第258話 ユミルとえびめしとコーヒーの焼酎割りと
「えっ? ミカンちゃんの為にお料理をしたいの?」
「金糸雀、正解!」
なんか正解貰ったわ。キサラちゃんがミカンちゃんに料理を作ってあげたいとかなんか乙女な事言ってるわ。でもまぁ悪い事じゃないし何か教えてあげようかしら。
「じゃあ今日のご飯、一緒に作ろっか?」
「金糸雀、うぇーい!」
どんなテンションかしら、今日はそうねぇ、何作ろうかな? ミカンちゃんといえばガッツリ飯よね。確か、何処かにアレがあったハズ。
「今日はえびめし作ろっか?」
「おや? 今日はキサラ殿も料理番であるか?」
「デュラさん、勇者の胃袋を掴む為、金糸雀に料理を学ぶ事にした」
「まぁ、勇者は何を食べても大概美味いと言うので作り甲斐はあるであるな」
まぁ、そうよね。ジャンクな食べ物を好むけど、素朴な物でも何食べてもミカンちゃんは美味しいと言える確かな舌は持ってるわね。
「デュラさん、錦糸卵作ってもらえますか?」
「御意であるぞ」
「金糸雀……暗黒騎士に料理を教えるという約束は……」
「キサラちゃんにはまだ難しい部分をデュラさんと私がフォローするのよ。どうせ作るなら美味しい方がいいでしょ?」
「……理解した」
という事で、岡山B級グルメのえびめしを作るのだけど、今回はえびめしの素を使ってアレンジよ。えびめしってのは岡山のどっかの洋食店で出した所謂日本版ドライカレーの派生系の料理ね。カレー粉じゃなくてケチャップとカラメルを使って味付けされた濃い目、甘辛目の味は一度食べたら忘れられないわ。
もちろん、犬神家には専用レシピがあるんだけど、今日は確実に美味しく食べられるように市販品を使うわ。
「まずはキサラちゃん、えびめしの素のドライフードをお湯でふやかしましょう。これだけじゃちょっと見た目が悲しいからムキえびもボイルするわよ」
「こんなシワシワな?」
ふふん、犬神家はえびめしの具に小さく刻んだ高野豆腐も入れるの、これも私が準備しておくわ。今日はどうしようかしら? 割と濃い目の料理だし、合わせるお酒はビール? ワイン? 洋食店発だし、コーヒー合わせるのもいいかもしれないわね。
「今日はコーヒー割りの焼酎でも飲みましょうか?」
ガチャリ。
このタイミングなのね。
「ミカンちゃーん、玄関見てきてー!」
「無理ー!」
ミカンちゃんお腹の出てるパジャマのままソファーにひっくり返ってゲーム中。そんなミカンちゃんに性的な興奮を示すキサラちゃん。
「寝起きの勇者の可憐さは異常! はぁはぁ」
ルッキンズムって必要だと思うのよね。キサラちゃんのこのヤバい台詞もくっそ可愛いキサラちゃんが言うと何故か許される感あるもの。
と言う事で私は玄関に行くと。
「ガハハハハハ! なまら狭いと思ったら人間の住処か!」
「おや? 山男系のおじさんやってきたわ。というかでっか!」
「こんにちは、この家の家主の犬神金糸雀です。エベレスト登頂とか目指してる方ですか?」
「元気でいい! ガハハハハ! 吾輩はユミル。山はいいな。心が洗われるようだ!」
ユミルさん、巨人らしいわね。2メートル後半くらいなのは私の部屋に入れるサイズなんでしょうね?
「今から食事なんですけど、ユミルさんも一緒にどうですか?」
「吾輩も? 良いのか?」
「全然OKですよ! たくさん作る予定なので」
「ガハハハハ! これはありがたい。では少し邪魔をしよう!」
めちゃくちゃ元気ね。ユミルさん。
私がユミルさんを部屋に招くと、キサラちゃんが黒い甲冑着込んで剣を構えてるわ。デュラさんもミカンちゃんも何事か? という顔でユミルさんを見てる。
これ、あれね。ユミルさんヤバい系の異世界の人なのね。
「滅!」
あっ! キサラちゃんやっちゃった。剣をユミルさんの額に向けて、これヤバいじゃない。
「元気で良い!」
「……脅威」
まさかのユミルさん、額で剣を受けて、無傷。
つよつよでしょ!
「キサラちゃん! お客さんよ! ごめんなさいして!」
「えっ! でも」
「キサラちゃん! 私の部下なんでしょ?」
「暗黒騎士は悪くないけど、ごめんなさい」
「ガハハハハハ! 良い良い!」
ミカンちゃんもだけど、なんで自分の非を絶対認めないのかしら? どういう教育受けてきたのかほんと疑うわね。
「料理の続きよ。ボイルした具材は一旦置いておいて、ご飯を炊飯器からよそって! バターで炒める」
「承知!」
さてと、えびめしの素のタレは美味しいんだけど、ちょっと辛いから、ここで甘いを少し足すわよ。犬神家自家製10年ものの梅酒の登場よ。
「じゃあえびめしのタレをご飯に混ぜ込んで、梅酒を回して入れる」
「承知!」
うーん、いいわね。この香り、たまらないわ。私はこの間にコーヒー焼酎でも作ろうかしら。冷凍している焼酎氷を使ったアイスコーヒー。
キンミヤでもいいんだけど、今回は博多の華を使ってるわ。
「最後にボイルした具材とご飯を混ぜて錦糸卵とパセリを添えて完成よ」
「おぉ! これが暗黒騎士が作りし料理」
「キサラ殿、上手にできたであるな!」
「感謝感激!」
ハートの形に成型してキサラちゃんはミカンちゃんの元へ。
「勇者、結婚してください」
「きめぇ! 拒否ぃー!」
「がーん! 422回目のプロポーズを失敗」
「ガハハハハハ! 元気があっていい!」
全員の手元にアイスコーヒー焼酎の入ったグラス。ユミルさんはジョッキにしてみたわ。
「それじゃあ、キサラちゃんの初料理とユミルさんのご来訪に乾杯!」
「「「乾杯!」」」
うーん、コーヒー割り。合うわね。ミカンちゃんだけ炭酸入れてるけど、炭酸も意外と美味しいのよね。
「コーヒーの酒割りとは、珍しいであるな」
「ガハハハハハ! こいつは美味いが、ちと酒がきつい!」
「ちょっと度数抑えますか? アイスコーヒー入れてください」
見た目よりユミルさんお酒弱いのね。
そして本日のメインディッシュ、えびめしよ。
「えびめしがよく合うと思うからえびめしも食べましょ!」
いざ実食。
キサラちゃんはじーっとミカンちゃんが食べる様子を見てるわ。ミカンちゃんはスプーンで真っ黒いご飯をすくうとアーンと大きく口を開けてパクリ。
もむもむと咀嚼してごっくん。
ミカンちゃんが一瞬イケメン顔で開眼。
「うきゃあああああ! うみゃあああああ!」
ガツンと来るなんだこれ感から、口の中に広がる様々な味わい。分かるわ。私も初めてママに作ってもらった時、そんな感じだったわ。
「うんうん! これは美味い! これは胃袋を掴まれるな! ガハハハハハ! しかし、量がやや多いな」
大皿で出したんだけど、見た目に反して少食なのね。
「ミカンちゃんのお皿に食べられない分入れてください。ミカンちゃん、見た目に反して大食漢なので」
「バッチこいなりぃ!」
「元気でいいなー! では遠慮なく入れるぞー!」
八割くらいミカンちゃんのお皿に盛ったわ。女子のハーフサイズくらいのえびめしを美味しそおうにユミルさんは食べてる。
これは私の問題ね。見た目が大きいから沢山食べる。山男っぽいからお酒呑みと勝手に考えてたのは失礼だったわ。
「勇者、暗黒騎士の料理は美味しい?」
「うまー! 勇者これスキー!」
「これはもう通い妻コース確定!」
「ならずー! 勇者ここに住み着いてり」
ミカンちゃんって好きな人のタイプってあるのかしら? 私のタイプはちなみに美形よ。女性も男性も美人にくっそ弱いわ。
にしてもえびめしの濃い味が口の中に広がり、コーヒー焼酎を飲むと、たまらないわ。
ガチャ。
「こーん、にーち、わー! みんなの女神がやってきましたよ! お帰りなさいはどうしましたー!」
なんで今日はこんなにテンション高いのかしら? ミカンちゃんとキサラちゃんが死んだような目でニケ様を見つめ、デュラさんはため息をつきながらもニケ様のえびめしを用意して、
「おぉ! 女神ニケ! 久しいな、ガハハハハ!」
「あ、貴方は霜の巨人達の、なぜここに!」
おや? お知り合いのようね。
「オーディンのウツけと戦をする際に、女神ニケがいなくなったので困っていたぞ! さぁ、戻ってやつとの戦争を再び始めよう! 勝利の女神がいればオーディンを屠るのも容易いだろうて! ガハハハハハ!」
「ユミル、戦争なんて愚かな行為ですよ! 私はそれより、その芳しいご飯をですね!」
「良い良い! 勝利は吾輩達にあり! 行くぞ女神ニケ! そなたの力を借り受ける為に宴会をしたものな? 少ない酒に少ない食材を献上した甲斐があった! 勝鬨だー!」
「いやあああああ! 金糸雀ちゃーん! デュラハーン! 勇者に……暗黒騎士」
ニケ様が拉致されたわ。
そして、世界が少しだけ平和になったわ。
だって、多分自業自得だもの。勝利を与えるとか言ってユミルさん達にお酒とご飯をご馳走になっておきながら、別の神と戦争する事になってトンズラしたあたりでしょ?
ダメよニケ様、ダメダメ!
そんな人にえびめしは食べさせられないわ。




