。
でも、このビールの一番の強みは香りの持続が凄い事ね。メーカー的には食を彩るビールという事で、プレミアムビールなのに脇役に回ろうとする姿勢も推したいポイントね。
「骨付きカルビ焼けたわよ! どんどん食べて、どんどん飲んでね」
何故か骨がついてるだけでバチくそカルビが美味しくなるのはなんでかしら? 真神さんに至っては、
「骨がサクサクしてんまぁい!」
「うおー! ジャックハンマーみてーなり」
「さすが犬の神様であるな。しかし、骨付きカルビとアサヒ食彩の組み合わせ、悪魔的である! まぁ、我が大悪魔なのであるが」
玉ねぎ、にんじん、万願寺とうがらし、椎茸の焼き野菜四天王もいい感じに火が通ったのでお肉の合間につつくといい薬味になるわねぇ。そんな焼き野菜の玉ねぎを真神さんがお箸で摘んでシャクシャクと食べている様子に私達は呆然としていると、
「どうしたんだ?」
「いやー、玉ねぎ食べれるんだなーって」
一般的に犬に玉ねぎはアウトだけど神様だからいけるのかしら? と思っていたら、最近の見解では余程大量に食べない限り少量だと犬でも健康にいいのね。元々が怪獣みたいに大きい真神さんだから焼肉で摂取する程度の玉ねぎくらいは少量なのね。
「うまうま! 勇者、シャウエッセン好きー! ゴキュゴキュ」
「腸詰かー、俺も大好きだ!」
「真神ウェーイなりー!」
「勇者ミカンウェーイ! だ!」
二人で同時に食べさせ合ってる! そういうのどっちも私にしなさいよ! もう! 顔がいい人に食べさせてもらったり、食べさせてあげたりするのは姫の夢なんだから! あっ、姫って言っちゃった!
「かなりあがキモい事考えてり」
「なんでわかるのよ!」
そんな私たちの楽しいひと時を邪魔する二つの影、ミカンちゃんの堕女神アンテナがピンと立ったわ。
来たのね。
「来ちゃった!」
「おーい! 金糸雀、来たぞー!」
ニケ様にネメシスさんの登場、ミカンちゃんがアサヒ食彩を一気飲みしてそこから逃げ出そうとした時、ミカンちゃんの腕をぐっと掴む真神さん。
「勇者ミカン、あれは邪悪な者か?」
「邪悪なり!」
断言したわ!
すると真神さんはみるみるうちに元の巨大な真っ白い犬の姿に変わり、咆哮した。でも相手は異世界の女神二人組よ。日本の神様でしかもプチマイナーな真神さん大丈夫かしら?
その時、奇跡が起こったわ。
「ふぇふぇふぇふぇ、フェンリルー!」
「ぎゃあ、怖い。噛まれる!」
なにか違う神様か魔物と間違えられて女神の二人はどこぞへと逃げて行ったわ。そんな真神さんをみてミカンちゃんは抱きつく。
「うおー! うおー! すげー! クソ女神撃破! 勇者、真神を信仰せり!」
「うむ、悔しいであるが、信仰せざるをえぬであるな」
大口真神さん、厄払いの神様みたいね。そんな大口真神さんに追い払われる二人って本当に......
でもなんにせよよかったね真神さん。
地味に少し信仰する人が増えたので、目指せナンバーワンよ! 多分、あと千年以上はお稲荷さんには人気で勝てないと思うけど……




