第257話 ローレライと冷やしきゅうりとキリンビール晴れ風と
「勇者、暗黒騎士と朝シャワーで友好を深めるべきと主張する」
「きめぇ! 消え去れり! 勇者は本日、オフ会なりぃ! 暗黒騎士は家で留守番なりにけりぃ!」
相変わらず、キサラちゃんの想いは一方通行ね。デュラさんは本日、いろはさんのところに出張料理を、ミカンちゃんはオフ会。これはもしかして私とキサラちゃん二人でお留守番かしら?
「勇者は公共機関にてドロンせり! 文無し暗黒騎士は家で勇者が録画したプリキュアでも閲覧し正座待機なり!」
ミカンちゃんさぁ、貴女一人称勇者だけど、もう勇者らしい事一切してないただのネオニートなのよね。自分で遊ぶお金稼いでるからいいんだけどさ。ミカンちゃんの心ない言葉でキサラちゃんは俯いて、
「金糸雀」
「どうしたの?」
私をキサラちゃんはぎゅっと抱きしめる。おっふ! 何これ? 自慢じゃないけど、私は男性でも女性でも美人にくっそ弱いのよ! 上目遣いのキサラちゃんは、
「軍資金を所望する」
「あぁ、お小遣いね。うーん。まぁいいか。無駄遣いしないでね」
私はお財布から5000円札を取り出すとキサラちゃんにそれをあげたわ。社会経験は必要だし、私がここにいても言いって言っちゃった建前もあるしね。
「感謝する。倍にして返す事を約束す」
「あー! 金糸雀、クソうぜぇなり!」
キサラちゃんはミカンちゃんの腕を組んで超嬉しそうにしているけど、ミカンちゃんは嫌そうに、私を恨めしそうに見ながら外に出て行ったわ。
さて、じゃあ私は勉強でもしようかしら?
ご褒美を用意してるし、ちょっと本気で頑張ろう。デュラさんが作っていてくれた朝食を食べながらテキストを読んで、お昼までYoutubeの説明動画なんかも見ながら気がつけばお昼。
「さぁ、いい感じに浸かってるかしら? ふふふ」
私は冷蔵庫でキンキンに冷やしているキリンビールの新商品、晴れ風と冷凍庫で冷やしてるジョッキをスタンバイ。
ガチャリ。
まぁ、来るとは思ってたけど、どんな人かしら?
「ここが勇者がいる場所じゃな?」
「ミカンちゃんは今、外出中ですけど、お知り合いですか?」
ウェーブがかった赤い髪、尖った耳。炎のような真っ赤な瞳。ワガママボディの美女やってきたけど、なんだか穏やかじゃない感じね。
「セイレーンを虐待した勇者を滅しに来た。ワシは緋色の魔女。ローレライ。喋る言葉全てが呪詛となろう」
あー、どことなくセイレーンさん的要素がなくもないから関係者なんでしょうね。そんなローレライさんの目的の相手は今いないわけなので、
「ミカンちゃんいつ帰ってくるか分からないですけど、待ってますか? もしよければ美味しいお酒と美味しいおつまみあるんで、摘みながら」
「そちが金糸雀か! セイレーンをもてなしてくれたと聞く、では好意に甘えよう」
「じゃあ、リビングにどうぞ!」
一緒にリビングに行くと、私はカイジさんも涙を流すようなキンキンに冷やしたキリンビールの新商品、麦芽100%の晴れ風とキンキンに冷やしたジョッキを用意。
「そして、今回のおつまみは! 最近、クソ暑くなってきたのでこちら! 冷やしきゅうりでーす!」
「おぉ! 美しい、緑の? それは一体!」
塩をすり込んで水分を拭き取り、昆布茶と砂糖、隠し味の葡萄リキュール入れて数時間漬け込んでるから、これは私でも未知数の美味しさだと思うわ。
「まずは、一番搾り、キリンラガーに次ぐキリンの新主力商品、晴れ風で乾杯しましょ!」
これは二度入れで十分そうね。香りは普通だけど……
「じゃあ、ローレライさんとの出会に乾杯!」
「嬉しい事を言ってくれるな! 乾杯じゃ!」
んっんっ……あー、麦芽100%ってここまで変わるかー、一番搾り程ライトじゃなくて、ラガー程ヘビーじゃないけど、これはあれねプレミアムビール寄りの口当たりね。というか麦芽100%だったら本来プレミアムビールよね? でも何故かキリンの本物のビールの中で一番安いビール。
「うまい。うますぎる! なんじゃこの麦酒」
「はー! 確かにこれは美味しいですね。サントリーのザ・モルツが業務用以外販売終了になったので私のフェイバリット、これに変えようかしら」
一杯がご褒美になるビールって意外と少ないのよね。すぐに入手可能なビールの中だと、エビスとプレモルの香るエール、スプリングバレーくらいだったんだけど、この価格帯で晴れ風はなかなかどうして、美味しいじゃない。
「じゃあ、味がよく染みてる冷やしきゅうり様の登場です!」
一本一本、割り箸を突き刺して食べやすくしてるので、ローレライさんも適当に掴むと、そのまままぽきんと一口、実食。
ビールとのペアリング最適解は揚げ物! という人も大勢いると思うし、否定もしないけど、全力で冷やした夏野菜というのも当然正解の一つね。
「うんまぁ! この野菜、ワシの住んでいる地域では絶対に再現不可、しょっぱくて瑞々しくて甘くて、うまい」
ふふん! そうなんです。葡萄リキュールと砂糖、昆布茶をよく吸ったきゅうりはメロンみたいな高級フルーツ感を出して、塩揉みしてる塩梅がもう病み付きになるのよ。
「さぁ、ローレライさん! きゅうりが口の中にいる間に、キリン、晴れ風をお見合いさせてあげてください」
そう、私も遅れて冷やしきゅうりをぽきりと一口。咀嚼のたびに、口の中が喜んでるわ。そんな歓声響き渡る口内に晴れ風。ビールが一斉に注がれると、もうそれは一つの楽園よね。
「ぷっへぇええ! うんまぁああああ!」
ミカンちゃんあたりなら、うんみゃああああああと叫ぶんでしょうけど、あれはよっぽど自分に自信がないとできないわ。
「金糸雀、その麦酒を」
「安心してください! いくらでも冷えてますよ!」
私はバケツの中に氷と水を入れて冷やしている晴れ風を見せて、ローレライさんのジョッキにそれを惜しみなく注いであげたわ。
「なんとも不思議な話じゃな? かつては人間をワシの歌が惑わしていたというのに、この場所は人間の金糸雀が、魔女であるワシを甘美な野菜と、美味が過ぎる麦酒で惑わしてくるのじゃから」
私も二本目を取り出すとそれをくいっと飲みながら、きゅうりを齧るわ。私は思うのよね。
「目の前に美味しいお酒と、美味しい肴があれば、あとは最高の飲み友がいれば人生案外楽しくやれると思うんですよ。それが今はローレライさんって事です」
「成る程、友か……そんな事、考えた事なかった」
「セイレーンさんはお友達じゃないんですか?」
「ワシの下位種というだけで、友ではない。勇者に目にものを見せてやろうとここに来たが、金糸雀にうまく毒気を抜かれたわ」
「マジですかー? ローレライさん、もう一本どうですか? 私もこんな女子会的なノリ、結構久しぶりですよー」
「いただこう」
私たちの三本目はロング缶で、そのまま缶のまま乾杯。多分ミカンちゃんが帰ってくるのは夕方か夜だと思うから、ローレライさんはそこまでいないかな? トンと三本目の晴れ風を飲み終えるたローレライさん。
結構飲むペース早いわね。
「金糸雀、とても楽しかった。そろそろ住処に帰るとする」
「そうですか? 晴れ風何本かと残った冷やしきゅうり持って帰ってくださいよ! お土産です」
「ならば、金糸雀にはこれをやろう」
「わっ! 綺麗な石のブレスレットですね」
「ウィッチクラフト、魔女の魔法がかけられた魔除けのお守りじゃ」
「えー! いいんですかー? 可愛い!」
私は玄関まで見送ると、そこに鳥の羽根が何枚も張り付いてるのを見たわ。それが少しずつ焼け落ちてる。
「何か邪悪な者を検知したから、フェニックスの羽根で結界を貼ったが、あまり長くは持たないみたいじゃな。金糸雀、気をつけよ」
「あー、大丈夫ですよ。多分、ニケ様ですから」
私はローレライさんを見送って、玄関のすべての羽根が焼け落ちた後、顔を真っ赤にしてプンプンと怒りながら「誰ですか? 変な結界を貼った人は? 召しますよ!」と入ってくるニケ様をお出迎えして、
「宅配ピザでも頼みますけど、食べますか?」
と言ってみたら、めちゃくちゃ喜んでくれたわ。




