第244話 ドラキュラのメイドとべったら漬けとこだわり酒場のお茶サワーと
「はい、ミカンちゃん、シャケマヨおにぎりと伊右衛門、デュラさんは昆布おにぎりと伊右衛門」
「うおー! シャケマヨしか勝たんなり!」
「我は最終的に昆布の佃煮こそおにぎりの最終定理であると思ったであるな」
私達の土日の朝はたまに適当になる事があるのよね。理由は色々あれど予定があって外出をする時だったり、なんらかの業者さんが来るのでキッチンを綺麗にしておきたかったりとかなんだけど、今回は単純にミカンちゃんがコンビニおにぎり食べたいと言ったからね。
カップ味噌汁とおにぎりとお茶というクソジャンクな朝食ね。
「じゃあ、食べよっか?」
「いただきますなりぃ!」
「いただきますであるぞ!」
ガチャリ。
「えっ? この時間にニケ様かしら?」
「ごきげんよう? どなたかいらっしゃいませんか?」
あら、すごい丁寧な女の人が来たっぽいけど? 私が見に行くと、すごいな真っ白い肌のショートカットの女の子。ビスクドールみたいな左右対称の綺麗な子ね。黒と赤のクラシカルメイド服に身を包んでるけど、秋葉原を徘徊しているメイドのアルバイトさんとは明らかに違うオーラを放ってるわ。
「いらっしゃい。私はこの家の家主の犬神金糸雀です」
「家主様であらせられましたか! 私はドラキュラ侯爵様のお屋敷のメイドのドラキュアです以後お見知りおきを」
スカートの裾をぴっと持ってご挨拶するやつだわー! 超可愛い! それにしてもドラキュラ伯爵ならぬドラキュラ侯爵とかいう人、こんな可愛いメイドさん雇って幸せ者ね。
「ドラキュラ侯爵様のお食事の準備に人間達の街へ菜を買いに行こうとしたところ、馬車から降りた後にいつも通り迷ってしまって道を尋ねようと開いた扉がここでございました。ドラキュラ侯爵様は迷ったらこれを見せるようにと言いつけられておりまして」
そう言って黄金のプレートを私に見せてくれるとそこに書かれていた物は私は読めないので、とりあえず。
「リビングに上がってください。今、朝食中なのでドラキュアさんもどうですか? その文字読めるかもしれない同居人がいますので」
「金糸雀様、ありがたき幸せ」
私はリビングでクソジャンク朝食を食べている二人にドラキュアさんを家の中に招き、デュラさんにドラキュアさんの金のプレートを読んでもらったわ。
「なになにである? この子はドラキュア。山の頂上にあるドラキュラ侯爵家のメイドです。大変申し訳ございませんが、この子が迷子の暁には我居城まで連れてきていただきたく思います。もちろんお礼は金子、ご希望があれば宝石にてお支払いいたします。と書かれているであるな」
迷子札じゃねーか、とんでもねー良いドラキュラ侯爵さんね。一度会いたいわ。よく見ると毅然な態度を取っているドラキュアさん、スカートの裾を握って今にも泣きそうね。というかこんな迷子になりまくりそうな子、ほっといたらダメでしょう。
「泣かないでドラキュアさん、そうだ! お酒でも飲みながらゆっくりして生きなさいよ! お酒だけなら売る程この部屋あるんだから」
って私が普通の事を言ったハズなのに、ミカンちゃんが食べているおにぎりをぽろっと落としたわ。
「かなりあ、たまに狂ってる提案せり……」
「いただきます! お酒は大好きでございます」
「えー、ほんとにじゃあ飲も飲も!」
「ど、ドラキュア殿も中々にアレであるな、何故にこの時間から酒を」
全く、二人とも何言ってるのよ! お酒をなぜ飲むか? そこにお酒があるからよ。可愛い子を前にしてお酒を飲むと寿命が十年伸びるんだから、ミカンちゃんとニケ様達は例外だけどね。じゃあ今日は……そうだ。
「じゃじゃーん! 急須でいれたようなお茶、みたいな味のする伊右衛門を使ったこだわり酒場のお茶サワーよ!」
お茶割りはメジャーなんだけど、まさかの緑茶ハイに炭酸入ってるのよね。お茶と言えば、お茶請けはやっぱり、お漬物よね。べったら漬けがあったのでそれをトントンと切って簡単に小皿に盛って完成。
「じゃあ、ドラキュアさん、こんな物しか無いけど乾杯しましょ! 迷子のドラキュアさんに乾杯!」
「乾杯です。金糸雀様」
「えぇ、勇者ひくー、かんぱいなりぃ」
「ううむ、朝から酒とはなんとも背徳的であるな。乾杯である」
んん? こだわり酒場のお茶サワー……これは、伊右衛門の風味があるお抹茶みたいな濃さ。ほのかな甘み、だから炭酸がよく合うわ。
「あら、とても美味しいです」
「ほほー、お茶割りに炭酸とはこれ如何にと思ったが合うものであるな」
ミカンちゃんが、なんかゲシュタルト崩壊起こした猫みたいな顔してるわ。
「うみゃ? んん? うんみゃい?」
なんか分かるわ。こんな感じなんだって私も思ったもの。ミカンちゃんの中でお茶に炭酸が入っているって中々珍しいんでしょうね。紅茶ソーダとか私は経験があるからそこまでじゃなかったけど……
ドラキュアさんとデュラさんの順応力の高さに驚きね。
「ほら、酸っぱめ甘めのべったら漬けがよく合うと思うから、一緒にどうぞ」
爪楊枝でプスリと刺してポリポリ。私達四人は静かにべったら付けを味わう。カニとお漬物は静かになるわよね。
「金糸雀様、このピクルス美味しいですわ!」
「でしょでしょ! スーパーで売ってる物なんだけど東京べったら漬け、美味しいのよ。何個か買ってるからドラキュラ侯爵さんにお土産で持って帰っていいわよ。後で袋に入れてあげるわね!」
「いいんですか? 金糸雀様、こんな美味しいものを」
「いいのいいの! 他にも何か入れてあげるからまっすぐお屋敷に戻ってね! なんかドラキュアさん、また迷子になりそうだし、二本目飲む?」
「はい! 何から何までありがとうございます!」
私たちは二本目のこだわり酒場のお茶サワーを開けて、再びべったら漬けに手を伸ばしてまったりとしたお休みを楽しんでいると、ミカンちゃんが「さてとなり」とどこかに外出しようとするので、女神様達がやってきた事を物語っているわね。デュラさんも覚悟を決めたような表情をしている中、私の部屋の玄関の扉がガチャリと開いたわ。
「金糸雀ちゃーん! 皆さんの女神が来ましたよー!」
「金糸雀ー、来たぞー! 酒が飲みたいのぉ」
そう言ってリビングにやってきたニケ様とネメシスさんに私は大五郎をマグカップに入れて、伊右衛門をドバドバ適当にいれたお茶割りをドンと出すわ。
「あら? 生命の円環から外れたアンデットの類がいますね。その悲しき存在、女神である私が無に返してあげましょ……あら、金糸雀ちゃんなんですか?」
「やめてください。ドラキュアさんは私たちが責任を持ってドラキュラ侯爵の元に送り届けますので、もし手を出すようでしたら二度とウチの家に入れませんよ」
「金糸雀ちゃん、相手はアンデットですよ!」
「我もアンデットであるぞ、死なないという意味であれば貴様ら女神もアンデットではないか」
「まぁ! なんという事を言うのですか? いいですか? 私たち女神とアンデットの違いはですねー」
「そういうのいいんですよ。ドラキュアさんに何かあったらガチで私怒りますよ? 普段の行いを目をつぶってるんですから、それ飲んで静かにしててくださいよ! あ、そうだ! ニケ様とネメシスさん、ドラキュラ侯爵のお屋敷までドラキュアさんを送ってあげてくださいよ。朝っぱらからお酒飲みに来るくらい暇なんですよね?」
「お酒を飲んでるのは金糸雀ちゃんもじゃないですかー」
「そうじゃそうじゃ、金糸雀ー!」
「あぁ? 行くのか? 行かないのか? どっちなんですか?」
「い、行きます。行けばいいんでしょう! 金糸雀ちゃんのばかー」
はぁ? なんで私が馬鹿呼ばわりされないと行けないのかしら? なんなんですかニケ様、腹立つなぁ。おっと……あんまり声を荒げるとドラキュアさんが泣いちゃうかもしれないので、
「ドラキュアさーん! この女神様お二人にお住まいのお屋敷まで連れて行ってもらえるので安心してくださいね! あと、ニケ様とネメシスさん、ドラキュアさんは蝶よ花よと大事にして送ってくれないとほんと知りませんからね!」
「金糸雀様、何から何までありがとうございます! 女神様方も本来であれば滅すべき私の為に感謝しかございません」
「行きますよ。アンデット。帰ってきたら金糸雀ちゃん、女神歓迎パーティーですからね!」
まぁ、いいですけど凄い太陽みたいな笑顔で私たちにお礼を言うドラキュアさんに対して女神様達の暗黒みたいな暗い表情。二人は一応ちゃんとドラキュラ侯爵の屋敷にドラキュアさんを送ってくれたみたいなんだけど、いきなり女神様が押しかけてきたのでドラキュラ侯爵さん、最初は戦争する気満々だったらしいわね。
ただ、女神も尋ねにくるドラキュラの屋敷という事で、元々人間の街でも心象が良かったドラキュラ侯爵とドラキュアさんはよく人間の街に招かれるようになったとかたまには女神様も何かの役にたつ事があるのね。




