第245話 謎の神・アラハバキとスパムおにぎりと大関 我が家のグレープフルーツサワーと
「勇者はここでカオス・フォームを使用せり! 墓地の青眼の白龍を除外して、勇者のエースカード。ブルーアイズ・カオス・マックスドラゴンを召喚なり! 守備表示モンスターを攻撃した際、貫通二倍ダメージなり!」
「ならば、こちらもエースカードだ! ムゲンダイナVを進化させ、ムゲンダイナVMAX。君に決めた! 本来ポケモンをベンチに五匹まで出せないが、ムゲンダイナVMAXがいる時、8匹までベンチに出す事ができる」
ミカンちゃんが突如やってきた誰か分からない女の子と、全然違うカードゲーム同士で対戦を始めてかれこれ十分。デュラさんがいろはさんからもらったスパムを使いたいというのでゴーヤチャンプルでも作るのかと思ったら、
「金糸雀殿、スパムおにぎりを作るであるぞ」
「そこですか! じゃあ、私卵焼き作りますね」
「では我は飯を炊くである」
「ところでデュラさん、ミカンちゃんと遊んでる子って何者ですか?」
「うーむ、恐らくは神仙の類と思うのだが、触らぬ神に祟りなしであるな。勇者に任せておくである」
それもそうね。ミカンちゃんが逃げ出さないからニケ様達みたいなヤバい神様じゃないという事よね。恐らくデュラさんはお米炊く際に塩を入れるから、私は卵を甘めに作ろうかしら。リビングではカードゲームをやめたミカンちゃんと謎の女の子。丸顔、童顔で言うならばたぬき系女子ね。二人はスイッチのゲームを始め出したわ。卵焼きも完成したし、ちょっと様子見に行くか、
「ミカンちゃん、あと貴女は?」
「人間の娘よ。我が名はアラハバキ。日本に八百万の社を持つ神である! 頭が高い! などとは言わない。ゆるりとするといいぞ」
「そうですか、私はこの家の家主の犬神金糸雀です。ところでアラハバキさんはどんな神様なんですか?」
「分からん!」
「分からん? 自分が何の神様なのか分からないんですか?」
「まぁ、気がつけばそこら中で崇められているが、実のところなんの神なのか、まーったく知らん」
こういう時のグーグル先生にご登場していただきましょう。なになに……アラハバキは旅の神である。……という説。守護の神である。……という説。いくつもという説でしか語られないわね。日本書紀にも古事記にも登場せず、民間信仰にも一切その存在が語られない謎の神様なのね。
「まぁ、でも神様なんですからきっとなんか理由があるんですよ」
「おぉ! 娘いい事言うなぁ! 気に入った」
「かなりあは、ポジティブモンスターなり」
「ところで、アラハバキさんは神様なんですよね? お酒とか」
「めっちゃ好きー!」
ですよねー! この前、大関の蔵開きの福袋をもらったんだけど、その中に入ってたサワー系の素が入っていたので飲んでみたかったのよね。アイスペールに炭酸水を用意して、大関 我が家のグレープフルーツサワーを準備。
「お待たせ様であるぞー! チーズと金糸雀殿の作ってくれた卵焼きも挟んだスパムおにぎりである!」
うわー、うまそ。大皿にスパムおにぎりを沢山握ってくれたデュラさん、超能力でおにぎりを握るので衛生面もバッチリで、ふわりと、それでいてどっしりと最高のおにぎり職人デュラさんのいい仕事が垣間見えるわ。
「じゃあ、サワー作りますねー!」
大関の我が家のシリーズはどちゃくそ美味しいのよね。何故なら、あの大関の日本酒を使った米焼酎がスピリッツとして使われていて、果汁もまさかの20%。他のサワーの素とは口当たりの上品さが違うのよね。サワーに上品求めるのも何よって話なんだけど、ほんと上質なお酒ね。
氷はガチガチにならない程度にグラスに入れてその氷にかけるように大関 我が家のグレープフルーツサワーを注ぐ。そして注いだ量の三倍の炭酸水で満たしてあげると……
「お待たせ! 大関 我が家のグレープフルーツサワーよ! 何だかよく分からない神様だけど、アラハバキさんの沢山の社に乾杯!」
「小っ恥ずかしいが、悪くないね。乾杯!」
「わー! アラハバキー! 乾杯なりぃ!」
「謎の神であるか、興味深いであるな。乾杯」
ゴキュゴキュとみんな喉を鳴らして、みんなの目の色が変わったわ。そう、そんじょそこらの酎ハイじゃないもの。フルーツ感が凄いのにもかかわらず度数も三倍の炭酸水で割っても7、8%あるからストロングなのよね。なのに、アルコール感は一切ないの。時代が時代なら覇権取ってたお酒でしょうね。
「うんみゃあああああああああ! これつよつよぉおおおお! ぷへー」
ミカンちゃん、うんみゃあからのつよつよ頂きましたぁ。アラハバキさんも飲み干して「うますぎる!」とデュラさんも満足そうね。
ということで私の分も二杯目に突入よ。
「じゃあ、スパムおにぎりも食べましょ」
「うむ、自信作であるぞ! ささ、遠慮せずに」
「おぉー! こんな豪華なおむすび始めて見た! いただきまーす!」
「勇者、おにぎり超すき!」
いざ実食。
お米は普通のコシヒカリなのに、最近の炊飯器の威力は半端じゃないわね。そして私の作った卵焼き、スパム、チーズが絶妙に合うこのソースは、照り焼きね! ほんといい仕事してますねぇデュラさん。
「んまー、おにぎりうまうまー! マヨうまー!」
「おぉ、うまーい! こんなおにぎり初めてだー! 飯を食う手が止まらない。やめられない!」
あっ、マヨネーズも入れてあるんだ。最初は照り焼きソース、下にマヨネーズ。それもたっぷりじゃなくて味変程度に丁寧に考えて入れてあるわ。照り焼きソースとマヨネーズが絡んだところがまた美味しいわ。
「しゅわしゅわおかわりー!」
「アラハバキもお代わり!」
「我も我も!」
「はいはーい!」
サワーの素系はほんと無限にお酒作れるからいいわね。デュラさんが作った大量のおにぎりもミカンちゃんとアラハバキさんがヒョイぱくと食べて、私とデュラさんも大関 我が家のグレープフルーツサワーのおつまみにいつもより多めにおにぎりを食べていたから、ついにスパムおにぎりが品切れになったわ。
「ふぅ、食った食ったなりぃ」
「こんなにもてなされるとは思いもしなかった。この世界にやってきて、数千年。感謝するぞ! 人間の娘、犬神金糸雀、人間の勇者、ミカン。そして首だけの大妖怪、デュラさん。もてなしに対して何もせぬのは、名折れ。我が真の姿を見せてやろう! これで邪気は吹っ飛ぶぞ! とう!」
そう言ってマンションの窓から飛び出したアラハバキさん、その姿は巨大な漆黒のドラゴンとなり、曇る空に向けて一閃の閃光を吐いたわ! すると露払いされたように空が晴れ渡っていく。
「かつても嵐を屠ってやった姿を見て、人間たちは我が名を荒覇吐と信仰していた。異世界の風はとてもいい。また会おう。そして酒を飲みにくるので、つまみの用意をお願いするぞ!」
私たちはベランダに出ながらアラハバキさんに手を振ったわ。なるほど、アラハバキさんが何の神様か分からない理由は、異世界からこっちに迷い込んできたドラゴンだったのね。ドラゴンブレス的なものを荒覇吐とは昔の人も上手く言ったものね。
※アラハバキがドラゴンという説は一切ありませんが、信仰がある地域に山間部が多い事と漢字から荒覇吐。って多分火山噴火を揶揄してるとかじゃないかなーという予測になります。
「えー、勇者もっとアラハバキと遊びたかったー」
「あれは名のあるドラゴンであるな。アラハバキ殿、まぁまたその内遊びに来るであろう」
「そうね。ところでさ、二人とも、アレどうする?」
私はキメ顔でベランダから部屋に向かって親指を向けると、ミカンちゃんはマンションのベランダから飛び出してどこかに逃げていき、デュラさんはハァとため息をついて、
「もう一度、米を炊くとするである」
「そうね。私、沢庵でも切ってお味噌汁でも作るわ」
「頼むである」
なんと! リビングではニケ様とネメシスさんがもじもじしながらこっちを仲間になりたそうに見ているわ。
仲間にしてあげますか?
はい。
いいえ。




