第240話 処刑される姫ときゅうりのQちゃんと焼酎ハイボール・和歌山県産はっさく割
「アザリア、いや。アザリア元姫君。最期に言い残す事はあるか?」
何故こうなった? 私の口に合わない料理を作った料理人を死刑台に送ったり、私たち王族ではなく国民の為に政治をしようとした大臣を毒殺支持したり、私が憧れていた他国の王子と仲良くしていた田舎貴族の娘とその家族を没落まで追いやったり、私は私の為に尽くしてきた筈なのに、こんな汚らわしい処刑人に聞いてやる口はない。
「さようならだ。自由と平和の為に!」
嗚呼、私は死ぬ。
そう思った時、私の目の前には扉が、宝石で散りばめられたネックレスに縋る想いでその扉を開いた。
そこにいたのは、見た事もない。豪華な布繊維でできた服を着た目つきの悪い女と、横になりながら寛いでいる品のある少女、そして使い魔かしら? 首だけの兜の魔物。
それは私の処刑までのほんのひとときの奇跡の時間だったの。
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「そりゃ、処刑されるわよアザリアさん」
めちゃくちゃな超理論で何故自分が処刑されるのか分からないと力説してくるお姫様が家に来ちゃったわ。赤髪、ぐりんぐりんのドリルヘアー、もう蝶よ花よと育てられたんでしょうね。
「だっておかしいじゃない! レアの肉を食べたいと一時間前には思っていたけど、食べる直前は火がしっかり通ったのが食べたかったの! そういう事も汲み取っての料理長でしょう!」
「いや、無理でしょ。私ならそんな事言ってくるお姫様とかぶっ飛ばすわよ」
「うむぅ、アザリア殿。我も魔王様の御姫様であらせられる殿下の世話役をしていた事があったであるが、そんなワガママを申された事はなかったであるぞ! 我らの行いを全て受け入れてくれたである」
「そんな姫がいるわけないじゃない! 天使か何かじゃないの?」
魔王の娘よ。人間の姫さま。というか、このアザリアさん。ウチの部屋から出たら処刑エンドなのかしら? よく、転生して何度目の人生では聖人になろうとするお話とかあるけど、このアザリアさんは多分処刑されても自分が悪いとは思わないから過去に転生しても多分変わらない結末が起きるでしょうね。
「ゴホン、である」
「ケホケホなりぃ」
ん? ミカンちゃんとデュラさんが私にアイコンタクト。どういう事かしら……あー、成る程ね。ここでアザリアさんにいい子になってもらおうという感じ。
「アザリアさん、アザリアさんが思っている以上にアザリアさんやらかしてますからね? まずはそこを飲みながら考えていきましょう。冷蔵庫になんかあったかな?」
ガサゴソと探って見つかった物は……困った時の最高のおかずであり、おつまみ。きゅうりのQちゃん。なんというか漬物なのに漬物カテゴリにいないようなあの癖になる味わいは一度食べたらやめられないわね。
お酒は……そういえば買って飲まなかった宝酒造の限定焼酎ハイボール。和歌山県産はっさく割り。なんか、最後の晩餐にしては中々な組み合わせだけど、今までの行い分からせる為にはちょうどいいかもしれないわね。
「とりあえずアザリアさんの最後の晩餐に乾杯!」
「乾杯なり!」
「乾杯であるぞ!」
「ちょっと、私を助けるという選択肢はないのかしら?」
ここに来て生きようと考えているのが本当に図太いわね。氷の入ったグラスに焼酎ハイボール和歌山県産はっさく割りを入れ、私たちは一口。
あ! くそっ! 宝酒造の焼酎ハイボールに感動する日が来るとは思わなかったわ。めちゃくちゃ美味しいわけじゃないけど、たまに飲みたくなるお酒という位置付けだったのに、これ普通に美味しいわね。
「何このスパークリングワイン! とっても美味しいわ! どこのお酒かしら?」
「天下の宝酒造よ。貧乏大学生からキッチンドランカーのお母さん、ちょっとアレなおじ様達に古くから愛されてきたお酒ね。藤子藤夫もよく飲んでたみたいだし」
「うまうまー! 勇者、しょうちゅうハイボースキー!」
「うむ。なんというか宝酒造の焼酎ハイボールはキマるであるな」
そしておつまみに用意したきゅうりのQちゃん。お箸は難しいだろうからフォークを渡すと。アザリアさんはヒョイパクと食べてる。
お漬物はいける口っぽいわね。
「まぁ! なんという香ばしく、味わった事のないピクルス。これも相当な料理人が作ったものね」
多分、添加物マシマシのお酒のお供よ。私はきゅうりのQちゃんとインスタントのお味噌汁と、卵かけご飯で背徳的な食べ方が大好きだけど……
「ンマー! 勇者、きゅうりのQちゃんスキー!」
「うむ、そこはかとないジャンク感が食欲をそそるであるな」
きゅうりのQちゃんをおつまみに宝酒造の焼酎ハイボールをキメるのって中々にワイルドね。でも、アザリアさん。ちびちび焼酎ハイボールをやりながら、きゅうりのQちゃん食べてるから美味しいんでしょうね。
「まぁ、アレですよ。アザリアさんがお腹いっぱいになりながらワガママ言ってる間、民衆はお腹空かせて、食べるものも選択できず。生きるのに必死だったんですよ」
「は? どうしてよ?」
ん? うん? マジかこの姫さん。中世ヨーロッパでも貴族と平民は別の生き物って扱いだったから、アザリアさんもしかして……
「平民って何か食べないといけないの?」
やっぱり……勝手に発生して、労働力になると思ってるんだわ。ミカンちゃんがカンとグラスを置いて、
「かなりあ、おかわりなりぃ!」
「あーはいはい」
「金糸雀殿、申し上げにくのであるが、このまま処刑された方が良いのではないであるか?」
諦めないでデュラさん! きっと私たちに妙案が浮かばないのはお酒が足りないからじゃないかしら?
「まぁ、とりあえず飲みましょう!」
フルオープンよ! 一箱全部飲めば体も軽くなるし、何かハッピーな感じになるんじゃないかしら? ここで味へん。マヨネーズと刻んだきゅうりのQちゃんを焼いたバゲットに乗せて、
「はい、おつまみ第二弾! どんどん呑むわよ!」
いつしか缶のまま私たちは焼酎ハイボール和歌山県産はっさく割りを飲んでたわ。あの焼酎ハイボール特有のエグ味みたいなのがないからグイグイ入っていく。
「金糸雀の言う事がいまいち分からないわ! どうして私が我慢する必要があるのかしら? ふふっ、お馬鹿さん」
「マジか、こいつ」
「今、私の事こいつっていいませんでした?」
「いやー、言ってないですよー。アザリアさん、ここまで来たら凄いですよ。ヘイトの買い方が上手いというか、よく民衆今まで我慢してきましたよね」
「アザリア殿、まぁ大悪魔で魔王軍大幹部の我が言う事ではないかもしれないが、ものの命をなんと心得るであるか?」
いや、ほんとに魔王軍大幹部の大悪魔であるデュラハンのデュラさんに何言わせてるんだろう。世の中、犯罪者が罪を犯しても社会復帰の可能性がーとか言って擁護される事あるけど、赤子の魂百までってよく言ったものね。
人は死んだところで多分本質は変わらないと思うのよね。前世の自分を戒めれるなら多分、そんな元々堕ちないと思うの。
何を言いたいかと言うと、
「んっんっ、んっ! プハー! これ、ほんと美味しいわね」
ろくでなしは多分、永久にろくでなしだという事ね。それもまた人生かしら? アザリアさんは焼酎ハイボール和歌山県産はっさく割りときゅうりのQちゃんをたらふく堪能した後で、ハイテンションになったのか、
「皆さん! ワタクシ、民衆達が私を処刑する事がいかに無意味な事か説いてきますわ! なんだか希望が湧いてきましたの!」
うわー、ポジティブモンスターだなぁ。でも、こんな怪物を生み出したのはその国の人々にも一因はあるわけだし、私たちはそんなアザリアさんのエンジンに全力全開で火をつけちゃったのかもしれないわね。
「ではごきげんよう!」
私とミカンちゃんは無言で敬礼してアザリアさんを送ったわ。きっと万に一つもアザリアさんが処刑を免れるという未来は存在しないのだから、それは奇跡でも起きない限りは不可能なくらいに。
奇跡というのは起きないから奇跡というらしいしね。
少しばかり、私たちは一緒に飲んでいたアザリアさんの事を考えて喪に服していたら、
ガチャリ。
「金糸雀ぁ! きたよー」
「金糸雀ちゃん! 褒めてください!」
ダブル女神降臨。
本来であれば凄い、幸福な事のハズなのに、私たちは飲み疲れていたので宝焼酎の4Lペットボトルをドンと用意してそれらのダブル女神に備えていると、
「お久しぶりですわね! みなさま!」
アザリアさん、連れてきちゃったわこの女神達。しかも、ニケ様の褒めて褒めてオーラが物語っているこのややこしさ。
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「さようならだ! 自由と平和の為に……って酒臭ぇ!」
「待ちなさい! 愚かな処刑人、言いたい事があるわ」
ゴゴゴゴゴゴゴ!
民衆達は息を呑んで私の言葉を待っているようね。ならば仕方がありませんわね。最大限譲歩した私の生存戦略をお伝えしてあげます事よ。
「あなた達、平民はワタクシ達王族の為に生きる事が生き甲斐なのでしょう? これからは私が水浴びした水、爪を切った後の垢を国民全員に配って差し上げます! さぁ、これからも私の為に尽くして働きなさい!」
「ついに狂いやがったなこのクソ姫め! 死ね!」
振り下ろされるギロチンの刃。何故? 私が何故? どうして死ななければならないのかしら? 私よりも殺されるべき人間はたくさんいるでしょう?
「その通りです! 貴女はここで敗北すべきではありません。この勝利の女神、ニケが救いの手を与えてあげましょう!」
「うむ、この民衆達の復讐心、ちと小さいな。もっと大きな復讐の心がなければこのネメシスの心は動かぬぞ。虐げられし民草よ」
嗚呼! 嗚呼! 日頃の行いが良い私に女神様が来て下さったわ!
「ネメシス、最近金糸雀ちゃんが私を見る目がいつにも増して生ゴミを見るような目で見てくるので良い事をしていけば褒められると思うのですよ。助けるのは誰でもいいのですが、きっと金糸雀ちゃん、感動して私の信者になるかもしれませんね?」
「バカをいう。金糸雀はネメシスの信徒だというのに」
金糸雀さん、あの人。やはり、着ているお召し物からして只者じゃなかったのね。また会う事になったらきっと3人とも喜ぶわよ!
なんたって! 女神様を二人も連れていくんですから!




