第251話 天乙と小籠包と貴州省・茅台酒
「うおー! うおー! ムスカやべぇええええ!」
「ラピュタ王は伊達ではないであるな」
ミカンちゃんとデュラさんは私のジブリDVDの天空の城ラピュタを見て盛り上がってるわ。この頃のジブリは声優を起用して良かったのよねぇ。ラピュタはインド神話とガリバー旅行記で有名な風刺作家の作風に影響を受けてるから意外と考えさせられる作品なのよね。都市伝説で、ラピュタのその後という物が議論されたりしてるけど、多分絵本のラピュタとかと混同してるのよね。
それにしても二人ともムスカ好きね。
「「バルス!!」」
君を乗せてを熱唱した二人、次は何を観るかと考えてるわ。ディズニーのDVDも持ってきて盛り上がってるわね。デュラさんは時間を確認すると晩酌時だと分かったみたいね。
「ところで金糸雀殿、本日はどうするであるか?」
「デュラさん、これ! 使ってみませんか?」
私が見せたのは餃子の皮、餃子を作るのであればわざわざこれ使いませんか? なんて事は当然私は言わないわ。餃子の皮は今までにも小さいピザ作ってみたり色々と汎用的な使い方をしてきたけど、今回はこれで、
「小籠包を作るのであるな?」
「正解です! お酒はですねぇ、私の秘蔵の一本を出します」
どーんと日本のお酒ではないと思われる漢字が書かれたボトルを見せるわ。これは貴州省・茅台酒。中国焼酎と呼ばれる度数の高いお酒よ。香り高く甘くて飲みやすいのに、ウィスキーの平均度数を超える53度。
「まさかに火のお酒ね」
ガチャリ。
本日のご来店ね。
「ミカンちゃーん! みてきて!」
「りょ!」
ミカンちゃんが出迎えに行って連れてきた人は……なんだろう? 甲冑らしき物を着た。普通の人に見えるけど、年齢の程は十代後半から二十代前半くらいの男性。
「狭い部屋だな」
これはあれね身分高い系の人とお見受けするけど、みた感じ日本の甲冑じゃない事から異世界の王様? それとも。
「私は犬神金糸雀です。この部屋の家主です」
「ほぉ、その若さで、しかも女で領主か?」
今の時代だと炎上しそうな発言からして、昔の人っぽいわね。男性は私たちを見ても驚かない。首だけのデュラさんとか異世界の人でも大体驚くのに……一体何者かしら?
「我が名は天乙、桀を屠る為に戦の準備であったが? 桃の花を愛でていると不思議な扉を見つけ開くとここに、神仙の類の者共よ。この帝王となる俺に託宣でもあるのか?」
「初代殷王朝の王様なりぃ!」
“分かる。世界の歴史!“ 的な漫画を読むのが大好きなミカンちゃんが最初にそう言ったわ。この人、地球側の人だったのね。ええっと、天乙、天乙……実在が認められている中華最古の王様なのね。じゃあ、丁度いいじゃない。最古の中華の王様に今の最新の中国のお酒。
「娘、よく知っているな。クソみたいな桀のクソ王を誅して、わからせてやろうと思っているところよ!」
「天乙殿、戦を始めるなら長引かせず最速で敵を屠るといい。さすれば双方への被害は少ない」
「首だけの者よ。戦に詳しいのか?」
「これでも我は、魔王軍大幹部であるからな」
でも古代の戦争なんてただの殲滅戦だからデュラさんが考えるような形にはならないんじゃないかしら?
グゥウウウウ! と天乙さんのお腹が鳴るので「良ければウチで飲み食いして行きませんか? 丁度、料理するところだったので」と私が言うと、天乙さんはミカンちゃん所定のソファーに腰を沈めたわ。
「うむ、いただこう」
「ああん! そこ勇者の場所!」
場所の取り合いをしている二人をよそに私たちは小籠包の餡を作るわ。これが焼売とかも大体同じよね。今回は小籠包。中華スープの素をゼラチンで固めて餡と一緒にゼリー状のスープを入れて、蒸し器にイン!
「なーるほど、この方法が取れるであるな! 金糸雀殿には脱帽であるぞ」
「いえいえ、私もネットとかの情報ですから、デュラさんがいないとこんな面倒な料理基本しませんし」
私たちは蒸しあがった小籠包と薬味に生姜、細く切った紫蘇なんかを持ってリビングに戻る。そして貴州省・茅台酒を用意よ。
「じゃあ、天乙さんが、悪い王様の国をやっつけれるように乾杯!」
「乾杯なり!」
「乾杯であるぞ!」
「ほぉ、透き通った酒か? 乾杯」
50度の度数なのに、飲みやすくてトゲもない。健やかなお酒。これは美味しいわ。白酒だなんて向こうでは言われてるわよね。
「おぉおおお、これは美味い」
「勇者、シュワシュワがいいかもー」
「かーーーなんつーキツい酒か! 貴様ら、やはり人ならざる者だな! こんな酒を軽々と、しかし、確かに美味い」
そりゃそうでしょうよ。誰しもが一度は飲んでみたい中国のお酒といえば名前が上がるものね。貴州省・茅台酒の余韻がある中で、小籠包をせめましょうか? 日本風に酢醤油を用意よ。
「なんだこの美しい料理は?」
そっかー、言っちゃえばめっちゃ昔の人だから天乙さんの時代って料理といえば食材を蒸すか焼くかみたいな単純な料理しかないのよね。これが、世界が認めた料理の一つ。中華ですよ!
「まず蓮華に乗せてスープを吸ってください。そして薬味や酢醤油をつけてお好みで、ちなみに私は和芥子かけて食べます」
いざ、四人で実食。
ずずっとスープを啜る。うーん、市販の中華スープの素、いい仕事してるわね! 何個でも食べれそう。ここで薬味の細く切った生姜と一緒にパクリ、そして貴州省・茅台酒をきゅっと。
あー! あー! しゃーわせー! 何この組み合わせ? 最高しかないんですけど?
「うんみゃい! でも勇者シュワシュワにして欲しいかもー」
「もう、仕方がないわね。でも日本ではハイボールにして飲むのも有名なのよね」
カラカラと私は茅台酒ハイボールを作ってミカンちゃんに渡すと、ミカンちゃんはそれに口をつけて、
「うきゃあああああ! これつよつよぉ!」
とおおいに気に入ってくれたみたいね。それに天乙さんが興味深そうにみているので「天乙さんもハイボールいかがですか?」「あぁ! いただこう」と嬉しそうに所望しちゃって!
「はい、お待たせ様です」
「んっ! 口の中でうごめている! なんだこの酒は? 生きているのか?」
はー! 炭酸というもの知らないとこうなるのね。私は天乙さんに小籠包を食べるようにジェスチャーで促すと、一つ、作法に則ってスープを啜って、薬味と一緒にパクリ。
そして茅台酒ハイボールを次はゴクゴクと喉を鳴らして流し込んでる。いい飲みっぷりね! 中国の人ってお酒強いもんね?
「勝鬨じゃあああああああ!」
あっ、そうでもなかった。というか、古代の人に50度のお酒はやりすぎたかも。目が血走ってるし、
ガチャリ。
「金糸雀ちゃん! 戦争の匂いがします!」
「ふはははは! 戦争の業は復讐のネメシスを呼ぶぞ!」
女神ーずがやってきたけど、私たちはいかにして天乙さんが夏の桀さんをやっつけるかという話をしているのを聞いているので無視の形になったわね。だって、伝説的人物が泥酔しているとはいえ、その時、歴史が動いた瞬間の演説なんて滅多に聞けるものじゃないし。
「一騎打ちをすると見せかけて周囲からタコ殴りで殺してやるぞ! 桀ぅう!」
「おぉお! 天乙、やばやば! さすがは殷の大帝国の祖なり」
「うむ、この気概。魔王軍でも一、二を争うであるな!」
ニケ様とネメシスさんが全然相手にされない事で、そろそろ駄々をこね始める頃ね。
「ネメシス、私提案があるんです」
「なんだ?」
「あの人間の王に手助けして、私たちを崇めさせればいいんじゃないでしょうか?」
「……詳しく」
なんか、ダメっぽい企みしてるわねぇ。天乙さんが千鳥足のまま玄関に向かっているけど、それにニケ様とネメシスさんもついていくわ。
私たちは歴史的な瞬間に対して貴州省・茅台酒を掲げてショットで一気に飲むと天乙さんを見送ったの。
それからおおよそ四千年くらいたった令和の現在、殷王朝の神様は四神と真逆に位置する四凶の一人、饕餮さん。
ニケ様とネメシスさんはきっと布教に失敗したんでしょうね。だってたかりにくる女神とか妖怪でしかないもの。




