第237話 エルフの女王と10円パンと復刻版ストロングゼロ・ギガレモンと
「やばし! ユニクロンつえー!」
「うむ。魔王軍でも魔王様や三柱くらいしか歯が立ちそうにないであるな!」
少し古い、トランスフォーマーの映画をサブスクでマラソンしている私達。なんでかって?
「おぉ! 凄い! 凄いなぁ? 金糸雀?」
ネメシスさんが滅茶苦茶ハマったから神様達の世界は、飲むか食べるか、歌うか踊るか、神奈月に合コンするかくらいしか娯楽がないらしいの。映画、それも際限なくお金を使うハリウッド映画はまさにカルチャーショックだったでしょうね。
まぁ、娯楽の多さは世界広しと言えども日本が本当に凄いのよね。かつて兄貴がアメリカにホームステイしに行った時、ホームパーティーの多さに驚きつつ、アメリカ人って娯楽が少なくて、数少ない娯楽でも何もかもお金がかかりすぎるからホームパーティーせざるおえないという事を知って現実と理想の大きな差異に驚愕したとか言ってたわね。
うん、お酒ひとつとっても日本に生まれてよかったわ。
※アメリカはニューヨークは確かに東京越えの超都会ですが、それ以外はよくて日本の仙台レベルの街が殆どで、ガチで娯楽がありません。ビビります。総合的に日本の方が超都会で何でもかんでもあります。結果、日本は世界一です。
ドンドンドン! 「開けてくれ! 金糸雀!」ドンドンドン!
と玄関の扉をノックする音と、聡明そうでよく知っている声。主はかつてこの部屋で兄貴と暮らしていたという。
「いらっしゃい。セラさん、一体どうしたんですか?」
「うん! お前達に最新スイーツを食べさせてやりたくてな! これを買ってきたんだ! 一緒に食べよう」
ハイエルフのセラさん、マジでどうやってこの東京という街で生きているのか分からない野良のハイエルフなのよね。そんなセラさんが持ってきた物は……一時期流行った10円パン。お隣の韓国では10ウォンパンで超バズったのよね。
「ありがとうございます。そういえば食べた事ないんですよね」
「そうかそうか! それは良かった! じゃあ部屋で飲みながら食べよう」
まぁ、お酒目当てよね。もうセラさん、超美人なハイエルフのハズなのに、その日酔えるお酒があればいい落伍者にしか見えないのは何故かしら、というかよく兄貴とこんな感じで一緒にいれたわね。
「やーやー! デュラハンに勇者、そしてそのちみっこいのは……何かしらの神の類か?」
セラさん、この上から来る感じは本当になんなのかしら? デュラさんとミカンちゃんにうわぁ! という顔をされながら、ネメシスさんが、映画を見るのをやめて。
「ほぉ、ハイエルフか? しかし珍しい、復讐の女神・ネメシスを知らぬとはもぐりか?」
「あぁ、なんか私が冒険とか終わった後にそういう女神が生まれたとか聞いた事あったな」
「は? ハイエルフ、貴様。一体何歳なんだ?」
「ふっ、女性に歳をきくものじゃないぞ。お嬢ちゃん」
「ふぐっ、お母ぁ……、金糸雀ぁ! このハイエルフがぁー!」
まさかの展開ね。セラさん本当に幾つなんだろう? それにネメシスさん、学校でお母さんと先生間違えるみたいになってるけど、私この中だと一番の年下なんだけど……
「ミカンちゃん、デュラさーん! セラさんが10円パン買ってきてくれたんで、一杯やりましょ!」
「うぃりぃぃーなりぃーー!」
「金糸雀殿ぉ! 我は人間をやめるぞぉ! である。まぁ、そもそも600年程前にやめておるのであるがな!」
ジョジョの奇妙な冒険をサブスクで見て影響を受けたのね。世界中をざわつかせた作品はやっぱり違うわね。そんなテンションでリビングに戻ってくる二人、「金糸雀、お砂糖缶詰(あいざわ遥の一部では名作少女漫画)の最終巻はどこにあるのかのぉ?」「どっかその辺ないですか? 探してください」
「金糸雀! 牛乳をくれ」
「セラさん……」
ウチの部屋って児童館じゃないんだけどなぁ。
こんなこども返りしているみんなをダメな大人に戻す酒はアレね。
ストロングゼロ。そんな中でも恐らく一番美味しい、ギガレモンが復刻したのよね。これでこの部屋のキッズ共を大人にしてあげるわ!
ガチャリ。
こんな地獄みたいな状況の部屋に来ちゃった方、ごめんなさい。とりあえず私がお出迎えに、
ふわりと、桃や……苺のような甘い香り。
「わわ! 凄い綺麗な……エルフさん?」
「ふふ、そちは人間か? 私はエルフの女王。ファラ・ザッファ・シュレクトセットだ。そちの名前は?」
「あー、この部屋の家主の犬神金糸雀です。エルフといえば、セラさん来てるんですけど、お知り合いですか?」
「セラ? まさかセラ・ヴィフォ・シュレクトセットの事か?」
「あぁ……確かそんな無駄に長い名前だったような気がします」
「そんなバカな!」
ん? うん? 私はリビングに連れて行くと、ビスケットと牛乳で一杯やってるセラさんとファラさんが見つめ合う。
「で、伝説のエンシェントハイエルフ。セラ・ヴィフォ・シュレクトセット様で間違いありませんか?」
「お? 貴様は……もしかして現・エルフの」
「女王をしています! ファラと申します」
知り合いではない見たいね。セラさんは牛乳を飲み干すと、流しにおいて、私達を見ると。
「ファラ、そこで少しまて、はい。他集合! 金糸雀の部屋の仮眠室に集合だ!」
勝手に仮眠室にしてるけど、私の寝室なんですけどね。そこに集めらた私、ミカンちゃん、デュラさん、そしてネメシスさん。一体何事かと思うと、セラさんは、手を地面につけて額も地面につけた。
「ドゲザヴォーグだ。エルフが何かお願いをするときの最高礼。なんだ、後世のエルフに私のいい格好を見せてやりたいので、お前たち。一芝居打ってくれ」
「「「!!!!!」」」
「なんと、小さいことを言うハイエルフ! 初めて見たぞ!」
「……なんかもうセラさん、手遅れじゃないですか?」
「手遅れなものか! 葬送のフリーレンとか、ロードス島のディードリットとかあの辺の小娘みたいに私も伝説のエルフでいたいんだぁああ!」
絶対無理でしょ。関連耳長いだけじゃない。
セラさんはその後、涙目で私たちの説得を開始したわ。何回もいろんな土下座を見せられて根負けした私たちはセラさんを讃えてあげる事にしたわ。
まぁ、お酒飲ませればきっとその神話も崩れ去るんでしょうけど。
「待たせたな。ファラ、お前が来る事は私の千里眼ですでにお見通しだ。さぁ、10円パンも買っているので、一杯やろうじゃないか! ほら、金糸雀」
「あーはいはい、今日はストゼロのギガレモン飲むつもりでしたので、みんなのグラス用意しますね」
ストゼロは背徳的な味がしてたんだけど、最近はマシになったわよね。でもそんな中でもギガレモンはかなり美味しい部類に入ってた分けなんだけど、復刻版はどうかしら?
「じゃあ、エルフの女王様に乾杯!」
「プププ、耳長クソ種族に乾杯」
「うむ、エルフは容姿に全振りしていると思わせれるのはセラ殿に大きな問題があるであるな」
「しかし、このネメシスよりも古来からいるとかある意味神じゃないか」
「わー! わー! 私の祖先にあたる女王に乾杯だー!」
必死だなぁ。セラさん。なんせ今日はセラさん、CCレモンでいいだなんて、自分がお酒でやらかすの分かってるから我慢してるんだもん。
「まぁ! なんて美味しいお酒なんじゃ。これは相当良いものなんじゃ?」
「当たり前だファラ! お前の為にこの酒のスペシャリスト、金糸雀に用意してもらった特別で最高の酒なんだからな」
「そんなものを私の為にぃ!」
まぁ、限定復刻だから特別でまぁ、ストゼロ史上最高のお酒ではあるわね。スーパーで100円で売ってたけど。ついでにこれと一緒に売ってた宝酒造の期間限定販売の和歌山県さんはっさく味のハイボールも買ったのよね。
「ぷっひゃあああああ! うみゃあああああ!」
「ほぉ、我がすぐに酔うストゼロであるがこれはなんというか美味いであるな」
「レモンの漬け込み酒使ってるからみたいですよ。レモン感凄いですもんね。ファラさんお代わりどうですか?」
「うむ、いただこう!」
「勇者もおかわりぃ!」
「我も少しいただくである!」
「ネメシスもだ!」
私も! とまさかのストゼロを速攻でおかわりしているのをセラさんは下唇を噛みながらCCレモンを飲んでるわ。じゃあ、せっかくセラさんが持って来てくれた10円パンを少しオーブントースターで焼き直してから出そうかしら。
ここで奇跡が起きたのよね。
「でっかい10円なりぃ!」
「10円の芸術的デザインはなんともいえぬであるなぁ!」
「そうかぁ? ネメシスは500円が好きだ。しかしでかい10円だなぁ」
そう、オーブンで焼いた事で、ガッツリ、銅色の10円みたいになったわ。周囲が固くなって熱々。これは間違いなくお酒に合うわね。
ゴクリと誰かが喉を鳴らしたわ。
「じゃあ、みなさんどうぞ」
フーフーとみんな冷ましてから、ガブリ。思った以上にチーズがむにーっと伸びてカスタード味。うん、これはスイーツね。ホットケーキ的な食べ物ね。多分、これ作ろうと思えば家で作れそうね。
ここで一発、ストゼロギガレモンを一口。
「あー、すっぱぁああああ! 甘さと酸っぱさで意外と合うわね」
「うまうまー! 10円パンつえー」
「おぉ、これは殿下に食べさせてあげたいであるなぁ。美味い」
「おいしいなぁ。金糸雀ぁ」
私たちは10円パンに感動していると、それ以上に驚愕しているのはエルフの女王ファラさん。私たちをキョロキョロと見て、
「なんだこれ……一体、なんなんじゃ! なんというなんという食べ物か、数百年生きてこんな美味に出会ったことがない」
あっ、ゲシュタルト崩壊したわね。本来異世界の人が私たちの食べ物を食べると、こうなるのよ。なのに私の部屋の異世界組は……
「そうだろう! そうだろう! まぁ、私はこんな物、毎日のように食べているがな! 遠慮せずに私の分も食べるといい! さぁ」
セラさん、自分の分の10円パンをファラさんの手の上に置いてるわ。でもプルプル震えてる。あれね。本来、自分で食べるつもりだったんでしょうね。
「いいんですか? セラ様」
「構わん!」
物凄く構わなくない顔をしているけど、ファラさんは涙でセラさんの顔が見えないんでしょうね。もう死ぬほど嫌そうな顔をしているけど、ファラさんは10円パンを受け取ると、
「これは集落の皆に与えたいと思います。世話になった人間の金糸雀。褒美を与えよう」
「いえ、いいですよ。よかったらギガレモン箱で何箱かあるので一箱持って行きますか?」
「こんなもてなしの後に土産まで、ふっ! さすがはセラ様だ。魔王軍との決戦の時も近い。これにて御免」
そう言ってファラさんは玄関から去っていく。セラさんは自分の威厳を保ったまま終えることができたので、ふぅとため息をついて「金糸雀、私にも酒をもらえるか?」とか言うし、ファラさんの帰宅と共に10円パンを食べ終えたミカンちゃんの姿も消えたので、もういるんでしょうね。
「だーれーだ!」
そう言って私の目を隠す。とっても綺麗な声の……勝利の女神様。いつからいたのかしら?
なんにせよ。
これからが、本当の地獄ね。




