第243話 百人将とサムギョプサルとソウルマッコリと
ミカンちゃんは基本、お魚が好きな子なんだけど、焼肉に関しては別格で、大好物なのよね。そんなお財布事情がプチ貧乏な私にミカンちゃんは、
「鉄板焼き食べたし」
と言うので、さてどうしたものかしらと思っていたら、デュラさんが、この前いろはさんに連れられて新大久保の韓流グルメを味わったとかで、妙案を出してくれたわ。
「豚肉であれば比較的多く、安く仕入れれるのではないか?」
「そうですね! あれ、食べてみましょうか? 漬け込み焼肉じゃなくて、味付けせずに焼いて後でレタス巻いたり、味付けしたりして食べる焼肉」
「サムギョプサルであるな? うむ、あれではあれば豚肉の三枚肉で作るので大量に作れてやすいであるな。となると酒は麦酒であるか?」
「そりゃぁ、ビールもいいですけど、微炭酸のマッコリなんてどうですか?」
しゅわしゅわ教の信者のミカンちゃんもこれならいけるだろうし、最高のチョイスだと思うわ。そういえば、マッコリとドブロクの違いってなんなのかしら、かつては日本ではドブロクを家庭でも作ってたんだけど、色々法律の問題で作れなくなったのよね。度数を抑えて作れば可能っちゃ可能なんだけど、お酒を密蔵する人間なんて大抵飲兵衛だから砂糖ざらざら入れて度数を馬鹿上げさせるし意味ないのよね。
要するに、バレないように作りなさいよというメッセージでしょうね。
昨今SNSで上げたりするバッカター的な事をしない限りはというね。
「ドブロクはお米と麹だけで、マッコリは穀物の糖分も使うみたいね。度数もドブロクの方が倍くらい高いのね。米作りを伝えたのが実は韓国から日本じゃなくて、日本から韓国って事が最近分かったから恐らくマッコリも中国か日本から伝わってきたお酒でしょうね」
紹興酒と日本酒の古酒が同じような味がするように、お酒から感じられる歴史や文化は割と捨てたものじゃないのよね。
「金糸雀殿、三枚肉切り分けたであるぞ! “やきまる“の出番であるな!」
イワタニの無煙ロースター“やきまる“実に重宝してるわ。野菜に調味料も用意してあとは焼くだけという時に、ガチャリと扉が開いたわ。
「誰かいないかー?」
「はいはいいますよー! 土足で入らないでくださいねー」
今日はどんな人が来たのかしら? うーん、なんか凄い『漢』! って感じの男性きたわね。意味あるのかわからない素肌にショルダーガードをつけて、でっかい剣を背負ってるけど、
「歴戦の戦士みたいな方ですね。私は犬神金糸雀、この部屋の家主です」
「家を持っている! 身なりもきちんとしているし、貴族の方か? これは失礼した」
「いえいえ、私は貴族じゃないですよ。平民も平民です。ど平民です」
うーん。ジャージも異世界の人からすればドレスコード的なこの感覚なれたわね。ところでこの男性の方は?
「そうであったか、金糸雀さん。俺は魔王軍と戦う王国兵の百人将のシマ! レッサーデーモンを単独で倒した事は有名だな」
倒しそう。屈強で隆々とした筋肉。明らかにボディービルダーや格闘家、スポーツ選手とは違う付き方をしたそれはきっと戦う為の筋肉なんでしょうね。
「今から一杯やるんですけど、シマさんも一緒にどうですか?」
「酒か! こう見えても大酒飲みでな!」
「見たまんまですよー! もー」
と言ってシマさんを連れてリビングに向かうと、そこにはサムギョプサルを食べる準備が完了しているので二人に軽く紹介。
「こちら、王国騎士団の百人将のシマさんです」
「王国騎士団なり?」
「うむぅ、そういう連中がいたような気もしなくもないであるな」
シマさんは侮辱を受けたと思って背中の光り物を抜いたわ。それをチラりとみたミカンちゃん、見もしないデュラさん、なんだか可哀想ね。なんとなく私でもわかるもの。
「魔物と小娘よ。誇り高き騎士団への侮辱と受け取る! 俺はレッサーデーモンを単独で倒した事すらある百人将のシマ!」
「むぅ、レッサーデーモンほどの雑魚モンスターに迷惑をかけていたのは貴様らであったか」
「えぇ、勇者ひくー、いじめかっこわりぃ。レッサーデーモンを討伐していいのは駆け出し冒険者までなり。きもーい!」
「許さん!」
シマさんはその巨大な剣を私の部屋のリビングに振り下ろそうとして、
ガチャこん!
「シマ殿。雑魚がイキがるのは我も元棋士の端くれであった為、目を瞑ろう。が、食べ物を粗末にするのであれば我もいよいよ全力で排除せねばならぬぞ?」
「俺の剣を……そんな物で」
トングで剣を止めちゃったわ。兄貴の所有物のトングが凄いのか、デュラさんの超能力が凄いのかどっちなのかしら。
ぱんぱん!
「はいはい。そこまで! シマさん。大悪魔のデュラハンのデュラさんと勇者のミカンちゃんです。きっとシマさんが弱いわけじゃないので、食事にしましょ!」
「……はい」
頭を垂れて、元気がないシマさん。きっと百人将という位に誇りがあったんでしょうね。人間としてはきっと凄い方だと思うからとか言ったら余計凹むかもしれないから、こう言う時はお酒よ!
「サントリーのソウルマッコリです。じゃあみんな、焼肉に乾杯!」
「うおー! 乾杯なりぃ!」
「乾杯であるぞ」
「……乾杯」
んっんっんっ……あぁ、甘くて美味しい。この微炭酸がまたしみるわね。質の悪いマッコリだと甘くて酸っぱくて不味いんだけど。サントリーのマッコリはスッキリしてていいわ。
「ぷひゃあああ! うんみゃい! お代わりなり!」
「うむ、我ももう一献」
「こ……こりゃうめぇ! なんて酒だ!」
「ふふ、元気でましたか? じゃあお肉どんどん焼いていくので、付け合わせを挟んでサンチェに巻いて食べてみてください」
韓国は豚肉焼肉文化って言うけど、私もお金ない時はフライパンで豚肉焼いてビールと合わせるわね。安くて美味しく食べられる物が家庭レベルに落とし込まれているのかしら? 私はまずは三枚肉とキムチとレモン汁でいただきます。
「んんー! んま」
かーらーの! ソウルマッコリをキメる。この世界に神がいるとすれば、きっと焼き肉を作った事ね。ミカンちゃんも口一杯に頬張ってソウルマッコリで流してるわ。デュラさんはまさかのサルサソースでアメリカン韓国焼肉に変えちゃったわ。
「うまい。なんてうまい肉だ。なんだこの獣の肉は……こんなの王侯貴族でも食べた事じゃないんないか……」
出たわね。異世界の人がよく言う。王侯貴族でも食べたことのない味。そりゃそうでしょうね。でも、焼肉的な食べ方くらいは異世界でもありそうなんだけど、多分。ただ焼いて食べるだけだったんでしょうね。
「ただいまー! 帰りましたよ金糸雀ちゃん」
「お出迎えが欲しいぞ。金糸雀ぁ」
いつもと違う感じでナチュラルに不自然な入り方してきたわね。きっと今日食べているのが焼肉だから居ても立ってもいられなくなったんでしょうね。異世界の人、焼肉大好きだから。
「げぇ! クソ女神ーず」
「何をしにきたであるか?」
「め、女神さまぁああ! それもお二人も!」
たまに女神というだけでひれ伏す系の人が来ると突然態度を変えたりするからニケ様もネメシスさんもクソ女神呼ばわりされるんだと思うのよね。私は取り皿と割り箸をお二人に渡して、ソウルマッコリを入れてあげると、
「わー! 美味しそう。いただきまーす!」
「うん、香ばしくて美味いなぁ! 焼肉はうまいなぁ!」
シマさんの前だというのに、めっちゃ飲み食いしている二人をポカーンと見ていると、ニケ様は醜態を晒したという表情の後に、パチンと指を鳴らしたわ。なんか古い反応ね。
「何をしているのですか、戦士よ! この勝利の女神と食を共にするという事、これほど憂のないこともないでしょう! 食べなさい! 勝利の為に」
「そうじゃ、貴様に向けられる復讐の感情を全て飲み込むといい」
私とミカンちゃんとデュラさんは、この二人が来る事は憂いしかないんだけど初見でニケ様とネメシスさんの事を知らないシマさんは呑み喰らったわ。まぁ焼肉だし、いっか! と私はデュラさんとミカンちゃんにアイコンタクトを取ると、二人も頷き、
私たちは肉食獣のように豚肉を食らったわ。水を飲むようにソウルマッコリを飲んで、度数の低いソウルマッコリでは私達からすれば本当にお酒が回らないので永久機関のように思えた頃、
「も、もう飲めませ……」
王国騎士団の百人将が倒れ、ミカンちゃんが行儀悪く、椅子にあぐらを描きながら月を見てソウルマッコリを一献した時、ガクンとネメシスさんが落ち、デュラさんが赤ら顔でお肉を焼いている時、絡む相手がいなくなったニケ様が私達に、
「三人ともお聞きなさい。今から、私は大事なお話をします。これは、この世界のいく末についてです……このお話は語る必要はありません、ですがこれを聞いても……あなた達が絶望しないと私は確信しているから話すんです。覚悟はいいですか?」
ぴっ!
ミカンちゃんが野球中継を見始めたわね。それにデュラさんも釣られて「新・日本代表であるか? 楽しみであるな!」ときゃっきゃと盛り上がり、
「あれは紫色の流れ星が流れた時です! そう、あれこそが私達神々が……」
この世界のいく末のお話も多分、百回は聞いたわね。結局、ニケ様すげー! かっこいい! キレー、天才! 女神! みたいな感じで終わるのよね。
でも、酔った頭でシマさんはその呪詛みたいなニケ様のお話を聞いていて、元の世界に戻った後、王様とかにその与太話をしてしまい、十年の後にニケ様が降臨する時のもてなし費用の為に国の税金が少し上がったとかは私は知らない。




